凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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夢:ウェイクアップ!

 

 

「向こうの大陸の……西側。ホロゥって地帯にね、迷宮があるの。魔王様の作った迷宮」

「……!」

「クイールちゃんが踏破した、時忘れの迷宮。それから、調停の迷宮は知らないけど……光翼はあなたたちが持ってるんでしょ?」

 

 ハローネの町で妖精たちから貰った、空を駆ける翼。

 ただの魔道具ではないそれもまた、クイールが迷い込んだような迷宮に存在したのか。

 そして、アリスアドラが渡してきたこの鍵が開くのも、そうした魔王による試練の一つ――。

 

「なら、あと一つはユーリくんとリッカちゃん……二人に挑んでほしいなって思うのよ」

「えっと……僕は?」

 

 自身を指さすクイールを一瞥したアリスアドラは、さほど時間を掛けずに首を横に振る。

 

「あなたは……駄目。多分あの迷宮は向かないわぁ。だから……二人で行くと良いんじゃないかしら。風の試練の前でも、後でも」

「……その迷宮には、何があるの?」

「……さぁねえ。“出会い”さえすれば、あなたたちに力を貸してくれると思うわ」

 

 恐らくは、聖剣や光翼のように、勇者の旅の一助になるもの。

 聖剣の存在を教えてきたヴァンパイアたちのように明言はせず、アリスアドラはそれを示唆するばかりだった。

 

「さて……それじゃあ、私は行くわぁ。……お大事にね、クイールちゃん。ホープちゃんによろしく言っといてちょうだい」

「え……?」

 

 クイールの返事を待たずに、ゆらゆらと手を振って、アリスアドラは大聖堂に向けて歩いていく。

 収束……したのだろうか。

 深夜の当たり前の静けさを取り戻した大通りは、気付けば戦いの痕跡などどこにもない。

 もう一人の勇者(クイール)とのすれ違いや世界を隔てた誰かとのつながりが、微睡みの中で見た夢だったのかと思うほどに。

 

『勝った! 聖都再訪編完!』

『復活早えなお前』

 

 夢ではないらしい。

 二人が一切ぶれていないこと、それからアリスアドラがいなくなったことを確認して、魔法を解除する。

 同時に僕たちから離れていく力を思わず繋ぎ止めれば、再び二つの枠組みが僕たちの前に現れた。

 

『のぉっ!? このままクールに去るとか駄目なん!?』

『こいつの能力、応用利くようになってんな……』

 

 呆れ顔の男性と、相も変わらず『顔出しNG』の看板。

 そのまま去っていくつもりだったようだが、礼も言わずにさようならとはいかないだろう。

 

「ありがとう、二人とも。けど、この力……」

『ああ、望むように使え。正しく使うも間違えるも、お前次第だ』

 

 二人が離れかけてなお、つながりは健在だった。

 恐らくは、求めに応じてこの二つの力を扱うことはできる。

 その時、また二人とつながるのかどうかは分からないが、かれらはこの力を僕の側に置いていって良いのだろうか。

 

『これ勇者くんにあたしの一部を残したことになるのでは? 推しに食われた……?』

「ユーリ、あっちの方は捨てていいよ」

『勇者くんはそんなことしないが?』

 

 ……仲良いなあ、とは思う。

 やはり、どうもリッカと気が合うところが考えられないが、だからこそ上手く嵌ったりしたのかもしれない。

 

「……あの。結局、この二人は一体……」

 

 少し体が休まったようで、立ち上がって体をふらつかせながら歩いてきたクイール。

 枠組みを怪訝な表情で見る彼女にも、先の力がかれらから借り受けたものであるとは伝わっているだろう。

 類似した力を持つ勇者として、見逃すことは出来まい。

 とはいえ……リッカも、あの二人も、話す気はないようだが。

 

『気にしなくていい。もう会うことはないだろうしな』

「……そう、なんですか。じゃあ、助けられっぱなしになっちゃいますね」

『おう。借りは返させねえぞ。こういうのは貸しっぱなしの方が格好いいからな』

『辞書お前気障過ぎてキモいぞ』

『うるせえ』

 

 軽口を叩き合う二人に苦笑する。

 僕たちでは及びもつかない偉業をどこかで成し遂げた、つながる筈のないだれか。

 そんなかれらもまた等身大の存在であると、強く感じさせるやり取りだ。

 

『用は済んだ。帰るぞ――っと、そうだイッチ。後でスレの方覗いとけ』

 

 チラ、とクイールを一瞥し、そう言い残して枠組みの一つが消える。

 今度こそ、奇跡的なつながりが離れていく。それを追うように、もう一人との別れも訪れる。

 

『んじゃイッチのチャンネル登録よろしくー……うわ、逆タンしてきやがったあのアマ……他世界干渉とかこわ……

 

 こちらもよくわからない一言を残して。

 多分、関係があるのはリッカだけだろう。何か面倒ごとだったようで、リッカが溜息をつく。

 

「リッカ?」

「……なんでもない。これで終わり?」

 

 残っているのは僕たち三人だけ。今夜の騒ぎは、ようやく落ち着いたといえる。

 結果としてクイールからは夢魔が抜けて、同じような暴走はもう起こらない。

 イリスティーラとの蟠りの解消やら、未だ依存症が残っているだろうクイールやら、問題は山積みだが。

 

「重ね重ねですけど、ユーリくん、リッカちゃん。ありがとうございました」

 

 柔らかい笑みを浮かべて礼を言ってくるクイール。

 その表情には疲れがありありと見えるが、どこか爽やかだった。

 撃ち込んだ薬に含まれた作用で、もう暫く彼女の精神が強く揺らぐようなことはない。

 しかし、効果が残っている間に、イリスティーラをどうにかしないといけないか。

 

「ううん。無事で良かった。……気付けなくてごめん」

「気付かれないようにしてたんですから、謝られると困っちゃいます。……あまりはっきり覚えてないんですけど……ホープがいたんですよね?」

 

 辺りを見渡すクイールだが、目的の人物はもういない。

 大丈夫だ――アッシュを通じて、ホープが無事であることは伝わってくる。どうやら、しっかり宿まで送り届けてくれたらしい。

 ……どうして、アッシュの状態が分かるのだろう。そういう学習を向こうから行ったのだろうか。

 

「向こうの宿に避難させてある。すぐに、会えるよ」

「ん……」

 

 クイールは、すぐに頷かなかった。

 きっと、彼女からすればあまりに大きな問題。もしかすると、イリスティーラ以上に。

 暫くの後、両手で頬を叩いたクイールの表情には、一つの決心があった。

 

「二人とも、一晩だけ、ホープをお願いできますか」

「……何をする気?」

「……」

「今からイリスに会いに行きます。決着を、付けてきます」

 

 強気に笑うクイールは、完全に元通り……という訳ではない。

 それまでのような強がりではない。

 混じりけなしの、純粋な意思。

 

 ある意味では初めて見る、本当の“クイールらしさ”が、そこにあった。

 

 


 

 

 きっとあれは、夢ではないんだろうなと、はっきりと覚めた意識で感じていた。

 僕に憑いた夢魔がやったこと――僕を人質にして、イリスに手出しできないようにしてから、手を掛けた。

 おぼろげに、記憶の底に残る光景の原因は、紛れもなく僕だ。

 僕一人ではどうにもならなかったあの夢魔を知られたくない一心が――僕が彼に何もかもを明け渡してしまう要因になった。

 

 後悔というのは、きっと、こういうもの。

 極論自分の中で解決できるトラウマとはまた違う、だれかを巻き込んだ失敗。

 自分を騙し続けていた時には感じなかった心の痛みは、泣きそうになるほど傷口に沁みていた。

 

 こういうことを感じさせず、真っ直ぐに突き進む。

 それを助長させていた夢魔の目的は、正直なところ分からない。

 もしも、ユーリくんのように……だれかを強く感じる力があれば、彼の心も分かったのかな、なんて少しだけ思う。

 

「よっと……」

 

 イリスの屋敷までやってきた。

 イリスが、“あのまま”の状態でいるとは最初から思っていない。

 自分の体の状態にはひどく無関心なイリスではあるけれど、だからこそ躊躇いなく捨てられる。

 心の底から不快な状態をいつまでも維持しているほど、イリスは寛容ではないのだから。

 

「……クイール――?」

「はい。僕です」

 

 イリスは屋敷の前で屋敷に仕込んだ術式を動かしていた。

 何重にも渡る修復魔法。僕が脱出した時に少し壊してしまったが、これだけの時間で直しきったらしい。

 

「っ……大丈夫だったのか? これ以上何もされてないだろうね?」

「平気です。ユーリくんとリッカちゃん……それから、よく知らないだれかに助けてもらいました」

「よく知らないだれかって……一体何を……キミ、もうあの淫魔は……」

「僕の中には、もういません。ここにいるのは正真正銘、百パーセントの、クイールです」

 

 そう言い切れる自信があった。それほどまでに、あの薬は凄かった。

 イリスの薬と比べる気はないけれど、あんな感覚は初めてだ。

 あれが浸透してすぐ、とっくに当たり前になっていた状態がばらばらに分解されて、拒絶するべき自分の中の異物をはっきりと認識できるようになったのだ。

 結局どこの誰だか分からない、あの二人。その片方は、とんでもなく凄腕な魔法薬の調合師だったらしい。

 

 あんなに呆気なく解決されてしまうのは、複雑だった。

 ちょっとどころではなく悔しかったし、腹も立った。

 それを用意したらしいあの人にも、その一手を手繰り寄せたユーリくんとリッカちゃんにも。

 

 だけど――それがどうした。

 ユーリくんは勇者だ。リッカちゃんはずっとそれを支えてきた。あの人たちだって、ユーリくんが引き寄せた絆だ。

 そんな、ユーリくんを中心とした絆……ユーリくんの勇者としての力は、僕に無くて当たり前だ。

 自分を支えるだれかがいることを前提にした力は、僕と対照的で羨ましい。

 僕が誇る勇者の証は、ただ自分だけが特別で、自分だけが進むことを前提としていたから。

 

「……ホープは? キミたちと合流していないのか? くそ、どこへ行けと伝えるのを忘れてた……探しに行くしか――」

「ホープは、ユーリくんたちに見てもらってます。僕はまだ会ってません。こっちがまず、優先です」

 

 ホープに会いたい――しかし、それはまだ、我慢しないといけない。

 まずはその前に、収拾を付けるべきことがある。

 

「それで……何をしようというんだい? クイール、キミは何を考えている?」

「はい――もう一回……さっきのは違うんでしたっけ。なら、改めて――イリスと喧嘩をしにきました」

 

 僕の言葉に目を丸くするイリス。ああ……いつ以来だろう、あの表情を見るのは。

 何日も頭を悩ませていた魔法の紡ぎ方を、僕が思い付きの一言で解決してしまったときによく浮かべていた表情だ。

 つまり、イリスの不意を突けたということ。

 そこからたちまち真顔に……感情が怒りに向いていく。

 なんの戯言かと、そう思っているに違いない。

 

「……まだ、勇者がどうのとふざけたことを言い続けるつもりか?」

「まだ言い続けます。……頭の中から、嫌なものがいなくなって。ようやく、自分の気持ちが、前に出てきたんです」

 

 始まりは、自分の“特別”に理由を付けたいからだった。

 そして、そうでないといけないと、自分に刻み付けるようになった。

 強迫観念がなくなって、すっきりした頭の中で固まった、本当の自分らしさは、やっぱり一つだけ。

 

「――“勇者でありたい”。“そうあり続けたい”。その、僕の我儘を、貫き通しにきました」

 

 それが僕らしさ。ユーリくんが強くなる分、僕だって前に進みたい。

 この、誇れる自分を、全部が終わる時まで持っていたい。

 

「そんな妄言を抜かしていられる状態じゃないんだよ、キミは。淫魔が抜けた? だからどうした。キミの体が薬に依存しているのは変わらないだろう!」

「そうみたいですね。だから、また薬をください」

「――いい加減にしろ馬鹿娘!」

 

 ……これも、久しぶりだ。イリスに怒鳴られるのは、やっぱり怖い。

 確かに心は変わっても、体はそう変わらない。今は大丈夫みたいだけど、多分次の“発作”まではそう長くない。

 僕が勇者でいるには、もう手放せないもの。

 だから、そういうところも含めて、僕にはイリスが必要なのだ。

 

「……まだ目を覚まさないというなら……いいだろう。今度は喧嘩になるんだろうね?」

「勿論です。でも、イリス。一個だけ間違ってますよ」

 

 イリスが白衣の中からいつもの魔道具を取り出す。

 ごちゃごちゃになった自分を整理するための、制御装置――『スティーライザ』。

 確かあれも、僕のどうでもいい一言から作り始めたものなんだっけか。

 ナディアちゃんの故郷……ネシュアの技術を元にしたって言うそれで、僕やユーリくんみたいな力を実現させていたのは驚いた。

 それを取り出したということは、つまり、僕が投げた手袋を受け取ってくれたということ。

 

「僕はもう、目を覚ましているんです。救えないでしょ?」

「……ああ、その通りだよ」

 

 ならばあとは、目を覚ました僕が、僕を押し通すだけ。

 

『I-スティーラー、ショー・タイム』

 

「言わんとしていることは分かった。なら、やり遂げたまえよ」

「勿論です! こんなにはっきりとした気分は初めてなので、今までのいつよりも、全力でいきます!」

 

 姿を変えたイリスに向かい合って、剣を掲げる。

 いつもと同じだ。僕はイリスに自分の意思をぶつける。

 どれだけイリスにとって迷惑でも、自分らしさを示し続ける。

 

「あんな鎖、断ち切ってください! 僕の相棒、聖剣ブレダリオン!」

 

 親友にぶつける聖剣の輝きは、見たことがないほど強く輝いていた。

 悪夢という名の鎖に繋がれた監獄(ディストピア)なんてまっぴらごめんだ。

 僕は僕らしく、自由なままに、自分なりの究極に辿り着く――!

 

『ブレイブコード! スタンバイ!』

 

 

「さあ――ここからの僕は、九百九十九パーセントですっ!」




【アリスアドラ】
リッカに鍵を渡すために来ていた。
世界を隔てた向こうの気に入らない輩とはやり合ってユーリたちを巻き込むことは望んでいない。
でもシンプルにムカついたので“彼女”に呑まれつつあったところを助けたし、帰り際に“彼女”に嫌がらせもしていった。

【クイール】
妄執が消え、“勇者でありたい”という願望が己の中の証を究極へと至らしめる。
曰く『九百九十九パーセント』。そのお披露目は、当分先。

【イリスティーラ】
悪夢に憑かれた親友が目を覚ましたことは喜ばしい。
しかし、より前に出てきた彼女の意思が嘘偽りないことを理解して遂にキレた。
なお、インキュバスによるレイプの跡は一切残っていない。
体は再構成し、屋敷も修復済みである。
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