凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「あー……た、倒した、のか? それとあんたら、人間、なんだよな?」
「どっちの答えも“はい”ですね。怪我はないですか?」
先程の二人が近付いてくるまでの間に、剣は再び魔力に変換され、手元から消える。
恐らくは、リッカの意思で出現させられるのと……あとは、多分僕の方にも実行権があるようだ。
とはいえあの反動からして、魔法を利用していない状態でまともに使えるものではなさそうだが。
「俺らは大丈夫だけど……やっぱり分かんねえ。人間が、ユニコーンに勝ったって……?」
「ええまあ、勇者ですから」
「勇、者……? いや、待って。勇者って、試練に挑むあの勇者?」
「はい。その勇者です」
クイールと問答している二人は、ますます困惑を強める。
やはり、年齢は僕たちとそう変わらないように見える。
つり目を引き攣らせて動揺する表情までもそっくりで、一目で兄妹だと分かる。
一つ違うのは、少女の顔の右半分に走るやけどのような浅黒い傷跡。その右目は黒い眼帯で隠されていた。
「……あー……悪い、勇者っつっても魔族と戦えるものだとは思わなかった。一つ疑問も解けて……」
「僕が九十九代目、そしてこっちが百代目のユーリくん。現在二人で勇者をやってます」
「ごめん疑問増えた。え、勇者いまそんなことになってんの? トーカ、どういうこと?」
「いや知らないし……そんな好き好んで勇者の状況なんて調べるなんてことしないし……」
思えば、こうして魔族ではない他者から、勇者がどういうものかについて聞いたことは殆どない。
この評価は当然だろう。人々の認識としては、勇者とは特別な生贄に過ぎず、憐れまれる存在なのだから。
大抵は勇者の試練の状況など興味もないし、“先代勇者が生きていた”ということも、知る機会がないのだ。
「うーん、そういう認識ですよね。とりあえず、僕たちのことは魔族と戦える人間って認識で問題ないです。あなたたちが追いかけられているのが見えたので、手を出させてもらいました」
「そ、そっか……いや、助かった。俺らも自衛手段はあるから、妖精とか、ゴブリンみたいな魔族なら追い払えるんだが、ユニコーンともなるとどうにもならなくてさ。そっちの百代目……? も、ありがとな」
「うん、無事なら良かった」
ともかく、手を出したのが無駄ではなかったならば安心だ。
行商は人間に許された権利であって、街道を歩く分ならば積極的に襲うことをしない魔族もいる。
あれほどの魔族に追われたのは不幸だったし、街道を外れたことでより危険が高まる可能性もある。
その先に僕たちがいたのは偶然だったが、どうあれかれらを助けられたことは喜ばしい。
「俺はリヒト。で、こっちがトーカ。見ての通り行商をやってる」
「それから、見ての通り兄妹ね。私が妹で、リヒトが兄ィ」
「よろしくお願いします。僕はクイール。繰り返しになりますが、九十九代目勇者です」
「僕はユーリ。百代目の勇者で……こっちがリッカ。同じ村の出身で、一緒に旅をしてる」
「最後に、わたくしはナディア。見ての通りアンデッドで、まあ……とある事情でかれらに同行しています。人を襲う意思も力もないので、警戒は不要ですわ」
互いの自己紹介を締め括ったナディアに向けられる微妙な疑惑は消えない。
敵意や害意がないのは分かっているが、だからといってどう接すればいいのかというところだろうか。
そんな感情を向けられているのを理解しているのか、ナディアは僕たちの後ろに下がって澄ました顔で黙り込んだ。後は任せるということらしい。
「どちらまで? 僕たちはチェリスに行く予定なのですが」
「ああ、俺たちもだけど……海を渡るのか?」
「そうです。聖都……ちょっと僕の故郷まで戻ろうって話になってて」
街道から外れたこの場所は、かれらと別れるには危険な場所だ。
同じ目的地であるならば同行した方が良いというのは、クイールも同意見らしい。
「聖都……えっ、アンデッド連れて……?」
「そこはリッカちゃんが手段を講じてくれています」
「……本当はネシュアから来た
リッカはやはり彼――リヒトの問いには答えない。
単純な強い警戒。今のリッカにとっては普通の、他者との壁。
ナイトラクサの人間に抱いたような感情は、今のリッカにはない。
それを感じられるのは、僕にとってある種の救いだった。少なくともこれまで、“人によって陥れられた”という結末は無いということだから。
「そんな感じで怪しい僕たちですけど、信じてもらえるならチェリスまでの護衛は承りますよ」
「……どうする? 兄ィ」
「どうするもこうするも……実際、助けられちまってるしな。守ってくれるんなら歓迎だぜ」
「ん。なら決まり。礼はちゃんとするから、お願いね」
あまり細かく考えず、かれらは決定した。
リッカから向けられる視線に、大丈夫と返す。
悪意があれば、伝わるものがある。かれらの本質はともかくとして、僕たちの提案に対し特別企みを抱いているわけではないことは、今の時点で分かる。
「んじゃ、悪いけどちょっと待っててくれ。積み荷の確認しねえと」
「はい――あ、そうだ。用意があれば売ってほしいものがあるんですけど」
「何が欲しいんだ? 一般的なものなら一通り載せている自負はあるぜ」
「えっと……――です」
「全然一般的じゃねえ……あ、いや。テスカナ村でおまけにっつって押し付けられたのがあったような……あんた、そんなもん何に使うんだ?」
「トップシークレットです。あるだけ買いたいんですけど……」
「……ま、売り物になるとは思ってなかったし、あんなのならくれてやるよ」
荷車に向かっていくリヒトに付いていくクイール。
買い物はハローネの町で済ませた筈だが……何か足りないものがあったのだろうか。
「……ねえ。えっと……ユーリだっけ。本当に勇者?」
「うん。魔族から見たりすると分かりやすいらしいんだけど」
「ふーん……大変だね。あんたも、そっちの……リッカも」
こちらに残っていたトーカの心配は、少なからず憐憫が含まれていた。
行商を生業にしてきたならば、旅の危険は熟知しているのだろう。
苦労は分かるとうんうん頷く彼女は、しかし即座にその表情を興味に切り替え、リッカに向ける。
「それでさっきの魔法がユニコーンも倒せる力の秘密!?」
「……」
「……ごめん、あまり教えたいものじゃないんだ。勘弁してほしい」
思わず後退ったリッカの前に出しつつ遠慮を促せば、トーカはあからさまに落胆した。
先の魔族を撃退できる魔法であれば欲するのも無理はないが、これはあくまでリッカが、僕のために用意してくれた魔法。
それを誰かに教えようとは思えなかった。
「ちぇー。危険を取っ払いつつ兄ィと一つになれるとか最高の魔法じゃんとか思ったのに……」
「……」
「……」
「もしかしてこの時代、わたくし以外にまともな者がいないのでは?」
同じような小声でありながら、離れていたクイールのそれとは違ってトーカのそれははっきりと聞こえてきた。
あまりによこしまな感情が見え隠れ……もとい、明け透けになった呟きは、僕の意思を“教えたくない”から“教えてはいけない”に推移させるのに十分だった。
同時に見て取った、彼女からリヒトへの感情が一方通行だとしてもそうでないとしても、これ以上掘り下げるべきではない。
あとナディアはあまり他人のことは言えないのではないかと思った。
明日の昼までにはチェリスの町に到着する程度の地点で、日が暮れる。
少し夜遅くなることのリスクを受け入れれば十分辿り着く位置ではあるのだが、魔族から逃げたことでかなり疲労していた二人を慮り、僕たちは街道傍で魔除けを展開して休むことにした。
夕食、入浴を終えて、ゼクセリオンの個室で僕はリッカから説明の時間を貰っていた。
魔族との戦いの際に使った、剣についてである。
――ちなみにではあるが、リヒトとトーカはゼクセリオンの外で自前のテントを使って休むことを選んだ。
流石にここまで仰々しい魔道具を即座に信じることは出来ないとのことだ。
聞くところによると、リヒトはそれなりに魔道具に造詣が深いようで、これが勇者の魔力をもって起動する魔道具であることは読み取っていた。
或いは僕たちへの遠慮もあったのかもしれない。
少なくとも、リッカの警戒は向こうにも伝わっていただろうし。
「それじゃあ……」
「うん、お願い」
リッカが剣を実体化させるための魔法を実行する。
魔力が高速で術式を紡ぎあげ、先程振るった赤い剣が形成された。
ベッドに座る僕たちと向かい合うように壁に立てかけられた剣から伝わってくるのは、やはり混沌とした感情だった。
『またお呼び出し? 相変わらず奴隷の扱いが荒いわね』
「……ラフィーナ……なんだよね?」
『ええそうよ。『初戦試験官』を全うできずにボロ負けして、狂った空間で狂った凌辱に耐え続けていたらいきなり狂った記憶と狂った役目を押し付けられた、サキュバスのラフィーナよ』
飛んできた怒涛の文句からは不満が溢れていた。
リッカが彼女に何をしてきたかは知っている。その果てで、自己を失った魔族が大半だ。
その中で――カルラに次いでその役割を強要されながらも今まで耐え続けていた彼女に、不平不満がない筈がない。
『こんなんになって言うつもりじゃなかったんだけど。随分“らしく”なったじゃないの、勇者ユーリ。そこだけは試験官としての救いになったわ』
「う、うん……?」
『何よその煮え切らない返事。納得できないのはお互いさまだっての。あんたの……というよりそこの混沌女のせいでこちとら何もかもメチャクチャになったんだから』
元来の生真面目さから、ラフィーナは不満の間に評価を挟んできた。
……なんだか、不思議な感覚だ。
あくまで、“この”僕とラフィーナの関わりは、あの初戦だけだというのに、性質を理解しているというのは。
そして、それはラフィーナの側も同様であるようだった。
『――さっきも言った通り、私はあんたたちに手を貸すにあたって、そいつから記憶を押し付けられたわ。そいつが覚えている限りの、あんたたちの敗北とそいつの繰り返しの歴史をね』
「……なら、ここまでのリッカに、何があったかは……」
『ええ。分かってるつもり。そいつの寄越した記憶が全部本当なら、だけど』
リッカは、“今回”にすべてを託す決意をしてくれた。
しかしその選択は僕からして見ても、あまりに予想外の内容だった。
本来ならば必要があったとしても回顧したくないだろう、ここまでの道のり。
リッカはそれを、ここからのために他者に明け渡したのだ。
『ようやく納得いったわ。村に押し込められて生きていた筈の小娘が、どうして旅に出る前からあれだけ混沌とした感情を抱けたのか。あんたが勇者として選ばれてから用意するには無理がある魔法と、それを運用する仕組みを最初から持ち合わせていた理由も』
碌に戦い方も知らなかった、ラフィーナとの初戦。
本来、あれは僕たちが勝ち得るものではなかった。戦って、打ちのめされて、それでも諦めない勇者たる心があるかを、ラフィーナが見極めるだけのものだった。
僕たちでは万一にも勝ちの目がなかった筈の戦いすら、リッカは“勝ち切る”ことを選んだ。
未熟に対する油断を突いて、精神を侵す戦いを徹底させて。
どれだけ安定を取ろうとしても、僕が僕である限り――どこかに、諦めてしまうという可能性があったから。
『……ここまで話が通じて、そいつも止めようとしないってことは。勇者ユーリ、あんたも理解してるってことよね。そいつに、何があったのか。そして、そいつが何をしてきたのか』
「うん――全部知った。それを全部受け入れて、リッカと一緒に先に進むって決めた」
『そこは嘘であってほしかったわ……私が担当した勇者がここまでおかしかったとか……同期の連中に知られたらなんて言われるか……』
何があろうと譲れない意思に、ラフィーナは溜息を返してきた。
他者の評価への憂いにどう言ったものかと考えていれば、そこまで沈黙を貫いてきたリッカが口を開く。
「……言われても、あなたはもうこっち側。気にすることじゃない」
『現実逃避くらいさせなさいよ。こちとら完全に割り切ったわけじゃないんだから』
「……まだ、洗脳が足りない……」
『言ったわね。今はっきりと洗脳って言ったわね。勇者ユーリ、悪いことは言わないわ、考え直しなさい。あなたの女運には同情するけどもう少しあなた自身の判断力を――』
互いに、悪感情がない訳ではない。寧ろその憎しみは強かった。
ラフィーナにとっては自身の未来を奪った相手であり、リッカにとってはかつて、一つの道を断った相手だから。
しかし同時に、それがある種の軽口であると分かる程度には、友好的と言えなくもない感情が存在している。
混沌とした感情なれど、間違いなく、互いが互いを受け入れた証であるのだろう。
【リヒト&トーカ】
行商を生業とする兄妹。リヒトが兄、トーカが妹。
良くも悪くも、おおむねこの世界における現代の人間らしい価値観の持ち主。
ゆえに勇者とは十年に一度の生贄だと思っているし、試練をどれだけ突破しているかとかも大して興味がない。
それはそれとして勇者たちの変身魔法には大変興味を持っている。
リヒトは割かしまともな知識欲、トーカは九割ほどよこしまな動機からである。
どこぞの妖精とちょっと名前が似ているが特に関係性はない。
【ユーリ】
「実は○○は裏切り者だった――」みたいな展開を潰せる地味な特技を持っている。
【ラフィーナ】
百代目勇者の『初戦試験官』たるサキュバス。
最古参の苗床として頑張っていて、一時期上司によって危うくなったがどうにか立ち直ったと思ったら苗床の管理者に禁断のチートコード打ち込まれてついに常人……常魔族の道を踏み外した。