凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
新年一発目なので全編コメディ回でお送りします。
風の試練をそう長く後回しにしている訳にもいかないという思いだった。
アリスアドラに示された迷宮が、どんな場所かは分からない。
しかし、クイールが踏破した場所のように、奇怪な仕掛けがあってもおかしくはない。
せめてそこまでのルートは最短……つまり、空路を用いて一直線としようと考えた。
識者であるイリスティーラも、反対はしなかった。
ホロゥなる地帯についてはよく知らないらしいが、直前までの平原は危険が少ないはず、とのこと。
ただし、海を渡る必要があるのは変わりない。
空を行くにしろ、人間に許された海域を僅かに逸れるルートを選ぶならば、十分に注意すべきだと。
海の魔族については、あまり多く知れ渡ってはいない。
聖都の住民であっても、それなりに知られているのは、一方的ながら、人間に好意的な種であるセイレーン。そして、不定期に現れては船を襲う災害たるクラーケンといった種くらいだという。
さらに、イリスティーラが補足した種もいるが、いずれも空を飛ぶ者に襲い掛かったりはしない。
そして海を支配する最大の種――今も生存しているかすら明確ではない、伝説の存在であるリバイアサンという種も、その海域に出てくることはない。
ゆえに、ゼクセリオンを使い高所を飛行していれば、僕たちの命を脅かす存在には出会わないだろう。
イリスティーラはそう締め括り、僕たちを送り出した。
……その言葉は、何割かは正しかった。
渡り鳥よりも高いところを飛んでいれば、クラーケンだって届かない。
リバイアサンに遭遇するようなこともなく、僕たちは順調に飛行できていた。
少なくとも、十分ほど前までは。
しかし運が悪かったのか、知識を持たなかったのが悪いのか。
向こうの大陸に着くまで、平穏な旅路が続くことはなく――僕たちは、現在進行形で脅威と相対していた。
「にげたっ」「どこ?」「あっち!」「いた!」「おっかけよう!」「きっとかわいい」「きっとかっこいい」「いけめん?」「まちがいないっ」「とべるにんげん」「はじめてみた」「ちゅっちゅしたい」「わたしたちとおなじ」「うんめいのひと」「はやく」「つかまえよう」「きみと」「わたしたちとで」「たくさんこづくりしよう」
「ッ――――!」
少し訂正。現在進行形で脅威から逃げていた。
一つ一つは小さい羽ばたきが、合わさり重なることで異常な大音量を生む。
それが延々と背中から聞こえ続けるのがとにかく不気味で、恐怖だった。
「ゆ、ユーリ……追いつかれるっ」
「くっ……!」
ゼクセリオンの出力を上げ、振り切ろうと試みる。
しかし前から挟み撃ちにせんとする別動隊の姿が見え、咄嗟に方向を転換させる。
すると合流した二つの群れにより聞こえてくる音はさらに激しくなり、背筋を再度寒気が走った。
振り返れば、まるでそれは雷雲のようだった。
迫ってくる黒い塊を構成する無数の瞳は、すべてがこちらに向けられている。
「こっちをみた」「ろっかいめ」「りょうおもい」「なんでにげるの」「おわなくちゃ!」「すき」
この種族は一体なんなのか、と思わずにはいられない。
いつかのそれは、僕にとっての嫌な思い出だった。しかしそれさえ、優しいものだったかもしれないと錯覚する。
追ってくる無邪気な瞳の一つ一つが、底なし沼のように深い闇に見える。
その、少なくとも百は超える悍ましい群れは――すべてがセイレーン。
飛行の最中、人は住んでいないと見られる、自然の多い小島の付近を通り過ぎた。
傍目に見ていたそこから突如、彼女たちは飛び出してきて、ずっと、一心不乱に僕たちを追いかけてきているのである。
あの時の、出来れば思い出したくない個体に比べ、あの群れは殆どが一回り小さい。
もしかするとあの島は、幼いセイレーンの暮らす
最初は迎撃を試みた。しかし、あまりに数が多すぎた。
ゼクセリオンで飛行している間は、『ユーリフューリー』を維持しているが、飛行中の戦闘など経験がない。というか、聖都まではクイールが操縦していたから、僕が操縦すること自体初めてである。
どうにかメチャクチャになった軌道を修正しようとするものの、彼女たちの異様なチームワークによりうまくいかず、とにかく逃げるばかりになっているのが現状だ。
「……ユーリ、このまま、逃げ切れる?」
「多分、無理……!」
というかこの分では、大陸に辿り着いても追いかけてきそうな予感がある。
……あのセイレーンも、もし見逃すようなことがあればそうなっていたのだろうか。
「……なら、倒す?」
「そうするしかないとは、思うんだけどっ!」
激しい動きを繰り返すことで、操縦に慣れてきているのが至極複雑だ。
殺気――にしては好意を感じ過ぎるナニカを悟って体を逸らせば、仲間の力を借りて加速したらしい一羽が飛び掛かってくる。
ゼクセリオンの翼で弾き飛ばしつつも、あの群れに新たな“攻撃手段”が増えたことに戦慄する。
今の動きを何度もできるとは思えない。いい加減……対峙しなければならないのだろうか。
気は進まない。
あのセイレーンたちは全力で好意を向けてきている。そんな状態のセイレーンが如何に危険かなど、よく知っている。
幸いリッカに悪意が向けられているわけではないが、慣れない状態であの大群を相手にして、魔法が解除されれば大惨事になりかねない。
たとえば、強力な攻撃を一撃。それで逃げ去ってくれれば――
「……お願いっ」
確信ではなく、願望を強く込めて、ゼクセリオンを滞空させ大群に向き合う。
目の前に四天王が現れてもこうはならないだろうという、別種の恐怖を覚えつつも、迎撃のため手元に魔剣を呼び出す。
『――はぁ!?』
「ッ!」
剣を通してこちらの様子を窺えるラフィーナは、現れて早々当たり前に叫んだ。
だが、説明している時間はない。申し訳ないが大ピンチなのだ。
魔剣を砲撃形態へと移行させ、魔力を込める。
姿勢の安定しない状況で放つべきではないのは百も承知。そうしなければならない状況ならば、全力で耐えるしかない。
『ファイナライズ! アクセプション!』
迫るのが群れであるならば、こちらも群れ。
込める魔力は風。リッカの使い魔が有する在り方の一つである、薄命の群れが持つ色。
変換、増幅。風の属性を活性化させ、攻撃の形式が成立したと同時に引き金を引く。
『バラーズ・エクスバスター!』
無数に飛び出し、ばら撒かれる緑の弾丸。
返ってくる衝撃を、魔力を放出し続けるゼクセリオンに足でしがみつくことで耐える。
飛び散る閃光は制御も何もない。弾道も速度もてんでバラバラ。敵味方すら区別しない、横薙ぎの雨となって、セイレーンの群れへと飛び込んでいく。
「わー!?」「なに? なに?」「にんげんつよい!」「はんげきたすかる」「めっちゃいたい」「あんしんしろ、ちめいしょうだ」
『ばっ……、ちょ、止めなさいユーリ! もしかしてそれセイレーンじゃないの!?』
「そう、だよ……ッ!」
『これ以上こっちにそんなもん送ってくるんじゃないわよ! 頼むから! ほんとお願いだから! うわすっごい来てる!?』
こちらも必死だ。そう手段を選んでいられない。
この時の僕はラフィーナの言葉の意味を噛み締めず、とにかく危機を脱することを優先していた。
『ちょっと! リッカ! あんたこれ放り込む意味分かってんの!? アイツが増えたようなもんよ!?』
「…………」
『なに“やっちまった”みたいな空気出してんのよ!?』
弾丸を撃ち終えた頃には、雲のようだった群れは半数以上は減っていた。
それを見てようやく、ラフィーナが何を言っていたのか理解する。
リッカが意図的に術式を停止しなければ、倒した魔族は“使われる”ことになる。
そのことについての割り切りは済んでいるが――つまるところ、リッカの管理する場所へ、あの群れの半数以上が放り込まれたということである。
ラフィーナの悲鳴は、つまりそういうことだ。
……リッカも言われて気付いたようで、言いようのない後悔の念が伝わってくる。どうやら、手遅れであるらしい。
「すごい」「ゆーしゃだ」「ゆーしゃだった」「つよい」「これが、にんげん」「ゆーしゃすごい」「こうげきしてきた」「えんができた」「ゆーしゃたすかる」「かっこいい」「だんなさま」「しんどい」「せいよくを」「もてあます」
「……」
「……ラフィーナ、お代わりいる?」
『――――頑張んなさいセイレーンたち! 協力してこの勇者を倒すのよ!』
リッカがラフィーナに世話役を押し付けたのだと、なんとなく分かった。
それを聞いた瞬間、ラフィーナは寝返った。正直、非常に申し訳ないとは感じる。
だが、残った彼女たちが諦めて撤退するどころかさらに士気を上げている以上、僕に出来ることは、ラフィーナの一層の気苦労を謝罪することだけだった。
「ごめん、ラフィーナ……もう少し手を貸して」
『絶ッッッッ対にイヤよ! こんなん引き受けるの、“アリスアドラ様に逆らう”のと二択で迫られてようやく――』
『ファイナライズ! アクセプション!』
『ああもうっ!』
……逃げようとするラフィーナをしがみ付いて止めるリッカを幻視した。
どうやら“やむなし”と判断したらしいリッカ。最早ヤケクソだった。
ここまで決死の判断を余儀なくさせるとは、セイレーンとはどこまで恐ろしい種なのだろうか。
『アドラ・エクスバスター!』
砲身に込めた火の属性は、引き金を引くことで巨大な熱線として発現した。
相変わらず凄まじい衝撃だが、これで最後だと踏ん張って、セイレーンの群れに沿って薙いでいく。
それが終わり、ようやく数えられるほどにまで減少した群れに背を向けて、ゼクセリオンを発進させる。
ここまで数が減れば、飛びながらでも対処できる。
追ってくるならば、ではあるが――大陸に辿り着いてからでも、どうにかなる数だ。
……できれば、追ってこないでほしい。リッカとラフィーナの負担を増やしたくはない。いや、ここまできたらもう誤差かもしれないが。
『ユーリ、あんた死ぬほど恨むから。見せてやりたいわよこの絵面。この世に平穏なんてないって悟ったわ』
「けど……こうする以外に、道がなさそうだったから」
『あんたからリッカに言っときなさい。放り込む相手はよく考えろって。こいつ、ただでさえ先客のセイレーンが天敵だからって私に全部押し付け――』
言葉の途中で、魔剣が消える。
リッカが強制的に接続を解除したらしい。
「……えっと。リッカ、大丈夫? ラフィーナのことも……」
「……あんまり。ラフィーナには、あとで謝る。今の連中の扱いも、出来るだけ、どうにかする」
あまりあてがなさそうな口ぶりだった。
リッカなりに信頼を置いたラフィーナへの負い目はあるようで、短絡を悔いている様子が見られる。
……こうなるのであれば、海上くらいは素直に規定の海域を使っていた方が良かった。
数少ない追手を引き離すように、速度を上げる。回り込む別動隊はもういない。
ようやく危機を脱したことに安堵して――しかし、早々のこのトラブルに、旅路の不安を覚えずにはいられなかった。
【セイレーン】
小島や岩礁に空間を広げて生息する半人半鳥の姿をした魔族。
たった一人の運命の相手にすべてを捧げるという、強い奉仕精神を種族単位で持っている。
他の種族が住んでいない小島はセイレーンのコロニーになっていることも多い。
まだ幼く、運命の相手を見つける適齢期ではない個体が群れで暮らしているのである。
運命の相手と見なされなければ、セイレーン自体は危険度の低い種であるため、偶然近くを通りかかっても問題はないどころか、セイレーンのコロニーだということに気付かない場合も多い。
しかし、万が一――そこに住む複数個体が同一の相手を見定めれば、下手な上位魔族より恐ろしい事態になるだろう。
【ユーリ】
魂レベルでセイレーンに対する特効でも持っているのか、変身状態なのに幼体の群れに襲撃を受けた。
【リッカ】
『ユーリフューリー』の戦い方やゼクセリオンの運用により、魔力消費は激しくなっているため苗床が大量に補充できたのは幸運。
不幸だったのはそれがすべてユーリを運命の相手と定めたセイレーンだったことである。
【ラフィーナ】
最近の口癖は「胃が痛い」。
【イピカ】
「当然皆も惚れるだろうな! 我の夫だからな!」