凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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(設定集除いて)100話です。


せんぱいスイッチ

 

 

 また、日が昇る。

 昔から……一人で旅をしていた頃から、見慣れた光景だ。

 あの頃と違うのは、それが、目が覚めてから見る光景なのではなく、眠る前に見る光景だということだけれど。

 

「……おはようございます、クイール」

「あ、ナディアちゃん。おはようございます。よく眠れました?」

「ええ。眠ろうと思えば普通に眠れます。必要がないというだけで」

 

 僕たちのテントから出てきたナディアちゃんは、眠気を堪えている様子はない。

 アンデッドである以上、そもそも食事や睡眠は必要としていないのだとか。

 それでも食べることや眠ることはできる。ならば、可能な限りそうするべきだ。

 だって、生きているってそういうことだから。アンデッドだって関係ない。“いつか死んだ”からといって、“今を生きる”ことが許されないなんてことはないのだ。

 

 よく食べて、よく眠る。勇者である前に僕たちは生きていて、その生はまっとうされるべきこと。

 ユーリくんはリッカちゃんと共に、そういう旅をしてきた。

 決して、優しい旅ではなかったことは分かる。出会った時から迷いの中にあった二人を見てきたのだ。如何に二人と出会って日が浅くとも、その旅の苦難くらいは共有できる。

 

 ようやく二人が楽しそうな様子を見せてくれたのは嬉しかった。

 土の試練が終わって三日目の朝。

 大陸を渡るため、港町に向かっていた僕たちは、物資を整えに道中の町に立ち寄ることに決めた。

 生まれ故郷である聖都とか、あのナイトラクサみたいな大きな都市ではなく、剣を買い込むために立ち寄った数々の町と同じような、なんてことのない町だ。

 今日中には着くだろうという見込み。

 ユーリくんたちも、ナイトラクサに来てから予定がぐちゃぐちゃになってしまったようで、ここしばらく買い物も出来ていなかったらしい。

 この町で態勢を整えて、聖都への旅路の安全性を高める。

 僕にとって慣れている旅とはまったく違う、休める時にゆっくり休むことを重視した旅。

 なんだかそれは、とても居心地が良かった。

 一人の旅が楽しくなかったなんてことはない。あちこちの美味しいものを食べて、町ごとの変な文化に触れる旅は、いつだって新鮮だった。

 けれど、それを誰かと共有するなんてことはなかったから。

 

「またあなたは……一晩中警戒を続けていたのですか?」

「ほどほどに気は抜いてましたよ。魔除けがありますし、基本的には安全ってのは分かってるつもりです」

「……夜、誰かが外で警戒することの必要性は理解しています。何故わたくしに求めないのですか? 適材適所、あなたがわたくしを信頼しているというのなら、眠る必要のないわたくしが担当すれば良いだけに思えますが」

 

 ユーリくんやリッカちゃんだけではない。僕はナディアちゃんも、もちろん信頼している。

 あまり生きることに積極的にはなってもらえていないが、いつかきっと。そんな思いで、僕はいる。

 だから、警戒を任せることもできる。できるのだが。

 

「信頼してます。だから、明け方からユーリくんたちが起きるまで、僕たちの命をナディアちゃんに預けているんです」

「クイール。あなたが睡眠を削る必要性がないと言っているのですよ」

 

 ごもっとも。

 僕だって、睡眠が必要ない訳じゃない。

 睡眠が必要ない誰かがいるなら、夜の大部分を任せてもいいのではないかと思うのは当然だ。

 そして、もしも僕たちがナディアちゃんにそれを頼めば、不承不承といった様子を表に出しつつも引き受けてくれる。そんな確信がある。

 それをしないのを、ナディアちゃんは怪訝に思っている。

 

「そんなに長く寝ていられないんです。流石に倒れちゃうから、最低限眠っているだけで」

「……なにがあったのです?」

「なにも。元からですよ。僕、一人旅だったので」

 

 うん、もうとっくに慣れた。

 そういう認識はないけれど、あの迷宮で十年近く、それを続けていたのだし。

 僕にとってはこれが当たり前だ。言ってしまえばナディアちゃんと同じ。

 無理やりに眠っているのだから。睡眠が必要不可欠であるというのは、違う点なのだが。

 

「……わたくしはともかく、ユーリたちを信頼しているなら、少しは気を楽になさいな。あなたがもしも万全でなくなれば、困るのはかれらなのですから」

「――そうですね。そう言われると、少し困っちゃいます」

 

 もしもユーリくんたちが、僕を強く心配してくれているならば、この生活を続けるのも良くない。

 いや、リッカちゃんは別に心配してはいないだろうけど。

 不要ではあるが無駄な心配ではない。僕たちは共に旅する仲間なのだ。

 

「できるか分かりませんけど、少しゆっくり眠ってみますか。心配されたくはないですしね」

 

 僕はユーリくんたちの“先輩”だ。

 頼ってもらわないといけない。心配されるのではなく、かれらを心配する身でないと。

 

「……クイール」

「はい、なんですか?」

「あなたは、どこまで無理しているのです?」

「……。そこそこ、ですかね。必要な無理ですよ。勇者なので」

 

 ナディアちゃんやユーリくんたちが不安に思う必要なんてない。

 無理は勇者の必須事項だ。

 ユーリくんも、もしかするとその辺りは知っているかも。火の試練を通して、リッカちゃんのためにとんでもなく頑張ったみたいだし。

 

「それじゃ、任せますね。おやすみなさい、ナディアちゃん」

「……ええ。おやすみなさい、クイール」

 

 ナディアちゃんに見送られつつ、僕たちのテントに入る。

 このテントは、ユーリくんたちが買い込んでいた予備のものだ。

 寝袋もそう。元々僕は自分の旅の中でそういうものは買っていなかったし、買っていたとしてもかれらから借りざるを得なかった。

 携えた、今の僕の相棒――聖剣ブレダリオンを手に取った代償として、僕はそれまで持っていたすべての持ち物を失った。

 多分、それも含めた聖剣の試練だったのだと思う。

 

 あの迷宮はあちこちに物資の入った宝箱があった。

 そこから各種の道具を回収し、襲い掛かってくる魔族から役立つものを手に入れて、聖剣と見つけたものだけで生きていく、そんな試練。

 いくら聖剣とはいえやりすぎだろうと文句も言ったものだ。最初の数日間なんて、服すらなかったし。

 宝箱には“好奇心殺し”として一部の魔族に恐れられているらしいミミックも紛れている始末。おかげで宝箱を見つけたらまず叩き切ってみる生活だった。

 今、僕のポーチに入っているものは全部迷宮で手に入れたものだし、ポーチそのものも迷宮産。

 本当、拡張魔法が掛かっているもので良かったと思っている。

 結構高度な魔法だし、これを拾えていなかったら迷宮を踏破できていたかも怪しい、聖剣に次ぐ僕の必需品である。

 

 そんなこんなで、今の僕は貧乏そのもの。資金だってこれっぽっちも残さず消失していたのだから。

 この先にある、ハローネの町に立ち寄ろうと決めたのは、とりあえず僕も教会から資金を受け取っておきたいという目的もある。

 このままユーリくんたちの物資におんぶに抱っこ、という訳にもいかないし、僕用の生活品は買い込んでおいた方がいいだろう。

 

 適当に寝間着に決めた服に着替えて、寝袋の上に転がる。

 快適――快適だ。

 ほんの少しの時間、安全が確保できる場所を見つけて、そこで体を休めていた毎日とはまるで異なる夜。

 ごはんは美味しいし、喋れば誰かが返してくれる。リッカちゃんでさえ、たまーに返事してくれる。

 居心地がいい。もっと言うと――楽しいのだ。

 浮かれ過ぎる訳にはいかないから、この気持ちは程々にしておきたいが。

 それでユーリくんたちに情けない姿を見せるなんて出来ないし。

 

「……」

 

 そんな皆と、聖都に向かう。

 勇者である以前に、僕には向き合わないといけないことがある。

 知らない間に次の勇者の時代になっていた。

 生きているってことを伝えないと。それから、まだ勇者として旅を続けるってことも。

 

「……うあぁ……」

 

 ……いや、うん。少し嬉しくもあるのだ。

 久しぶりにイリスに会える。そして、あの子に会える。

 けれど同時に、あまりにも怖かった。こればかりは、不安だし、緊張している。

 イリスからしてみれば、あの子を預けて失踪した……多分、死んだ扱いになっているだろう。

 そこに生きていましたーと顔を出せばどうなるか。

 怒るだろう。絶対怒る。間違いない。イリスのことをよく知っている僕がそう思うのだから、そうなるに決まっている。

 ……色々と覚悟が必要かもしれない。そこだけが憂鬱だ。受け入れてくれるだろうか、イリス。

 

 もしも、幻滅したイリスが僕から離れていくようなことがあれば。

 

 僕はもう、一度イリスを深く傷つけている。

 そこで僕の選択を認めてもらうために激しく喧嘩して、心底から彼女を怒らせた。

 さらに、旅を続けることを、あの子を預けて勇者として在り続けたいということを話して、またも彼女を本気で怒らせた。

 僕にとって、イリスは大切な親友だ。かけがえのない存在だ。

 では、僕がのこのこと顔を出したとき、イリスの方はなおも僕の親友であり続けてくれるだろうか。

 

「……」

 

 ――考えちゃ駄目だ、そんなこと。

 まだ、どうなるか分からないじゃないか。いたずらに不安がれば、みんなにもそれが広がってしまう。

 頼られる存在でいなければ。僕は、世界を照らす希望たる勇者でなければ。

 

 ユーリくんは、僕に任せると言ってくれた。

 正直なところ、その言葉は僕を強く安心させた。

 希望たる勇者が二人になること。今の主役は彼であって、僕は二人目であるのは当然のこと。

 その上で、僕はなおも、勇者らしく在れるだろうか、と。

 

 ユーリくんが選んだ道は、リッカちゃんのための勇者。

 リッカちゃんが抱く、混沌とした絶望を照らす、個人のための希望。

 それは彼が見出した、彼が本当にやりたいことで、羨ましいほどに純粋な願いだった。

 彼は僕を気遣ったのではなく、彼が自分の道をひた走るために、“世界の希望としての勇者”を僕に託してくれた。

 僕は勇者で在り続けられる。それをユーリくんたちが肯定してくれるなら、僕はいつまでも、彼らの頼れる先輩勇者でなければならないのだ。

 

 自分を強く固める。

 不安を追い出して、勇者らしさで自分を塗り固める。

 イリスの怒り、何するものぞ。イリスの怒髪が天をつこうが地を裂こうが、勇者らしく突破してみせようではないか。

 覚悟は完了した。これで、気持ちよく眠ることも出来よう。

 

「……いやはや。難儀ですねえ、僕」

 

 そんな風に、おどけた独り言で頭の中のもやもやを消し去っていく。

 常に自分らしく在り続ける。ユーリくんに言ったそれを、僕がせずしてどうするのか。

 思考がいつも通りの、爽やかでさっぱりしたものに切り替わったことを自覚して、気持ちを睡眠へと向けていく。

 余計なことは考えない。考えなくていい。

 眠るために必要なもので自分を満たせばいい。

 

 ――怖くはない。

 だって目を覚ませば、みんなとの楽しい旅がまた再開するのだから。

 ポーチの中からいつものそれを引っ張り出して、中身を自分に注ぎ込む。

 迷宮の中で、すぐに見つけられて良かった相棒その三。長らく同じものを使っていてそろそろ駄目になりそうだし、これもハローネの町で買っておきたいところ。

 あとは中身の材料だけど……売っているだろうか。自然のものを見つけるのは大変なので、まとまったものを手に入れておきたいなあ。

 ふわふわとした、慣れ切った晴れやかな気持ち、遠のく意識の中でそんなことを考えた。

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