凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

110 / 373
人と妖精の紡ぐ物語、それからフレアの存在理由

 

 

 ベルの魔道具を通して見る町の様子は、何も知らなければすぐにでも駆け出すべき光景だった。

 人形の軍勢が大挙して押し寄せ、混乱に陥る住民たち。

 かぼちゃを被った死者たちも、人形の群れを相手に抗える力はない。

 これが本当に人々を襲う意思のあるものならば、この町は絶体絶命といえよう。

 

 緊迫した状況を、それでも人々が楽しめているのは、これを演出した者たちの繊細な制御があってこそだった。

 コッペリア……彼女の操る人形は、人々に襲い掛かることはあっても傷つけることはない。

 その命令を軍勢全体に対して行っている彼女の技術は、凄まじいものなのだと思う。

 “あれ”さえなければ、それをまともに評価することが出来たのだが。

 

 シェリーがどんな役割を持っていたかも、ようやく分かった。

 人々にも見えていない彼女は飛び回ってその“注目”をフレアに集めている。

 そこに見えない何かがいるという意識を操り、自然に観客の視線を動かして、演出を際立たせているようだ。

 ショーそのものに直接関わる訳ではない。

 しかし、想定通りの盛り上がりを獲得するためには彼女のはたらきが必須であるらしい。

 

 大鎌を振るうティバリー率いる人形たちと、フレアの戦いは本気のものではない。

 いや――本気ではあるのだが、大前提としてそれは互いを傷つける目的のない、見せかけのものだ。

 そこに臨場感を与え、本気のやり取りを演出しているのが、ベルが町中に仕込んだ術式の数々。

 町の状況を俯瞰し、人々の安全を確保しつつ術式で爆発などを巻き起こし、戦いを派手なものにしている。

 どこからどこまでがこのショーの舞台であると、明確に決まっている訳ではない。

 ゆえに、全てを把握して術式を調整するベルの技量はある種異常ともいえる。

 

 全員が協力し、互いの役割を信頼してこそ、町全体を巻き込んだ“お祭り騒ぎ”が実現している。

 それだけ妖精たちも、そして人々も本気であることが、伝わってきた。

 

「……やっぱり、すごい光景ですよね」

「うん。これ大丈夫かな、僕たち」

 

 これを成立させているのは、妖精たちの絆の面が大きい。

 そこに僕たちが加わって、果たしてこのショーは上手くいくだろうか。

 しかも、僕たちの役割は大まかな展開や台詞回し以外はアドリブで、と来た。

 とにかく勇者らしく、戦士らしく……とのことで、それはクイールはともかく僕の在り方と合致するものではない。

 

「心配すんな。巻き込んだのはこっちだ、出来る限りの負担はこっちが背負う。そっちはそっちらしくやってくれりゃあいい」

「コッペたちもプロなんだもの。どんな想定外だって拾ってみせるわ。主にフレアちゃんが」

 

 しかし、そんな異物の存在を、ベルもコッペリアも一切心配していない。

 僕たちに対する妙な信頼が、どこから来ているのかは分からないが……少なくともそれが、“この町の人々を楽しませる”ためであるならば。

 ……うん、疑問を持って、曖昧なままで、中途半端な熱意で事を済ませるのは、おかしいだろう。

 

「そろそろ出番だ。頼むぞ」

「――よし。行こう、リッカ、クイール」

「……ん」

「はいっ! こういうのは慣れてないですが……おおむねいつも通り、だいたい百パーセントで……!」

 

『ブレイブコード! スタンバイ!』

『トランスコード! アクセプション!』

 

「ユーリくんも、大丈夫ですか? 演技とか」

「うん。いつもの僕っぽく、というよりは……少しクイールらしくやってみようと思う」

「ぼ、僕らしく……ですか? なんかちょっと恥ずかしいですが……」

「ユーリ……? なにを……」

「大丈夫、リッカ。今回は僕に任せて」

「……? う、うん……」

 

 報酬は提示されていて、何より既に出演を決定したのだ。

 大した意欲もないままに僕たちが踏み入って良い場所ではない。そう思ったから、ナディアも戸惑いを捨て去って進行を務めている。

 僕たちもそうあるべきだ。

 リッカのための勇者である僕でも、見せかけならば、“勇者らしく”を演じることが出来る。

 

『マスターアップ! Q-クエスター!』

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

「さて、行ってこい」

「頑張ってねー」

「うん――!」

「はい――!」

 

 今だけは、この町の人々を楽しませるために。

 このショーを出来る限りの大成功に導くために。

 

 

 


 

 

 

 人間と一緒に楽しみたかったというのが動機だった。

 妖精は自由なものだとは分かっていた。自分だけの何かを見つけるために、どこまでも好き勝手に探究するのが妖精だ。

 そして、妖精の自由さが人間を脅かす。それが妖精と人間の間に不和を作る。

 嫌な悪循環。妖精たちが自重を覚えない限り、その溝は埋まらない。

 けれど、同じ何かを楽しむことは、できると思った。

 

 もしも世界を脅かす悪から人々を守る戦士がいたら。

 魔族の身でそれを空想するのは、とんでもない話だろう。

 それでも物語としては楽しむことができる。物語というのは、不可能を描くものだから。

 そして、物語であれば、演じることで空想を共有できる。あたしの空想を、他の誰かも楽しむことができる。

 仮面の戦士、フレアバスターの物語は、そうして始まった。

 

 受け入れられるまでは時間が掛かった。

 一人でできることなんてたかが知れている。あたしは妖精として、特に目立った能力を持っているわけでもない。

 火の属性を持っているだけのレッドキャップ一人では空想を演出できない。

 同じ物語を紡げる仲間を探すため、そして空想を見て、聞いてくれる町を探すために、旅に出た。妖精がどこへともなく旅に出るのは変わったことではないけれど、あたしの動機は変わっていたと思う。

 

 最初に出会ったのは、シェリーだった。

 人間の恋模様とやらを見るのが大好きな、おかしな妖精。

 それから、暇潰しにとコッペリアが加わって、あたしがしつこくスカウトしたベルが加わって。

 基本的には四人で、あとはその場その場でメンバーを加える形の、七色妖精戦隊(アイリスバスターズ)は始まった。

 協力してくれる者の目的第一。つい先日まで仲間だったアッシュも、長い間の仲間だったわけではない。

 あいつも自分なりのやりたいことがあって、そこまでの関係だった。

 来る者拒まず、去る者追わず。妖精の自由さが全面に出た劇団だ。

 

 やりたいことができるようになってから、人間の町でも少しずつ公演が許されるようになって。

 いくつかの町では毎年やってほしいとまで言われるようになった。ここまで来るのに、かなりの歳月が掛かったものだ。

 頑固な魔族の集落にもお得意様ができたのはちょっと自慢。アルラウネ島とか、聖都を受け入れなかったとかいう森の奥のエルフ集落とか。

 

 そんな町の一つ、ハローネでの公演を前に材料集めをしていたあたしたちの前に現れた、百代目勇者。

 最初は虫を操るヤバい怪人だと思ったが、その後の覚醒はあたしの心をひどく熱くさせた。

 無理だと分かっていても、彼の出演する……ついでに再会した先代勇者までも出演する台本を徹夜で書き上げるくらいには。

 これまでとはレベルの違う敵を前にした、かれらとの共闘。それはきっと、面白い。

 だからあたしは動かずにはいられなかった。

 

 勇者たちへの報酬も、とびっきりのものを選んだ。

 とはいっても、元々あたしたちには必要ではなかったものなのだが。

 何もかもが平等になるという、よく分からない迷宮に迷い込んだのはいつのことだったか。

 あの時はベルとシェリーしかいなくて、三人でいつになく協力して死に物狂いで突破する。観客はいなかったが達成感のある、ちょっとした冒険だった。

 その果てで手に入れたあの魔道具は、勇者しか扱えない。

 それなら、出演のお礼に譲っても構わない。この、一世一代の公演に協力してくれるならば、あたしたちは勇者を全力で応援できると思った。

 

「さあ、覚悟するのですフレアバスター。おまえとの因縁、今日こそ終わらせてやるのです」

「くっ……」

 

 ハローネの町を襲う、悪の軍団。

 かぼちゃ邪怪人(ティバリー)との幾度もの戦いの末、窮地に陥ったフレアバスター(あたし)

 怪人自体が強化されたのに加えて、攻め込んできた人形兵は膨大な数。

 このままではあたしはハローネの町を守れない――多くの人々が一緒に楽しんでくれているショーの流れとしては、およそ絶望的なもの。

 子供たちの中には、本当に町の危機なのでは、と思う子もいるかもしれない。

 聞いた話だと、これは“見せかけ”だと子供に教えていない大人もいるらしいから。

 

 けれど、みんな知っている。

 最大の戦いを予期したあたしが、他の町で出会った仲間を呼んでいること。

 その仲間が、今ここに向かってきていることを。

 

「――まだだ! あたしは諦めない!」

「今のおまえに何ができるというのです」

「仲間を呼べる! 今日のあたしには仲間がいる! お前たちを止めるために呼んだ、とんでもなく頼りになる仲間が!」

 

 これはあたしが書いた台本で、これはあたしが作った物語だ。

 広がった絶望は、絶対に希望に変わらなければならない。

 

「さあ、みんなも! あいつらの名前を呼んでくれ!」

 

 あたしのショーにとって観客とは、同時に出演者でもある。

 声を上げて、手を叩く。逃げて、そして応援する。ともに一つの作品を描き切って、ともに楽しむ。

 あたしが求めれば、みんながその名を呼んでくれる。

 今回ばかりの特別な戦士。正体など追及無用。他の町で、同じく世界のために戦う者。

 間違ってはいない。世界を変えるための勇者が、今回のために世を忍んでくれたのだから。

 最初はまばらに、そして徐々に大きくなる形で、その名が町の空にこだまする。

 ――ブレイブバスター、と。

 

「そこまでだ!」

「そこまでです!」

 

 一斉にあたしたちが見上げる屋根に立つ、赤の金、二つの輝き。

 周囲をいたずらに傷つけない炎を纏った、異郷を二人で守る戦士。

 

「とうっ!」

「はぁっ! ユーリくん……?

 

 シェリーのはたらきもあって、ベストな形で注目を集めた二人が飛び降りる。

 赤の戦士がかぼちゃ邪怪人(ティバリー)を攻撃して距離を開かせ、周囲に集まってきた人形を金の戦士がその剣で打ち倒す。

 

「大丈夫か、フレアバスター!」「ユーリ……?」

「あ……あぁ! 助かったぞ!」

 

 ……こんなんだったっけ、ユーリ。

 全然問題ない。むしろ、望んだ通りの戦士らしくなっているのだが、如何せんギャップが凄い。

 そして躊躇など見られない。演技派だったのか、ユーリって。

 いけない、いけない。こっちが動揺していては進行に差し障る。

 あたしはあくまで主役らしく、堂々としていなければ。

 

「……おまえたちは、何者なのです」

「ブレイブバスター一号! それが俺の名だ!」「お、俺……!?」

「ブレイブバスター二号! それが僕の名です! え、本当に僕参考にしたんですかそれ?

 

 ――凄いなあいつ、一人称まで変えてきた。

 演技に支障は出てないけどクイールと、それからユーリの変身に力を貸しているらしいリッカがメチャクチャ困惑しているのが伝わってくる。

 まあ……フォローの必要はないか。ユーリは問題なさそうだし、クイールも動揺はあれど演技に支障は出ていない。

 このままショーは続行しよう。面白いし。

 

「二人は別の町で出会った、あたしと同じ正義の戦士だ! きっと来てくれると信じていたぞ!」

「勿論ですよ、フレアバスター!」

「友のピンチなら、俺たちはどこにだって駆けつけるさ!」「……や……ぇ……?」

「おのれ……行くのです、人形たち!」

 

 ただ一度、あたしの危機を払った程度では、観客たちにその凄さは分からない。

 かぼちゃ邪怪人(ティバリー)が呼び出した最後の人形軍団は、ここまでよりもさらに数が多い。

 これを協力して打ち破ってこそ、みんなにもかれらが“応援すべき存在”であると伝わるのだ。

 

「このくらい、わけないよな、二人とも!」

「ああ! 当然だ!」「ゆ、ユーリ、壊れた……!?」

「みんな! 応援をお願いしますね!」

 

 本物の勇者とともに戦う、仮初の時間。

 そこに憧れがあったわけではない。元々、勇者が何を成し遂げられるとも、思っていなかったのだし。

 しかし、この二人は別だ。試練を三つも突破して、なおも生き残っている前代未聞の勇者たち。

 この二人ならば、あたしは憧れを向けられる。ともに戦い、一つの面白さを作り上げ、達成感を得ることができる。

 かれらは顔も出さないし、本当の名前も名乗らない。

 だからこれは……少なくともしばらくは、あたしたちの胸に秘めているばかりの秘密になるだろう。

 

 もしも、この世界をかれらが本当に変えて見せたなら、いつか。

 ――あたしたちのショー、勇者たちが共演してくれたことがあるんだぜ!

 そんな風に、胸を張って自慢できる日が来るかもしれない。




【ユーリ】
壊れた。もといフレアたちの本気っぷりとそれを楽しむ町の人々を見て、雑にやったら失礼だと吹っ切れた。
躊躇っていた場所でも、一度踏み込んでしまえば全力で駆け出すことができるのは彼の本質でもある。
神輿に乗って高笑いしながら登場させようと思ったけど流石に悪乗りが過ぎたのでやめた。

【クイール】
こういう形で注目を浴びるのにそんなに慣れていないため、かなり緊張している。
それはそれとしてユーリの変貌を見て「僕、ユーリくんの目にどう映ってるんだろう……」と結構真剣に考える羽目になった。

【リッカ】
本日の副音声。何百周としていて初めて見る幼馴染の一面に困惑を隠せない。
一人称まで変わったユーリに何を感じたかは定かではない。

【『ハローネ絶体絶命! 立ち上がれ三人の究極戦士!』】
ハローネの町において今年の祭りを締めくくるショーのタイトル。
かぼちゃ邪怪人最大の作戦により絶体絶命の危機に陥ったフレアバスター。
そこに駆けつける、二人の正義の戦士との、今回限り共闘……というストーリー。
終盤ではかぼちゃ邪怪人が切り札の巨大ゴーレム『キングアイリス十号』を繰り出し、三人同時の必殺キックで決着することになる。
なお、そこまで書くとショーそのものが長くなりすぎるので割愛する。
削りに削ったためナディアの司会進行の様子もカットされた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。