凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『夢勇病』/ゴーストライター:夢色監獄(ディストピア)

 

 

 そこにいた一人がアリスアドラだと気付いたのは、外装を装備して外に飛び出してからだった。

 状況は分からない。

 ホープがアリスアドラの傍にいて、クイールは残る二人の魔族と戦っている――外装も装備せずに。

 二人の魔族の方は本気ではないようだったが、なおさら、何が起きているのかという疑問が強まる。

 間違いないのは、なんらかの異常事態であること。

 とにかくホープを守るため、彼女とアリスアドラの間に立つ。

 見下ろしてくるアリスアドラの力は、相変わらず凄まじい。しかし、あのくらりとする感覚はない。

 ホープたちも正常と見えるところから、あの能力そのものを使っていないのだろうか。

 

「――久しぶりねぇ、ユーリくん、リッカちゃん」

「……ここで何をしてるの?」

「“人助け”、かしら。あの子が、ホープちゃんを襲おうとしていたから」

「え――」

 

 首を傾げつつの回答は、一度聞いただけでは信じようがないものだった。

 しかし――嘘ではないと、ホープは目で告げてくる。

 僕たちに向けて敵意があるのは……二人。

 クイールと戦っている魔族の一人、骨が浮き出るほどに痩せた、白い少女と……他でもないクイールだった。

 

「――ふむ。キミが百代目の勇者クンかい?」

 

 もう片方の魔族。

 一切の敵意を持たず……というより、まるでこちらに向けているものを感じないサキュバスが、杖で手を叩きながら近付いてくる。

 ……クイールの相手を、白い方に任せたままで。向こうは至極不満げであった。

 

「そうだけど……」

「なるほど――ハッハッハ! いいね! 強さと勇気が伝わってくる! ボクほどではないが、キミは強い! 少なくともジルより遥かに強い!」

「私は戦闘担当じゃない。いいからさっさと戻ってきて」

 

 元から寝起きで良くなかったリッカの機嫌がもっと悪くなったことを悟った。

 ただでさえ相手は魔族。最悪に等しい印象だったのだろうが、“こういう”タイプはよりリッカを刺激する。

 しかし、その自信に満ちた大言壮語がなんの根拠もないわけではないことは確かだ。

 彼女は強い。アリスアドラやリーテリヴィアといった、四天王たちのような底知れなさではなく、はっきりとした“強さ”だ。

 

 相対には万全の態勢を整えた方が良いと判断し、ラフィーナを呼ぼうとして――向こうが即断で拒絶する感覚があった。

 ……そういえば、ラフィーナはサキュバスだ。

 アリスアドラは彼女の上官であり、崇拝の対象でもある。

 この強大なサキュバスもまた、彼女にとっては頭の上がらない存在なのかもしれない。

 そんな存在がいる中に、自分が出ていけばどうなるかという危惧――というよりも、これは“自分を抑えられる気がしない”という自己主張であった。

 その上で、彼女の本心が伝わってくる。曰く、“アリスアドラ様に会いたい”と。単に拒絶されるよりも呼び出しにくい状況だ。

 非常に困る協力拒否(ストライキ)に頬を引き攣らせているうちに、そのサキュバスは高らかに名乗り上げた。

 

「ボクはエヴァネス! アリスアドラ様に仕える高貴なる冠! 火の試練を終えたキミならば察しが付いているかもしれないが、当然サキュバスだ! とはいえだ、ボクの美しさに惚れるのもほどほどにしたまえ? ボクは寵愛を与える相手は自ら選ぶようにしている。どうしてもという気持ちは分かる。痛いほど分かるが! 絶世の名器が安物に成り下がればサキュバス全体の沽券に関わってしまうのでね。ああ――種族を守るためだ、どうか我慢してほしい!」

 

 ――ラフィーナのこともあり、もっと機嫌の悪くなったリッカは怒涛の“演説”の途中で舌打ちしていた。

 止めなければ止まる様子のない、自己愛の爆発。

 どうやら僕が“惚れている”のは彼女の中で確定事項になっているらしい。

 こうして大袈裟な身振り手振りを交えて自身の美を喧伝している間にも、もう片方――ジルなるサキュバスは、魔法すら使わず異常な力を発揮しているクイールに壁際にまで追い詰められている。

 ホープを背に隠したままで、思わず、どうにかしてほしいとアリスアドラに視線を向けた。

 全身が外装に覆われた状態で伝わるか分からなかったが、彼女も相変わらずの眠たげな目をこちらに向けてくる。

 

「……そういう子なのよぉ。かわいいでしょ?」

「エヴァネス。私そろそろ不味い」

「おおっと! では、ジルを助けに行こうか。一緒にどうだい、勇者クン! あの子を病魔から解き放とうではないか!」

 

 高笑いしながら、悠々と歩いていくエヴァネス。

 ……病魔? クイールが?

 

「……一体、どういうこと?」

「あの子、クイールちゃんね。ずうっと隠していたことがあったのよ。ユーリくんたちも気付かなかったでしょうし……私も知らなかったわぁ」

 

 ジルに向けて振り下ろされた剣を杖で受け止め、ジルが退避したところで受け流してエヴァネスはクイールを壁に追い詰める。

 その時、叩きつけられたクイールから僅かに零れ出た、明らかにクイールとは異なる魔力。

 性質としては、アリスアドラたち――サキュバスのものに、良く似ていた。

 

「クイールちゃんは魔族に憑かれていたの。インキュバスって種族ね」

「……!」

 

 男性夢魔……インキュバス。詳しく、サキュバスと何が違うのかというのは良く分からないが、同じ性質を持つとすれば。

 火の試練の最中、眠っている最中にアリスアドラが干渉してきたことを思い出す。

 あれは、僕がリッカの夢とつながったということだから、リッカの中に、アリスアドラが巣食っていたのだろう。

 そんな素振りは一切なかったが、クイールも同じ状態だったのだとしたら。

 

「存在ががっつり根付いちゃってて、頑なな意思で必死で抵抗していたみたいだけど……なにか、折れかけるようなことがあったんでしょうねぇ。操られちゃってるような状態よ」

 

 目を閉じたまま、目の前の魔族に対して剣を振るうクイール。

 インキュバスとサキュバスが殆ど同じ存在なのだとすれば、彼女に巣食う何かは同胞に対して剣を振るわせていることになる。

 何か、理由があるのか、それとも……相手が誰であろうと関係ないのか。

 

「そのインキュバスを……アリスアドラたちは、引き出そうと?」

「まあねえ。身内の恥なんて見ていて楽しいものでもないし。というか――」

 

 アリスアドラはどうでも良さげに、伸びをしながら続ける。

 

「――多分あの子に憑いてるの、私の子だから」

「――――は?」

 

 僕も、リッカも、思考が止まった。

 彼女にとっては、さして重要なこととも感じていないことらしい。

 

「ホープちゃんを見ていて、思い出したわ。そんな子いたなって。そのホープちゃんに助けを求められたんだもの、取ってあげなくちゃねぇって思ったのよ」

 

 それは即ち、ホープの特徴に何か、ピンとくるものがあったということ。

 アリスアドラは確信している。クイールの中にあるものが――紛れもなく、ホープに関わっていることを。

 今の彼女の目的は、クイールの内に向いている。

 僕たちへの害意は一人を除いて、無い。

 アリスアドラがこれ以上手を出すかは分からないが、少なくとも、あっちのサキュバスの一人――エヴァネスは、共闘の意思があった。

 であれば……今優先すべきは。

 

「……ホープ」

「ユーリ、リッカ。おねがい、ママをたすけて」

 

 ……リッカは、切り捨てることに躊躇はない。

 その上で――僕の答えをまるで分かっているようだった。

 

「ユーリ……やるの?」

「うん。これ以上、クイールを苦しませたくない」

「いいわね、勇者らしいわぁ。頼もしいでしょ、リッカちゃん」

「……あのサキュバス二人を下がらせて。邪魔」

 

 共闘を否定した上で、リッカも渋々頷く。

 確かに、こちらに何もする気がなくとも、彼女たちは信頼できる相手ではない。

 ホープを抱いて、アリスアドラと距離を離す。首を傾げるホープにアッシュを手渡して、その場に下ろした。

 

「宿に案内してあげて」

 

 そういう指示で動くのか、少し不安ではあったが、即座にアッシュは形を変える。

 ホープの手の上で首を動かし移動を促すアッシュ。これならば、問題ないか。

 

「アッシュ……」

「あとは任せて。クイールは絶対に助ける」

「……うん」

 

 駆けていくホープを見送り、クイールに向き直る。

 それを待っていたようにエヴァネスとジルは跳躍し、アリスアドラの傍にまで戻った。

 

「我々の力は必要ないとは! ではお手並み拝見といこう! 完全に取り憑いた夢魔を、今代の勇者クンがどう払うのか!」

「勇者とはいえ生意気。人間が夢魔を追い払えるわけがない」

「エヴァネス、ジル、あなたたちもう帰っていいわよぉ」

「えっ」

「えっ」

 

 ――向こうへの警戒は、リッカが受け持ってくれる。

 ならば僕はクイールに集中するべきだ。

 剣を向ける相手が離れたことで、当然のようにクイールはこちらを捉える。新たな標的として定められたという確信があった。

 目を閉じていたクイール。その目蓋が、ゆっくりと開かれる。

 光の差さない、金色の瞳には、クイールらしくない絶望と恐怖が映っていた。

 

「……ユーリくん、リッカちゃん」

「クイール――」

 

 彼女の精神をどうにかしたい。インキュバスを取り払いたい。

 そのどちらも完全にこなすために、何が出来るのか。

 

 ――リッカ、何か手はある?

 

 ――……私には思いつかない。

 

 リッカならばという信頼があった。予想の付かないことを、リッカなら“やらかしてくれる”と。

 しかし、クイールに根付くものは思いのほか、深かった。

 であれば何もできないと、諦めるのか。それは違う。

 思いつかないならば、暗闇の向こうであれ手を伸ばすだけだ。何かに手が届けばいい。誰かが向こうから手を伸ばしてくれればいい。

 僕にはそれができて、リッカはそのきっかけをくれる。

 

「……ごめんなさい。邪魔をしないでください!」

 

『――BRAVE CODE――』

 

 聖剣からの声は、殆ど聞き取れないほどにノイズにまみれていた。

 まるでそれは、今のクイールの心象そのもの。それでも勇者らしさを強調した、強い金色の光だけは健在のまま。

 

 その黄金が封じ込められるように、クイールに収束していく。

 黄金の上に被せて取り付いていく黒い新たな外装。

 黒から伸びる鎖は硬くクイールを縛り付け、その勇気を支配する。

 “見せかけ”の勇気でも、勇者で在れると――聖剣を従えて、勇者らしくなれるという、必死な主張。

 より重厚に成立した外装は、クイールの理想の歪んだ姿に等しかった。

 

「僕が勇者なんです。勇者じゃなきゃ、いけないんです」

 

 それはクイールにとって強迫観念に等しかった。

 勇者ですから――口癖のようなあの言葉は、クイールにとって、何より“自分らしさ”に繋がるアイデンティティだったのだ。

 親友、そして、家族。他の大切なものと比較することなどできない。

 自身の歪さをイリスティーラに指摘され、それ以上を暴かれようとして、クイールは自分の中に閉じこもった。閉じこもるしか、なかった。

 そうでなければ、信じたものをすべて失ってしまうような気がしたから。

 強く抵抗し、否定していた夢魔の影響に依存してでも、クイールはそれを手放したくなかったのだ。

 

「……クイールは勇者だよ。誰が否定したとしても」

「否定されちゃ駄目なんです! そうじゃないと……ッ、こんなに意地になってる僕が――バカみたいじゃないですか!」

 

 聖剣が輝きを増し、尋常ならざる魔力が唸りを上げる。

 どうあっても“勇者たらん”とする、クイールの意地に応えるように。

 しかし――黒い拘束に縛られたその姿が発する黄金は、ひどく邪悪に見えた。




『Q-クエスター ディストピアブレイブリー』
【属性】勇気
【攻撃力】■■■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■■
【素早さ】■■■■■■■■■
【魔 力】■■■
【精神力】

【マイティエクスペリエンス99】
ディストピアブレイブリーにおいては、本機能は停止している。

【プリズナイトメア】
Q-クエスターの黄金の外装の、更に上に重ねられた黒い追加装甲。
本来外に放出することでさまざまな効果を発揮する勇気の魔力を内部に封じ込める効果を持つ。
これにより内部で循環する魔力は身体能力を大幅に向上させる。
代償として、聖剣以外からの魔力の放射による攻撃が不可能となる。

【ブラインドサンクチュアリ】
目元を覆うディストピアブレイブリーの感覚装置。
視覚を補って余りある情報を脳に伝達し、戦闘の補佐を行う。
ただし、これで集積される情報は装備者に攻撃的な対処を迫る形で導き出される。
周囲に被害を齎さずに戦闘を行うには、装備者の冷静な判断力と強い信念が必要。

【ハピネスチェーン】
『プリズナイトメア』を固定させるように、全身を強く拘束する黒い鎖。
思考を内部で完結させることを支援する精神安定装置であり、装備者に望ましい自己完結を齎す。
また、精神と直結した防具と化しているこの装備はダメージの一部を痛覚に変換し、致命傷さえ“耐えられる”ものに抑え込む。
勿論、そこから戦闘を続行するためにはきわめて強靭な意思を要する。
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