凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
ノクトールの森で出会った時から、クイールは常に信頼の対象で在り続けた。
ドラゴンさえも一方的に打ち負かす強さ、そしてその圧倒的な勇者としての輝きは憧れだった。
勇者クイールが魔族に劣る存在なのかと問われれば、否と即答できる。
勇者たらんとする自信も含めて、僕にとってクイールは“世界のための勇者”の理想像であった。
彼女がいる限り、僕はリッカのための勇者を自信を持って貫ける。
僕の我儘を肯定し、その他のあまりにも多くを背負ってくれたクイールの敗北など、ほんの少し前までは想像すら出来なかった。
「ッあ……!?」
「これで二十六回、キミは死んだ。やはりしぶといね。聖剣とやらの魔法様様だ。さぞ頼りになる防御力だろう」
首に叩きつけられたつま先の威力に言葉を失って、クイールはその場に倒れる。
咳き込むクイールはまだ、気を失ってはいない。
外装も維持されているものの、どこまで持つかは分からない。
それほどまでに圧倒的、一方的だった。
見ていられないと、何度思ったか。その度に駆け出そうとして、すぐに察知したクイールが止めてくる。
「――ユー、リ、くん……こほっ……大丈夫、ですから……っ!」
「けど……!」
『いいから見てなさい、ユーリ。あいつが“喧嘩”って決めたことなんだから』
起き上がったクイールにゆっくりと歩み寄るイリスティーラ。
不意打ちとばかりに額の砲口から放たれた魔力弾は、まるで盾の如く硬質化したマントに防がれる。
その爆発によってイリスティーラの視界から逃れた。
そう判断したのだろうクイールは地面を強く蹴って移動を試みて――想定していたのだろう着地点に撃ち込まれた弾丸に足首を射抜かれ、崩れ落ちた。
「分かりやすいよ、クイール。キミの性格を考えれば、動きを予想するのはあまりに容易い」
「ぅ――づ、ぁ……っ!」
両足、手首と続けざまに撃ち抜いていくイリスティーラ。
その弾丸の威力は先程よりも抑えられており、クイールの外装の防御力ならば、決定的なことにはならない。
「さて。四肢を失った。まだ分からないかな。悪意を持った魔族なら、これくらい出来てしまうんだよ」
「っ……」
イリスティーラの立ち回りは、徹底してクイールの動きを想定し、その上を行くもの。
クイールという存在を誰より知る身だからこそ、その知識を利用してどこまでも貶める。
人間と魔族、素の力が違う以上、信頼さえ得られれば、そういうことが出来てしまうという演習だった。
「ムルゼ霊山に向かうんだって? 風の四天王に会いに行く? ……今度こそ戻ってこれないよ、キミ。魔族のエサになれば上々、四肢を砕かれて打ち捨てられれば幸運だ」
「……知ってる、んですか……? か、風の……四天王のこと……」
「絶対強者。強さに絶対の自信を有するからこそ、弱者の尊厳を踏み躙るのが大好きな、魔族らしさを煮詰めたような存在さ」
――それは同時に、僕たちにも向けられた警告だった。
最後の試練。ムルゼ霊山で待ち受ける、最後の四天王。
オドマオズマも悪辣だと評した存在をイリスティーラは知っているらしい。
そして、実演しているのだ。ムルゼ霊山ならば、このようなこと――これよりも悲惨な末路が待ち受けているだろうと。
「……ドラゴンを模した鎧か。なるほど、人間が憧れるに相応しい強者の形だね。……ムルゼの生態系には、掃いて捨てるほどありふれた強者だ」
「――そんなこと!」
「あるんだよ、クイール」
『ドラゴンコード、レディ』
自分の強さが、ありふれている。
それを認められないとばかりに起き上がり、剣をぶつけようとしたクイール。
その背にするりと回り込んだイリスティーラの魔道具が、これまでの何よりも強力な光線を放出した。
「――――ぁぁぁああッ!」
「クイール!」
こちらに向けて吹き飛んだクイールを受け止める。
外装全体に瞬時に伝わるほどの熱は、今受けた“ブレス”の威力を物語っていた。
黄金の鎧の重みに、いつもの力強さはない。
――他の誰が同じように否定しようとも、クイールは揺らがない。きっと、彼女は笑って勇者である自分を誇示し続ける。
イリスティーラという、自分を誰より知る存在の言葉だからこそ、かつてないほどにクイールに突き刺さっていた。
「っ――やり過ぎだよ、イリスティーラ」
「やり過ぎないと、そいつは分からないんだよ。いつまでも夢見がちで、現実を知りもしない――現実を知っても、折れようとしない」
受け止めたクイールの背への追撃を、変形させた魔剣の弾丸で迎撃する。
反動に体勢を崩しつつも、威力で勝ったこちらの弾丸はイリスティーラへと向かい、彼女は外套を盾にしてそれを防いだ。
「くっ……」
『ちょ、馬鹿! 片手で使うなって言ってんでしょうが!』
「……可変武装。どこまでも私を驚かせてくれる。やっぱり面白いよ、リッカくん。そして、それを当たり前に受け入れて、扱えるユーリくんも」
――ドラゴンのブレスを再現した光線による、今のクイールのダメージは大きい。
身体的な傷以上に、これまでのクイールからは考えられないほどの精神の“ぶれ”に、危うさを感じた。
だというのに、イリスティーラは魔道具を向けたまま。
こうして動かずにいるなら、僕たち諸共――そんな意識が、彼女にはあった。
「起きたまえよ、クイール。ユーリくんの方がよっぽど勇者らしいぞ」
「……っ」
「クイール、もう……」
「……大丈夫、ですってば」
クイールの声は震えていた。
それでもまだ、認めたくないと――イリスティーラに向かって剣を構える。
「ユーリくんは……勇者です。眩しいほどに真っ直ぐな……リッカちゃんのための勇者です」
「……それで?」
「世界の……希望としての勇者を、ユーリくんはっ! 僕に、任せて、くれたんですっ! だから……折れちゃ、駄目なんですよ!」
その震えを隠さずに、クイールは叫ぶ。
僕が押し付けた、正しい勇者としての在り方。
それはどうあれ、今のクイールにとっては一つの柱となっていた。
だからこそ、自身が折れてはいけない。そうなれば、信頼を裏切ることになると。
極限まで、自分に言い聞かせてクイールは奮起する。その姿に――イリスティーラが否定しようとする、クイールの歪さを感じた。
「……世界の希望、か」
どこまでもそれを貫けるクイールを、僕は尊敬している。
だが、追い込まれて、否定されて、なお自分に役割を刻み続けるクイールの姿は。
――ひどく、無理をしているように見えた。
「――思い上がるなよ、人間」
「思い上がってなんか、いないです!」
『ファイナライズ、レディ』
『ファイナライズ! スタンバイ!』
聖剣が輝きを増す。どことなく、不安定な輝きだった。
イリスティーラの魔道具の先端に、多くの属性が相性を気にせずに混ざり合う混沌の魔力弾が形成されていく。
聖剣を振り抜くことによる必殺技の威力は、強大なドラゴンをも消し飛ばすほど。
しかし、到底今の輝きは本領ではない。あれでは駄目だと、直感的に感じた。
「っ、ナディア! もっと下がって!」
「へ? ……ええ、分かりました」
イリスティーラは、こちらを巻き込むことを想定し……その上で、僕たちは凌げると判断している。
遠回しな介入の要求。そうでなければ、クイールを“仕留め得る”とさえ、彼女は考えていた。
「リッカ、ラフィーナ、いくよ!」
『ファイナライズ! アクセプション!』
『え、この変な魔法音声、
魔剣を元の形状に再度変形させ、術式の一つを実行することで秘められた機能を励起させる。
火の属性……『アドラフューリー』の力を活性化させ、魔剣に流し込み、変換と増幅。
これにより、魔剣は魔力を帯びて形を変えていく。
ギザギザと尖ったカギ爪の如き、赤熱した魔力の刀身。
その一撃は、必殺技に要する魔力を魔剣に込めて放つ、僕たちの可能性の一つの形。
『――キメラ・エクスプロージョン』
『マスター・エクストリーム!』
『アドラ・エクスラッシュ!』
三つの魔法音声が重なり合い、振り抜いたことで放たれた赤い斬撃が、混沌の塊とぶつかった。
返ってきた衝撃を、剣を盾に防ぐ。
魔力をよほど効率的に威力へと変換させたらしい魔力塊は、二つの必殺技を受けてなお、圧倒されることはなかった。
「うぁ……っ!」
「ちっ……」
こちらへの影響が少なかったのは、あくまでイリスティーラの狙いの中心はクイールであったから。
イリスティーラが放った必殺技の威力の大部分はクイールに向けられ、最初に解れた黄金の斬撃を突き抜けて魔力の衝撃は再度彼女を吹き飛ばす。
僕たちの斬撃の圧は混沌を掻き消してイリスティーラに突き刺さる。
生温かい風が吹き抜けていく。
円形に抉れた激突の中心地。
その向こうにいるイリスティーラを覆う黒い外装が解れていく。
そして、それよりも先に、倒れ込んだクイールの黄金の鎧が消失した。
「っ、クイール、しっかり!」
「……」
互いの外装が解除されたことを終了と見たのか、イリスティーラが魔道具を仕舞い込んだのを見て、僕たちも魔法を解く。
倒れたクイールに駆け寄り、体を揺さぶれば小さな呻き声が返ってくるだけ。気を失っているらしい。
外傷はほとんど見られない。
ながらここまで消耗しているのは――やはり、精神的な問題か。
「……礼を言っておこうか、ユーリくん。よく私の意を汲んでくれた」
「……そうじゃないと、クイールが一方的に押し負けてた」
「だろうね。まったく……本当にしぶとい」
そうなった場合、クイールがどうなっていたか分からない。
当然とばかりに僕の言葉に頷いたイリスティーラは、おもむろにクイールの左腕を掴んだ。
「……何をする気です?」
一歩遅れて歩み寄ってきたナディアが、警戒を込めてイリスティーラに問う。
これ以上、彼女にクイールを害する意思は見られない。
しかし未だに冷たい雰囲気を持ち続けるイリスティーラが何をしようとしているかは、僕にとっても疑問だった。
「少し確認したいことがあるだけさ。実力行使はもう済んだ」
クイールが目を覚ます様子はない。
イリスティーラはその間に彼女の左の袖を捲り上げる。
躊躇いはない。彼女の行動には、確信があった。
「ッ……!?」
「――――」
「これ、は……」
「予想通りだ。最悪の予想が当たった。……この、考えなしのバカめ」
苛立たしげに舌打ちし、イリスティーラは吐き捨てる。
その左腕にあるものを理解できなかった。見た目通りであるとして、まるでクイールという人物と繋がらなかった。
点々と、数えきれないほどに刻まれた、小さな痕。
それらが広げたと一目で分かる、腕の大部分を覆う黒ずんだ痣。
小さな針を何度も――何度も何度も突き刺した結果のような、ただの怪我でこうなったとは思えない、異様な状態がそこにある。
「……あの時、強く言った筈なんだがな。絶対に私の処方したもの以外を使うなって」
その腕を僕たちが受け入れるより前に、イリスティーラは掴んでいた腕を乱雑に離し、クイールの腰に巻かれたポーチを引っぺがす。
腕の状態が何によるものなのか察しているのは彼女だけ。
何をしようとしているのかと問うことも、止めることも、僕たちには出来なかった。
少しの間ポーチを漁り、拡張された内部から目的のものが見つかったようで、イリスティーラはそれを引っ張り出す。
片手で持てる程度の小箱。イリスティーラはそれを無造作に開く。
その中身に目を向けずにはいられなかった。
あまり馴染みのない道具だ。だが、先端に針の付いた筒状のそれが、何の目的を持ったものかなど考えるまでもない。
中身を検めて、ポーチに戻さず白衣のポケットに仕舞い込んだイリスティーラは、再びポーチに手を突っ込み、もう一つ何かを取り出した。
「……なん、なの……それ」
蓋をしっかりと閉められた、小さなガラス瓶。
その中には、まるで星の如く幻想的にきらめく粉が詰められていた。
クイールの様子と、先の小箱の中身に次いで見せられれば、それをただ綺麗だなどとは到底思えない。
三つを繋ぎ合わせる、僕の問いの答えは、当たり前のように冷めきった声色で返ってきた。
「……妖精から抽出した粉だよ。気分と精神を安定させる、いい回復薬になる――扱い方と、量さえ間違えなければね」