凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
なんとなく顔を上げて、日が昇り始めている光景を目にすることで、また懲りずに徹夜していたことを知った。
意図してそうするつもりもないのだが、集中すると一晩などあっという間。
こういう性格なのだ。一度手を付けると、きりの良いところまでは手が止まらない。
そして今回の場合、きりの良いところとは即ち完成だったのだから。
想定した術式すべてが正確に焼き付いたことを確認し、試運転。ある程度、自在に動くと見てから、供給する魔力を停止する。
あとは小型炉心をセットするだけ。
また貴重なものを勝手に使って、とトーカには文句を言われるだろうが、思いついたのだから仕方ない。
それに、こちとら命を救われているのだ。このくらいの礼なら許される。
「――リヒト?」
「おー、ユーリか。早いな」
ちょうどその時、俺たちのテントに併設された“お隣さん”から一人出てきた。
「うん、ちょっと、あまり寝付けなくて。鍛錬でもしていようかなって思ったんだ」
「……?」
まだ一般的に目を覚ますような時間でもない。勇者というのは全員、睡眠障害でも患っているのだろうか。
確か日が変わった頃、九十九代目だとかいうクイールも起きてきた。あれは起きていた、というべきか。
こんな訳の分からない魔道具の中でさえ安心して眠れないというのはなんとも気苦労の多い役目なのだろうと同情する。
「っ……」
しかし、なんの鍛錬やらと思っていれば、百代目勇者たるユーリはその手に大層な剣を出現させた。
魔力の物質化による、魔道具……否、魔法機械レベルの機能を有した武装の具現化。
正直、意味の分からない技術ではある。俺たちに伝わっていないだけで、勇者たちの間では普通な技術だったりするのだろうか。
いや……それにしたって、具現化前に宙に浮きあがった術式は簡易的に過ぎる。
恐らくあの剣の構成そのものはユーリではなく別人が握っていて、ユーリはそれを手元に呼び出す権限だけを有しているというところか。
となると、あの剣を設計したのはクイール……いや、もしかして彼に同行しているとかいう
大事に抱えていた杖に加えて、本人の魔力の質からして魔法の冴えを旅の糧にしているようだし。
『……あら、もう朝? まあ熱心なのは良い事だけど』
「……やっぱり喋ってやがる」
昨日、勇者たちの戦いは遠目から呆然と見ているだけであった。
魔族との戦いを可能としていたあの外装は気になるところではある。
それとは別に、どうも聞こえてくる声は勇者たち以外のものも含まれていると思っていたが、この声だ。
魔道具の自立だけならともかく、眠気混じりで喋る技術はやはり知らない。本当にどういう技術だ?
『喋る剣は初めてかしら。安心なさい、私だって自分がこうなる前は想像すらしてなかったから』
「お、おう……? “こうなる前”って、意思持つ魔石か何かか……?」
『まあその認識でいいわ。勇者の旅に巻き込まれたの』
そういうのもあるのか……いや、そういうのなのか?
構成する技術の殆どが不明だしそう納得するしかないのだが、なんだか釈然としない。
世界は広いということか。俺もあちこち回ったが、まだまだということだろう。
ユーリはその知恵ある剣を両手で持ち上げる。素振りでもするつもりだろう……と思いきや、持ち上げた時点で表情を険しくしている。
「っ、くっ……ぅ……!」
「……明らかに重量オーバーだな」
『ユーリの非力さが原因だから同意だけど、女に“重さ”の話はご法度よ、人間』
「性別あるのかよ」
推定魔石に性別があるのか。余計にわけ分からなくなった。その言い分からして人間が材料になっているなんて呪い染みた出自がなさそうなだけ安心できるが。
ともかく、その剣は見た目通り、それなりの重量があるらしい。
身体能力を引き上げる効果もあるらしいあの外装を纏った状態ならばともかく、生身でこれを振るうには明らかにユーリでは力不足だ。
もしかすると剣を使い始めて、そう日が経っていないのかもしれない。
暫く剣と格闘していたユーリは、観念したらしくやがて悔しげに剣を地面に下ろした。
『どうせ“あの”状態で使うんでしょ? 鍛錬もそっちでやればいいじゃないの』
「まだ……リッカは寝ているんだ。僕の鍛錬のために起こすわけにはいかないよ」
『……あんた、ベッドにあいつ置いてきてるわけ……?』
――体中に刻んだ術式は、ユーリのあの戦闘状態を確立するための変換魔法。
魔法が齎す結果だけは理解したもののやはり正気とは思えないそれは、勇者の基本の戦闘スタイル。
剣はその発展なのだろうが、だからこそ生身で使用するのは無茶と言えよう。
魔法を使った上で使い方を覚える方が有効だと思うが、そこはユーリにも事情があるようで。
……同衾してるのか? 姉弟には見えないが……。
「……リヒトは、いつもこんな時間から起きてるの?」
柄に手を置きつつ、手持無沙汰になったようにユーリは話題を振ってきた。
「そうでもないぞ。ただまあ、作業に熱中してるとな。寝るのを忘れることがたまにある」
「熱中?」
「おうよ」
ユーリが剣を相手に悪戦苦闘している間に仕上げていたそいつに、小型炉心を埋め込む。
そうしてもう一度起動してやれば、新たな自信作はこれで“飼い主”から“エサ”を貰わなくてもいい存在へと昇華する。
カシャカシャと音を立てて、本来の形である『獣の横顔』から変形し、小さな四つ足で体を支える“デフォルメ魔族”が完成する。
左右の二つの首と、変形前はその二つの内部に収納されていた中央の三つ目の首がきょろきょろと動くその様子は、作成者であるがゆえの愛着込みを抜きにしても見事だと言わざるを得ない出来に仕上がっている。
強いて欠点を言うならば――これはコンセプトからの問題なのだが……
『ずいぶんとモデルの趣味が悪いわね』
「それは俺自身思ってる」
剣に言い当てられたように、モデルがどうしようもないほど可愛げのない存在であることか。
ユーリはなんのことやらという風に首を傾げている。とはいえ、その形状の異質さは理解しているようだが。
そのユーリの様子を悟ったように、剣は律儀に解説してくれた。
『――ケルベロス。冥界に棲むっていう、とんでもなく凶暴な魔族よ。三つの頭一つひとつが尋常ならざる力を秘めているらしいわね』
「冥界に……?」
『ええ、冥界に。人間……リヒトって言った? よくこんな魔族知ってるじゃない。本の知識かしら』
「実物を見たことがあるって言えば驚くか?」
『ここ最近嘘みたいな本当の出来事があり過ぎてそんなに驚かないわね』
「そいつは残念」
まあ……食い付いたとして、そこから先の話がまともに信じられるものとも思っていないが。
別に、なんてことはない。いつか、死に瀕した……いや、死に一歩踏み入ったトーカを諦められなくて、馬鹿みたいな冒険を繰り広げただけである。
勇者みたく、まともに魔族と戦える力など俺にはない。
俺よりマシなトーカさえあの時は戦える状態じゃなかったし、ひたすら根性と奇跡に物を言わせて逃げ果せた。
賑わう町の飯屋で語ってやれば一食浮くくらいには、“物語として聴ける”内容の
「そのケルベロスを模した……この魔道具? は、どういうものなの?」
「色々できるぜ。自立して、学習して、機能を増設する。やり方次第で番犬にもなれば害獣にもなる」
『ケルベロスよりそっちの方に驚くわ』
あの時の、俺たちが見てきた中で一番の化け物を模したコイツ。
まだ何かを知る前の真っ白な状態の新作の周囲に、ポケットから取り出した“先輩”を四つほど放り投げる。
旅に役立つ日用品の役割を持った状態から変形し、それぞれ魔族の形を取るかれらは既に、ある程度の学習を終えたやつらだ。
「凄い……」
「俺の家に細々と伝わる、“魔法にものを学ばせる”技術でな、源流はネシュアにあるんだと。みんな戦闘向けに育ってる。ユニコーンなんてのは無理だが、ちょっとした魔族なら追い返せるぜ」
『こんな世界でなんの用意もせずに生存圏の外に出ているってわけじゃないのね』
昔……魔王の支配が始まる前に存在したとかいう、技術国家ネシュア。
その技術は今やあちこちに散らばっているらしい。
ネシュア跡地の傍にある、あのナイトラクサもそうなんだったか。
足を踏み入れる気なんざ無いからあくまで聞きかじりだが、造られた夜をはじめとした技術の多くはネシュア伝来のもの。廃れていた技術の数々を、あの街を纏め上げたヴァンパイアたちが体系化したものだとか。
俺の家もそうした技術を残している家系で、仕事上必須とはいえ魔法が趣味になったのはそうした理由もある。
その技術で作り上げたコイツらは、俺たちの家族みたいなもの。
俺たちが今まで行商として生き抜いてこられたのはコイツらのおかげで、ゆえに――命を救われた礼もこれこそが相応しいと、俺は考えた。
全員を元の、魔道具の形に戻し、後に出した連中をポケットに再度仕舞い込む。
そして最新の、“そのため”に作った一つを、ユーリに向けて放り投げた。
「わ、わ……っ」
『ちょ、ユーリ――あだ!?』
慌ててそれを両手でキャッチしたユーリ。
手を離されたことで支えるものがなくなった剣はそのままガン、と音を立てて地面に倒れた。
痛覚あるのか。それだと打ち合うのとか大変じゃないか?
「くれてやる」
「え?」
「礼だよ、礼。俺たちはユニコーンに襲われて、あんたらに助けられた。これを一つ、作って渡すくらいの恩だって思ったまでだ」
これまでは門外不出だった技術だが、幸運の代金なら是非もない。
勇者たちのところにいて、何をどう学習するかは不明だし、それが勇者たちの役に立つかも分からない。
あんな、理解出来ない戦いをしている連中だ。付いていけなくなるかもしれないし、もしかすると、俺では想像できないほどの学習を果たす可能性だってある。
それを見届けるのは勘弁だし、勇者の旅の果ても、正直言って興味ないが……俺たちの技術が、命の恩人の役に立つかもしれないと考えれば、これを渡す甲斐もあると思った。
「いいの? これ、かなり貴重な魔道具だと思うんだけど……」
「おうよ。まだ何も知らないそいつに、何を学習させるかはあんたら次第だ。逆に、今のままじゃ役に立たねえし、“大したヤツ”になってからそいつの価値は実感してくれ」
元々ケルベロスなんて、モデルにする気はなかった。
それを衝動のままに作ってしまったのは、あの女――リッカが原因。
あの時と同じ、“死”を超えた“外”の雰囲気。
寒気の極致、脳の末端まで凍り付く銀色の気配を何故か思い出してしまったのだ。
そんな衝動で作ったものを、俺たちが持っていてきっちり育てられるとは思えない。
だから、かれらに預けるのがコイツのためにもなる。
「……うん。ありがたく受け取るよ、リヒト」
「おう。詳しいことはリッカが起きてから話してやるとして……」
「――リ……っ、ユーリ!」
「落ち着いてくださいってばリッカちゃん! ほら! ユーリくんあそこにいますよ!」
「リッカ――?」
「起きてきたな」
一旦説明を切り上げようとしたタイミングで、大層な鳥型魔道具の扉が吹き飛ばされんばかりの勢いで開かれる。
息を切らして出てきた寝間着姿のリッカはユーリの姿を見つけるや否や、脱力してその場にへたり込んだ。
追ってきたらしいクイールはとっくに着替えている。ユニコーンを相手にしていたあの大層な剣を抱えて戦闘準備ばっちりな辺りギャップが凄い。
「っ、リッカ!?」
『ちょっと! 先に私の実体化解きなさいよ! ……ったくもう!』
「……大変だな、あんた」
凍え切った銀色を抱えているとは思えない、取り乱したリッカの様子に剣を置いて駆けていくユーリ。
これが過酷な運命の中にある勇者の一行なのだというのだからおかしいものだ。
まあ、こうして関わったのなら、少しは知識を付けておくべきかもしれない。多少は話の種にもなろう。
チェリスで連中とは別れることになるが……次に会う時があるなら、渡したアイツ――『
【リヒト】
ユーリたちが知り合った行商兄妹の兄。
技術屋の気が強く、一度集中を始めるとあっという間に朝を迎えてしまうタイプ。勿論翌日の仕事に支障が出るため、妹のトーカにこっぴどく叱られる。
家に代々伝わる、ネシュア由来の技術を用いた自己学習能力を持った魔道具の数々を護衛として、人々の生存圏の外を渡り歩いている。
長らく二人で生きてきたゆえに大変な妹想い。妹のために、どこぞの妖精戦隊に負けず劣らずの大冒険をやらかすくらいには。
トーカ共々、ユーリたちに同行する気はないため、チェリスの町で別れることとなる。
【ユーリ】
いつもより近い距離……同じベッドでリッカが眠っている状況にどうにも落ち着けず、明け方目が覚めて早々に抜け出してきた。
リッカの真実を知ったことによる心境の変化で、主に日常面においてリッカとの距離感が分からなくなっているらしい。
【リッカ】
二日ぶりの安眠。と思いきやふと目が覚めたらユーリがおらず、メチャクチャに取り乱した。
ゼクセリオン内部を探し回ろうとして、起きていたクイールに教えられて外に飛び出してきたらしい。苗床から出ていたラフィーナには気付かなかった。
【ラフィーナ】
「あんな流れで手も出してないの……!?」
【アッシュ】
ユニコーンを退治した礼として、リヒトからユーリに譲渡された小型魔道具。『A´』と書いて『アッシュ』と読む。
銀灰色の獣の横顔の形をしており、三つ首の魔犬ケルベロスを模した姿に変形し、自立行動することができる。
まだ特殊な能力は有していないが自己学習能力によって性質を成長させる可能性を持つ。
リッカや、リッカの持つ杖に感じた気配に、過去の出来事を思い出したリヒトが、形を模すつもりのなかった厄ネタをモデルにしたもの。
名前の由来はリヒトたちの祖父らしい。