凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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夢のかなたにあったもの

 

 

 ――あのバカが戻ってくることを、まったく期待していなかった訳じゃない。

 寧ろ、一日でも早く戻ってこいと思い続けていた。あの、百代目勇者が私の前に姿を現すまでは。

 

 それまでは、死んでいる確信がなかった。

 いつかまたひょっこりと顔を出して、薬がなくなったから作ってくれなんて、ふざけた調子で頼んでくることを、私は待ち望んでいた。

 妖精由来の回復薬は実に凄まじい効果を発揮する。

 特に精神面における高揚感はかなりのもの。クイールにはそれが必要だった。

 

 ……魔族に仕込まれて帰ってきた時のクイールは、平常ではなかった。

 普段通りを装って、どう考えても歩むことなど出来ないのに空元気で足を進め続けている状態だった。

 自分で“そうありたい”状態と現状があまりにかけ離れていて、到底まともではない。

 そしてそれを意識してしまうと極度な混乱に陥る――だからこそ、より勇者である自分を誇示するようになっていた。

 

 もう一度、あいつを送り出してやると決めた時、このままでは遠からず自滅すると嫌でも分かった。

 だからあの薬を山ほど押し付けた。多用は厳禁だと言いつけて、無くなりそうならすぐに戻ってこいと約束させて。

 そうすれば、戻ってきた時に体調を確かめられる。

 どの程度の頻度で使っているかを判断して、改良品を手渡して、少しでも良い状態に持っていくことができる。

 そんな目論見は、当たり前のように露と消えた。

 よもや、ユーリくんが、もっとひどくなった彼女を連れ帰ってくるとは、思いもしなかった。

 

 リーテから話を聞かされた時、らしくもなく怒鳴ったことが、昨日更新された黒歴史の一つ。

 クイールの話題は私にとって地雷だと知っている筈の彼が、よりにもよって戻ってきたなどと宣ったことに正気を疑って、またいつぞやのようなことがあったのかと感情をぶつけた。

 結果として、リーテの言葉は真実だった。

 よりひどい顔の、無理なんてとっくに超えたクイールは、ごちゃごちゃとした私の感情をより混沌に仕上げてくれた。

 本当は、ユーリくんたちがまた顔を出しに来たら、リッカくんの鼻でも明かしてやろうと思って作り上げていた、私の存在の先鋭化。

 あのおかしな魔法に着想を得た戦闘手段を、私はクイールに対してぶつけた。

 

 よりにもよって、まだ旅を続けようなどと。

 

 いつかの焼き直しを、また許容できるほど私の心は広くなかったんだなと、終わってから気が付いた。

 大した装備だったと思う。

 聖剣の由来に対する胡散臭さは消えていないが、クイールはそれを完全に管理下に置いている。

 人間が持つには過剰なほどの武装で、私も情報なしで戦っていれば、クイールの戦闘センスも相まって敵わなかった。

 ……これでも、観察力や洞察力には自信がある。

 クイールの癖という癖を、私が知り込んでいた時点で勝負になどならないことは分かっていた。

 対等な親友。それは認めよう。しかし、私がクイールの何もかもを知っていた一方で、クイールは私のすべてを知らない。

 クイールの幼少期を支えて、育ててやったのは私だ。

 これだけだと、対等とは言えないが、変わる筈などないと思っていた私の価値観を変えてくれやがったのはそのクイールだ。

 

 だから――受け入れられる筈があろうか。

 自分の身を大事にしない私が、初めて守りたいと思ったあいつが、自ら死にに行くようなことを何度も認めろなど。

 

 もう、あいつの意思など関係ない。

 縛り付けて、毒で動きを封じてでも、この場に置いておくべきだと思った。

 ユーリくんはクイールを頼り、信じているらしい。そして、クイールも満更ではない。彼の存在が、クイールの平常心を保たせる一因となっていたのは間違いない。

 だが……それはそれだ。それに甘んじてクイールをまた旅立たせてはいけない。

 

 ……分かっているのか、クイール。分からないだろうな。

 存在意義を委ねるほど大きく思っていたものがいなくなるというのは、枯れ切った心なりに傷つくんだ。

 私はこれまでに三度それを味わった。

 その内二度はキミなんだ、クイール。これ以上私に、新しい傷を増やさないでくれ。

 

 戻ってきたことに、喜びもあったのは認めよう。

 苛立ちとか、悔しさとかに混じって、歓喜も確かに存在していた。

 どうあれ死体でない身で、戻ってきた。そして勿論のこと、ホープを覚えていた。

 もう勇者は諦めていい。誰も責めはしない。責める者がいれば、この私が黙らせる。

 だから、もういい。キミにはホープという存在意義があるのだ。これ以上無理をするなと――あいつの地雷を踏んででも、そう言いたかった。

 

 刺激しないように、遠回しに言うことが出来れば良かったのだが。

 直球に言うしかなかった。それくらい、私なりに必死だった。

 それが引き金になったのだろう。まったく――私としたことが、そんな可能性、考えてもいなかった。

 

「……」

 

 ――さて。

 どうするべきか、と嫌にはっきりした思考だけが回る。

 やれることはある程度やった。クイールに何が巣食っているかも、理解した。

 その存在を先に掴んで、即座に除去してやれば、今の状況も起きなかったかと後悔する。

 

 ……最悪だ。

 

 私自身、聖都のおめでたい価値観に染まっているつもりなど微塵もない。

 ない、が……そんな可能性を考えてもいなかったというのは、聖都住まいの影響なのかもしれない。

 他者を害することしかできない、この世の何より自己中心的な種族。

 連中を目の敵にする聖都の騎士たちによって、ある程度の平和が確立されているからこそ、逆に聖都で一般市民が見ることのない彼女たち。

 その異常個体が、クイールに巣食っていたなどと。

 

 そいつが全ての発端かと感付くのには、一歩遅かった。

 誰かの弱みに付け込むことを連中は好む。そうするのが、欲望への近道だから。

 私はクイールが取っていた、妖精の粉の摂取という行為を容認するつもりはない。

 しかし、それがクイールに“最悪”を齎さないことへの一助を担っていたのだろう。

 今が楽しいという高揚感、理想的であるという満足感が不安を遠ざけ、悪夢との縁を切り離す。

 そうすることで、クイールは己の中に巣食っていた魔族に対抗していたのだと、私は思い至ることができなかった。

 愚かしい――闇雲に、あいつの秘密を暴こうとした私の落ち度だ。

 気にする必要はないとクイールが自己解決していたのだ。これでは、ここまで共に旅をしていたユーリくんたちが気付けないのも無理はない。

 

 ……恐らく、聖都に戻ってきたあの日から、憑かれていたのだろう。

 本当に、嫌になる。何故こうも、強がろうとするのか。もう少し誰かに弱さを打ち明けても、バチは当たらないだろうに。

 勇者らしさというなら、歴代の誰より示しているじゃないか。

 水と土、二つの試練を突破した勇者がどこにいる。あの日、孕んだことだけでなく、これを打ち明けてくれれば――私は必ずなんとかしていた。

 リーテに、そして期待はしていないが、あいつの部下の騎士たちに頭を下げてでも、憑いているものを引っ張り出して消し飛ばして見せた。

 そうすれば少しでも気分が晴れて、ここまで妖精の粉に頼ることだってなかった筈だ。

 

「……ままならない、ものだね」

 

 クイールの何もかもを分かっていたからこそ、“クイールの内にあるもの”は分からなかったと。

 少しばかり自惚れが過ぎたようだ。

 これでは、どんなに魔族が悪辣なものかと刻み込もうとした私がただの間抜けでしかない。

 クイールはそんなこと、もっと昔から知っていて、私のやり方が寧ろ甘かったということなのだから。

 

 ――バキン、と防衛の最後の要であった術式が砕けた音がした。

 

 本来ならば、ありもしない襲撃があった時の備え。

 破壊するのに相当な威力を要する、数年かけて趣味も交えて作り上げた防衛用魔法の数々。

 いつぞやの『勇蝕写本』の際にだいぶ壊れたそれが、ようやく直ったと思えばこれだ。

 内側から聖剣によって叩き切られたのだと思う。そうでなければ、流石にもう少し時間が掛かる。

 つまるところ今の音は、クイールを屋敷の中に封じ込めていた枷が無くなり、外に出たという証。

 

「っ……立て、ないか。チッ……相変わらず再生の遅い身だ」

 

 これで命まで取られなかったことを幸運と見るべきか。

 クイールの状態に関する見当違いから陥った重体に、苦笑すら湧いてこない。

 ――彼女に巣食っていた魔族は、その弱みに付け込んで完全にクイールを支配した。

 それを悟って、ホープを屋敷から逃がして、時間稼ぎのために屋敷を閉め切ったのは……どれだけ前になるのだろう。

 

 時間がなかったから、ホープに“どこへ向かえ”とも伝えていなかった。

 屋敷の外など知らない身で、独り締め出されるのは不安だろう。だが……この危機は分かってくれたと思いたい。

 ホープは隠れるのが得意だった。

 そのスキルが外で活躍するかは分からない。問題なく、かくれんぼ出来る子であればいいのだが。

 

 視線を動かせる範囲に時計はない。

 せめて、先程まで起きていたことの大半が、夢の世界であったことを願うばかりだ。

 ……いや、全てそうであればベストなのだが、そういうこともあるまい。

 今の意識が現実にあることははっきりしている。それも多分、“ヤツ”の性格なのだろう。ありがたい話だ。

 

 夢魔……蔑称で言うところの、淫魔。

 サキュバスは基本的に放埓な生き物だ。子を成すことに感慨も持たなければ、産まれた子に執着することも殆どない。

 そして、性に奔放で、他種族と積極的に交わる彼女たちから産まれる子には当然のように突然変異が発生する。

 そう――ただ男性個体というだけで、サキュバスとしては異常なのだ。

 交わった相手の特徴を強く持って産まれてくる場合の多い彼らは、多くが力の操作に長けず幼くして破滅する。

 しかし、夢魔としての性質を上手く制御した僅かな個体は、特に女性に対して牙を剥く強大な存在となる。

 

 そうなった個体をサキュバスと呼ぶことはない。

 それは事実上の別種――インキュバスと呼ぶべき存在だ。

 ああ……これは知識として持っていただけの情報ではあったが。

 まさか、身をもって知ることになるとは思わなかった。

 

「……くそ」

 

 夢魔を夢に閉じ込める。耳を傾けず、夢も見ないことで、自身の内の夢魔を無力化する。

 そんな対策が存在することを、果たして夢魔すら知っていたかどうか。

 クイールはそれを今に至るまで実現させていた。妖精の粉をも駆使して。

 ……ふざけた話だ。

 たかが夢魔の突然変異、その一個体が、クイールをここまで壊したなどと。

 

 もしもこうだと分かっていれば――か。

 果たしてこれは、リッカくんが何度思ったことなのだろうなと、何となく考える。

 まあ、この感傷も所詮考察に過ぎない訳だが。

 どうあれ、そんな風にやり直しが利くならば、今の自分もなかったのだろうなと思うと、羨ましくなる。本人が聞けば激怒すら通り越しそうだな、これ。

 

 ……ともかく、今の私がすべきはさっさと手足が動く程度に回復することだ。

 この状態では自分すら弄れやしない。

 最低限動けるようになれば、アレに手が届いて、まともに動く肉体を取り戻せる。

 

 ――――取り戻すべきかという葛藤が、僅かにあった。

 望んでいないこととはいえ、今の一幕で仕込まれたふざけた魔族の種を受け入れれば、クイールの苦痛を少しでも共有してやれるかと。

 ……やめておこう。こんなおかしな存在が考えた同情なんて、クイールは喜ぶまい。

 手も足も引き千切られ、白濁まみれの惨状。四肢の自由が戻ったら、さっさと再構成しておさらばしよう。この虚脱感も、臭いも、べたつきも、死ぬほど不愉快だ。

 まったく、“それ”に特化した魔族というのは性質が悪い。

 ただでさえ手を出せない身を無力化させてやることがコレだとは。

 

「……ただのエルフなら壊せるんだろうがね。淫魔風情が、私を舐めるなよ」

 

 破瓜の痛みなどいつぞやの『勇蝕写本』で経験済みだし、私に限ってはこの失われたものは取り戻しが利く。

 ゆえに、特段この身がどうなろうが、私自身はどうでもいいのだが。

 

 ……アレを傍で見下ろしていた、抜け殻の如きクイールに意識が残っていたら、それは嫌だな。




【インキュバス】
サキュバスから産み落とされる、夢魔の異常個体。
男性の夢魔であり、交わった相手の特性を持って産まれてくる個体が多い。
夢を操る力を扱い切れず、若くして死ぬ個体が多いが、その分成熟したものは単なるサキュバスとは異なる厄介な存在となる。

【クイール】
――夢魔に気に入られた。大丈夫、勇者はそんなこと気にしない。
――夢魔に取り憑かれた。大丈夫、夢を見なければいいだけ。
――夢魔が囁いてくる。大丈夫、耳を貸さなければいいだけ。
――大丈夫。勇者らしくあればいい。
――そうすれば、夢魔なんてこわくない。
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