凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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勇者らしく、■■らしく

 

 

 自分の中から湧き上がる熱い感覚は、他の誰にもないものだと分かっていた。

 

 どこを見渡しても、同じ熱さを感じる者なんていない。

 パパも、ママも、他の人も。聖都にたくさんいるエルフにも、同じものを感じることはなかった。

 この感覚をはっきりと言い表すことはできない。だから、直感みたいなもの。

 だが、それで確信にまで至ってしまう。僕は、他とは隔絶した何かなのだと。

 

 あらゆる存在には属性がある。

 どんな存在でも、この世界を支える四つのうち一つが最初にあって、それから種族が有する性質が生じる。

 火、水、土、風。いずれかは必ず、個々に齎される。

 確か、パパは水で、ママは土。そんな風に記憶している。

 それが遺伝するとは限らないけれど、少なくともパパもママも、この世界に生まれ落ちるのに当たり前の性質を持っていた。

 

 ――僕の内にあったのは、この熱い感覚だけ。

 

 当たり前の属性なんて存在しなくて、このたった一つだけが、僕の証明だった。

 どうして、という疑問は……これを理由に色々と言われていた、子供の頃には考えたことがあったと思う。

 そもそもの話、それがすべてのきっかけ。

 僕は特別だから。そう思い込めば、パパとママに愛されなくても、他のみんなに仲間外れにされても、心が痛むことはなかった。

 特別だからなんでも出来る。出来なければならない。

 特別だから傷つかない。傷ついてはいけない。

 特別だから、僕はすごい。すごくなければならない。

 そういう考えが当たり前になって、僕の特別を受け入れてくれる親友が出来て、特別を意識しなくなった頃に、僕は勇者として選ばれた。

 

 自分の中の勇者の証というものを、正直なところはっきりと認識したことはない。

 魔王によって刻まれたというそれは、はじめから僕の中にあったものと、何が違うのかよく分からなかったから。

 勇者になって、特にエルフのみんなが僕の変化を感じて、それと照らし合わせることでようやく僕は、自分が生まれながらの勇者だったことを知った。

 ……それが何故なのかを考えたことはない。

 もうその時には、僕が特別であることは、僕にとって当たり前だったし、何故なんて疑問を持つ必要がなかった。

 だけど、その特別に名前が付いた時、僕は満ち足りた気分になった。

 僕は――クイールは勇者だから特別なんだ、と。

 

 旅に出れば、強力な魔族と遭遇することもある。

 その時、僕は当たり前に危機に陥る。だって、僕は人間だから。

 魔族と人間では、からだの作りに決定的な差がある。普通は人間では、どう足掻いても勝てないように出来ている。

 けれど僕は当たり前に、その危機を突破する。だって、僕は勇者だから。

 普通の当たり前を突破してこその勇者だ。勇者が百パーセントであり続ければ、負けることなんてないのだ。

 

 ――――あの時も、負けてない。

 

 僕自身を否定するには至らない。だって、僕は勝ったのだから。

 ただ、少しだけ向こうの悪知恵が優れていただけ。

 向こうは僕を完全に屈服させるつもりで、けれどそうはならなかった。

 最終的に僕は生き残った。勇者として最もあってはならない、死ぬことは避けられた。

 であれば、あとはぐらぐらと揺れる気持ちを押さえつけて、色々な痛みも我慢して、傷も汚れも涙も洗い流して、勝って生き残ったことを杖にして立ち上がって、勇者はまだまだこれからだと気持ちを新たにするだけ。

 それは僕の、何よりの得意分野だから、なんてことはなかった。

 

 寧ろ、僕はそれで、新しい希望を得ることが出来た。

 イリスがいるだけじゃない。ホープがいるから、必ず成し遂げないとって。

 流石に、これで折れたら情けない。

 折れるわけには、いかない。

 あれは悪夢なんかじゃない。あれで良かったんだ。僕の支えは、増えたのだから。

 

 だから――もうやめて。

 あの時のことを、これ以上思い出させないで。

 

 

 

「――――」

 

 目を開ければ、か細い明かりに照らされた天井があった。

 痛みはない。体も、動く。

 見渡してみるとそこは、飾り気なんてものを知らないような、灰色の部屋。

 整頓されてはいるけれど物が多くて雑多な印象を抱くそれが、イリスの屋敷の一室だと分かるまでは早かった。

 

 この整理の仕方はイリスのものだ。

 自分だけが理解していればそれでいいとばかりの、およそ纏まりがあるとは思えない並べ方は懐かしい。

 ああ、懐かしいなあなんて思ったのは、最初の一分ほど。

 状況を思い出して、僕はようやく、この寂しい部屋のベッドに寝かされている理由に辿り着いた。

 僕はイリスに負けたのだ。

 イリスは僕の、何もかもを知っている。相手を観察して、身勝手に推察するのはイリスの特技だ。

 そう考えてみれば、僕が負けるのも納得できる。僕が負ける可能性が一番高いのはイリスだったということだ。

 

 僕やユーリくんたちみたく、あんな魔法を使ってきたのは驚いたけど。

 そういえば、ユーリくんたちはイリスと既に知り合っていたらしい。

 それなら、言ってくれれば良かったのに。色々とユーリくんたちに手を貸していたというなら、イリスの“変わり者”に対するお人好しは変わってない。

 

 ……しかし、負けたってことは僕の意思を押し通すことは出来なかったということ。

 元々僕の我儘ではあったのだけど――勇者として旅に出る時と、ホープを産むことを認めてもらった時、それから、また旅に出ると決めた時。

 三回はイリスが折れてくれた。

 それでも、四回目ともなれば話は別。とうとう僕はイリスの逆鱗に触れてしまったようだ。

 放ったらかしにしておいたという訳ではないが、あの変な迷宮に挑んでいる間にこれだけの年月が経っていたのは事実。

 ならイリスが怒るのも仕方ないし、僕に勇者を諦めさせようとしてくるのも当然だろう。

 

 諦めるべきか、なんて何かが囁く。

 ――なにを馬鹿な。

 嫌だ。許してくれなくても、認めてくれなくても、僕は勇者であり続けないといけない。

 任せる者が出来たからもういい? 違う。ユーリくんは僕を受け入れてくれた。

 もう“時代遅れ”な僕が、勇者という称号にしがみ付き続けることを、他でもないユーリくんが認めてくれた。

 まだ僕は勇者だ。そうでなければいけない。

 

 だって、僕の中に輝くこれは、勇気の属性なのだ。

 本来ならば勇者しか持つことのないこれしか、僕にはない。だから僕は、当たり前に勇者になれた。

 

 ――勇者を諦めるということは、ここまでの僕のすべてを否定するということ。

 ……嫌だ。僕は特別ではなくて、ただの“異常者”になってしまう。

 パパとママが、みんなが言った、「生まれてきたことが間違い」なんて言葉が正しいことになってしまう。

 そんなの……イリスだって認められない筈だ。間違いじゃないって、最初に言ってくれたのはイリスだったのだ。

 僕とイリスだけは、僕の特別を否定できない。できない、筈なのに。

 

「……ッ!」

 

 痛みのような寒気が全身を駆け巡る。

 急激に喉が渇き、心臓の音がはっきりと耳に届く。

 過剰に酸素を求める衝動に、体の震えと混乱で上手く応えられなくて、呼吸がめちゃくちゃになるのを自覚する。

 自覚してしまった不安に押し潰されそうになる。心臓が締め付けられる感覚と、頭に突き刺さってくる痛みに、胸と頭を両方押さえて自分に言い聞かせる。

 

「――っ、い、痛くない、痛くない、不安なんて感じてない――ッ!」

 

 必死で目を動かして、ベッドの下に落ちていたポーチを見つけ、反射的に手を伸ばす。

 間違いない、僕のポーチだ。

 思い切り開いて、手を突っ込む。

 中身の拡張が施されていて、見た目よりずっと多くのものが中に入る。そんな便利な中の広さが、こういう時だけ腹立たしく感じる。

 だから、せめてすぐ取り出せるように手前に置いておいた筈なのに、どこにもない。

 

「な……んで、そんな、それじゃあ……ない、ない、ないっ! ッあった!」

 

 指先に触れた冷たさに確信を持って引き寄せる。

 

「――――」

 

 出てきたのは、空っぽの……正確に言えば、底にほんの僅かな粉末だけが残されたガラス瓶。

 おかしい――だって、ハローネの町でたくさん買った筈だ。

 それだけだと心配だから、リヒトくんにも貰った。何に使うのかって不思議に思われていたけど、僕にとっては大事なものだった。

 なんで、それらが全部なくなっているのか。

 

「ぁ……――――!」

 

 頼っていたものが消えている事実を、受け入れたくなかった。

 このままだと、自分が自分でなくなってしまうことは明らかだった。

 とにかく不安を少しでも解消したくて、持っていたガラス瓶の蓋を開け、中の粉を口に放り込む。

 口から入れるなんて、いつ以来だったか。久しく感じていなかった、辛さと苦みが混じったような強烈な刺激が舌に刺さる。

 不味い、なんてものを通り越した拒絶感。最近は、ユーリくんが作った――あたたかくて美味しい料理ばかりを食べていた。すっかり舌に馴染んだしあわせが一気に吹き飛んでいく。

 なのに、そんな代償を受け入れても、不安が和らがない。

 量があまりに少ないのだ。これっぽっちでは、もう少しも効いてくれない。

 じゃあ――どうすればいい。

 僕はこんなものと一生付き合っていかないといけないのか。

 そんなの……嫌だ。だってこの不安の中には僕の居場所がない。だったら、まだ、居場所のある夢の中の方が――

 

「――じっとしていたまえバカ女」

「ッ!」

 

 混乱の中で、強い力で腕を掴まれ、ぐるりと体が動かされる。

 視界に飛び込んできたのは、誰より知っている親友の顔。

 それが近付いてきたかと思えば、理解が及ぶよりも先に唇を重ねられ、舌を通して何かが流れ込んでくる。

 

「――!? っ、――!」

「っ……ぷぁ……暴れるなと言ってるだろうに。痺れてきたな? その感覚に身を委ねるんだ」

 

 思わず不安がより大きな困惑に塗り潰され、解決する前に体がたちまち動かなくなっていく。

 体中の寒気すら失われるほどの痺れは体にじんわりと不快感を与えていくが、先程までの不安よりは幾分マシだった。

 頭がまたそれを考えようとするたびに、ピリピリと痺れが強くなり、僕を引き戻す。

 良い悪いでいえば、悪い感覚。それに体も思うように動かない。

 絡んできた彼女の舌から逃れてからというものの、僕の舌は大人しいまま。何をしたのかと視線で問えば、苛立った様子のイリスは椅子に乱暴に腰かける。

 暫くの間、口をもごもごさせ――それを呑み込んでから、疲れ切った声色で答えてくれた。

 

「……ヒュドラ由来の毒だよ。別物レベルに加工してあるがね。本物なんて飲んだらどれだけ薄めていても死ぬから」

 

 ……そういう、危険な毒がイリスの屋敷には山ほどあるのは知っている。

 そして、それを使ってイリスがやっていたことも。

 僕の在り方を受け入れてくれたから、僕はイリスの在り方を受け入れた。それがお互いの特別なんだって。

 けれど、その関係はもう昔のものになってしまったようだ。

 

「そのポーチは検めさせてもらったよ。キミが拠り所にしていたらしいものは全て没収した」

「……っ」

 

 上手く口が動かせない。

 この、イリスから貰った痺れが消えれば、僕はまたあの不安を思い出してしまう。

 忘れるにはあれに頼るしかない。それしかないから、これまでずっと、そうしてきたのに。

 

「妖精の成分をそのまま摂るのは危険だと言っただろう。使うなら私の処方した薬にしろと。そして、あの時それを山ほどキミに持たせて、必要ならまた戻ってこいとも伝えたね。心底残念に思ったよ、私の忠告を、キミは聞き入れてくれなかった」

「……! ……!」

 

 違う――それにはちゃんと、理由がある。

 最初はそのつもりだった。イリスの作った薬は、僕の不安を優しく溶かしてくれる。

 だから僕はあれに強く依存していた。

 だけど、ノクトールの森で聖剣の試練が始まった時、たくさんあった筈の薬もすべて失ってしまったのだ。

 

 疲れと眠気が迫ってくる中で、必死に迷宮を探し回った。

 僕の荷物は見つからなくて、限界だった僕は、薬の大元に頼るしかなかった。

 イリスから、妖精を使っていることだけは聞いていた。妖精の粉には気分を晴れやかにして、悪夢を遠ざけるのだと。

 間違いだと分かっていた。やってはいけないと気付いていた。

 制止は働かなかった。疲れも眠気も限界で、意識も朦朧として、不安に押し潰されそうだった。

 荷物より前に、迷宮を彷徨っていた一人のフェアリーを見つけて、僕は――

 

「妖精由来の素材に対する依存症……ここまで重篤なのは前例がないだろうけどね。はっきり言って、キミはもうまともに生活できる状態じゃない。勇者だなんだの前に、人間として」

「……」

「どうにかする方法は、私にも現状思いつかない。この辺りまでを伝えて、ユーリくんたちには帰ってもらったよ。大聖堂前の宿に宿泊するとのことだ」

「……」

「暫くキミをここから出さないからそのつもりで。まずはキミの体を調べ尽くす。……まだ私の知らない秘密があるんだろう? 隠し通せると思うなよ、クイール」

 

 ――暴かれる?

 そんなの、嫌だ。知られたら、イリスに見放されてしまう。

 ユーリくんやリッカちゃん、ナディアちゃんも、失望する。妖精の粉を使っていることも知られたくなかったのに、それ以上を。

 僕は……僕は、悪くない。僕では、どうにもならなかった。けれど――そんな言い訳は勇者らしくない。勇者は、そんなことに負けてはいけない。

 

 だから気にしないように、無かったものとして、今までずっと否定してきたのだ。

 僕しか知らないことだから。僕の中で起きていることだから。僕だけが気にしなければ、誰にも悟られないから。

 

 僕は大丈夫。つらいことではない。勇者だから、このくらい平気。

 

 精一杯の力で首を横に振ろうとするも、体はまるで動かない。そうしているうちに、イリスの手は伸びてくる。

 

 

 抵抗できる力を失ったところに伸ばされる手が、いつかの痛みと重なって。

 

 

 

 初めて、イリスを拒絶したいと、心の底から願った。

 

 ――願ってしまった。

 

 

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