凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『夢勇病』/ジャムセッション:1・237・725

 

 

 誰もが信じる勇者でなければならない。

 それは、元より特別だったクイールがさらに強くなるための支柱だった。

 

 特別性とは、それに足る要因がなければ、異常としか映らない。

 かつてイリスティーラから、クイールという存在について聞いたことがある。

 幼い頃から才能に溢れ、ゆえに疎まれていたと。

 自覚していたからこそクイールは、同じく他とは隔絶した存在であるイリスティーラと巡り合ったし、勇者という人間の代表を受け入れることができたのだろう。

 特別という中身しかなかった彼女にとって、勇者の称号は後からやってきた器だったのだ。

 

 誰しもが、自分を勇者と認識していなければならない。

 そうあることで、自分はただの異常者ではなく、特別な存在であることができる。

 たとえ勇者の称号が生贄にも等しい犠牲者の証だとしても関係ない。そんな認識は自分が変えてみせる。

 何故ならば、自分は“特別”なのだから。

 

「倒れてくださいっ!」

「ッ……!」

 

 逃れられない勇者という鎖に縛られることを、自ら望むクイール。

 鍛錬ではなく、完全な敵意を持った彼女と戦うのは、初めてだった。

 この斬撃は本物だ。真っ向から受ければ怪我では済まない。

 聖剣だけではない。より攻撃的に変化したクイールの外装もまた十分な脅威となっている。

 より攻勢に秀でたその力は、僕たちで言う『アドラフューリー』に近い。

 

 動きを封じるためにこちらが打った手立ても、効果は薄い。

 『オズマフューリー』の触手、『リヴィアフューリー』の液体、そして『バラーズフューリー』の虫たち。

 いずれも完全な拘束が成る前に、彼女の力で粉砕される。

 この、半ば暴走した状態でなおも判断力を欠如していない辺りが、クイールの恐ろしいところ。

 こちらの対策を一つ一つ、真正面から突破してくる。

 味方としてあれほど頼もしかった存在と本気で戦うことで、その凄まじさがより分かる。

 

 ――だが。

 

 果たしてそれは、クイールの正しい強さかと言えば否だ。

 イリスティーラのように動きの癖から予測が付けられるほど、僕はクイールを知り尽くしているわけではない。

 それでも、今のクイールが“らしくない”ことくらいは分かる。

 たとえ薬に頼っていたとしても――僕が信頼し、憧れていたクイールが輝いていたのは変わりない。

 勇者に縋りつく必死の執着ではなく、誇らしげに勇者という称号を掲げる姿。

 僕が魅せられたのは、そんなクイールだ。

 

 ――分かっている。それは、僕の押し付けに過ぎない。

 間違いないと、断言できる押し付けだ。

 クイール自身が望む姿は、そういうものなのだと。

 

 イリスティーラにとっては違うだろう。彼女はクイールが勇者の称号を手放すことを望んでいる。

 ホープのことを考えても、その方が“しあわせ”なのかもしれない。

 ……クイールがそれを選択するならば、無理に引き留めたりはしない。そして、自身を貫き通して勇者として在ると決めたならば、また信頼を預けたい。

 だが――どちらにしても、今のクイールが選択するべきではない。

 クイールが道を選ぶのは、執着と強迫観念、それを肥大化させる“腫瘍”を取り除いてからだ。

 

「ユーリくん――!」

「クイール――!」

 

 彼女に根付くものを切除し、助け出す手段。

 僕には何も思いつかない。そして、リッカにも現状手立てはない。

 では、これで手詰まりかと自問自答する。何かを思いつける、手段を用意できる存在は、果たしてそれで終わりなのかと。

 

 常識の外。

 僕が勇者として覚醒するその時まで、リッカを“どこか”から支えてくれた存在。

 僕やリッカでは考え付かないことを成し遂げられる者として、思考の波に揺られてかれらに行き着いた。

 あの場所がどこだったのか、かれらが誰だったのかは分からない。

 だが――たとえばかれらが今もなお、リッカに手を貸してくれているならば。

 

 手は届くだろうか。いや、自らの力に疑問を持っていてはいけない。

 そこがどこだか分からなくとも、“どこか”に向けて手を伸ばすことは、いくらでも出来るのだから。

 

「――ユーリ……? 何を……!?」

「リッカ――()()、借りるよ」

 

 リッカと固く結ばれたつながりを通して、彼方へと手を伸ばす。

 “これ”が何なのかも分からないまま、手が届くまで、もがき続ける。

 手が届こうとしているのは、リッカがそのだれかならば或いは、とどこかで思っているから。

 まったく違う理、世界の外。この世界のあらゆるものへの不信の中で、例外になり得る存在。

 部外者だからこそ、リッカが判断を委ねる程度に意識していただれかを、自分たちの舞台に引っ張り上げる行為は軽率かもしれない。

 それでも、今はそのリッカなりの信頼に手を伸ばすべき時。

 

 エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。

 度重なる再試行、耳の奥に響く警報音の中で、絡み合った複雑な網を潜り抜ける――!

 

「ッ!?」

『んな……!?』

『どわぁ!?』

 

 “つながった”という確信の直後、前方に飛び出した半透明な二つの枠組みが、迫ってきたクイールを弾き返す。

 それぞれに映るだれかは、見たこともない姿。

 

「ふむ……? アリスアドラ様、あれは?」

「――知らないわぁ。多分、私たちが理解しようとするだけ無駄なものよ」

「よく分からないけど、あの虹色頭の方とは気が合わない。断言できる」

「それには同意ねぇ」

 

 しかし、その声には聞き覚えがあった。伝ったリッカのつながりが、知っている存在であると告げてきた。

 目を瞬かせて固まっている両者は紛れもなく、僕が一歩を踏み出したあの時に出会った、二人の“協力者”だ。

 

「ゆ、ユーリ……どうやって……?」

『――って、え? ……え……?』

「リッカのつながりを伝って、手を伸ばしたんだ。きっと届くと、そう思った」

『えっ、あっ、本物……!? ちょ、待っ……ね、寝癖だけでもどうにか……!』

『……っ……お前……お前……そんな気軽に現地民がやることじゃねえぞ……』

『んっ……はぁ……! ヤッバ、勇者くんからの無遠慮な接続……お゛っ♡』

 

 二つの枠組みは、“向こう”を映しているらしい。

 何やら即座に姿を隠し、誰も見えなくなった方にはただ、星空のような背景だけが映っている。

 そして、もう一方。

 ――女の人?

 

『引っ叩くぞ。手ェ届かねえけど。声で男だって分かるだろうが』

 

 こちらの疑問を看破したように、“向こう”の彼は苛立った言葉を返してきた。

 黒髪を伸ばした頭を雑に掻きながら、眼鏡の奥の鋭い目を向けてくる白衣の……男性。

 一見でそうとは分からない整った外見の全身で呆れを表現してくるものの、疑問は消えない。

 ……あのウサギの付け耳、なんなのだろう。

 

『ったく、例外処理も簡単にぶち抜きやがって……うわ、完全にこっちがリソース回せる状況になってやがる……』

「……突然ごめん。キミたちの力を借りたい。助けたい人がいるんだ」

 

 姿など関係ない。きっと本来ならば、僕と縁を結ぶことすらあり得なかった存在だ。

 今重要なのは、そんな常識外によって至れる可能性の先。

 今の僕たちに出来ないことを、かれらの協力によって成し得るか。

 

『いや……吝かじゃねえけど……出来ねえんだよそういうの。俺たちにも俺たちのルールがあるっつーか……』

『――んにゃ、いけるっしょ』

『は?』

 

 この理屈は分からない。ゆえに、これはかれらのルールを逸脱したものなのかもしれない。

 しかし頼れるものが他になかったと、彼を説得しようとした時、誰も映ってなかった枠組みに動きがあった。

 ――――『顔出しNG』と書かれた木製の看板である。

 

『向こうの世界観に変化が生じる前に、送ったリソースを勇者くんとイッチが再定義しちゃえばいいんよ。あたしらが向こうに凸るのはともかく、その間の“ずれ”を許容できるくらいにはイッチにはぽっかり穴が開いてるっしょ?』

『俺の知ってるネキと違う。賢者タイムか?』

 

 ……あの男性が、かつて出会ったウサギ頭で、看板の方は七色に光っていた方だと思う。

 看板を揺らしながら、女性と思しき方が何を言っているかはよく分からない。

 だが、女性の言葉が男性の言うルールの抜け道になり得るというのは、リッカの驚愕からも明白だった。

 

 ――ここに至るまでの、無数の繰り返し。

 リッカの魂は摩耗して、“次”はないほどまでに小さくなってしまっている。

 本来魂があったはずの“空白”は――外から何かを受け取れるほどに大きい。

 そこに注ぎ込まれた新たな可能性を、僕が感受できるならば、ルールを逸脱せずに奇跡が成し得る――そういうことならば。

 

「――いつまで話してるんですか!」

「ッ……!」

 

 迷いはない、そんな判断の直前、我に返ったクイールが枠組みをすり抜けて突っ込んできた。

 あれは一度現れたら、誰かの行動を阻害するものではないようだ。

 斬撃を躱して、炎熱で応戦する。外装の防御力は通常の状態から落ちていない。生半可な攻撃は、牽制にもならない。

 状況を打開するには、新たな一手が必要だ。

 

「……迷って、られない……ユーリ、ぶっつけ本番、できる……?」

「うん、いつも通り。これも、ハッピーエンドに向けた一歩だ」

 

 リッカもまた、それが可能だと、自身の欠落の利用を肯定する。

 つらいとは、思わせない。これまでずっと、リッカにつらい想いをさせてきたのだから、その欠落を使うリッカを支えて先に進むのが僕にできる最善だ。

 さあ――僕たちの決意はできた。あとは僕が、かれらを信頼するだけだ。

 

『やだ推しが尊い……辞書、あと任せるわ……あたし無理、多分今やったらイッチをパンクさせちゃう……』

『いやお前が行く流れだろ今の。……くそ、また管理人にどやされるぞこれ……』

『とか言いつつお前もノリノリじゃん?』

『うるせえ。んなもん、当たり前だろ。“乗り掛かった舟”だ。それに――』

 

 ――流れてくる。リッカに向けて落ちてくる一滴を、僕が受け止める。

 まったく知らない力だ。だからこそ、僕はそれを、僕なりに“解釈”すればいい。そうすることで、これは僕たちの力になる。

 

『――クロスオーバーは、転生者(おれたち)の憧れだろうが』

 

『クロスオーバーコード、アクセプション!』

 

 広がったイメージは、暗がり。

 奇妙に発光する液体と、揺らめく煙が視界を埋め尽くさんほどの大工場。

 異なる性質を持った一つ一つの可能性を、適切に調合する。それこそが彼が追求せんとした美学。

 その一端を、僕は形にする。『ユーリフューリー』と同じように、僕たちに重ねて紡ぎ上げる。

 

『フィーチャリンク!』

 

 枠組みの片方が消え、男性が映るものだけが残った。

 近付いてきたそれに僕たちが触れれば、それが変質の合図。

 

 背中にその大工場が集約される。

 白衣のような外装の全域に突き刺さった筒状のケースと繋がった変換装置は、個々のケースに異なる薬液を流し込んでいく。

 透明なケースは防具ではない。あくまでそれぞれに注がれた薬液を守るためのもの。

 薬液が織り成す鮮やかな色彩(グラデーション)が僕たちを包む。そして最後に、右腕に現れるのは注射器が如き射出装置。

 それは、知識の粋。魔法薬(どく)の到達点。

 

『邪魔するぞ、世界。不可能を成し遂げるのは転生者(おれたち)の専売特許だ。お前らに、理不尽の一端を貸してやる』

 

『U-リッカ! ――フィルミナイッ!』

 

 その名をもって、異質なことわりがこの世界に発現する。

 こことはまったく違う場所で大きなことを成し遂げて、楽隠居とばかりに同胞たちの活躍を眺めてきた智慧の狂人。

 彼の力が僕たちの世界に沿って最適化され、僕たちに新たな可能性を増やす。

 

『チッ……流石にこの状態でスレ見れるほど意識を分化できねえか。おい、配信続けてんのか?』

「……ん」

 

 今の感覚はまるで、僕たちの後ろに別のだれかが立っているようだった。

 隣り合わない後方支援(ナビゲーション)。しかし、彼が考える選択肢は、向こう側の保障によって強化されたつながりから伝わってくる。

 

「なん……なんなんですか、その姿。ユーリくん、リッカちゃん……? そんなの、勇者らしく……」

『勇者じゃねえのが混じってるからな。だが、勇者じゃなきゃ、人間は特別なこと成し遂げられねえのか? そう思ってんだったら、人間舐めすぎだ』

「ッ……!」

 

 勇者らしくない、を彼は肯定する。

 彼は勇者ではない。だが、力を借りることに躊躇いはない。

 僕はもとよりそういう存在だ。勇者でないものの力を借りて、ここにいる。これもその延長だ。

 

 リッカの分も、そしてかれらの分も、僕が己の勇気を信じ、勇者らしくあればいい。




【■■■■■■】
辞書。今生での名前をこの世界に合わせて翻訳すると『フィルミナイ』。
一見して女性に見えるが男性。ジーニアスな魔法薬のスペシャリスト。
ユーリの、リッカを支える存在に向けた信頼がつなげた、本来は至れない可能性。

【■■■■■■】
ネキ。今生での名前をこの世界に合わせて翻訳すると『■■■■■■』。
七色に輝く髪と絶世の美を誇る、とある世界におけるムテキのサキュバス。
顔出しNG。大変強い権力を持った存在なのでスキャンダルがあってはいけないのだ。

【管理人】
もうやだこいつら。
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