凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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勇者

 

 

 ホロゥと呼ばれる地帯に辿り着いたのは、聖都を出て十二日目の昼過ぎだった。

 そこそこに時間が掛かったのは、一日中ゼクセリオンを飛ばしている訳にもいかず、魔力を温存することを優先したため。

 ただ、徒歩であってもゼクセリオンの存在だけで、旅の始まりの頃とは快適性が段違いであった。

 セイレーンの大群に襲われて以降は、目立った戦闘はない。

 この付近に辿り着いたのは昨日の朝だったが、最後に待っていたのはちょっとした想定外。

 

 ホロゥとは、円状に建てられた柱を結ぶ魔力障壁によって囲まれた広大な地帯のことを言う。

 内部に何が存在するかは、現代には伝えられていない。

 唯一、障壁の近くに存在するフェダルナの村には、一つの取り決めが残されている。

 

 フェダルナの民は、鍵。

 この“牢獄”を開くには、あの村の住民が必要である、ということらしい。

 必要とは、つまり生贄ということ。魔王の使いが求めた時、選ばれた生贄が文字通りの鍵となり、内への入り口を開く。

 

 ――聞けば、“つい先日”もそうした事例があり、村の女の子が差し出されたとのこと。

 

 良い感情など、持てる筈がなかった。

 当然、そんなことを村に依頼するなど考えられない。

 ゼクセリオンで障壁を飛び越えられないかと考えたが、障壁は柱の上までも続いており、どこまで上昇しても超えられる様子がなかった。

 ホロゥを前にして立ち往生し、リッカと話し合って思い至ったのが、アリスアドラから貰った鍵だった。

 

「……開いた、ね」

「……ん」

 

 柱の一本を良く調べて、見つけた鍵穴に、銀色の鍵はぴたりと嵌った。

 それはそれで、この鍵が“元はなんだったのか”という疑念が生まれたが――その鍵に意思などなく、感じられるものもない。

 気味の悪さを齎しながら、鍵は柱の一部を溶かすように内への入り口を開いた。

 

「ッ!?」

 

 障壁の内は、砂原だった。

 生き物の気配はない。反対側の障壁まで続くのだろう砂の海。

 まるで――別世界だ。気温は分かりやすく変わったし、空気もからっからに乾いている。

 照り付ける太陽すら別物になってしまったみたいだった。

 

「……日除けのローブ、買ってあったよね?」

「ん、大丈夫。……魔法は使える。中と外で理屈が変わった訳でもない……障壁は環境を維持するため? それにしては……」

 

 警戒を強め、ぶつぶつと周囲の環境を考察するリッカに代わって、強い日差しを防ぐローブを二つ取り出す。

 ここまで強い日差しは経験がない。

 夏は当然、僕たちのいた村も暑くなるが、ここまでではなかった。

 リッカが体調を崩してもいけない。ここから先は、より慎重に進まないと。

 考え込むリッカにローブを羽織らせる。少し歩くだけでも、地面の踏み心地が違っていた。

 歩きにくい。少し力を入れて踏みしめれば、靴はあっさり砂に埋まってしまう。

 

「飛んで移動した方がいいかな?」

「構造としてはあの街と……、そう、だね。これだと、歩き回るだけでも、危険だし」

 

 考察を中断したリッカは問いに頷いてから、ローブに気付く。

 よほど深く考えていたらしい。この砂の海が――どんな危険に繋がるのか、と。

 

「よし――」

 

 縮小していたゼクセリオンを元の大きさへと戻し、魔力炉を起動する。

 しかし――注いだ魔力の種火が、強くならない。

 普段ならばみるみるうちに大きくなり、高空への飛行を可能にするというのに、その魔力はいつまで経っても小さなままだった。

 

「……出力制限?」

「それって、まさか……」

「……ユーリ、ちょっと多めに注いで」

 

 様子を見ていたリッカのアドバイスに従い、瞬間的に多量の魔力を注ぎ込めば――ボッ、という音と共にようやく魔力炉が動き始めた。

 

「これが限界値……動かせるけど、高所を飛ぶことは、出来ないかも」

「……徒歩よりはずっとましかな。ありがとう、リッカ。行こう」

 

 リッカが注ぎ込んだ魔力も、それ以上は大きくならない。

 最低限浮き上がったゼクセリオンは、その高さが限界であるように滞空していた。

 地面から一メートルと浮いていない、ホバリングと称した方が正しい状態は、高空を飛ぶほど安全とは言えない。

 それでも、このどこまでも続く砂原を歩くよりは、ずっと効率よく進むことができる。

 この障壁の中の、一体どこにアリスアドラの言う迷宮があるかも分からない以上、延々と走り回る可能性も考えないといけないのだ。体力の消耗は避けなければ。

 

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

 魔法を発動させ、リッカと一つになった状態で、ゼクセリオンに乗る。

 動かし始めればやはり出力は落ちていた。飛び上がることも出来なければ、速度もそこまで出ないようだ。

 

「リッカ、この他には、何か問題がありそう?」

「……多分、魔道具全般に制限が掛かってる。一応、この魔法は十全に運用出来ているし、ラフィーナも使えると思うから……飛べない以外は、問題ないかも」

 

 確かにこの魔法に制限が掛けられている様子はない。

 魔剣も『アドラフューリー』の応用である以上、武器ではあるが性能は落ちていないらしい。問題なく、力を借りられるようだ。

 ……アリスアドラは、“あの迷宮はクイールには向いていない”と言っていた。

 もしかすると、ゼクセリオンのように、聖剣は影響を受けてしまうのかもしれない。

 如何に才能に満ちたクイールと言えど、聖剣の外装がもしも使えなければ、危険度は跳ね上がるだろう。そういう理由なのだろうか。

 

「……もしかしたら、魔王の配下がいるかも、なんだよね」

「ん……気を付けて」

 

 フェダルナの村で聞いたことが真実であれば、この地帯に最近誰かが入ったということになる。

 ……或いは、この鍵が“そう”なのか。

 どちらにせよ、その風習を肯定的に捉えることはできない。

 村の住民は当たり前だと思っていた。

 

 聖都のように、正しく共に生きる場所があって。

 ナイトラクサのように、歪な平等が成立した都市があって。

 七色妖精戦隊(アイリスバスターズ)のように、人間と魔族の垣根を超えた“エンターテインメント”を見出す者がいて。

 しかしながら、こうした支配の形もまた、魔族と人間の関係なのだろう。

 

 勇者になって、魔王を倒して、こんな関係をどうにかしようと――そう思ったことは、ただの一度もあっただろうか。

 ……無いと思う。勇者とは、魔王を倒すための使命。たとえばそれが成し遂げられたとて、恐らく、この世界の在り方はそう大きくは変わらない。

 ――そのことに対する無力感とか、理不尽さは湧いてこなかった。

 きっとそれは、僕が既に、自分の勇者としての在り方を定めてしまったから。

 世界を抱えるということは、“リッカのための勇者”には、スケールの大きすぎる話なのだ。

 

 そんな風に自分の中で結論付けて、僅かに沈んだ意識を浮き上がらせる。

 いつまで経っても近付いている気のしない、向こう側の障壁より手前に、おぼろげに何かが見えてきたのはその時だった。

 

「あれかな。迷宮の入り口」

 

 とにかく目指すべきは中心地と判断し、ひたすらゼクセリオンを走らせていた。

 本当に何もない、ただひたすら続くだけの砂原ではなかったことに安堵する。

 しかし、あれが迷宮の入り口だとしたら、そこからが本番だ。

 何が待っているのか。僕たちにできる備えはしているが、それで十分なのか。どちらも不明。

 ただ、突破してみせるという覚悟だけをして、真っ直ぐとそこを目指す。

 

 さらに数十分経って、すっかり夕暮れになった頃、ようやくその全容が見えてくる。

 四方を折れた柱に囲まれた、石造りの広い台座。

 遺跡、だろうか。台座の上には、古ぼけた周囲の様相と比べてあまりに違和感のある、鈍く輝く細長い、半透明な何かが屹立している。

 ただの柱にしては、台座のど真ん中にあるのはおかしい。

 間違いなく、あの遺跡のようなものが存在する要因なのだろうが……。

 

「……何だと思う?」

「わからない。けど……“見たことある”、そんな、気がする」

 

 リッカのいう、見たことがある――それはつまり、リッカの“いつか”に、引っかかるものがあるということだろう。

 この場所に来たという話は聞いていないから、別のどこかで。

 “いつか”の失敗に関与していることを考え、より慎重に近付くにつれ、半透明な柱の前に二つの人影を認めた。

 

「……ユーリ」

「うん」

 

 人間がこんな場所にいる訳がない。

 戦闘になることも考えるべきだ。

 台座の前まで辿り着き、ゼクセリオンを回収してから、魔剣を手に取る。

 

『えぇ……ここどこ……?』

 

 見慣れない景色に困惑しているラフィーナだが、説明している余裕はない。

 ゆっくりと階段を上っていき、台座の上にまで辿り着けば、先程まで人影だったものは当たり前にそこにいた。

 

 


 

 

「ユーリ。幼馴染会議です。議題はリッカの病気をどうするか」

「まったくもって話が見えないんだけど」

「というかその会議に俺が参加してるのおかしくない? 病気の覚えもないし」

 

「いいえ。わたしが考えた結果、リッカは病気だという結論に落ち着きました。なんかこう、おかしな風土病です。でなければ“勇者になる”とか言い出す筈がありません」

「リッカが突拍子もなく変なこと言い出すのなんて今に始まった話じゃないよ」

「わたしは心配なんですよ! そのままなんの根拠もないのによく分からない使命感に燃えて外に出ないかって! 貧弱なリッカのことです、村を出て五分で野垂れ死にですよ!」

「言っとくけどカルラと初めて会った場所、村から歩いて五分圏内の場所でもないからね? そこまで俺って弱いイメージなの?」

 

「少なくとも、例えば、万が一、もしものことがあったとして、リッカが勇者になった場合――」

「すっごい勢いで仮定が重なった」

「わたしは二人をふん縛って監禁することを辞しません」

「もしかしてカルラってちょっとだけヤンデレ属性入ってる感じ?」

「自然な流れで僕も巻き込まないでくれない?」

 

「冗談に対して冗談で返しただけです。わたしだって二人をどうこうしたい訳じゃありません」

「冗談扱いにされた」

「本気だったら流石に僕もリッカの頭の中を疑うしかないんだけど」

 

「そもそもどうして勇者なんかに憧れるんですか。勇ましき者、なんて皮肉でしかありません。字面だけで判断するの、良くないですよ?」

「かっこいいから」

「リッカ。カルラの花粉浴びる?」

「今のリッカにあげるほど安くないです」

「個人的には、そこそこ真面目な理由なんだけどなぁ……」

 

「リッカはその知識欲を魔族や魔法だけじゃなくて、歴史に向けるべきです。勇者がおとぎ話のように、栄光ある称号だったら九十九代も続いてないんですよ」

「確かに……今はもう、十年に一度の生贄みたいな風習だもんね。昔は違ったのかな」

「だから俺がそれを変えるって――いだだだだっ!? カルラ、絞まってる! 絞まってるっ!」

 

「わたしも聞いただけですけど、昔から……初代から、そうみたいですよ」

「そうなんだ……なんで勇者なんて言うんだろう」

「会ったこともない魔王さまが決めたことなのでわたしには何とも……ただ、“勇ましい者”なりの、個性は求められていたみたいですね」

「個性?」

「一人ひとり違った、勇者の形、旅の形。最初から希望なんて無くとも、勇者として選ばれたその人間だからこその可能性……それが必要だって聞いたことがあります」

 

「いてて……なら、俺のもその個性にならない?」

「死んだらそのかっこよさに石ころ一つの価値もないんですよ」

「まあ……最初からそんな価値観だったなら、かっこいい勇者を目指そうなんて人はいなかったんだろうけど」

「だろ? なら唯一無二、いけるって」

「まったく……一体どの物語に影響されたんですか」

 

「ところで、カルラはその話、誰から聞いたの? 村の誰からも、そんな話聞いたことないよ」

「お母様です」

「お母様って……カルラの?」

「はい。生まれて間もない頃の話ですけど……どうしました?」

 

「いや……カルラが生まれた頃の話も、初めて聞いたから」

「話したことなかったでしたっけ? アルラウネとしてはそんなに物珍しい境遇でもないですけど。わたしからすれば、二人の方がよっぽど特殊に見えますもん」

 

「……そうかな?」

「俺らは俺らで、これで当たり前だったしなぁ。すぐ“そういうものか”って思えたし」

 

「……まあ、二人が納得してるなら、いいんですけどね。わたしが人間の全部を知ってるわけでもないですから」

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