凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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しあわせ(ハッピーエンド)の才能

 

 

 ここまで、正体に至れる情報など碌に手に入らなかった。

 その姿を見るのは、四つの試練すべてを終えてからだと、そう思っていた。

 

 ――今、目の前にいる無機質な人形が、本当に魔王なのだと決まったわけではないと、自分の確信を誤魔化そうとする。

 こんなところに、魔王がいる筈ない。

 強さが判然としないことから、“勝てない”という予感は四天王に感じるものの方がずっと大きい。

 きっとそれは、魔王を自称しているだけの存在だと。

 

 そんな誤魔化しは、抱いた傍から消えていく。

 現実逃避だと、無情に告げられる。

 僕の力ではない、もっと根底の勇者の証(ナニカ)が、目の前の存在を誰よりも倒さなければならない相手だと認識している。

 

『それでいい』

 

 満足するように、人形は頷いた。

 ……“見せかけ”だ。それらしく振る舞う“満足ごっこ”に過ぎない。

 だから不気味だった。その存在が傍に侍らせた統一騎士(デュラハン)よりも、ネシュアの死体よりも、感じるものがない。

 感情に向けて手を伸ばしたつながりは、掴めるものもなく虚空を彷徨う。その先に何かがあるという感覚さえない。

 無意識下で抱いていた、絶対的な存在だというイメージ。

 本物を見てようやく、それはどこか間違いだったと気付いた。

 

【当機】(ワタシ)は未だ絶対ではない。キミの認識は適切だ。【当機】(ワタシ)が今、サンプルに求めるものは絶望ではない。なおも歩みを止めない希望……この世界において希少に過ぎる、輝きだ』

 

「……そ……その……」

 

 ――駄目だ。震えていてはいけない。

 この勇気は確たるものでなければ。

 ここにいるのは、僕だけではない。僕はリッカの命も預かっているのだから。

 

 痛いほどに唇を噛んで、今、僕がここにいることを強く認識する。

 (ラフィーナ)を持つ手に力を込める。僕に出来る最善をもって、運命と相対する。

 

「――、()()が、魔王だというなら、どうしてこんなところにいるんだ」

「口を慎め、勇者。今のお前に、それを問う権利は」

 

『良い』

 

 熱くも、冷えた頭で、言葉を紡ぐ。

 問いを投げれば、最初に反応したのは混沌を具現化したような黒騎士だった。

 その声を遮ったのは、他でもない魔王自身。

 挙動の一つ一つが不気味だった。だが、少しでも、魔王自身から正しい情報を得られるならばと、逃げ出したくなる足を繋ぎ止める。

 

『当然の疑問だ。勇者であるならば、【当機】(ワタシ)は試練の先で出会う運命であると、そう考えていただろう。【当機】(ワタシ)には解答の用意がある。ゆえに、控えよ――オリヴィエ、エコー』

 

「――」

「王命ならば」

 

 王の言葉に、オリヴィエは短く返し、エコーと呼ばれた黒騎士は、何も言わずに従った。

 

【当機】(ワタシ)はキミたちが開くべき扉の先に存在する。今、キミたちの前に立つ【当機】(ワタシ)は、本来風の試練を終えた時、キミたちの前に現れる想定であった端末だ』

 

「端末……?」

 

 魔王の言葉の選択は、一つ一つに“生命らしさ”を感じない。

 やはりそれは、自己のない人形たちによく似ている気がした。

 与えられた選択肢の中から、最もその場で適したものを、出力しているだけのような――。

 

『たとえば、キミたちがこの端末を破壊したとて、【当機】(ワタシ)を討つ使命が終わる訳ではない。この柱が存在する限り、際限なく端末の出力は可能だ』

 

「……その、柱を壊せば……」

 

【当機】(ワタシ)は一つ、存在の楔を失うことになる。それは【当機】(ワタシ)にとって大きな損失であり、キミが使命を成すための、大きな進展だ』

 

 ……僕たちに情報を明け渡すことを、躊躇していないのだろうか。

 その端末とやらが魔王の本体ではないとしても、言葉から察するに柱は重要なもの。

 しかし、魔王にも、二人の騎士からも、断固として柱を守ろうという意思は見られない。

 ――混乱が消えない自分の中で、彼らから掴めたものは一つだけ。

 “壊せるものなら”という、オリヴィエの挑発の意思だった。

 

 まだ、問えば解答が返ってくる。そんな気がした。

 ならば次に聞くべきことは何か、頭の中で考える。

 そして、それよりも先に――リッカの意思が、前に一歩踏み出した。

 

「……わた、しに……」

 

 躊躇いがあった。恐怖があった。

 それでも知りたい、聞かなければならないと、リッカは言葉を紡ぐ。

 ……そんな姿を感じて、僕が弱さを見せていられようか。

 ここでリッカを支えられなければ、“リッカのための勇者”だなんて名乗れない。

 リッカが前に進もうというなら、その手を取る。心配いらない、僕がいると、ほんの少しでも勇気付ける。

 ――僕は、リッカが進むための希望になれるのだと、自分に言い聞かせる。

 

「私に……繰り返しを、させていたのは――」

 

【当機】(ワタシ)であり、【当機】(ワタシ)ではないともいう。【当機】(ワタシ)がキミを利用したのは、この世界において例外であるキミに他にはない価値を観測したからだ』

 

 ――そして。

 無機質に“ここまで”を導く一役を担ったことを、魔王は認めた。

 

『この機能に耐え得る器は、はじめからキミに備わっていた。キミのはじまりは“無”だった。【当機】(ワタシ)には答えを出せない領域に、キミのはじまりは在る』

 

「……!」

 

『キミは【当機】(ワタシ)にとっての例外だ。ゆえに【当機】(ワタシ)【当機】(ワタシ)の目的にキミを組み込むことを決定した。キミが口に出さんとしている疑問にも答えを出すならば、キミの傍に勇者を配置したのはそれが理由だ』

 

「っ、な――」

「――僕を、配置……?」

 

 やはりその物言いには、違和感がある。

 だって……その言葉をそのまま捉えるのであれば、僕が勇者だと定められたのは、あの瞬間ではないような。

 ――まるで、生まれた時からそれが決定されていたようではないか。

 

【当機】(ワタシ)の制定した“勇者”という運命は、キミの発生と同時にバグが生じた。勇者の証を存在意義とする者など、本来生まれない筈だった。そして、今回。はじめから【当機】(ワタシ)が用意したサンプルでさえ、例外の導く果てに、いずれの想定とも異なる覚醒を果たした』

 

「な、にを……それじゃ、ゆ、ユーリが……勇者に、なったのは……」

 

『キミのせいではない。勇者ははじめから勇者なのだ。自覚と、通達が誕生より後にあるに過ぎない。しかしキミの懸念が、此度の勇者が“キミの傍の人間となった”ことに関するものであれば、【当機】(ワタシ)はそれを肯定しよう』

 

「――――――――」

 

 ……自分の出自に、疑問を持ったことなんてなかった。

 

 お父さん、お母さん。それがどうして、僕にはいないのかって、考えたことはあったけれど。

 深い悩みになることはなかった。何故って……リッカもまた、そうだったから。

 “そんなに悩むようなことじゃない”――リッカはとっくに割り切っていた。それが当たり前のことなんだろうって、まるで気にしていなかった。

 村のみんなが家族みたいなものだったし、誰よりも親しい大人といえば、おじさんとおばさんがいたから。

 

 僕も、リッカも、特に理由は気にしないけれど、お父さんとお母さんがいない。

 勇者となった頃には、もうそれは僕の中で、疑問ですらなかった。

 そんな、僕たちの当たり前についての答え合わせは、まったく想像していなかった場所で行われた。

 

 

 ――では、それで強く動揺したか、といえば。

 ……否だ。そうだったのかという不気味な納得はあったが、それだけだった。

 当たり前は揺らぐことなく、むしろ、魔王によって補強されてしまった。

 ただ……リッカは、今の答えに違う感情を抱いた。存在意義が突き動かされるほどの戦慄だった。

 

「わ……私が、巻き込んだ……」

 

 ――違う。リッカが僕を巻き込んだのではない。

 僕がその“勇者”を、僕だけで完結できなかった。リッカも、カルラも、ラフィーナも、ナディアも、僕が巻き込んだ。

 だけどそんな言葉が、リッカの気休めにならないことなんて、分かり切っている。

 だから、呑み込む。

 もっとリッカを強く安心させるための選択は、他にあるはず。

 

「……どうしてリッカを、いつまでも、いつまでも……苦しめようと思ったの?」

 

 今度の声の震えは、先程までと意味が違った。

 

【当機】(ワタシ)が意図したものではない。繰り返すその末路には意味がなく、価値もまたない。ゆえに不要であり、結果として記憶に刻まれ続けた。それだけだが――』

 

 そこで一度、魔王は言葉を区切る。

 まるで、答えを選んでいるかのような仕草に――僕は今まで抱いたことがないほどの不快感を持った。

 

『――“苦痛を選んだのは、自分自身だ”。あえてそう言えば、キミたちはより著しい成果を出すのではないかな』

 

 見え透いた挑発だったからだろうか。

 それとも結局、魔王が何を言おうとも、僕の心持ちは既に決まっていたからだろうか。

 少なくとも、その時点で、それまで以上に強く何かを思ったということはなかった。

 揺らぐリッカを、今にも崩れ落ちようとするリッカを、二人で一つの存在として支えることで、僕は必死だった。

 

 

『“5039”。それがキミというサンプルが歩んだ末路の総計だ。今のキミは、“5040”の道中にいる』

 

 

 だから――そのどこまでも生々しい“回数”は、リッカだけでなく僕にとっても、受け入れがたい不意打ちだった。

 

 

「――――……ご、せ、ん……?」

 

『キミに残るのは、キミにとってありふれた末路。ただの一度しか辿り着かない、尊き可能性はすべて【当機】(ワタシ)の内にある。それは、【当機】(ワタシ)にとって価値あるものであるがゆえに』

 

 ――何百回もの、途方もない繰り返し。

 リッカにとっての、希望に向けてもがく旅路。

 魔王の言葉は決定的だった。

 ――リッカが、それまでの“すべて”だと思ってきた“いつか”を、魔王は己の中にある厳然たる事実でもって、いとも簡単に“一端”へと変えてみせた。

 

『逃避にしろ、諦念にしろ、人間には普遍的な幸福に至る結末があるものだと、そう【当機】(ワタシ)は認識していた。だが、キミは逃避を選ばず、諦めを悟らず、次への希望を捨て去らなかった。特にキミの幸福を重要視していたわけではないが――これが、“お手上げ”というものだろう』

 

 

 

 ――統計から結論しよう。

 

 

 ――キミに、しあわせ(ハッピーエンド)の才能はない。

 

 

 

 パキリと何かが罅割れた音が、はっきり聞こえた。

 直後に、弾かれるような衝撃と共に、魔法が解ける。

 

「ぁ」

「リッカ――!」

 

 ――魔剣もまた、手から零れ落ちて、消えていく。

 リッカから離れようとした体を踏ん張って、倒れかけたリッカを支える。

 見開かれて揺らぐ瞳と、視線を交わしたのは一瞬だけ。

 

『……いけないな。どうしても【当機】(ワタシ)の言葉は、絶望にしか向かわない。キミの魂が限界だということを、【当機】(ワタシ)は理解している。キミをもって【当機】(ワタシ)の完成に至らなかったのは残念だが……大きな短縮であったと断言しよう』

 

 気付けば、魔王は、そして二人の騎士は、僕たちを通り過ぎて階段を下っていた。

 無機質な声は遠のいていく。この場で僕たちに手を掛けるつもりは、ないようだった。

 

『“最後の結末”は価値あるものであることを、【当機】(ワタシ)は望む。()()絶望でも良いが、もしもキミに存在するのならば、一つくらいしあわせ(ハッピーエンド)を見せてほしいところだ』

 

 一瞬だけ、強い風が吹いた。

 砂埃を巻き上げた風は離れていく三つの人影をあっという間に消し去ってしまう。

 残ったのは僕たちだけ。魔法が解けて、なすすべもなかった僕たちは、見逃された。

 

 ……リッカを支えて、引っ張ってみせると意気込んだ怒りはぶつける相手もおらず、胸の真ん中で中途半端に燻る。

 あの時、ネシュアの地で別れを告げた筈の無力感は、久しぶりに僕を苛んでいた。




【リッカ】
フェアリーたちの■■END―― XXX周目。
魔窟での■■END――   X周目。
セイレーンの■■■END――XXXX周目。
■■■■■■における■■■END――   X周目。
とある■■■の■■■END――XXXX周目。

運命から逃避すること、諦めることによる消極的ハッピーエンド――記録なし。
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