凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
その一人は、今まで見た、どんな魔族とも違う系統の姿だった。
そして、“強い”ではなく、“分からない”という感覚。
こちらをじっと見ていると判断できる顔に感じたものは、なんなのだろう。
向けられる感情も、相対した瞬間に抱いたものも、何故か妙に混沌としていて、分からない。
真っ赤な罅のような文様が全体に浮かんだ簡素な黒鎧。首に巻かれた襤褸のような布きれ。
頭部――水晶の如く透き通った髑髏の内側には赤黒い炎が揺らめく。そういう頭部なのか、見た目がそうであるだけの兜なのか。
「何をしに来た」
こちらの正体など、見ただけで悟れるのだろう。
だから、目的を問い質しただけ。たったそれだけの、なんてことのないほんの数文字に、ここまで感情が乗るものなのかと驚いた。
方向性の定まらない、ただ“強いだけ”の感情。
リッカが魔族に対して抱く混沌とも、また違う巨大な感情には――“正しい”感情の抱き方を忘却しているかのような不自然さがあった。
「この場に入る術、入る理由を、試練に挑む最中の勇者が持つとは考えにくい。この場に何の用だ」
「……この地帯にあるっていう、迷宮に挑みに来たんだ」
「――何故、それを」
やってきた理由を伝えれば、その黒騎士は感情を徐々に内側へと引っ込めていく。
……人間の形をしたものが、考え込む素振りをしているようで気味が悪かった。
『……
「知ってるの?」
『多分、だけどね。四天王オドマオズマ様が作る、上位のアンデッドよ。特殊な祈りで、死者をゾンビやスケルトンなんかよりも、より戦闘向けの兵器にする、らしいわ。……オドマオズマ様はいつからか、自らの側近に一人、取って置きの
……確かに、ゾンビやスケルトンとは大違いだ。
はっきりとはしないが、意思や感情がそこには残っている。
ナディアとは違う形の、死に還り。それが彼なのだろうか。
「――喋る剣とは。貴方たちには何度驚かされればいいのか。如何にも、彼は
くつくつと、空気の零れるような笑いの後に聞こえてきたその声には、聞き覚えがあった。
こちらを見ていた、もう片方。
黒い外套のフードで顔を隠していた、大柄な魔族。
そのフードが外れれば、現れたのはやはり覚えのある、穏やかな笑顔。
「――オリヴィエ」
「はい。お久しぶりです、ユーリ殿。試練は順調なようで、何より。その鎧もかつて見た時より洗練され、幾分“勇者らしく”なっている」
初めに出会ったのは、聖都にさえ辿り着く前だった。
聖都の騎士であるオリヴィエとは、共闘の経験さえある。
しかし、目の前に立つ彼は、知っている彼とはどこか雰囲気が違っていた。
「どうして、ここに……?」
「……主命、でしょうか。この“楔”の起動を命じられているのですよ」
彼は、ここまで分かりにくい存在だっただろうか。
僕はあの時より、他者の在り方を感じやすくはなった。だからといって――かつてと正反対に映るのは異常だ。
だが――今のオリヴィエは警戒の必要がある存在。そう判断するに足る悪意が、見えている。
「しかし、迷宮とは。……間の悪いことです。あと数日、早いか遅いかで、変わるものもあったでしょうに」
「……どういうこと?」
「“会わずに済んだ”、ということですよ」
振り返って、柱に顔を向けるオリヴィエ。
誰に、と問う前に、彼は続ける。
「――今の貴方が、知らなくても良い存在に」
その言葉と同時、半透明な柱の真ん中が左右に割れて開く。
術式らしき緻密な紋様の浮かぶ内側に、“ナニカ”が安置されていた。
当然ながら、その“ナニカ”を見たことはない。ない、というのに。
――――抱きたくない最悪の確信を、僕はその“ナニカ”に抱いてしまった。
「カルラ。魔王って、どんなヤツなんだ?」
「“ヤツ”って……。前にも言った通り、わたしは会ったことないんです。“いる”ということが、当たり前に存在に刻まれているだけで」
「この、常識みたいな感覚だろ? コレが当たり前ってのは何となく理解できるんだけど」
「普通はそれ以上に深く気にしないんだと思いますよ。じゃなきゃ、わたしだって異常扱いされませんもん」
「当たり前……かぁ」
「ユーリは違うんですか?」
「ん……いや、ちょっと不思議だなって。魔王っていう存在を……僕、誰から聞いたんだっけ?」
「そういうの、気にし始めると寝られなくなるぞ。俺は実際何度も徹夜した」
「リッカ。あなたは女の子なんですから、もう少し生活リズムをですね……っと、そうだ」
「カルラ? どしたの?」
「一つ思い出しました。魔王さま、演劇が好きなんですって。わたしたちに分かりやすく言うなら、って前置きがあった気がしますけど」
「誰から聞いたのそれ?」
「お母様です。たまに一緒に観劇することがあったんだとか」
「カルラのお母さんって何者なの」
純白の液体を人の型に注ぎ、ゼリー状に固めたかのような体。
纏う黄金の“鎧”は、檻とも、術式とも取れた。
柱の内側に見えるそれをより緻密に、細微に、複雑にし、その存在の装束に仕立てて上から被せたように、顔以外を覆い一体化さえしている。
同じような文様で形作られた円環を背負い、冠をいただき、コードのような髪を後ろに流す二メートル余りの“人形”。
ただ一点、装束を纏わず露出した顔は、その型通りに凹凸が付いただけの無表情。
教会で、何度も同じようなものを、見たことがある。表情のない、人体を精巧に模しただけの人形――確か、マネキンと言うのだったか。
どこを見ているかさえ分からないその顔は、口の形も動かすことなく言葉を紡ぐ。
『――――ああ――』
落ち着いた、低くも穏やかな声だった。男とも、女とも取れる中性的な声だった。
たとえばその声に善意が多分に含まれていれば、こちらの警戒も解きほぐし、或いは眠気さえ齎すものだっただろう。
しかし、そこに善意など、一切ない。それどころか悪意さえない。
感情というものが、その声には含まれていない。僕の“つながり”が、行き着く先が存在しない。
まるで誰が作った訳でもなく、誰の手に触れたこともない、突然そこに現れた未知なる物質かのように。
『これは。初めての事象……つまり、未知だ。キミたちがここに至る可能性を、
声には、抑揚がある。
自然に捉えるならばそこに含まれる筈の感情は“喜び”。未知を歓迎する色。
それでも、僕が感じ取れる心の波は、やはりない。
空っぽどころか、感情を収める入れ物が、この“ナニカ”にはないのだ。
『素晴らしい』
そう思うのであれば、感動してほしい。
傍に立つ黒騎士のそれさえ、まだ“ごっこ”として成立していた。向きはバラバラなれど、感情自体は巨大なものがあったのだから。
……そう、魔法音声。
あれと同じだ。言葉を紡ぐという機能だけを、出力する魔法。合成音による読み上げ。
ようやく納得できる目の前の存在の解釈を見つけたことが、ほんの少しだけ、心に余裕を持たせる。
『やはり刺激的だ。未知はいつでも、
「――ぇ……ぁ……」
リッカの動揺を、困惑を、忘却さえしていた。
その存在の謎に引っかかり、疑問に満たされ、呑み込まれかけていた。
謎の向こうに、もがけば何かがある気がした。そんな、些細な興味を振りほどいて、リッカに意識を向ける。
「っ……リッ、カ……?」
「ゆ、ユーリ……わた、わたし……な、ん……」
恐怖するリッカを支えようとして、声がうまく出なくて。
『――ユーリ! リッカ! 落ち着いて、互いの存在を認識し続けなさいッ! じゃないとあんたら、ここでバッドエンドよ!』
「ッ!」
ぐらぐらとしていた自分を、リッカもろとも怒声が引き上げる。
“リッカのための勇者”を強く自覚する。そうでなければ僕じゃないと、足に力を入れて立つ。
「ユー、リ……ユーリ、ユーリ!」
「うん――大丈夫。ここにいる。一緒に、いる。……ありがとう、ラフィーナ。助かったよ」
『……安堵している暇はないわ。直近の
ああ――分かる。分かりたくないほどに、確信できる。
それが嘘であればどれだけ良かったか。その遭遇は、異常なまでに現実感がなかった。
『なるほど。そういう関係を選んだのか。それもまた新しい。未知だ』
少なくとも、僕たちは……その存在に出会うつもりで、ここに来た訳ではない。
『しかし、その感情は不要だ。恐怖や絶望……そのようなありふれた感情を、これ以上
いつか会わなければならない存在。
相対して、戦い、そして倒さなければならない存在。
“リッカのために”という旅路において、最後に立ちはだかる障害。
それはあまりに唐突に、僕たちの目の前に現れた。
「っ――キ、ミは……一、体……」
『解答が己の中に出ていてなお問うのは現実逃避と見える。キミたちを落ち着かせるための最適な返答は、
搾り出す声は震えていた。
それでも、自己を揺らがせるかと唇を噛み締める。
“あれ”を前にして、戦う力を失ってはいけない。戦意さえ感じなくとも――感じられなくとも。
『既に問いは投げられた。撤回する気が無いというならば、答えよう』
――抗いがたい、抗わなければならない、絶対的な存在。
『
その存在を頭の中で思い描く時に、付いて回るような邪悪さは、その存在にはない。
すべての
自らそこに収まったのではなく、その存在が先にあって、それから他のものが定まったような
『人間ははじめに、
では……生まれて、自己が確立する前に、その役割が定められていたものは果たして生命なのか。
――少なくとも、その存在は生命ではない。人間でも、魔族でもない
『はじめの人間は
その存在の紡ぐ言葉からは、何かを読み取れる気がした。
こんな状況でなければ、もっと冷静に、頭の中で整理することが出来ただろうか。
今の僕には、無理だった。
ただ、聞くまでもない結論が紡がれるのを、黙って待つしか出来なかった。
『
――――
『キミたちの認識に照らし合わせるならば、初めまして。