凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
久しぶりに朝、気の重さもなく目覚めた。
勇者となってからはその曖昧な使命感がずっとどこかに伸し掛かっていた。
そして、この数日はリッカが気が気でなくて、殆ど寝られていなかったと思う。
目覚めには不思議なほどの爽やかさがあり、しかし意識がはっきりしてすぐ、昨日のようにリッカがいなかったらという焦りに見舞われる。
「――――」
その焦燥は、杞憂でしかなかった。
当たり前のように、リッカは隣で寝息を立てている。
アリスアドラの影響下にあった状況のような目覚めるとは思えない深い眠りではない、リッカらしい浅い眠り。
だけど、いつも僕より先に目覚めているリッカが“寝坊”しているのが、なんだかおかしかった。
……まだ、すべてが終わったわけではない。
けれど、長い戦いが一つだけ、確かに終わった。或いは、新たな戦いに向けて、踏み出した。
リッカがようやく、少しだけ心を休められたのだ。
その目の下に刻まれた隈は決して浅くない。
リッカは未熟な僕の分まで、魔族を恐れてくれていた。今後は、可能な限りそれを返したい。
これからもずっと怖い思いを耐えて共にいてくれるリッカが、少しでも落ち着いて眠ることが出来るように――
「……親しき仲だとは察しますが、乙女の寝顔をじろじろ見るのは礼儀知らずではなくて?」
「ッ!?」
どれほど、その寝顔を見ていたのかは不明である。
不明であるが――そんな風に指摘されるくらいには、異常だったのだろう。
テントの入口から、斜めに縫い痕の走った顔を覗かせる、青い肌の少女。
彼女の呆れ顔で、確かにずっとこうしているのもおかしいと我に返りつつも、口からは言い訳が出ていた。
「……ようやくリッカを、少しだけ安心させられたって思ったら、つい」
「ここまでの経緯は知りませんが……その子が起きたら早めに出てきてくれると助かります。わたくしも、色々と状況を掴めていないので」
「クイールは?」
「明け方に眠ったみたいです。わたくしとほぼ入れ違いで」
短くそれだけ告げて、ナディアは顔を引っ込めた。
……確か、予備のテントをクイールに貸していて、そちらでナディアも休ませると言っていた。
ナディアは土の試練の時、魔法を解除してすぐ気を失って、それきりだった筈だ。
そもそもどうしてここにいるのかすら、理解していない状態だろう。
だとすれば、あまり待たせてもいられないが――
「……」
もう少しリッカをゆっくり、寝かせてあげたい。
それに、起きた時独りだったら、戸惑ってしまうだろうから。
……それにしても。クイールは明け方まで起きていたのか。
魔除けの結界は絶対ではない。だから、本来ならばそうやって、時間を分担して警戒しておくのが安全だと、リッカは言っていた。
もしかするとクイールは、疲れ切っていた僕たちを気にかけてくれたのかもしれない。
土と火の試練を終えて、僕たちは試練の進行度としてはクイールに追いついたことになる。
だが、まだクイールとの実力の差は大きいというのが僕の認識。
聖都へ行ってから、風の試練に向かうことになるが……ここからは本格的に、僕たちとクイールは協力することになる。
……あまり、足を引っ張ることは出来ないなと思う。
勇者としての力。僕とリッカの、新しい力。
これらがどこまで通用するか――それこそ、考える必要はないか。
通じないならばその先の可能性に手を伸ばす。いくらでも、限界のその先に踏み込んで、超えていく。
必要とあらばクイールも超えて、ハッピーエンドに向けて進み続ける。今の僕たちなら、それが出来る。
うん……この気概が大事なのだと思う。
僕という存在は、リッカのためにどこまでも進める存在みたいだから。
「……」
リッカを寝かせたままにして、外に出てもいいかもしれない。
ナディアと話をするだけならば、特段問題はないかもしれない。
“普通”に考えればその通りではあるのだが……そうやって、リッカから目を離した時にどうなるかと、考えてしまう。
オドマオズマがやったように、眠っている間にリッカを連れ去ることが、魔族であれば可能なのだ。
そう考えるとつい先程まで眠っていたことさえ、油断でしかなかった。
――警戒して眠ることなく、翌日に差し支えるよりは、何も来ないことを信じて眠った方がいい。
旅の中では必ず気を抜かないといけない部分もある。
それでも、こうしてリッカが少しでも安心して眠れるよう、もっと安全な“休める場所”は欲しいと思った。
いつかのフェアリーのように、当たり前に魔除けの中に侵入していた魔族もいる。
いたずら心はともかくとして、敵意は無かったのが幸いだったが、もしあれが恐ろしい魔族の類であれば、致命的だった。
こうして旅を続けるならば、休息の手段には発展が必要なのかもしれない。
外部の者が干渉できなくなる……というのが望ましいが、それは難しいだろうから、せめてもっと踏み込みにくくなるようなもの。
大きな街――それこそ聖都のような場所であれば、そのような上位の魔道具もあったりするだろうか。
そういったものが手に入りそうな近い街といえば……まだ見えるような距離に、一つある。
振り返ってみれば、僕たちはあの街を成り立たせていた機構を、その運営者を倒すことで破綻させてしまったことになる。
ルメリーシャは、『アドラフューリー』によって倒された。きっと今は、リッカによって“使われている”のだと思う。
ヴァージニアはあの街に取り残されている。もう一度運営者として、一人でやっていくのか、それとも……。
「……」
あの街でやってしまったことを、僕は否定できない。
或いは僕たちの行動が、あの街を近いうちに崩壊に繋げてしまうことだって考えられる。
しかし、もう一度あの街に入るつもりはなかった。あの街に何かをして償おうとは、どうしても思えなかった。
“勇者らしい”思考であったならば、きっと長く思い悩んでいたかもしれないが――僕は、“リッカのための勇者”だ。
リッカに手を出そうとした人々のいるあの街を、僕は救えない。
それが僕の中での、不夜街ナイトラクサへの結論だった。
それから暫く、リッカの目覚めは、まだ少し足りないとばかりのすっきりしないものだった。
常に警戒心を張っていたいつもと違う、気を許したその様子が、やはり嬉しい。
少しの間うとうととしていたリッカと共に支度を終えて、外に出る。
ネシュアに目を向けていたナディアはようやくかとこちらに振り向く。
「……」
「……? 何?」
途端に怪訝な表情に変わったナディア。
僕、リッカ、僕、リッカと交互に見比べ、何かを言いたげにしている。
特におかしなところはない筈だが。
「お二方、今着替えて出てきたんですの?」
「そうだけど……」
「……」
寝間着のまま外に出てくるほど緊急な状況ではない。
長期間町や川沿いに通り掛からないことを考えて、衣服は多めに用意している。
何もなければ、寝間着と定めたそれに着替えて眠るようにしているのだが、おかしいのだろうか。
「……いえ、失礼。お二方にとって当たり前なら良いのですけれど、こう……男女が同室、もとい同テントで着替えるというのは、わたくしには信じがたいというか」
「……」
「……」
「……ごめん、リッカ」
「……別に」
ナディアの指摘はあまりにも僕たちにとって、
もちろん、見ないように意識してはいるが、わざわざ別々にすることはない。それを問題には思っていなかった。
しかし、リッカの“これまで”を知ったうえで、他者に指摘されて改めて考えてみれば、このままであることはリッカの負担でしかないのではないか。
他者に軽く肌を晒すことも、リッカにとっては恐怖に繋がるのだから。
「気にすることじゃない。いつもこうだったから、変える方がおかしい」
「……もしかして、わたくしが死んでいる間にこの世から消えたのですか……? 恥じらいという概念……」
リッカが続けた言葉を受けてナディアは愕然と、独り言のように呟いた。
こうして、リッカのことをより深く理解して、既に“当たり前”は変わりつつある。
“どう変えれば”は、僕ではあまりはっきりとした答えは出せないが、リッカが何より安心できるようにしていかないと。
「まあ、置いておきましょう。お二方の関係を深く知る身でもないですし、先の疑問は聞き流していただいても構いません」
右肘から先――縫い付ける形で装着された作り物の腕で眉間を押さえるナディア。
そういえば、気にしている暇すらなかった。彼女のあれは、義手なのだろうか。
手の代わりをする魔道具は、存在こそ知っているが、それを使う者を見たことはない。
見ている限りでは指の先まで細かく指示が行き届き不自由のない動きをしている。
ただ、そう見せかけているだけで、義手でもなんでもない普通の手だと言われても納得できるほどに。
「……さて。それでは色々と聞かせていただきたいのですが」
「あ――うん」
尋ねてみるより先に、ナディアが話を切り出した。
――あえて問う必要もないか。疑問はナディアの方が多いだろうし、その魔道具が聞かれたくないものである可能性もある。
口に出して、相手が反応を見せる前に、それを察することが出来ればいいのだが。
「まず、わたくしは無事、あなたがたに“助けられた”という形で良いのですね? 兄……オドマオズマの支配から解かれ、わたくしは自由の身になったと」
「うん……オドマオズマも、取り返そうとはしてこなかった」
「そうですか……このあとどうする気です? まさかアンデッドを連れて旅をするわけにもいかないでしょう」
その“まさか”は、少なくともこの場で、リッカだけは経験したことのあるものだった。
ナディアが勇者の旅路に同行してくれるという可能性は、確かに存在している。
ただし、それは僕たちが今、歩んでいる旅路ではなく、あくまで“いつか”の話ではあるが。
ナディアのこれからについては、クイールが出してくれた案はある。
僕たちに何も考えがなく、行き当たりばったりであったために、暫定でそうしようという形に纏まったまでが昨晩の出来事。
色々と、問題があるようにしか思えない内容だ。
「ちゃんと考えがありますよー。せっかく助けたナディアちゃんを、わざわざ危険な目には遭わせません」
「クイール――」
その提案をした“先輩”は、目を擦り、もう片手で聖剣の鞘を掴んで引きずりながらテントを出てくる。
昨日まで感じていた頼もしさが八割ほど消失した、プライベートな姿。
クイールと出会ってから昨日まで、僕の側が冷静ではなかったから、そういう面が見えていなかったのかもしれないが。
「おはようございます、三人とも。よく眠れましたか?」
「おはよう――僕は大丈夫だけど、クイールは? さっき寝たって聞いたんだけど……」
「ええ、元からそんなに寝ることなくて……いつもはちゃんとしゃっきり目を覚ますんですけどねー」
確か、一人で旅をしていた時も、魔道具などを使うことなく休んでいたと言っていた。
クイールでも寝ている間に魔族に対応することは不可能だ。
旅の中で、必然的に減らさざるを得なくなった睡眠時間に適応したのだろうか。
「……休みなさいな。ユーリたちから話は聞きますから」
「いえいえ、僕が提案したんだし、僕から説明しますよ。結構無茶苦茶な自覚はありますからね」
「今の状況が既に無茶苦茶なのですが、これ以上をやらかすつもりですか」
「勇者ですから」
口癖なのかもしれない。さもありなんとクイールは言い切った。
「僕たちの最後の試練はムルゼ霊山ですが、一緒に来てもらうつもりはありません。ナディアちゃん、聖都に行きましょう」
「聖都?」
「聖都イグディラ――海を挟んだ向こうの大陸にある、僕の故郷なんです……知ってますかね? かなり昔からある都市みたいなんですけど」
僕たちの次の目的地である、聖都イグディラ。そこでナディアの保護を頼むと、クイールは提案した。
あの街であれば、オドマオズマの手は伸びてこない。二人を引き離す分には一番安全だと。
ただ、それ以前に懸念が一つ。
「……それはもしかして、結晶樹に囲まれた、あの?」
「それですっ。あそこなら、事情を伝えればすぐに受け入れられると思います!」
「……わたくしの記憶が確かならば、あの都市は不浄なアンデッドを許容することはなかったと思うのですが」
都市全体が祝福に満ちたあの聖都には、恐らくナディアでは一歩たりとも踏み入れないということ。
アンデッドにとって教会の祝福は絶対的な弱点である。
その何倍もの強さのそれに当てられれば、治癒魔法を使った時のように“熱がる”だけでは済まないだろう。
この、根本的問題を解決する手段が、今の僕たちにはない筈だ。
「ふふん。実はですね、昨晩リッカちゃんがこっそり知恵を授けてくれました。解決できる方法があるみたいです!」
「……リッカ、そうなの?」
「……放っておいていい話じゃ、ないから」
リッカは曖昧に頷く。
……試練においてナディアを助けたいというリッカの気持ちは真実で、それを成した今、次にナディアに望んでいるのは平穏だった。
最終的な目標には遠回りでも、ちょっとした寄り道で解決できる問題ならば、そうしたい。
リッカの小さな“欲”が、そこにあった。
【不夜街ナイトラクサ】
リッカにとって、そしてリッカのための勇者であるユーリにとって、かの街は顧みるべき場所ではない。
暴走イベント終わった後に立ち寄ると住民の会話とかが全部様変わりしてるやつ。
【リッカ】
少しだけ寝坊できるようになった。
着替えをユーリに見られたい訳ではないが、今朝も羞恥や遠慮を感じていたということもない。
その“当たり前”は、寄り掛かっていたい“安心”だから。
【ユーリ】
久しぶりに安眠した。
それはそれとして、リッカへの意識が変わりつつある。
もしリッカの事情を知ってから『トロイメライへようこそ(前編)』みたいなこと起きてたら発狂してたと思う。
【クイール】
睡眠時間は短い方。
そうだ、聖都行こう→ナディアちゃん保護してもらおうとなったが普通にノープランだった。
なんなら「外にイリス呼び出せば、怒られる時間増える代わりになんとかしてもらえるかな……」くらいの考え。
【ナディア】
「……シン都ユグディラに、ムルゼシン山……」