凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「わたくしが眠っている間に、なんともまぁ……色々あったようで」
聖都の大通りで引き起こされた戦いの翌朝。
イリスティーラからの『屋敷にホープを連れてきてほしい』という連絡により、早々に宿を出た僕たち。
裏通りを歩きながら状況を把握できていないナディアに顛末を説明すれば、至極微妙な表情でそう返してきた。
あの後屋敷に向かったクイールがどうなったかは分からない。出来れば、悪いことになっていないようにと思うばかりだ。
「……ねえ。こんどこそ、ママにあえる?」
「……えぇ、きっと」
ナディアと手を繋ぎ、アッシュを抱えたホープは不安げだった。
一応、彼女にも、クイールが元に戻ったことは伝えている。
だが当然、それだけではまだ安心できまい。あの時のクイールの様子は、それほどのものだった。
「リッカ……大丈夫?」
「…………ん」
そして、心配なのはホープだけでなく、リッカもである。
リッカは宿に戻ったあと、アッシュにホープを任せて明け方までずっと、苛々した様子でスクロールに何かを書き記していた。
ああした道具を媒介にした魔法をリッカは好んでおらず、魔法を構成する術式を誰かに共有するつもりもないことから、スクロールの使用機会など今までなかった。
恐らくは昨晩のかれらによって、必要性が生じたものなのだろうが……。
徹夜するリッカの手前、僕もあまりまともに眠れたとは言い難いものの、ふらつくリッカよりはまだ平気だ。
ナディア以外の全員が通常よりだいぶ下にあるコンディションという、場所が場所なら致命的な状況で歩くこと暫し。
外からは寂れた空き地にしか見えないその場所の柵を潜れば、幽霊屋敷と称されるのも無理はない屋敷が現れる。
扉の前まで歩み寄ったのを待っていたかのように、中から物音が聞こえ、程なくして扉が開かれた。
「やあ。おはようみんな。待っていたよ」
白衣を着崩した相変わらずの姿。
彼女の日常は知らないが、それでも日常という雰囲気がありありと出たイリスティーラが顔を出す。
「イリスっ!」
「ホープ、おかえり。怪我はないかい?」
「うん。イリスは……イリスは大丈夫? なんともない?」
「もちろん。私が頑丈なのは知っての通りだろう?」
走り寄ったホープの頭に手を置いて笑うイリスティーラに、目立った怪我は見られない。
クイールの様子からして、この屋敷でもきっとなんらかの戦闘はあった。
それらも含めて、すべて修復済みということなのだろうか。
「さて……キミたちとは色々と話したい。入ってくれ。ホープ……キミは部屋に――」
「イリス、わたしも、ママにあいたい」
「……そうなるよな。……いや、うん。もうしょうがない。クイールの自業自得ということにしようか」
……なんだろう。色々と自棄になっているように見える。
若干どころではない気疲れと諦めを浮かべたイリスティーラの表情には、同時にどこか喜びもあった。
複雑な感情は、自分をずっと苛んできた一つの問題が、どうあれ解決に向かうからこそ。
応接室と思しき部屋に入った僕たちは、自然とその部屋の中の“異物”に視線が向かう。
この二人がどうなったか。色々と予想するところはあった。
イリスティーラだけが出てきたことから、また“喧嘩”はクイールの思うようにいかなかったのだと、そう思っていた。
「……どういう状況?」
「見ての通りだよ」
「これを見てどう解釈しろというのですか」
カーペットの上に転がされたクイール。それだけであれば、まだ理解できなくもない。
しかし、ロープでやりすぎだというほどにグルグル巻きにされ、目を回す彼女はどうも……まともな戦いの後には見えないというか。
ついでに言うと、傍に剥き出しの状態で転がる輝く聖剣もどこかシュールである。
「あー……つまり、またキミが勝ったってこと?」
「いや、ボロ負けした」
「分かるわけがないよ」
少なくともこれで、クイールが勝ったと判断できようか。
ソファに腰を下ろしたイリスティーラは、指を鳴らすことで起動した魔法により、人数分の紅茶を用意してから、複雑な表情でクイールを見下ろしつつ続ける。
「吹っ切れていたね、こいつ。強いわけだ。一夜にして……人はここまで変わるか」
「クイールが勝ったなら……どうしてこんなことに?」
「反動が凄かったんだろうさ。私を打ち負かして、早々にぶっ倒れた」
「なんで縛ったんですの?」
「目を離した隙に逃げられても困るからね」
納得できるようなできないような言い分に僕もナディアも閉口する。
前からあの聖剣の力は、戦闘が終わったあとの反動がかなり大きいという旨を聞いていた。
とはいえ、倒れるようなことは初めてだ。
よほど本気で、イリスティーラとぶつかったということなのだろうか。
「……ママ」
「ああ。こういう形でキミに紹介するのは大変不本意だが……クイールだ。ホープ、キミのママだよ」
おずおずと、転がるクイールに歩み寄るホープ。
イリスティーラは、きっとそれを言うことを心待ちにしていたのだろう。
しゃがんで、クイールの頬にそっと手を当てるホープを見ながら、彼女は溜息をつく。
「……どうも感慨がないね」
「……」
だろうね、と言いそうになるのを寸でのところで堪える。
少なくともその光景は、イリスティーラも、クイールも、ホープも望んでいた光景ではあるまい。
イリスティーラの表情からは若干の後悔が見て取れた。
クイールはともかく、ホープに罪はないのだから、もっと考えた方が良かったかもしれない、と。
「ともかく、礼を言うよ。あの淫魔を取り除いてくれたこと。どうやらまたキミたちは、私の度肝を抜いたらしい」
「ううん。追い出したのはクイール自身だ。だから……」
「クイールに情状酌量の余地はある、かい? ……まったく」
イリスティーラは紅茶を口に含み、暫し考え込む。
「……妖精の粉の影響は残っている。それに、ホープのこともある。私はまだ反対だよ。残って療養に専念すべきだ」
薬の副作用として残った精神の不安定さは、夢魔がいなくなったことで少しは収まっただろう。
だが、イリスティーラの許容できる段階ではないようだ。
あくまでそれは、クイールのことを想っているためのこと。
首を縦に振ることはないだろうイリスティーラを、僕たちでは説得できない。
――そう思った矢先、リッカは手に持っていたスクロールを乱雑にテーブルに置いた。
「……なんだい?」
「読んで」
「キミから渡される魔道具とか怖いんだが……」
リッカの突然の行動を訝しみながらも、イリスティーラはそのスクロールを手に取り、開く。
中に書かれたものが何なのかは不明だが、術式だったとしても、魔力を通さなければ発動するようなことはない。
とはいえ、“開いた”という行為がトリガーとなる魔道具があるのも事実。
それをしなかったのはイリスティーラの、リッカへの信頼。善良さに対してではなく――陥れるならこの状況ではない、という少し外れたものだったが。
「……」
スクロールに目を通し始めたイリスティーラは、すぐにその表情を変える。
怪訝なものから真顔に、そして、驚愕に目を見開くまでは早かった。
「――キミ……ではないな。クイールの言っていた、知らないだれかというヤツか」
「……」
「ふふ、キミらの支援者は随分といい性格をしているようだね」
顔を上げたイリスティーラの次の表情は、再び気疲れしたものだった。
「何が……書いてあったの?」
「ふむ。ということはリッカくん独自の手段か……まあいい。薬のレシピが書いてあったよ。私がクイールに与えていたものを徹底的にこき下ろしつつ、ぐうの音も出ない改良を施した、ね。まったく、自信失くすよ」
……もしかすると“彼”の方も、“彼女”に負けず劣らず、ということなのかもしれない。
どういう形でリッカに伝えたのかは不明だが、夢魔の根を払っただけでは不足だと感じたのだろう。
その置き土産はどうやら、クイールの問題をさらに一つ解決してしまうほどのものらしい。
「リッカくん。この文面、キミが用意したのかい? もしそうではなく、だれかの言葉を書き写したものなら、そのだれかに伝えてほしい。“ありがとう。死ね。”ってね」
「一周回って気になりますわね、スクロールの中身」
冗談交じりの殺意……とはいえ、イリスティーラの苛立ちは割と本物だった。
もし、目の前に本人がいれば躊躇いなく攻撃していたかもしれない。
……技術者同士の殴り合いの一種だろうか。そう解釈しておこう。
「ユーリくん。暫く
「それって……クイールの旅自体は許すってこと?」
「経過次第だよ。この、大変ありがたい魔法薬が良い結果を齎せば、考えなくもない、ということさ」
ひらひらとスクロールを揺らしつつ、イリスティーラは苦笑する。
そこに書かれたものを受け入れ、かつ一定の信用を置きつつも、しかし心底からは認められない。そんな気持ちの表れのようだ。
「とはいえ、観察期間の間キミらの旅を止めるのも申し訳ない。無理強いはしないが、風の試練の前に何か用事があるならば、それを済ませても良いんじゃないかということさ」
クイールの旅を許すのであれば、風の試練は僕たちと共に挑んだ方が良い。
それはイリスティーラも正しいと認めているらしい。
では、クイールの復帰までにやることと言えば――と考えて、ちょうど昨晩に渡された情報を思い出す。
懐から取り出した、古ぼけた鍵。リッカに渡せと言われていたものだ。
「リッカ、これ……どうする?」
「……罠だとは思う。けど……」
アリスアドラ曰く、魔王の作った迷宮。恐らくはそこに繋がる鍵だろう。
彼女は僕とリッカで挑むのが好ましいと言っていた。
その根拠が、まともな理由であるとは思えない。リッカもそれは同感らしい。
とはいえ、その迷宮が“本物”であるならば……そこにある何かは、僕たちの力になるものである可能性も高い。
「……行ってみるべき。それがユーリの、力になるなら」
「……うん。なら、そうしよう」
風の試練も、間違いなく難関となる。そして、その先には魔王が待っている。
ならば僕たちも至れる限界まで強くならなければならない。
迷宮が、魔王が用意した試練だというのなら、それは踏破すべきものなのだろう。
「思い当たる節があるようだね。なら行って、満足してから戻ってきたまえ。その間、クイールは責任持って預かろう」
その選択をする以上、僕たちは暫く
もう当然の
とはいえ――僕もまた、勇者だ。リッカのための勇者だ。
クイールがいるという安心感がなくとも、当たり前に立っていなければ。
「それから……ナディア。キミはどうする? 亡命……というのも語弊があるが、ともかくこの聖都が目的地なのだろう?」
――そして、ここに残るべきなのはクイールだけではない。
聖都に戻ってきたのは、ナディアのためでもあったのだから。
「リーテ――リヴィアに言えばそれなりの待遇となるだろうし、この屋敷の客人として迎え入れるという手もあるな。キミはホープに良くしてくれたようだし」
「……そうですわね」
隣でなければ気付けないほどかすかに、リッカが安堵の息を零した。
これ以上、ナディアを旅には連れていけない。
ナディアの安全が確約されるのは、リッカにとっても望ましいことだった。
「……ユーリ、リッカ。聖都までの護衛、ご苦労様でした。“ここまで”で構いません」
「……うん。僕たちの我儘に付き合ってくれてありがとう、ナディア」
「ええ。あとはまあ、せっかくですから……わたくしなりに生きてみます」
僕たちへの義理立てか、そんな風に――ナディアは微笑みながら、少しだけ前向きに言った。
「っ――ナディア、ここにすむの?」
「それも……それもいいなと、考えていたところですわ」
僕とリッカは新しい力と、不安の残る次なる手掛かりを得た。
クイールは長い間の苦悩が離れ、その代わり少しの間だけ休むことになった。
イリスティーラは、理想とは程遠いながらも親友との再会を果たし、その快復に歩み始めた。
ナディアは、自分の時代の遥か先で振り回されながらも、落ち着くべき場所に辿り着いた。
この場において、理想の“百点満点”に最も近いのは、ようやく母と出会い、新しい友人の一人が聖都に住むことの決まった、ホープなのかもしれない。
そんなことを考えていれば、ナディアがリッカに近付き、耳元に顔を近づける。
「――――」
「……!?」
魔法的な伝達でも行ったのか、ほんの僅かにも耳打ちの内容は聞こえなかった。
どうやら不意を突いたものだったようで、目を丸くするリッカにナディアは先程よりも幾分無邪気な笑みを向ける。
「……どうしたの?」
「…………なんでもない」
「個人的なおしゃべりです。詮索は無粋ですわ、ユーリ」
おしゃべり、というには一方的なものだったのだが……。
なんでもなくはないのは一目瞭然。
しかし、リッカは隠し通すつもりらしいし、無粋だというならば無理に聞き出すこともない。
流石にその秘密にまで手を伸ばすのは間違いだろうと、僕はその疑問を仕舞い込んだ。
【ユーリ】
久しぶりの二人旅。
目指すはホロゥと呼ばれる地帯にある、『回顧の迷宮』である。
【イリスティーラ】
「あの時リッカくんを唆した性悪クソ野郎よりも私を怒らせたのは後にも先にも三人しかいない」と後に語る。
【クイール】
療養及び経過観察のため、ナディアと共にパーティ離脱。
【ホープ】
ママに会えた。ともだちも、ナディアは残ってくれるみたい。
でも、リッカたちはまた行っちゃうんだって。
……魔王っての、はやく倒されないかな。
そうしてリッカたちも、ここに住めばいいのに。
【ナディア】
「――もっとユーリに分かりやすいようにアピールなさいな」
【リッカ】
ユーリとは別にそういうのじゃないのでそういうのじゃないと思う。