凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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死者とかぼちゃの町、それから妖精

 

 

 訪れたハローネの町は大変に賑わっていた。ちょうどこの町の祭りの時期であったようだ。

 基本的に魔族や行商人を通してしか、各町の文化は伝わらないもの。

 よって祭りの形も町によって多様に変わるものだが、この町のそれもまた、ずいぶんと特徴的だった。

 あちこちに飾られた、目と鼻、口の形にくり抜かれたそれは……かぼちゃだろうか。

 それだけではない。

 かぼちゃを被り、体を隠す黒い外套を羽織った者がそこかしこを歩いている。

 大体、被っていない人と半々くらい。そしてそれらが分け隔てなく、祭りに混じっている。

 

「なんなんでしょうね、このお祭り」

「それ以前にわたくしを連れて普通に町に入るあなたたちの方が“なんなんでしょうね”なのですが」

「え? いやあ、ナディアちゃんだけ外で居残りなんてのもおかしいですし」

 

 事前にリッカはナディアが町に入るための用意をしていた。

 何やら彼女の服には現在、認識による違和感を軽減させる類の魔法が仕込まれているらしい。

 彼女が魔族であるということは、普通の人々にとって分からない訳ではないものの、その力を制限させることで“弱い魔族”と認識させるとか。

 事実効果は出ているようだ。ナディアには視線を向けられてはいるものの――それは恐怖ではない。

 その視線は疑問によるものだ。

 

「……でもまあ、宿は先に探そうか」

「ええ。そうしてください。わたくしは部屋で待機していますので」

 

 ナディアは視線に慣れていないということはない様子だが、今のそれを煩わしく思っているのは事実だった。

 騒がしいのもさほど好みではないようだし、ひとまず宿で落ち着きたいところだろう。

 とりあえず目的を定め、手近な宿を探し始めたその直後の出来事だった。

 

「――止まるのです。そこのちょっと高貴な雰囲気のアンデッドさん」

「はい?」

 

 澄んだ声は背後から。

 敵意無し、悪意無し、大人しく柔らかい善意のみがある声に振り向けば。

 そこには白黒の道化のような衣装を身に纏った、背の低い魔族の少女がいた。

 裾がギザギザと尖った黒いマント、二又に分かれた帽子、白い手袋に、左右で色の違う先の尖った靴。

 サイズの大きなそれらを着こなした少女の金色の瞳は、じっとナディアを見上げている。

 

「えっと……どうしたのです? あなたも魔族のようですが」

「ええその通り。それは良いとして。あなたはこの町をご存知ですか?」

「今日、初めて訪れましたが……」

「なるほど。半分納得です。では偶然死の還る時期に訪れたと」

 

 うんうんと頷く少女の動きに合わせて、長い銀色の髪と装飾の数々が揺れる。

 警戒は欠かさない。しかし、少女は敵意を見せることなく、ただナディアを案じる気持ちだけがあった。

 

「観光ですか?」

「旅の最中です。この子は僕たちに同行してくれているんですよ。この町には主に買い物が目的で来ました」

 

 クイールが少女の問いに答えれば、少女は視線だけをクイールに向ける。

 それから僕、リッカと視線は順々に動いた。

 

「――勇者」

「はい、勇者です」

「そっちも勇者」

「う、うん。僕も勇者だけど」

「そっちは?」

「……」

「……」

「――僕の、勇者としての旅に同行してくれているんだ。この子も人間だよ」

「そうですか」

 

 ……納得、したのだろうか。

 魔族がリッカに問いを投げても簡単に答えが返ってくる訳もない。

 リッカはこの魔族を知らないようだ。“これまで”も含めて、出会っていないのだろう。

 だからこそ、その警戒はより強い。僕も、いつでもリッカを守れるように意識しつつ、その魔族の挙動を注視する。

 しかし――少女は僕の言葉だけであっさりと納得し、リッカから興味を逸らした。その視線は再びナディアに向く。

 

「この町は今、祭りの最中です」

「それは見れば分かりますが……どういった祭事なのです?」

「死者の還る七日間。この町で生きて、この町で死んだ人間が素性を隠し、アンデッドとして還ることを許される日なのです」

「アンデッドとして……?」

 

 道行く人の多さと、あの奇妙な姿の意味がぴたりと嵌る。

 それでは、あのかぼちゃを被った人たちはもしかして――

 

「かぼちゃ頭は、この祭りで死より還った人たちです。あの姿であれば、この町で生者として振舞うことを許されるのです」

 

 いまいち、中にいるのが生者であるか、死者であるかの判別はつかない。

 どうやらリッカが急ごしらえで使用したそれの上位に当たる魔法が、一人ひとりに対して掛けられているらしい。

 考えられない現象ではあるが、かぼちゃを被っていない生きた人々が不思議に思っている様子はない。

 この町ではずっと、これが当たり前であったのだろう。

 僕たちの村からは遠く離れたこの町の祭りが、僕の常識である筈がない。

 最低限、一日滞在し、必要なものを買い込めればそれでいい。特に危険な催しでないならばあまり気にすることはないのだが……。

 

「その文化を成立させるほどの存在がいるということ……? まさか――」

「……どうします? ナディアちゃんが嫌なのであれば、別の町を目指しますが……」

「……いえ。わたくしはあなたたちに同行するだけ。ここと決めたならば構いません」

 

 僅かな不安を、ナディアは仕舞い込んだ。

 彼女が思い浮かべた存在が、本当に関与しているかは分からない。

 もし、それが正しいのであれば一気にこの町は危険なものになる。

 すぐにこの町を脱出するべきという判断を迫られるのだが、今はその確証は抱けない。

 この文化が、真に信頼できるものかどうかを判断できるまでは――油断はできないだろう。

 

「――リッカ」

「……ん」

 

 意味があるかは分からない。

 かぼちゃ頭のかれらがアンデッドであるならば、リッカにとっては抑えられない恐怖があるだろうから。

 逸れないように、少しでも不安を和らげられるように、その手を握る。

 

「それでは、あなたも歓迎します。祭りの間はあなたも町の迷い子なのです」

「ええ……え?」

 

 そうしている間に、魔族の少女はナディアに近付いた。

 ――止めるべきだったのかははっきりしなかった。

 そこに一切、少女の悪意はなく。あくまで彼女としては町の祭りに歓迎しただけなのだから。

 

「進呈」

「……」

「……」

「……」

「…………え?」

 

 僕も、リッカも、クイールでさえも反応できない早業だった。

 どこから取り出した……というかどこに隠していたのかと思える丸々としたかぼちゃを、少女はナディアに被せていた。

 外からやってきたアンデッドをも歓迎する、この町の文化。

 物怖じせず楽しんでほしいという、真正の善意によって施された、素性を隠す仮面。

 満足そうに頷く少女を前にして、僕たちも、ナディア自身も、呆然とそれを受け入れるほかなかった。

 

 

 

 ――結論から言うと、そのかぼちゃは“被ると外せなくなる”とかその類の魔法が掛かったものではなかった。

 見つけた宿で取った部屋の一室に集まり、ひとまずどうするかと考えることにした僕たちの前で、ごく普通にナディアはそれを外したのだ。

 

「……」

「とりあえず、外に出るときはそれをしていた方が都合がいい……ってことなのかな」

「でしょうね。この町のみなさんの様子を見る限り、本当に“それだけ”のお祭りみたいですし」

 

 手に持ったかぼちゃの、目の形にくり抜かれた穴とじっと視線を交わしているナディア。

 ……どこかシュールな光景だが、彼女は真剣に考えていた。

 この町に来たときに言っていたように、この宿で待機しているというならば、殆どこのかぼちゃと向き合うことはないだろう。

 しかし、ナディアの懸念は僕たちも意識しておかなければならないことだ。

 死者が僅かな期間ながら、生者と共に過ごすことを許される催し。

 それを可能とする特殊な力を持った者と、つい先日に関わったばかりなのだから。

 

 たとえば彼が、この町に対して何もしていないのだとしても。

 それが僕たちに対して、何もしてこないと決まった訳ではない。

 もう既に、試練は終えている。彼が“加減”する理由は存在しないのだ。

 

 ――すぐに町を出るべきだ。

 ――しかし同時に、この祭りは何を意味したものなのかを、ナディアは知りたいと思っている。

 僕たちは、ナディアに判断を任せることにした。

 

 その目にあったものは、一時的なものであっても、彼女自身の信念であったから。

 

「……三人とも。改めてこの町における目的は?」

「資金の受け取りと、物資の買い込みだよ」

「それでは合間に少しだけ、わたくしの事情にお付き合い願えますか」

「もちろん。この町で誰かが悪さを目論んでいるならば、止めないと、ですもんね」

 

 確定ではない。

 これが彼とはなんの関与もしていない、この町だけで完結した事象の可能性もある。

 しかし、“もしも”が正しいのであれば、ナディアは許してはおけないと判断した。

 同じく見せかけの命を与えられた者として。そして、何より彼との因縁があるからこそ。

 

「よろしい。それでは三人の用事を先に済ませてしまいましょう。そのついでに町を知っていきます」

「了解です。あ、教会にも寄りますけど、ナディアちゃんは近付いちゃ駄目ですよ。あそこに入る時は二手に分かれましょう」

「そうだね――よし、出発だ」

 

 ナディアがかぼちゃを被り、立ち上がる。

 この不思議な町の謎に迫るという決意がそこにあった。

 国賊たる兄が暗躍しているというならば、何としてでもそれを暴く。

 彼女の意思は強かった。もしかするとそれは、ネシュアというかつての国を背負うがゆえの責任感なのかもしれない。

 

 恐らく彼女は、兄の存在を確信している。

 僕たちでははっきりとしないけれど、他のかぼちゃ頭の者たちに同じ何かを感じ取ったのだろうか。

 

 彼女の決意に付き合うという選択に迷いはなかった。

 ともすれば、四天王の一角との本格的な戦いになる。

 ようやく試練を突破した僕たちが、今の段階で彼に太刀打ちできるのかという不安は、当然あった。

 そうなったとき、何よりも優先されるのは生き残ること。

 不可能と判断すれば即時撤退。クイール主動のもと、その方針に定まった。

 ナディアもそれを受け入れて、およそ町に繰り出すものとは思えない緊張の中で、外に出た僕たち。

 

 死者の蘇る催し。

 その町を行く上での意識として、それは正しかったと思う。

 

 ――きっとこの町のどこかに彼がいる。

 どこにいるか分からないそれを調査するつもりだったのだから。

 あえて僕たちの過ちを挙げるのだとすれば。

 

 

「――おぉ! この前の勇者だろお前っ! 奇遇だな!」

「ビンゴ。立ち寄るならこの町だと思ってた。ここまでの労苦が無駄にならずに済んだ、ヒヒ」

「ベルの根拠なしの発言にも乗ってみるものねー」

 

 彼ではなく、ある意味ではもっと“会いたくない”と感じた彼女たちに遭遇するなどまったく想像していなかったことだろう。

 あの目立つ赤い兜は付けていないが、その声と隠し切れていない雰囲気で一瞬で分かる。

 死者の面々と同じようにサイズの大きなかぼちゃを被った妖精たち――約一名、被るというよりかぼちゃの中に納まって浮いているが。

 

 土の試練の最中に現れて、結局何がしたいのか分からなかった妖精の面々たちとの再会だった。




【ナディア】
兄様に反省を促すすがた。

七色妖精戦隊(アイリスバスターズ)
再登場の早すぎるタイプのゲストキャラ。

【ハローネの町】
ナイトラクサから少し離れたところにある中規模の町。
一年に一度、七日間だけ死者が蘇り、生者と共に過ごす祭りが行われる。
祭りの期間は、かぼちゃを被っていれば魔族であっても受け入れられ、分け隔てなく楽しむことが認められる。
賑わいに釣られて妖精たちも集まってくるという。
ハローネ編は七割くらい番外編みたいな空気なので軽い気持ちで読んでほしい。色々と悪ふざけが過ぎた自覚はある。
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