凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
聖都イグディラ。
水の試練に挑むために訪れた、結晶樹に囲まれた大都市。
四天王リーテリヴィアの下、人間と魔族が共存する異質な生存圏。
この場所を再び目指そうとした理由は、クイールが親しい者に自身の生存報告をするため。
約十年もの間、聖剣の試練に挑んでいたというクイールは当然、外では行方不明ということになっていた。
僕という新たな勇者が任命されたことからも、殆ど死んでいたという扱いになっているだろう。
それが生存していて、勇者としての旅を再開するという事態は、恐らく百代続く勇者の歴史においても初めてのことだったと思う。
ともかく、故郷に一度も帰らず旅を続行する選択肢はない。
そんな理由で再び船で海を渡り、この祝福に満ちた大都市に――
「――待って待ってリッカちゃんこれどうやって止めるんですかきゃあああああああああっ!?」
遂にその翼を広げて空へと飛翔したゼクセリオンによって、僕たちは戻ってきた。
リッカによってようやく細かい制御が可能となったゼクセリオン。
シートレイアの郊外から、クイールが操ることによる試運転は勢いに乗ったまま聖都まで続いた。
一度空に浮き上がり、魔力の推進によって速度を上げ始めれば、地形を気にしないこの翼はひたすら目的地へと疾駆する。
よほど楽しいものだったのか、止まらずにここまで辿り着いたクイールは、最後の最後に“止め方をリッカに聞いていない”ことに気付いた。
ゼクセリオンの内部にいた僕たちはそれをリッカに何となしに聞かされ、しかし運転中に外に出るのは危険だからと、伝える手段がなくここまで来て。
あらかじめ魔法を使い、さらにナディアを抱えて万全な脱出態勢を整えていた僕たちは、聖都の正門近くに着地しながら、そこから多少離れた場所に墜落したクイールに目を向けていた。
「……ちなみにリッカ。止め方教えていなかったのってわざと?」
「……聞かれてなかったから」
「……まあ、リッカだけが悪いというわけでもありませんね。ありがとうございますユーリ、下ろしてください」
今回はクイールも、外装を装着した上での運転だったし、怪我はないと思うが……。
ナディアを下ろしつつ、魔法を解く。
とりあえず迎えに行こうと、事故現場へ歩き始めるよりもその前に、当然のように一部始終を見ていた門衛は駆けてきた。
「そ、そこの三人! 止まるでありますよぉ!」
なんだか、懐かしい声だ。違うことといえば、出会った時と比べると、怯えとか自信のなさが軽減されていることか。
しかし相変わらずサイズの合わない鎧と大槍をがしゃこんがしゃこんと鳴らしながら駆けてくる小柄な体躯。
「――おや? 勇者殿でありましたか。無事で何よりであります」
重装備のエルフの少年、ルーク。
最初にここに訪れた時と同じく、彼が最初に出会うエルフとなった。
そして、その後ろからはやはりあの時と同じ、彼の先輩たる長身のエルフ――フェンも歩いてくる。
「久しいな、ユーリ殿、リッカ殿。しかし歓迎より先に、いくつか問いたいことがあるのだが、良いだろうか」
「うん。流石に、何も聞かれずに入れるとは思ってないよ」
かつては試練のためと、即座に通されたが今回はそうもいくまい。
魔力を伴った土煙を濛々と上げる事故現場と僕たちが関与していることは明らかなのだから。
「ではまず、そちらの女性は? どうも……そう、勇者の道連れとは、思えないというか」
「そうでしょうね」
フェンが先に指摘したのは、ナディアの存在であった。
リッカによる祝福への適応は済まされており、こうして聖都のすぐ近くにいてもナディアに不調の様子はない。
影響がないことの証拠として、リッカがナイトラクサで手にした首飾りは、ナディアが着けている。
フェンのナディアへの警戒の理由は、彼女が祝福を身に纏っているというちぐはぐさも含まれているのだろう。
「私の認識違いでなければ、あなたはアンデッドに見える。間違いないだろうか」
「ええ。間違いなく、わたくしはアンデッド。色々とあって、死に還った身ですわ」
「あ、あああああああアンデッドぉ!? ふぇ、フェン先輩緊急事態でありますよっ!」
「少しはお前も度胸が付いたと思ったのだがな……」
ナディアの肯定を受けて、緊張が爆発したようにルークは取り乱した。
……その喧しさに、リッカが苛立ちを覚えているのを感じる。今にも舌打ちせんほどに。
こと戦闘となれば頼り甲斐のある騎士だったのだが、やはり不測の事態にはまだ慣れ切っていないようだ……何故、彼は門衛を務めているのだろうとふと疑問に思った。
「しかしながら、私としても気になるところではある。言うまでもなく、この聖都は祝福に満ちた都市。通常、祝福に弱いというアンデッドは近付くことも難しい。あなたは一体……?」
「わたくしも本来ならば祝福とやらには弱い筈でしたが、どうも克服してしまったようで。ヴァンパイアのデイウォーカーのようなものですわ」
「克服……? オドマオズマ様でさえ近づけないという聖都の祝福すら通じないアンデッドなど……」
「……そのオドマオズマに操られていたところを、保護したんだ。彼女は聖都でも暮らせる。ここなら安全だろうって」
オドマオズマの名が出てきたことで眉を顰めたナディアに代わって、目的の一つを伝える。
かれら……少なくともフェンは、僕が試練のうち、三つを終えたことが分かるだろう。
土の試練であったことを一から説明するわけにもいかないが、オドマオズマが
とはいえ、リッカがナディアに祝福の適応を施したことは口外できない内容だが。
「祝福の克服手段をオドマオズマ様が備えている……? ……リーテリヴィア様にお伝えする必要があるか」
――“こういう話”にすると決めたのは、ほかでもないナディア自身である。
いわく、「国賊に対する迷惑料」とのことだった。
未だ自身の生については無頓着なナディアだが、とりあえずすべての元凶にして兄たるオドマオズマにはこの手の負債を押し付けていく方針に定めたらしい。
そう宣言した時のナディアの儚げな笑みは、どこか執念染みたものを感じた。
「……失礼した。そういうことならば、こちらで一度話を預かろう。暫くはユーリ殿たちと同様、外からの客人として扱わせてもらうがよろしいか」
「ええ、構いません」
「ではそのように。私はフェン、こっちはルーク。この聖都で騎士を務めている」
「わたくしはナディア。ユーリたちに助けられたアンデッドです」
「うむ。入都の手続きは後ほど行うが……あー……ユーリ殿、次にあれについて説明願いたい」
ナディアという一拍を置いて、再び話は件の事故現場に移る。
土煙は幾分薄れ、零れていた魔力もなくなっている。
恐らくゼクセリオンをようやく停止し、運転手がこちらに向かってきているのだろう。
「まず、あれはなんだ?」
「……空を飛ぶ魔道具だよ」
「何故墜落した?」
「……制御の失敗?」
「……なんで疑問形なのでありますか?」
「それは――」
運転手でないため、はっきりそうだと言い切れないからである。
そんなことを伝えようとした時、薄れた土煙の中から実に微妙な表情をした“当事者”が現れた。
「だ……大丈夫でしたか、みなさんー……」
「こっちはなんとも……というか、ごめん。リッカが止め方教えてなかったみたいで……」
「い、いえ、リッカちゃんは聞けば教えてくれたでしょうし、こっちに責任があります……不時着するつもりだったんですが、焦ってうっかりああなってしまって……」
「“焦ってうっかり”であわや大惨事ですわね」
その手に停止して縮小化したゼクセリオンを持ったクイールは、ふらふらとこちらに歩いてくる。
やはり怪我はないようだ。向こうも、こちらに大事がないことを見るや安堵し、その二人に気付く。
「――あ、ルークくん、フェンちゃん。お久しぶりです」
呆然と見ていた二人に、まるで数ヶ月ぶりの再会であるかのような気安さで、クイールは笑いかけた。
かれらが知り合いであったとしても、その対応が不相応であることは明らかだ。
二人にとっては今の状況は、十年前の知人がその時の姿のまま、現代に現れたということなのだから。
「ばっ……化けて出たでありますよぉっ!?」
「お、落ち着けルークッ! せ、生前と変わらず勇者の証まで健在だと……!? ええい、サキュバス共に負けず劣らず悪辣な! オドマオズマ様はどこまで生命を愚弄すれば気が済むのか!」
「……っ」
至極当然のように兄に容疑を向けられたことに、ナディアは寸でのところで笑いを呑み込んだ。
リッカの経験した“いつか”ではあまりそう感じられなかったが、割とナディアもいい性格をしている。
そして、クイールは二人の様子にさもありなんとばかりに苦笑した。
「僕、アンデッドじゃないですよ。ばっちり、生きてます」
「なおのこと大問題ではないか! 生きていたなら今まで何をしていたクイール!」
「ちょっと迷子になっていたといいますか……最近ようやく出てこられたんですよね」
意味が分からないとばかりの表情を、フェンはこちらに向けてきた。
代わりに説明しろということらしい。
「……僕も詳しくは分からないけど……時間の流れが外とは違う場所にいたみたい。クイールの認識としては、一年も経っていないって言ってたけど」
「そんな荒唐無稽な……くっ、いかんな、私の理解を超えている……ルーク、大聖堂に行け。ユーリ殿がクイールを連れ帰ったと、リーテリヴィア様にお伝えしろ。至急だ」
「ひょわ!? りょ、りょりょ了解であります!」
鎧を鳴らして門へと駆けていくルークを見送りつつ、フェンは眉間を指で押さえた。
「……ユーリ殿、リッカ殿、ナディア殿。悪いが、一度大聖堂までご足労願いたい。入都手続きはこちらで済ませておく」
「うん――構わないよ。そのくらいの事態だってことは分かってる」
「感謝する。……クイール、よもや再びお前に頭を悩まされることになるとはな」
「む……悪いとは思ってますけど。もうちょっと喜んでくれてもいいじゃないですか、フェンちゃん」
「……親しい友達に期待しろ、それは。どうせ顔を出しに行くのだろう」
「あー……はい、そうですね。うん、そうします」
その微妙な空気を忌避するようにフェンは背を向け、僕たちを先導する。
正門に近付き、他のエルフ――やはり、クイールの存在に驚愕していた――に事情を伝えてから、正門横の小さな扉の中へと入っていく。
それに続いて小さな部屋へと入っていけば、フェンは感心の視線をナディアに向ける。
「……本当に問題ないのだな」
「そうみたいですね。わたくしも半信半疑でしたが」
「大聖堂の祝福はより強いものだ。不調を感じたらすぐに伝えてほしい」
小部屋に設けられた地下へと続く階段を下り、その先にあった、聖都の中心へと伸びる通路を歩き始める。
輝かしい聖都にあるとは思えない、やや薄暗い通路。
地下道でありながら埃っぽさは感じず、清潔感のあるそこは、恐らく騎士たちの専用通路なのだろう。
人通りがないとはいえ、大聖堂までの距離は短くない。
そこを歩き始めてしばらく。沈黙を破って、クイールがフェンに尋ねた。
「……あの、フェンちゃん」
「なんだ」
「……イリスは、元気そうですか?」
「知らん。私たちとアレの反りが合わないことくらい覚えているだろう。自分で確認しろ」
クイールの言うイリスとは、僕たちにとっても知り合いの彼女という理解で正しいだろう。
――初めてこの聖都に来たとき、ルークから話を聞いたことがある。
エルフという種族にとっての禁忌たる、存在の改変と混乱。ルークも口を噤んだため、詳しくは聞いていないが、それを良く思っていないのはフェンもまた同様らしく、確かな嫌悪感が彼女からは伝わってきた。
フェンの冷たい返答に肩を竦めたクイールが、親友との再会にひどく緊張を覚えているのは知っている。
何もなく、穏便に終わるという気はしない。
混乱の予感はあるものの、とはいえその再会は喜びの方が勝る形になるだろう、と。
この時はなんとなく、軽い気持ちでそう考えていた。