凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
はいはい! わかった! 私の負け!
こうなったらとことん付き合うわよ! 魔王様でもアリスアドラ様でも、戦ってやるわ!
――自棄であっても、そんな自分がいたことが信じられなかった。
今だって私は、魔王様に抗うことができるとは思っていない。
アリスアドラ様への叛意など論外だ。
その淫気を思い出すだけで頭が蕩けそうになる、私が何より心酔するあの方と敵対する……?
あり得ない。そんな選択をした私が、あの女が知る“いつか”にあったなど。
そういう風に自分を否定しても、頭の中から一向にその記憶が消えることはない。
腹立たしい、何故私が、直接経験したわけでもない私の“もしも”なんてものを押し付けられなければならないのか。
昔から、サキュバスらしくない自覚はあった。
種族ゆえの奔放さがない。アリスアドラ様のような、誰もを狂わせる魔性がない。
目の前にある課題の一つ一つを意識して対応していく私のような同胞は、一人もいなかった。
本能のままに、他者のすべてを支配する。欲しいもの何もかもを手に入れるのがサキュバスだ。
その中にあって真面目というのは美徳でもなんでもない。ただ単純に、変わり者であり、らしくあれない劣等個体であるだけ。
つまるところ
当然だ。自分を律するサキュバスに価値はない。
それでも自分らしさは捨てられなくて。私はこの特異体質をもって私らしくあろうとした。エリートであるという劣等感を誇りに思い続けた。
どれだけ馬鹿にされて、どれだけそれがサキュバス的に正論であろうとも、私は意固地に真っ直ぐであり続けた。
多分、アリスアドラ様が私を見てくれたのは、そういう頭の固さが原因だと思う。
アリスアドラ様の目には普通など映らない。そして、あのお方の面白さというものは、誰にも理解できない。
私はサキュバスとして異常であったからこそ、ほんの僅かであろうとも、あのお方の期待を受けることができたのだ。
……結果はこのざまだが。
無様に敗北して、勇者の付き人の苗床入り。これはこれで、あのお方は面白いと思うかもしれないけれど。
そうして、魔族らしいこともできなくなってどれほど経ったか。
久方ぶりのアリスアドラ様の淫気が抜けて正気に戻ったかと思えば、正気ではない我らが“ご主人様”によって、私は記憶を押し付けられた。
――『初戦試験官』の仕事とは、勇者を見定めること。
敗北は許されない。そして、勝ち切ることもおよそ相応しいとはいえない。
圧倒し、完膚なきまでに叩き潰して、それでも立ち上がれる勇者の証明を見届けなければならない。
勇者ユーリは、それができる存在だった。
二人の幼馴染と共に、初めての魔族との戦いでその力の差を思い知らされて、諦めないことができる勇者の卵だった。
“いつか”の私は、それを認めた。
多分大成は出来ないだろうと、そう思いつつも三人の絆を見て消極的な合格を与えるに至った。
そこからの私は曖昧。
あの女の記憶なのだから、かれらの旅路の最中に私がどうなっていたかなど分かる筈もない。
ないが――再び勇者たちの前に現れた私の様子からして、立場を妬んだ同胞によって闇討ちでも受けたのだろう。
容易に想像できる。サキュバスというのは互いを蹴落としあってでも、アリスアドラ様の目に映りたいものだから。
傷を負った私を勇者たちは助けた。
魔族である私を。魔王に与していると分かり切っている私を。
それは、その勇者が元々魔族と幼馴染だという生い立ちがあったから。
加えてあの勇者の、本当の力があったから。
私は“信じられる存在”なのだと、そう悟ったのだろう。
砂嵐の中を無理やり進まされるような回顧だった。
あの女自身、あまり思い出せないのだろう。虫食いだらけの、しかし実感に満ちた記憶の中で、勇者と共闘する私を見た。
勇者以外の二人は後衛を務める仲間だったから、私は勇者の隣で剣を振るった。
やっぱりサキュバスらしくない、型にはまった利口な剣。
どこまでも我流で実戦仕込みな勇者の剣とはまるで正反対。
それまで、否応なく発生する隙を後衛が全力で埋めていた戦いの中で、実に私の加入は“ありがたかった”ことだろう。
後にオドマオズマ様の妹たる亡国の姫が加わって。
五人の旅は相変わらず闇雲に、死に物狂いのままに続いた。
楽しげな旅だった。命を懸け続ける中でも、賑やかに、かれらは笑い合っていた。
――そして、破滅した。
旅は何度も繰り返された。同じような結末に至ったものもあれば、私がかれらと共に歩む前に断ち切られた未来もある。
勇者たちの結末は、決まって悲惨なものだった。
人間たちにとっては常識ではないかもしれないが、魔族の手に堕ちた人間の末路など大抵三つと決まっている。
その一、殺される。その二、玩具にされる。その三、繁殖に利用される。
もっと言えば、即座に殺されるか、“その二”か“その三”の果てに使い物にならなくなってから殺されるか。
多くの死があった。多くの玩弄があった。多くの凌辱があった。
旅の途中が曖昧になりながら、不幸なことにあの女はそうした終わりの光景だけははっきりと覚えていた。
生涯で背負う量ではない記憶を流し込まれて、その奔流の最中に何度吐いたか分からない。
胃の中に入ったものなど無いというのに、女の記憶に抱いた悍ましさが、幾度も吐き気を促した。
こんなもの、狂わずにいられるものか。
ああ――狂うに決まっている。それで終われず、諦められず、なおも歩いて光に縋ろうとしていたのならば、絶望に染まり切った目をしているのも当然だ。
頼れるものが、縋れるものが一つ一つ消えていく繰り返しの旅。
その中で、私が真っ当に『初戦試験官』すら成し遂げられない一回が存在した。
何が正しいのか分からなくなったあの女の迷走は、勇者に旅立つための最低条件すら満たさせないほどに甘やかしていて。
ぐずぐずに甘くなったその勇者といえない人間を私が貪ったということになるのだが。
あの女はそれ以来、私を信じなくなった。どちらが悪いのではない。ただ、何もかもが悪く噛み合っただけ。
そこからも旅は続いて、まともに進む筈もない中で女は未来を見出した。
それが復讐心の根源。勇者と共にハッピーエンドに至るための道筋にくべる動機。
復讐心の結晶が完成した“今回”において、今までのいつよりも異常な旅が繰り広げられて。
やがて勇者は覚醒した。彼が持つ絆の力は今までのいつよりも大きな形で目覚めた。
勇者はあの女の過去に手を伸ばして、理解し、そして受け入れた。彼女とともに、ハッピーエンドに辿り着きたいという一心で。
自分を受け入れて、前に進もうと自分を支えてくれる勇者に報いたい。
これ以上の繰り返しは存在しない。正真正銘、最後の旅を完全な形で終えるために、あの女は自分にできるすべてを尽くそうと心に決めた。
苗床としての価値以外を求めていなかった、かつての仲間だったものを、もう一度信じよう。
すべてを打ち明けて、これからの旅をより盤石なものにしよう、と。
「私が覚えている限りのあなたの全部を、あなたに明かした。そのうえで、私はあなたに選んでほしい。手を貸して、ラフィーナ」
「……どの口が」
私が知るべき、“ここまで”の全てを詰め込まれた後、罪悪感すら覚えていない表情で女は言ってきた。
私に選んでほしいだと? これだけのことをやらかして?
「使いたければ勝手に使えばいいじゃないの。それが出来るんでしょ? 私の思考を奪うなりなんなりして、使いやすいようにするくらいわけないわよね」
「……そうしてほしいなら、そうする。けど――やりたくない」
捕えてから今までで壊れていたようならば、簡単に受け入れていただろうに。
今になってようやくこの女は、“いつか”の仲間に対する情というものが生まれたらしい。
勇者に絆されたからか。
或いは――思考を失わず、記憶を得た私の存在が勇者のためになると、本気で考えているからか。
……もっと言えば、信じているのだろう。
あの女はあの女なりに、私のことを。
一切嬉しくない信頼ではあるが――こうして旅路の真実を知って、かつて強い信頼を置いた仲間であることと、かつて可能性の一つを断ったこと。
これらを知った私が、自分に……そして、勇者ユーリに情を抱かないわけがないと。
ここまでの憎悪を理解して、“もしも”の自分に罪悪感を抱き、互いの“ここまで”を帳消しにして再度信頼できる間柄になれると。
サキュバスらしくない“いい子”の私は、そんな性格なのだと。
「……本当、ふざけてるわ。身に覚えのない憎悪で他者のすべてを奪った分際で」
「……お互いさま。あなたは私の前で、
殴り飛ばしてやりたいほどふてぶてしい、希望と絶望のない交ぜになった仏頂面。
私は今後、これ以上の何が起きようともこの女以上に憎たらしい存在とは出会わないだろう。
勇者ユーリには同情する。心底から同情する。
個人が個人に対してここまでの感情を抱くなど普通にあり得ない。キャパシティを超えて制御できなくなった感情など、相手にとってはただの暴力だ。
劇物だと思っていたあのセイレーンがかわいく見える。この女に比べればよほど健全だ。
……あと、あのアルラウネも。いや、これは今考えてみるとどっちもどっちだが……やめよう。あまりこの女とアルラウネについては考えない方がいい。私が言うのもなんだが、理解できる関係じゃない。
本当勇者大丈夫か。お前が選んだ道、茨なんてものじゃないぞ。
たとえ何もかもが上手くいって、ハッピーエンドとやらを掴んだとしても、私には碌な
「……言っとくけど、これはあんたたちを許したってことじゃないからね。いつかの、或いはもしもの自分の尻拭いなんだから」
「……ツンデレ?」
「ぶっ殺すわよ」
誰がツンデレだ。少し前までは冗談すら言えなくなっていたというのに、こんな軽口が出るほど浮かれているのか。
この女、やっぱり変に希望持ったせいで余計おかしくなってるぞ。責任取れ勇者。
……はっきり言う。勇者にも、この女にも、親愛など持っていない。どこでくたばっても、知ったことではない。
言った通りだ。こうもあの女に実感のある記憶を押し込められれば、覚えのない失態に自己嫌悪だってする。
助けられたことなどないのに、“いつか”に対して恩義を感じてしまうし、勇者の精を啜ったこともないのに、“いつか”のこいつを壊した罪悪感だってある。
自己投影といえるものかも分からない共感は、頭がおかしくなりそうなほどに気持ち悪い。
つまるところ、ここではっきりと拒絶できない
悔しいし、腹立たしい。
何より、その自分らしさを否定できない自分が恨めしい。
何もかもを知ってしまったことで、私にはこれしか出来なくなった。
他者の選択肢を潰しておいて、選んでほしいとはどういう了見か。このぐちゃぐちゃな感情を、私はどう整理すればいい。
「後悔しても知らないから。私があんたをどう思っているか、よく理解しておくことね」
「……ありがとう、ラフィーナ」
「こちらこそ、素敵な記憶をありがとう、リッカ。いっぺん冥界に落ちてくれる?」
特大の不満と、可能な限りの友好を叩きつける。
協力を促す一幕ではない。こんなものは強要だ、洗脳だ。
あまりに横暴な“いつか”の仲間と、あまりに単純で軽率な“いつか”の自分に、頭の中で思いつく限りの罵詈雑言をぶちまけて最低限の体裁を取り繕う。
本来ならば知ることすらなかったやらかしの尻拭い。
それで寝返ったなんて同胞たちに知られたら向こうは笑い死にするかもしれない。それはそれで爽快かもしれないが。
もしもアリスアドラ様に知られたら私が恥で死ぬ。むしろアリスアドラ様に殺してほしい。そうでなければこの無念が晴れない。
そんな、血迷った“いつか”に勝るほどの自棄の中で、私は勇者とこの女が望むハッピーエンドとやらの道連れになることを決意する。
「で? 私に何をさせようって言うの? いつかあんたが制御に失敗しかけてあわや大惨事になりかけた虫みたいに使い魔にでもする?」
「そんなにあのプールが気に入ったならいつでも貸し切りにするけど」
「……」
「……」
「――まずは話しなさい。勇者ユーリのために、あんたは私に何をさせたいのか」
「――ユーリの武器になってほしい」
「は?」
……“今回”における単純で軽率な判断を後悔するのは、このすぐ後のこと。
頭がおかしい女の頭のおかしい発想を予想するなんて無理に決まっているのだが。
それでも、少しくらい加減しろと思わざるを得なかった。
【リッカ】
「このイッチ、好感度のパラメータと憎悪のパラメータが別々に用意してあるんだよね。」
「そうそう、好感度のパラメータは一度上がったら減らない仕様だから向ける情緒がどんどん狂ってくっていう。」
――『頭エロトラップダンジョンかよ』より抜粋
【ラフィーナ】
真面目であるがゆえに異端であったサキュバス。
リッカによって記憶を押し付けられ、その中でユーリたちに助けられ、力を貸す自分と、ユーリを勇者と見なさず手に掛ける自分を見た。
本来ならばそれは考慮するに値しない、もしもの可能性に過ぎない。
しかしラフィーナは、それらの結末の延長線上にいるリッカの存在を知って、なおもそれが出来る存在ではなかった。
真面目な彼女は“いつか”の自分も背負ってしまう。そして、そういう精神性を、リッカは強く信頼している。
そこまで知ってしまった彼女に選択肢など残されていなかった。
……それはそれとして、何百もの旅路で積み重なり、混沌としたリッカの感情が向く先には本気で同情している。
こんなん人間に背負えるものじゃないって。勇者絶対こいつのこと見限った方がいいって。あんたが受け入れるの絶対間違ってるって!