凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
クイールに向けて放たれた魔力弾は、寸でのところで引き抜かれた聖剣で切り払われる。
殆ど反射だったのだろう。腕を動かしてなお、クイールは困惑していた。
「な、何を……やめてくださいよ、イリス!」
「折れたかい? 折れていないな? なら次だ」
初撃を受け止めたクイールに、有無を言わさずイリスティーラは追撃する。
一つを切り、残りを横に跳んで躱したクイール。
大した攻撃ではないが、イリスティーラに攻撃されたという事実を受け入れていないクイールに、反撃の選択肢はない。
――手を出すなとは言われたがこれは流石に、黙って見ていることも出来ない。
クイールは僕たちの仲間であり、先輩だ。
たとえ受け入れていなくとも今の状況はクイールの危機に他ならない。
「――リッカ」
「……あまり、ユーリが手を出して得する状況じゃないよ?」
「わかってる。でも……このまま見ているだけの方が嫌だ」
「……もう」
不承不承、とばかりに頷いたリッカに苦笑する。
相変わらずの、僕の我儘。この場において、リッカも、クイールも、イリスティーラも求めていないことだろう。
それでも今はこの状況を収めないといけない。
クイールとイリスティーラの、“身内の事情”だったとしても、だ。
「……まあ、それがいいでしょうね。ユーリ、手っ取り早く鎮圧なさい」
「……いや、それはしないけど」
何故かナディアに指示されている。
というか、鎮圧って。そこまで強く行動に出るつもりもなかったのだが。
どうもナディアが過激になっていることが、僕たちによる“よからぬ影響”なのではないかと思いつつも、ひとまずリッカと介入の意思を統一させる。
『ユニゾンリンク! U-リッカ!』
そして、再度の攻撃がクイールに届く前にその間に割り込んで、弾丸を弾き飛ばす。
僅かに目を見開いたイリスティーラは、暫しの沈黙の後、その表情を感心へと変えた。
「いつぞやとは比較にならない力だね。なるほど、それがキミの勇気の形か――それで? 黙って見ていろと言った筈だが?」
「“クイールの仲間”として、見てられなかった。それだけだよ」
「ユーリ、くん――」
「そうかい。……まあ、それならそれでいいか」
介入で攻撃の手が緩むようなことはない。
放たれる弾丸は、
二発を受け止めて、間隙に魔剣を召喚。三発目をその刀身で受け止める。
『――から誰が同類よこのお花畑セイレーン……あら?』
一体“向こう”で何を揉めていたのか。
単語からして気にしたくないが、咄嗟に呼び出したラフィーナは取り込み中であるらしかった。
リッカのげんなりした感情が伝わってくる。
……あのセイレーンのことはあまり考えたくないが、リッカの負担になり続けているなら解放の選択もあるのではないかと思わないでもない。
「ごめんラフィーナ……呼ばない方が良かった?」
『最高であり最悪のタイミングね。戻った時が憂鬱よ』
よく分からないが、リッカに負けず劣らず、こちらもげんなりしていた。
申し訳なさを感じつつも構える。対峙するイリスティーラは、案の定剣に興味を向けていた。
「……喋る剣? またリッカくんの発明か……? 彼女は他者の度肝を抜くことに命でも懸けているのかい?」
『誰だか知らないけどコイツをよく分かってるじゃない。その通りよ』
「剣に同意されたの、初めての経験だよ。当然口だけが達者な訳じゃないんだろうね?」
外装を装着していない状態では未だ振るうことも難しいが、この姿ならばある程度慣れることができた。
ラフィーナが補正してくれることも相まって、本気ではないイリスティーラの放つ弾丸を防ぐことは難しくはない。
そうしている間に――背後から大きな魔力の発露を感じた。
うん……その方が、ただ困惑のままに防御を続けるより、よほど彼女らしいと言えよう。
『マスターアップ! Q-クエスター!』
「すみません、もう大丈夫です、ユーリくん」
黄金の鎧に全身を包んだクイールが隣に並ぶ。
いつも通りの頼りになるその姿に、しかし覇気は感じられない。
どちらかというと、今の彼女は申し訳なさの方が先に立っていた。
「……もしかして流行っているのかい? “そういう”の」
「さあ? 偶然じゃないですかね? ……それよりも。とりあえずイリスの話は分かりました。けど、それでも僕は勇者です」
そして、クイールは僕の前まで足を進める。
これ以上は手を貸さなくていいとでも言うように。
クイールは確かな戦意を持っている訳ではない。イリスティーラと戦うことなどまるで考えていなかったのだから、当然だ。
それでも、と魔法を起動して前に立ったのは、“自分らしく”を通すため。
「イリスが気に入らない僕は、僕の誇りです。大事な親友で、どんなに大恩があっても、否定はさせない」
「そんな言葉を並べ立てて私が納得するとは思ってないだろうね?」
「はい。イリスは頑固ですもんね。……守ってもらってなんですけど、ユーリくん、リッカちゃん。下がっていてください」
その、クイールが戦うための最低限の意識が確立されたのであれば、僕たちは必要ない。
頷いて、ナディアのもとへと戻る。場合によっては飛び火する可能性もあるだろう。
「さあ、喧嘩をしましょう、イリス」
「……言っただろうクイール。キミの自信を叩き割るって」
クイールはどうあれ、戦いを通してイリスティーラに意思を押し通す決意をした。
――しかし、不安は残っている。
彼女の言う“喧嘩”に応じる意思を、イリスティーラはまるで持っていない。
イリスティーラが持っているのは、あくまでも調子に乗ったクイールをここで叩き落とすという意思のみ。
「キミと私は親友で、対等だ。それは認めている。だが――」
圧倒的な力を持つ、クイールの勇者としての姿。
それに対してイリスティーラは一切物怖じしていない。
――何故ならば、その黄金の鎧を纏っているのは、
「――キミと私で喧嘩が出来ると思ったら大間違いだよ」
冷たい目を向けながら、イリスティーラは言い放つ。
『シークレットコード、レディ』
並行して魔道具を操作すれば、平坦な魔法音声が返ってくる。
特定の因子を操作する際に利用していた、種族の名を読み上げるものではなかった。
「さて、実戦投入だ。クイール、キミが相手で良かった」
『キメラスタイル、インストール』
まさかという予感の答え合わせはすぐに行われる。
魔道具に装填された“命令”を、躊躇なく自身の手首に撃ち込むイリスティーラ。
内側から湧き上がるような形で生じ始める変化。瞬く間に黒布が彼女を覆い、隠していく。
「これって……!」
――イリスティーラが変じた戦装束は、鎧と呼べるような重厚な代物ではなかった。
確かな防御力を有していることは分かるものの、あくまでその殆どは奇妙な雰囲気を放つ布によって構成されていた。
黒地に白い導線の走るシンプルな配色。固い燕尾服を模した装備の上から羽織った黒い外套。
頭部の装備はつばの反った円筒形の帽子を象り、顔を覆った仮面の右目は大きな
白衣から黒衣、医者からおとぎ話の怪盗への変転。
『I-スティーラー、ショー・タイム』
瞠目する僕たちの前で実行した変化を完了させ、静かに魔法音声が宣言する。
身体能力をはじめとして、戦うための能力を補うための外装。
その着想を、かつてのイリスティーラは有していなかった。そこに至ったというならば、きっかけは僕たちに他ならないだろう。
落ち着いた外見が放っているとは思えない混沌とした雰囲気。
存在が固まり切っておらず、ぐちゃぐちゃと形を変え続けているかのような錯覚に陥る。
この姿を前にしていれば、“存在の改変”が齎す不気味さが理解できる気がした。
「イリス……その姿は……?」
「流行りに乗じた……というのは冗談だが。以前、ユーリくんたちの戦いを見たことがあってね。似たようなことが出来ると、そう思ったのさ」
『……リッカ。あんたの技術、パクられてるんじゃないの?』
「っ……どいつもこいつも……!」
イリスティーラはそう言っているものの……リッカの魔法や、聖剣のそれほど、劇的な強化が施されている訳ではない。
あくまでもそれは、彼女が自身の異質さを制御し、戦闘に適した形で扱うためのもの。
イリスティーラと言う魔族の真骨頂と言っても良い姿だ。
「悪いけど、加減はしないよ」
「……望むところです。僕だって――ッ!?」
本当の開幕とばかりに魔道具から放たれたのは、弾丸ではなく“光線”だった。
遊びを終えたことの証明として引き上げられた出力。
クイールはそれを剣で防ぐことは叶ったものの、防御という選択肢は反撃を手放しイリスティーラに次手を譲るということ。
――速い。
不意を縫うように死角に忍び寄ったイリスティーラの蹴りは、鋭くクイールの脇腹に突き刺さった。
「いっ、づ……」
「生身だったら一度死んだよ、クイール。油断し過ぎじゃないか?」
「――イリスッ!」
蹲ったところに歩み寄ったイリスティーラに向けて、今度こそ聖剣が振るわれる。
“切断”を目的とはしていない。剣の腹で殴りつけんとしたその一撃は、
『レイスコード、レディ』
「っ――がっ……!?」
予期していたかのように行動を起こしたイリスティーラによって容易く回避された。
煙のような姿に変わった彼女の真ん中をすり抜けた聖剣。
空振りの間に、再び実体化したイリスティーラはクイールの背後に現れ、放たれた光線が直撃する。
「二度目だ。どうしたんだい、先代勇者。まさか魔族との戦いで、不調だなんて言い訳はしないだろうね?」
「く……、っ」
立ち上がる前に魔力の放射によって距離を取ってから、クイールは態勢を立て直した。
一度聖剣を地面に突き刺して手放した後、両手で頬を叩くクイール。
曖昧だった戦意が、はっきりと研ぎ澄まされていく。
適当なままでは相手にならないと、確信したのだ。
クイールの中での、目の前にいるイリスティーラが、“親友”から“強敵”へと切り替わっていく。
「……強かったんですね、イリスって」
「強いのは当然だろう。私は魔族だ。人間とは違う」
……イリスティーラの言葉選びは、敢えてのものだった。
彼女のこの戦いの目的はただ一つ。クイールの矜持を失墜させること。
そのために、魔族である自分を強調する。
――自分に勝てない程度ならば、魔族を相手取る勇者に相応しくない、と。
「……分かりました。こっちも、百パーセントでいきます。死なないでくださいね、イリス」
「……死なないでください、か。こっちの台詞だよ、クイール。ホープにキミの亡骸を見せるのは嫌だからね」
同じ言葉で返すイリスティーラだったが、クイールの決意と比べてあまりに温度差があった。
冗談と、本気。
イリスティーラは本気で、クイールを殺しかけようとしている。
『……何が何やらだけど。あの変なエルフが友達だっていうなら、先代勇者にとっては残酷なことね』
「どういうこと……?」
『あいつはあんたみたく、最初から劣っている自覚があった訳じゃない。魔族とも、まともに戦えてしまった。何があっても、それで心に罅を入れることを拒絶した』
共に戦いを見ていたラフィーナの声色には、どこか諦観があった。
これから起きることを既に察してしまったような――今のイリスティーラと通ずる、どこか冷たい声だった。
『――あいつ、これから化けの皮を剥がされるわよ。何よりも望まない形で』
ラフィーナが予告している間に、戦いは再開する。
……いや、戦いと呼べるものだっただろうか。
それは、イリスティーラの言う通り、喧嘩にすら見えないものだった。
【ラフィーナ】
訳知り顔で解説するサキュバス。
なんかやべーセイレーンと言い合っているところを呼び出された。
【クイール】
ここから先は百パーセント。勝ったな、畑の様子見てくる。
【リッカ】
【イリスティーラ】
思い付きは身をもって試すタイプの三号ライダーキメラ系マッドサイエンティスト。
勇者としての使命は理解しているし、逃れられないのも承知の上で、勇者足らんという意識を持ち続けるクイールを叩きのめすことを決意した。