凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
説明をする、とイリスティーラは屋敷の扉を開け、僕たちを招いた。
かつて招かれた応接間に通された後、抱えたクイールをどこかへと連れていくイリスティーラを見送った僕たちには、言いようのない嫌な予感が残る。
クイールの腕の注射痕と、あの後ポーチから出てきた、妖精の粉とやらの入った幾つかの容器。
それは僕たちの知らないクイールの一面を、何よりも如実に表している。
「……ユーリ、リッカ。二人は知って……は、いませんか。その様子ですと」
「うん……そんな素振り、少しもなかった」
誰かとの繋がりを感じる、僕の力はなんでもかんでも見通す代物ではない。
そこに至るためのきっかけを、少なくとも僕は掴めなかった。
クイールの“勇者らしさ”を妄信していた、ということだろうか。
出会ったその時から、ずっと助けられていたその姿を――絶対的な自信は紛れもなく、クイールの人間性なのだと。
「リッカは――」
「……何も知らない」
短く、リッカも否定する。
クイールへの信頼を、僕に任せていたリッカは、ここまで行動を共にしてきてもクイールに対して大した興味を抱いていなかった。
戦力としては数えていつつ、警戒はしたまま。殆ど会話らしい会話もなく、クイールの言葉に時折、僅かな反応を返すくらい。
根本的に、クイールとリッカの性格が合っていないというところもあるが。
今のリッカは、この事実を知る前より少し不機嫌だ。
リッカとしてもクイールのあの性質は素のものだと思っていて、その前提が根本から揺らいでいるからだろう。
「……妖精、か」
イリスティーラと出会った時。
オレブ山道でオークに敗れ、山道の裂け目を落ちた先の地下洞窟で、気を失っていた僕は彼女に治療を施された。
……確か、スライムと妖精に由来した素材を使った回復薬と言っていた。
副作用について、詳しい話を聞いたのはこの屋敷だった。
曰く、使い過ぎると妖精の気にあてられる。活動気質になる。
一度その薬を使った僕は、今のところそうした効果を感じてはいない。
しかし、そうした効果を持つ妖精に由来するあの粉をわざわざ持っていたクイールは――。
「人間に寄り添う妖精に会ったと思えば次はこれとは……彼女たちを“狩猟”しようとしなかっただけ、クイールも確かな善性ではあるのでしょうが」
「……あんな連中を使ったらもっと変なことになる」
「……否定できませんわね」
想像して余計億劫になったのか、リッカとナディアは揃って溜息をつく。
ほんの数日前、僕たちはハローネの町で妖精たちと関わった。
彼女たちに手を出さなかった辺り、危急の問題ではないと、そう思いたい。
「そもそも、妖精の粉なんて簡単に手に入るものなのですか? わたくしの時代、妖精など人間がそうそう出会うものでもなかったのですが、現代ではありふれた存在だとか。……いえ、彼女たちは例外として」
「ううん……僕たちも、ここまでで一回、出会っただけかな。……彼女たちは例外として」
「少しの量なら、たまに町でも売られてる。妖精が存在しているだけで発生するものだから、採取されたものが、工芸品の装飾に使われる……とかなんとか」
「現代の美的感覚は奇抜ですわ……」
町で買い物をするとき、あまり工芸品の類を見て回ることはない。
しかしながら、リッカはそれらにも目を向けていたようだ。
有用なものなのだと分かっていても、リッカはこの素材に頼ることはしなかっただろうが。
そんな、僕たちにとってはあまり信用できない素材のことを考えていれば、部屋の扉がゆっくりと開かれる。
躊躇いの見られるその速度は、少なくともイリスティーラではなく、クイールが目を覚ますにはまだ早いと感じる。
となれば、残る可能性は一つ。
会うべきか、会わざるべきか。僕としても迷いがあった存在だ。
「――リッカ?」
「……」
おずおずと扉の隙間から顔を覗かせて、控えめに声を出したその少女。
金色の髪も、瞳も、顔つきも、改めて見れば“そっくり”だった。
節のある右手で扉を押さえ、足元まで伸びる触角をぴくぴくと動かす彼女の目は期待に満ちていた。
そして、目的の人物――つまりは、リッカを見つけるや否や、その目を見開いて駆け込んでくる。
「リッカっ」
「っ」
飛び掛からんばかりの勢いに、座ったままで身を引いたリッカ。
ひとまず、駆けてくる少女を止めようとして、それよりも前に二人の間に魔剣が突き刺さる。
咄嗟に足を止め、目の前の床に刺さった赤い刀身に、更に目を丸くする彼女に、あわや串刺しの自覚はなかった。
「……これ、リッカが作った魔法? すごくきれいに出来てる」
「……ん。今、忙しいから、それでも見てて」
――あの時、自身に懐いていた彼女にリッカは強く拒否感を覚えていたことを、今は知っている。
リッカはこの屋敷に来るにおいて、彼女との再会を何より億劫に思っていた。
面倒を見ていたのは水の試練を、僕に勇者としての力が足りない内に終えるため。
リッカの内心の嫌悪感を、彼女は知らない。それを明かせばより面倒だと判断したのか、リッカは
『あのね。私を子守のためのおもちゃか何かと勘違いしてる? だったらいよいよあんたらとの縁切るわよ。ちょっとリッカ、聞いてるの?』
「しゃべった……」
『ええ、喋るわよ。……あんた、バグメ――その顔……ってストップ! 刃に触れない! 危ないでしょうが!』
リッカの盾になったこと、その呼び出した理由に不満をぶつけようとしていたラフィーナ。
しかし、小さな手が刃に伸ばされたことで不満を注意へと切り替える。
……巻き込んでおいてなんだが、付き合いも良ければ面倒見も良い。興味津々の彼女に対して、やりにくさを感じながらも応対するラフィーナは妙に様になっていた。
「……あの子は」
「うん――多分、想像している通りだと思う」
その姿を見て、絶句していたナディアが何を考えていたかは分かる。
僕はそれを、直接聞き出そうとはしなかった。悪夢の如き推測に過ぎなかった。
そして屋敷の前でのクイールの言葉は、推測でしかなかったそれを確信に至らしめた。
即ちこの子こそが、イリスティーラとクイールのすれ違い、その中心にある存在なのだと。
「……まさか、そんな……だってあの姿……」
かすかな声を、ナディアは零した。
僕だって信じようとはしないだろう。“そんなこと”がある世界だって、僕は知らなかった頃の僕ならば。
初めてこの子と出会った時も、最悪を思い浮かべることはなかった。
「……ユーリ……?」
「……ごめん」
想像したくない。そして、思い出したくない。しかし、今の僕は知ってしまっている。
リッカが絶望の中で、望まない魔族との交わりを何度も何度も強要されていたこと。そして、その時の“いつか”で事切れるまでの間に、悍ましさしか感じないナニカを身籠ったこと。
あの子はリッカにとって、加害者となり得る他の魔族とは異なる恐怖の対象なのだ。
そんな澱んだ回想の向こうに無意識に沈み込みそうになって、気付けば、隣に座っていたリッカの手を握っていた。
今度は、そんなことにはならない。もうこれ以上、リッカをそんな目には遭わせない。
込み上げてきた不安や寒気を呑み込んでいる内に、ナディアは立ち上がり、少女に歩み寄った。
少女もナディアに目を向け、怪訝そうに首を傾げる。
「……青色と……く、黒……?」
「あら、属性を色覚で感じられるのですか?」
少女の前で膝を折り、視線を合わせてナディアは微笑む。
彼女自身も子供に慣れている訳ではないようだが……小さな怯えを解きほぐす、完成された所作だった。
「――はじめまして。わたくしはナディアと言います。将来有望な魔法使いさん、あなたの名前を聞いても?」
「……! ――わたし、ホープ」
「ホープ……ええ、良い名前です」
“将来有望な魔法使い”は彼女――ホープにとっては好ましい文句であったらしい。
表情を警戒から喜びに変え、どうやらナディアもホープの懐に入り込むことに成功したようだ。
「その手……」
「驚きました? ちゃんと物も掴めれば、熱を感じることも出来ます。“ちょっと”昔の魔道具ですわ」
「……難しいつくり。ナディアのそれも、ラフィーナも」
『私のは参考にしたら駄目よ。頭のおかしい人間が作った頭のおかしい魔法だから』
「……リッカの悪口はだめ」
『リッカ信者はもっと駄目よ』
ラフィーナはどちらかというと、リッカに信頼を向けるホープに危機感を覚えているようだが。
どうあれ二人が打ち解けているのを見て、リッカは安堵する。
そんな和やかな時間も束の間。イリスティーラが扉を乱雑に開け、部屋の様子を見たと思えば複雑な表情になった。
「……ホープ」
「あ、イリス。見て、ラフィーナとナディア。新しいともだち」
「そう、か……そうか。ホープ。今からユーリくんたちと大事な話がある。少し、自分の部屋に戻っていてくれるかい?」
ホープの嬉しそうな紹介を聞き、魔剣の突き刺さった床を見て、イリスティーラは頭を押さえて溜息をついた。
……リッカの咄嗟の自己防衛とはいえ、申し訳なく思う。
「ん――」
「……ラフィーナ。話し相手になってあげて」
『動けと?
逡巡するホープを見て、雑にラフィーナに押し付けたリッカ。
当然だが、魔剣はラフィーナの意思で自在に動くことは出来ない。精々が、僕の攻撃をある程度補正することができるくらいだ。
文句を言おうとしたラフィーナだったが、それを遮るように僕の懐から“それ”はひとりでに飛び出てきた。
床に落ちる前に形を変え、四足歩行にして三頭の獣となった、行商のリヒトから貰った『アッシュ』である。
この存在は既に、リッカたちにも伝えている。
環境から物事を学習し、機能を拡張していくという、リヒトたちの家で伝えられてきた技術を組み込まれた魔道具だ。
悪いものではないとリッカは解析を済ませている。魔族との戦闘に際し、手助けになるかもしれないとのことだった。
そんなアッシュは、その場の全員の注目を集めながらとてとてと歩き、その首の一つで
「え?」
「ん?」
「は?」
「……おー」
『――おかしいわね。ユーリも生身だと満足に扱えないのに』
僕、イリスティーラ、ナディアの理解を逸した光景。ホープは目を輝かせてアッシュと魔剣とを交互に見ている。
アッシュは剣をあっさりと引き抜き、持ち上げたその体勢をふらつくこともなく維持する。
驚いていないのはリッカと当事者であるラフィーナだけだった。
さらにアッシュは首の一つをこちらに向け――まるで、「任せろ」とでも言うかのように頷いた後、剣を咥えたままホープと共に部屋を出ていく。
……貰った時、まだアッシュは何も知らない状態だった。
自由にさせていて迷子になっても困るので、動かすのは常に僕かリッカの管理下だった筈だ。
あの魔剣を持ち上げるほどの力も含め、ここまで学習する要因はなかった……と思いたい。リッカがどうしていたかは特に詮索しないが。
「……色々説明しようと気を張っていたところに非常識を放り込んでくるのはやめてくれないか?」
「……」
呆れた様子のイリスティーラの要求はやや理不尽だったが、そう言うほかなかった。
結果として、ホープは彼女の望み通り部屋を出ていった。興味を向けられていたラフィーナならばホープを暫く飽きさせることもないだろう。
僕たちとは反対側のソファに深く座るイリスティーラには、必要以上の疲れが見て取れた。
【ホープ】
初めての友人にして師であるリッカに憧れるバグメイドの子供。
「将来有望な魔法使い」は最高の殺し文句。
複雑な魔道具の数々を見ているだけで楽しいお年頃。
【リッカ】
聖都の正門らへんで(そういえばアレがいたな……どうしよう)とか思ってた。
【ナディア】
生前に培ったコミュニケーションスキルにより初対面の相手と友好関係を築くのに慣れている。
【ラフィーナ】
メイン盾。面倒見の良さが今回も発揮された。
ユーリとリッカが主動で引き起こす非常識そのものに慣れつつある。
“いつか”から割とそうだったらしい。
【アッシュ】
魔剣を持ち上げるほどのパワーを発揮する。
こんな改良をした覚えはリッカにはない。勝手に強化されたらしい。