凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『夢勇病』/クロスオーバー:ノンストップ・天才(ジーニアス)

 

 

「――認めません、そんなの」

 

 クイールには、焦りがあった。

 荒い呼吸、目の前にあるものを否定しないとという意思が伝わってくる。

 

「今のユーリくんは……その姿は、“勇者らしい”あの姿より、ずっと弱い」

 

 そして、今までのいつよりも苛立っていた。

 魔族の退治という勇者の使命を、僕たちが邪魔しているから。

 僕たちは、クイール自身の存在証明を妨げているから。

 “らしくない本音”がクイールを埋め尽くす。本来ならば抱かない――抱けない負の感情が沸き上がる。

 

 彼女に憑いた夢魔の囁き。元々、クイールはそれに耳を貸すほど弱くはなかった。

 もっと早くに気付けていれば、何かが変わったか。或いは、イリスティーラとの必然的なすれ違いがある以上、どうにもならなかったかもしれない。

 これまでのクイールの選択、そのすべてが最悪の形で噛み合った間の悪さ。

 そこに付け込んだ夢魔が、とうとうクイールを打ち負かしたのが、今の状況だ。

 

「キミは勇者なのに……! なんで弱くなる選択が出来るんですか!」

 

 斬撃を躱す反応速度は、いつもよりも鈍い。

 『ユーリフューリー』の速度に慣れたからこそ、僅かな遅れはより顕著に感じられる。

 遠くて近い別の世界と交わったこの姿が発揮できる身体能力で、クイールと渡り合うのは難しい。

 ――難しいだけ。

 

『分かっていると思うが、この形態(フォーム)のスペックはいつものお前たちに及ばねえ。躱せるか?』

「――大丈夫」

 

 それは不可能ではないということ。

 イリスティーラのように、その動きすべてを見切ることはできないだろう。

 だが、今のクイールに満ちた妄執はいつものクイールを動かすものとは別物だ。

 剣筋も、立ち回りも単純だ。真っ直ぐなそれを、クイール独特の戦闘スタイルへと昇華させる信念が足りていない。

 どれだけ強大な外装を纏っていても、今のクイールには付け入る隙が存在する。

 

『ならいい。――さあ、投薬(じっけん)を始めようか』

 

 躱し、躱し、躱す。

 蹴りに対して距離を取り、突き出された剣から魔力の放出を行ってくるという予測に自身の動きを合わせ。

 大きく踏み込んで右腕の射出装置をクイールに突き付け、その中身を撃ち込む。

 

「ぅ、くっ……!? なにを……」

 

 直接的なダメージにはならない。

 この形態が唯一持つのは、彼の智慧という大工場が作り上げる無数の薬液という力のみ。

 拘束することが不可能であれば、薬によって肉体の動きを封じればいい。

 そんな、単純ながら本来の僕たちでは成し得ない解が、彼によって導き出される。

 共有された公式が本当に成立するか。理屈では理解出来ようはずもない。

 ――彼がクイールの“治療”を命題と定め、それに絶対の自信を抱いていることが分かれば十分だ。

 

「――痛みを分かりにくくした。今からやることは、荒療治だから」

「痛みを……お医者さんごっこのつもりですか。僕は――真剣なんですよ!」

「僕も真剣だ。だから、僕にできる信頼(こと)を全力でやり切る!」

 

 他力で成し得る奇跡を実現させる、この力で起こせる最善を。

 クイールが勇者らしくあらんとするなら、それでいい。この一歩先で、正常なクイールが、自分にとって一番の選択を出来るように。

 

「ユーリ、準備できた。上手く出来た……はず」

「うん。信じるよ」

 

 彼が僕たちに与えるのはあくまでその選択肢。

 何と何を混ぜ合わせ、どのような奇跡に至るのか。その道筋を辿るのは、ほかでもない僕たちだ。

 各部の機能を“公式”通りに動かし、彼が導き出した薬をリッカが完成させる。

 それを僕が適切に利用するという流れが迅速に実施できなければ、クイールを救い出すための“証明”は完了しない。

 

「ああ、もう……この感覚、気持ち悪いです! 戻してくださいよ、ユーリくんッ!」

「すぐに治る、でもその前に――!」

 

 振るわれた聖剣に、今度は回避が間に合わず、肩から突き出たケースが粉砕される。

 飛び散った薬液は不用意に混ざり合い、急激な勢いで魔力を肥大化させていく。

 その反応の結末は、薬の知識が無くとも確信できる。

 しかし、一秒後の衝撃に耐えるよりも優先するのは、リッカが完成させた薬を、正確にクイールに撃ち込むこと。

 胸部の外装に射出装置を叩きつけ、内部に満ちた“それ”を発射する。直後、膨らんだ魔力が辺りで爆発を引き起こした。

 

「あっ――!?」

「ッ――!」

 

 爆発の規模は不明。だが、小さくない。

 隙だらけな全身を襲う衝撃は魔法の維持が叶う程度のものだったが、周囲に被害を出すには十分なほど。

 震えるような悲鳴を上げたクイールの状態を確認する前に生まれた危機感は、しかし杞憂に終わる。

 

「今代の勇者クンは無茶をする。下手をすればテロ扱いだ」

 

 爆発した魔力は被害を齎す前に、くつくつと笑うエヴァネスの隣――ジルが開いた口の中へと吸い込まれていた。

 薬液が飛び散ったことによる影響をたちまち吸い尽くしたジルに、エヴァネスは笑いかける。

 

「満たされたかい?」

「全然。というか不味い」

「いつになったらあなたの悪食は治るのかしらねぇ」

 

 リッカが拒絶したことで傍観者を貫いていた三人。

 図らずして、彼女たちに助けられたようだ。

 警戒は解けないが――少なくとも、クイールに憑いた魔族を切り離すという目的は一致している。

 そして、彼女たちにとっても、聖都に被害を及ぼすのは望ましいことではないのだろう。

 ともあれ、クイールには無事、薬を撃ち込んだ。すぐに影響は、現れる。

 

「……、これって――」

 

 見た目で、何が変わったというわけではない。

 黒い外装も健在。今の状態を肯定している聖剣の魔法は消えていない。

 

『お前御用達の劇薬の上位互換……精神の強制リフレッシュだ。淫魔の根付いた土壌を溶かして一新した。あとはお前の意思次第で淫魔は払えるし、この世界の魔法でも浄化できる』

 

 重大な副作用を伴う、妖精の粉。

 クイールが持ち前の溌剌さを保つのに常用していたそれは、イリスティーラがすべて没収した。

 効果が切れたところに、イリスティーラとのすれ違いから起きた動揺が、魔族に暴走を促された主要因。

 まるで辞書の如き、圧倒的な魔法薬の知識を持つ彼は、まずクイールに“平常心”を取り戻すことが重要だと判断した。

 

 撃ち込んだのは、“手遅れをやり直す”ための薬。

 精神に働きかける薬の失敗に備えた保険として編み出したものであるらしい。

 一度今の状態をすべて捨て去り、平常心を再構築する……結果の理解しか出来なかったが、そういうもの。

 服薬に伴う、引き剥がすような痛みは鎮痛剤によって抑えられ、効果が現れたクイールから、焦りが消えたのが分かる。

 こうなれば、夢魔に取りつかれた初期状態に近い。

 決して油断できない状況ではあるものの――リッカに使った、ナディアから教わった治癒魔法でも払える状態だ。

 もちろん、リッカに残ったアリスアドラのように存在のほんの一部ではなく、本体が憑いている以上その後の戦闘は避けられないだろう。

 しかしこれで、“どうにもならない”状態は脱したということ。

 

「……おい、はらえる?」

「うん。追い払える。普段のクイールだったら、そのくらい――」

「――うォオッ!?」

 

 クイールの体から弾かれるように、煙のような存在が転がり出てきたのは、言葉の最中だった。

 

『……話くらい最後まで聞けよ』

 

 ……根付いていない夢魔であれば、いつものクイールならば追い払える。

 僕が信じるクイールは、それくらい容易く成し遂げる。

 そんな、励ましかどうかも分からない言葉は必要なくて、虚勢は必要ないほどクイールは強い存在だった。

 気を抜いたのか、外装が内に沈むように解けていき、ふらつきかけた体を聖剣で支えながら、クイールは転がるその存在を唖然と見下ろす。

 

「……なんか……こんな簡単に、解決されちゃうのも……ちょっと複雑ですね」

 

 力が抜けてその場に膝をつき、クイールは苦笑した。

 “その時”からずっと、人知れず、ただ独りで戦っていたのだろう。

 手遅れなまでに自身と一体化したその魔族を、クイールは意識しないことで対策していた。そうするしかなかった。

 サキュバスでさえ、引き剥がすのには手間の掛かる問題。

 それをただの一手で解決したのは、この世界には存在しないはずの不条理だった。

 

「ハ――ハハハハハ! いや素晴らしい! まさか完全な夢魔払いを人間が成し得るとは! 侮れないな、人間の智慧も!」

「エヴァネス、うるさい」

 

 二人の配下を放置して、アリスアドラは転がる夢魔のもとへと歩いていく。

 ――サキュバスとは明確に違う、異様な姿。

 真っ黒な甲殻が溶けて一体化したような肌を持つ――虫の怪人。

 背中に生えているのはサキュバスが持つ翼ではなく半透明な翅。垂れ下がる無数の尾は、まるで蠕虫(ワーム)の群れであるようだった。

 魔族に対する恐怖以上に、生理的嫌悪感を強く覚える異形。

 これがサキュバスと同種とされることもあるインキュバスだとは、到底信じられなかった。

 

「――久しぶりの外はどうかしら?」

「……あ……アリス、アドラ……様……!」

「正解、アリスアドラよぉ」

 

 顔を上げた先にアリスアドラが立つと、魔族は複眼の如き半透明な膜の奥にある瞳を震わせる。

 陶酔……ではない。最上位の存在を前にしたことによる絶望が、彼にはあった。

 

「あなた、あの牢獄で産まれた子でしょう? 元気そうで安心したわぁ。あなたみたいな子って、大体すぐに死んじゃうんだもの」

「ぉ、ぁ……!」

「あら……もしかして、怖がってる……? ……変ねぇ……“親子の再会”って、感動するものだって聞いたけど」

「アリスアドラ様、威圧し過ぎ。そいつはまだアリスアドラ様の力に慣れてないんだから」

 

 呆れた表情のジルが指摘すれば、アリスアドラは振り返って、まるで折れたように急な角度で首を傾げる。

 そしてそのまま目蓋を閉じていき――十秒あまり。

 その間震えあがったインキュバスは、彼女を見上げて言葉にもならない声を零すことしか出来なかった。

 エヴァネスとジルはその様子に肩を竦める。

 ようやく沈黙を終え、アリスアドラが口を開こうとした時。

 

『オーケー辞書! 復活した! 代理ご苦労! 今ならいけるぜ!』

『ほんと空気読めねえなお前。もうこっちで概ね解決したわ』

 

 再び現れた枠組みから溌剌とした声が飛び出した。

 相変わらず『顔出しNG』の看板が揺れ、その下の方に虹色に輝く髪がちらちらと映っている。

 

『は? 終わったの? ……ちょっと待って! 先代ちゃん!?』

「え? あ、はい。僕ですか……? というかあなたたち誰なんです……?」

『イッチ……じゃ伝わらないか……そう、この二人の並行世界間(プライベート)の知り合いよ。先代ちゃんを助けに来たの!』

『すげえルビの振り方したな今』

 

 恐らくは、僕とリッカ以外誰もこの二人が何者かについて、把握していない。

 リッカの支援者、と言っても伝わるまい。この二人はそもそも、こことは異なる世界の住人なのだから。

 

『つまりね! 先代ちゃんが曇ってたからビシッとあたしが解決して進ぜようって! 大丈夫、あたしにすべて任せなさい!』

「……言っていることがよくわかんないんですけど……大丈夫です。嫌な悪夢は、もう見ないっぽいので」

 

 多分、彼女も僕たちに手を貸してくれる気はあったのだろう。

 それが何故、先程もう一人の、彼の方に押し付けたのかは分からない。

 リッカにもそれとなく尋ねてみたが、「ユーリは知らない方が良い」の一点張りである。

 ようやく彼女もそれをしてくれる段階になったらしい。

 しかし、インキュバスの問題という最大の懸念は取り払われている。

 

「あとは僕が立ち直るだけ。もっと落ち着いて、イリスと、ホープと、それから自分と向き合うだけなので。でも、さっきの薬は……あなたたちのどっちかが用意してくれたんですよね? 本当に感謝してます。僕にはもう、絶対にどうにも出来ないことだって諦めてましたから」

『礼はそっちと俺を繋げたその二人に言っとけ。そいつらが決めた選択肢だ』

 

 もうクイールは暴走することはない。

 時間は掛かるかもしれないが――クイールは必ず立ち直ることが出来るだろう。

 

『……あたしもしかして用無し?』

「えっと……少なくとも僕からは何も……」

『…………イッチィ』

「ユーリ、もう切っていいよ」

「えっ」

 

 独特の呼称で縋ろうとする彼女を、リッカは特に気にかけず切り捨てた。

 なんだろう。どうも、二人に対して向けているある種の信頼の差異が激しいというか。

 リッカの支援者だとは知っているが、実際のところどういった流れでそういう関係になったかが分からない。

 研究者気質だと伝わってくる彼の方はともかく、彼女の方は性格でもリッカと反りが合わなさそうだし。

 

「……ああ、なるほど」

 

 それまでの空気など無かったかのようなやり取りを静観していたアリスアドラが、不意に口を開く。

 

()()、そういうことだったのね。道理で馴染んだわけだわぁ」

「アリスアドラ様?」

「エヴァネス、ジル……あの子を連れて先帰って」

 

 合点がいったと頷くアリスアドラは、側近たる二人に命じてから、ふわりとこちらに近付いてくる。

 意識が離れたことで、どこかへと逃げようとしたインキュバスだが、それを鋭く察したジルが拘束した。

 

「アリスアドラ様? 一体何を?」

「ちょっと遊んでから帰るわ……あなたたちだとちょっと、()()は身に余るみたいだし」

 

 眠たげに細めた目は、しかし真っ直ぐと、現れた枠組みに向けられている。

 その瞳にあるのは、ひどく曖昧な感情。

 辛うじて“殺気”といえるほどのそれが四天王たるアリスアドラから放たれていることに、警戒の度合いを一気に引き上げる。

 

『……おい。お前に向けられてるぞ。あの殺気。何やったんだ』

『あーね。なんつーの? ある種の同族嫌悪っつーか、自己嫌悪の一種かもしれないアレっつーか』

『はぁ……?』

 

 看板を揺らしながら、問いに漠然と返す彼女。

 やはり顔を出そうとはしない。しかし――声色が僅かに変わる。

 

『このまま知り合わなかったことにして解散しない?』

「それは無理ねぇ。だってなんか、こういうの……気持ち悪いじゃない?」

『――すまんイッチ。あたしのせいで余計なボス戦増えたっぽいわ』

「……」

 

 非常に望ましくない流れに向いたことを、僕とリッカは同時に悟った。




『U-リッカ フィルミナイフューリー』
【属性】火/勇気/毒
【攻撃力】■■■■■
【防御力】■■■■■■
【素早さ】■■■■■
【魔 力】■■■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■■

【U-リアルコーティング】
全身を包む真紅のスーツ。
イマジナリマテリアルコーティングを構成する物質にユーリの勇気が含まれたことで飛躍的に性能が向上している。
各種状態異常への耐性も強化されたほか、あらゆる極限環境における生命活動の維持を可能とする。

【ブレイジングブレイブリィブラッド】
スーツの内部に流れる超強化エネルギー。
全身を循環することによる強化効果は装着者から滾る勇気とリンクし、魔法の効果を打ち消す類の特殊攻撃の影響を受けない。
被ダメージに対応する回復効果は本エネルギーに付与された魔法ではなく装着者の勇気が変換されるようになっており、瞬間的な大ダメージさえ受けなければ、諦めない限りの戦闘状態維持が可能となっている。
エネルギーの基本色は紫。

【クロスオーバーライズ-237】
フィルミナイフューリーを成立させる近似世界との簡易クロスオーバー。
異なる世界同士を繋ぐバイパスの役割を持ち、一時的にリソースの供給を受けることが出来る。
受け取ったリソースはこの世界に適した性質に変換され、特殊な装備を構築する。

【ケミカルストレンジコート】
フィルミナイフューリーの白衣を模した追加装甲。
薬液が自身に齎す悪影響を無効化し、調合に要する撹拌、温度変化を自動的に実行する。
更に『Re:カーネーションリアクター』による高速演算が補助することで疑似的な時流加速を行い、求められた薬液の高速調合を可能とする。

【プレパレーションエレメントフレーム】
フィルミナイフューリーの全身、いたるところに装着された保護フレーム。
内部に注入された薬液を衝撃から守り、外的要因による性質の変化を防ぐ。
各部を繋ぐ経路は『アイディアルファクトリー』の制御によって開閉し、状況に応じた薬液の調合を適切に行う効果を持つ。
装備者の防御を優先するのではなく、あくまでこの形態における各種機能を万全に実行するためのもの。

【アイディアルファクトリー】
フィルミナイフューリーの背部の変換装置。
魔力をリソースにこの世界には存在しない特殊な薬液を生成し、『プレパレーションエレメントフレーム』に注入する。

【インジェクションバンカーバスター】
フィルミナイフューリーの右腕に装着された薬液射出装置。
プレパレーションエレメントフレームを繋ぐ経路を通じて調合された薬液はこの装置に運ばれ、敵に射出することで攻撃を行う。
近接戦闘にも対応しており、銃口を敵に押し込むことで内部に直接薬液を注入する。
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