凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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使命と家族

 

 

 イリスティーラの工房は、聖都の中でも異質な空気を放つ“空き地”に存在する。

 高い柵の向こうには屋敷があるようには見えない。

 中の様子を探れないようにするための、複雑な魔法によって隠された敷地の入り口は、正面の門ではなく裏側。

 

「……これだけで分かりますわね。この敷地の主は捻くれ屋だと」

「あはは……大正解です。とびっきりの捻くれ者で、でも面倒見が良くて、優しい……僕の大切な友人です」

 

 仕込まれた魔法からそれを施した者の分析をするナディアに言葉を返すクイールは、不安げで――それでも嬉しそうだった。

 何を言われるかと恐れていても、再会自体は喜ばしい。

 その微妙な気持ちが、僕たちが追いつくまで、クイールにこの柵を潜らせなかったのだろう。

 

「……クイール、行けそう?」

「はい。これにも付き合わせちゃって、すみません。行けます、僕」

 

 どれだけしり込みしていたとしても、それはクイールが向き合わなければならない問題である。

 そのためにこの聖都に戻ってきた。改めて意識するように胸に手を当てて、クイールは一度深呼吸する。

 

「――よしっ!」

 

 思い切れば、すぐに終わる。

 そんな、やや怯え混じりの決意と共に、クイールは柵に飛び込む。

 見届けて、一度リッカたちと顔を見合わせてから、それに続く。

 

 『勇蝕写本』によって崩壊した館も、術式の数々もすっかり元通りになっているようだ。

 柵の内に入ることで、他より古めかしい、大きな屋敷はようやく姿を見せる。

 聖都の子供たちには幽霊屋敷と冗談めかして呼ばれている、聖都で最も変わり者なエルフの住居。

 カーテンというカーテンは完全に閉め切られ、中を窺うことは出来ない。

 それは意図的なものなのだろう。

 拒絶ではなくとも――待ち人を迎えるものとは思えない乾いた感情を抱いて、屋敷の主は扉に背を預けていた。

 

「――たっ……ただいまです、イリスっ」

「……リーテから連絡が来てね。彼が微塵も面白くない冗談を言うなど、とうとう狂ったかと思ったが」

 

 恐ろしい程に、冷たい声色だった。

 銀灰色の長い髪に、焼けた黒い肌という、聖都の他のエルフとは異なる特徴を有するイリスティーラ。

 “医者もどき”の服装を着崩した彼女の金色の瞳は眼鏡の奥で、温度を感じさせない鈍い輝きをもってクイールを見据えている。

 敵意はない。悪意もまた、ない。

 しかしそのあまりにも濁った感情の色を見て、確信する。

 決してこの再会は、クイールにとって望ましい形には終わらないと。

 

「時忘れの迷宮、だったか。聖剣は取ってきたのかい?」

「え……? は、はい……この通り」

「さぞ大層な代物なんだろうさ。これだけの年月に足るような、ね」

 

 その平坦な声色は、クイールを前にした普通のものではないらしい。

 ここまでの失踪の理由たる聖剣に向けられる視線には、やはり大した感慨も込められていない。

 

「……あの……い、イリス?」

「なんだい? クイール」

 

 怒鳴りつけてくるならば、それでも良かった。

 むしろ、クイールとしてはそれを望んでいた。そうすることで、彼女にとってはここまでの、イリスティーラへの不義理の清算になるのだから。

 

「お……お帰りって、言って、くれないんですか?」

 

 そして怒鳴ってくるのであっても、その一言はあるだろうと、クイールは信じていた。

 クイールにとってイリスティーラとはそういう存在で、だからこそ確信を持っていた。

 しかし、その言葉が彼女から放たれることはない。

 ――二人の感情のすれ違いを、決定的な言葉が出る前に察してしまう。

 

「言うつもりだった。殴って、怒鳴って、溜まりに溜まった不満全てをぶつけてやるつもりだった」

「な、なら、そうしてくださいっ、じゃないと……」

()()()()()()()

 

 それはどちらかが割り切らない限り、解消できない問題で。

 

「キミはどうして勇者で在り続けている。証ではなく、信念の方だ」

 

 ――どちらに非があるとも、僕たちには言い切れないものだった。

 

「え……?」

「運命から逃れられないのはそれでいい。認めざるを得ない。だが、それをキミが肯定しているのはどういう了見だと、そう聞いている」

「どう、いうって……」

「今の勇者はそこにいるユーリくんだ。キミは先代……言ってしまえば、キミが出しゃばるべき期間はもう終わっている」

 

 平坦な声で、イリスティーラは今のクイールを否定していく。

 それは決して、彼女を親友という枠組みから切り捨ててのものではない。

 寧ろその逆――親友だからこそ、今のクイールを、イリスティーラは認められないのだ。

 

「いいかい? 時間切れだ。キミがその聖剣のためにどこぞをほっつき歩いている間に、キミの時代は終わったんだ」

「そ、それは、知ってます。けど、まだ、僕は勇者なんです。リーテさんも認めてくれて――」

「そうだね。新たに火の試練を終えたみたいだ。キミの輝きは健在、いや、なおも強まっている。だからこそ、私はキミに問わないといけない」

 

 死んだわけではなく、自分のもとに顔を見せたクイール。

 イリスティーラはその用意があった。場合によっては、この二人の再会はそうなっていた。

 そうならなかったのは、クイールが今も、どこまでも勇者であったから。

 

 

 

「後任のいる、今のキミが優先するのは使命(ゆうしゃ)家族(ホープ)、どっちなんだい?」

 

 

「――――――――」

 

 

 

 冷たい問いだった。はじめから、クイールの反応が分かっているような。

 本来、クイールはそれを答える選択肢のない存在だった。勇者の使命とは、そういうものだった。

 逃れることが出来ないから、大切な誰かを置いて旅立たなければならなかった。

 しかし、今はそう言い切れない。この時代における、逃れ得ない使命を負った勇者は百代目である僕で、クイールは必ずしも最優先となる勇者ではない。

 少なくとも、“それを選べる程度”の自由はあると――イリスティーラはそう判断して。

 そして、その問いに対して口を噤んだことが、クイールにその自覚がある、何よりの証明だった。

 

「――予想通りだ。キミはこれを即決できない人間なんだと、分かっていたよ。諦めきれないだろうさ。キミの特別さを受け入れてくれる、勇者なんていう立場」

「ぁ……い、イリス、ちが――」

「違わないよ。私は誰よりキミを知っている。ホープを残して出ていったあの時とは違う、聖剣を手にして、後輩を導き、より勇者らしくなった今の自分なら、私を認めさせられるってところか」

 

 クイールが聖都に戻ってきたのは、勇者として在り続けるため。

 自分の中の不安と向き合って、十年越しの使命を果たすべく、旅を続けるため。

 そんな彼女の動機。

 クイールの自分(ゆうしゃ)らしさを、イリスティーラは淡々と見抜き、言葉にしていった。

 

「私に殴られて、叱られて、ホープを抱きしめてやれば一件落着。そうだろうね――だが、嫌だ。クイール、キミの自己満足に私やホープを勝手に使うなよ」

 

 ――クイールなりのけじめのつけ方だったのだろう。

 しかしそれが、イリスティーラの納得できるものだったのかは、また別の話。

 勇者としての自分を捨てきれないからこそ、イリスティーラはクイールを突き放した。

 

「――久しぶりだね、ユーリくん、リッカくん」

 

 言葉を一度区切ってから、イリスティーラはこちらに目を向けた。

 そこでようやく、彼女は微笑みを見せる。偽りのない表情だった。

 

「順調に活躍しているようだね。そっちの子はアンデッドのようだが……聖都で平然と活動できるとはまた興味深い。三人とも歓迎しよう。入りたまえよ」

 

 かつて関わった時と同じ、多弁で友好的なイリスティーラだった。

 クイールに対するものとは違う歓迎の色。

 しかし流石に、今の状況を放置して、扉を開けようとする彼女に従うわけにもいかなかった。

 

「久しぶり、イリスティーラ。……その、クイールのことなんだけど」

 

 余計な手出しだとは思う。しかし、クイールが聖剣を手にして戻ってきた時、僕たちがその場にいなければ、彼女はもっと早く聖都に戻ってきていたかもしれない。

 そうした場合に、果たして状況が好転していたかは不明だが――帰郷が今になったのは、それまで僕たちの面倒を見ていたからだ。

 

「彼女が勇者らしい勇者でなければ……僕たちは二つ目の試練に辿り着くことも出来なかったんだ。勇者としての先輩であるだけじゃなくて、クイールは僕たちにとって、命の恩人だ」

「……そうかい。そいつの持ち前のお節介が役立ったなら何よりだよ」

「そして、クイールのおかげで、僕は“自分らしさ”を固められた。僕は勇者らしい勇者になれない。だからそうなるのはクイールの役目だって押し付けたんだ。僕がいなければ二人の再会は、もっと望ましい形になっていた」

 

 イリスティーラがそんな言葉を求めていないことは分かる。

 それでも、今のクイールの在り方の一端には僕が関わっているのだ。

 知っていて伝えずに、何もかもすべてクイールの意思で、イリスティーラの望まない状態に至っていると思わせるわけにはいかなかった。

 

「……随分と、クイールを信頼しているようだね」

「うん。だからって訳じゃないけど……もう少しの間だけ、クイールが勇者らしくあることを許してほしい」

 

 僕がリッカのための勇者であることを、クイールは認めてくれた。

 だから、それ以外の大きなものを背負ってくれる彼女がいなければ、僕たちが困ってしまう。そんな身勝手な懇願。

 当然、イリスティーラとのすれ違いは解決してほしいと思う。

 それと同時に、クイールという頼れる存在に離れてほしくはないのだ。

 

「……そ……その……」

 

 目を細めたイリスティーラ。

 その沈黙の中で、再びクイールはかすかな声を零す。

 

「イリス、僕は……どれも捨てられないです。勇者である僕も、イリスの親友である僕も――そして、ホープのママである僕も」

 

 それまでよりもか細く、自信を失いかけた声で紡がれる言葉。

 その言葉はクイールらしいもので、驚きはなかった。

 クイールがホープのことを言及したのは初めてで、存在自体を知らないナディアは目を丸くして動揺を隠せずにいるが。

 

「またイリスに我儘を言っちゃうことになりますけど……お願いしますっ! 今の僕を認めてください!」

 

 そこからの沈黙は、今までで一番長かった。

 意を決した表情のクイールに対して、ほんの一瞬イリスティーラの心が動いたのは事実。

 ――しかし、その反動のように落ち着いたそれはより冷たくなっていた。

 

「……悪いね、三人とも」

 

 そのどうでも良いような謝罪は、クイールにだけは向けられていない。

 ただ、“今からすること”に、その必要性があると感じただけ。

 

「少しの間、時間を貰うよ。いや、他に用事があれば、先にそちらを済ませてくれてもいい。クイールだけ置いていってもらえれば」

「い、イリス……?」

「可愛がりが過ぎたんだ。同じはみ出し者が現れたと、嬉しいあまり、ね。結果としてキミは私が知らないほどに、調子に乗った訳だ」

 

 言いながら、着崩した白衣の内から取り出されたのは、初対面の時からイリスティーラが持っていたあの魔道具。

 曰く、他の種族の因子を制御するためのデバイス。

 思えばそれは、ラフィーナの協力を得ることで扱うことが出来る魔剣の銃砲形態(バスターモード)を、片手で取り回せるほどに小型化させた形状になっている。

 奇抜な形状だと思っていたが――どうやらそれは“武器”として一般的な形の一種であるらしい。

 

 そして、この場でイリスティーラがそれを手に持ったということは、戦意の現れ。

 警戒を強めてリッカが魔法の準備を瞬時に完了させ、僕もナディアを下がらせる。

 その様子を見ていたイリスティーラは、苦笑しつつも必要ないとばかりに首を横に振った。

 

「キミたちには何もしない。そこにいるなら、ただ黙って見ていてくれたまえ。受け入れられないことであってもね――これは身内の問題だ」

「イリス……? ユーリくん……? ま、待ってください、何を……」

「……察しが悪いな、クイール」

 

 そこで初めて、イリスティーラは苛立ちを見せた。

 魔道具を操作しつつも、細めた目を困惑するばかりのクイールに向ける。

 

「――その業突く張りなキミの自信を、ここで叩き割ると言っているんだよ」

「ッ――!」

 

 宣言の直後、魔道具から放たれた小さいながらも確かな威力の籠った弾丸。

 それは、聖都に戻ってきた“今のクイール”を否定するイリスティーラの明確な意思表示であった。

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