凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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400日後のミライズ

 

 

 恋……恋。

 意味は分かる。言葉の上で理解している。

 だから、シェリーの昔話に感じ入るものだってあった。だが――

 

「僕が、リッカと……?」

「見立ては違ったけどね。そんな瑞々しい、若葉の色をした関係じゃなかった」

 

 恋――僕がリッカと。

 繰り返して、初めての感覚で無性に頭の中がぞわぞわして、しかしどうにもしっくりこない。

 パズルのピースが合わないというよりも、ピースそのものが不定形であるような違和感。

 そう言い切ってしまえば及第点で片が付くけれど、それを認めたくない、或いは答えを出したくない自分とのせめぎ合いを内で感じた。

 

「いや――違う、違うって」

「違ったのは認めてるってば。そうなれる時は確かにあったけど、もう戻れないほどこんがらがっちゃってる。すっごい特殊なパターンかも。まあ……今の状態を簡単に言葉にするなら、依存かな」

 

 否定をなんなく受け止めて、シェリーは今の僕たちを定義する。

 

「依存……」

「うーん……こうして言葉にしてもなんか気持ち悪い。けど、キミは原動力をあの子に委ねてるでしょ?」

 

 そんな風に、簡単に言葉にされるのも、また複雑に思った。

 けれど、先程のものよりも自分の中で納得できる。

 この運命と戦うために、そうならざるを得なくなった関係性は、リッカを知ることでより確かな理由として固められた。

 うん――だから、足が止まってしまったのだ。僕はリッカに依存している。リッカが迷ったことで、同じように道が分からなくなってしまっている。

 

「……そうかも。けど、それでいいんだ。僕は、リッカのための勇者だから」

 

 リッカが止まった時、僕は先に行けない。勝手に進んで、リッカの望まない道に行きたくない。

 主体性はないけれどそれが僕の、勇気の形だ。

 

「私ね、そういうの、立派だと思う。押し付けられた使命でも、普通はそこまで頑なにはなれない。自分はどこまでいっても自分だもん。恋をしても、誰かを愛しても、そうはならない。この世界は、そういう土壌じゃない。……あの子のための勇者、かぁ。重いね」

「そうじゃないと、リッカの苦しみは支えられない。……リッカを置いていくつもりなんてないよ。僕はリッカと一緒に、歩いていくって決めたんだ」

「だから今、ごちゃごちゃになっちゃってるんだね。あの子が答えを出すの、待ってるんだ」

 

 誰かに言われると、余計に情けなくなる。

 ラフィーナにしか頼れない状況で、僕は待っているしかない。

 “リッカのための勇者”としては正しい。それでいて――男として、なんだかそれは違う気がするのだ。

 

「……キミたちの事情、詳しくは知らないよ。だからさ、気に入らなかったら聞き流してほしい。ここまで黙って付き纏ってた私なりの、お節介ね」

 

 そんな僕が、今“頼れる存在”は、あえて言うならばこの小さな妖精しかいない。

 自然と、そのお節介に耳を傾ける。ぴたりと当て嵌まる答えなんて出る筈がなくとも、もやもやを晴らす手掛かりがほしかった。

 

 

 

 

「あの子は幸せを目指してる。私が好きな幸せの形と比べられないほど、遠くて、難しくて、細い、辿り着く算段すらもない幸せ」

「……」

 

 

「きっとゴールには、明確なイメージなんてない。こういう前提があって、こういう道のりを進めば、きっと最後に待っている。そこまで辿り着けばあとはどうでもいいか……それとも、道のりを進むことに精一杯で考えている暇もないのかな」

「……」

 

 

「ちょっとだけ、フレアに似てる。フレアも、一番遠くに描いているイメージなんて、本当はないの。ただ、フレアの場合は、歩いている道そのものが自分の理想みたいなものなんだ」

「……」

 

 

「自分の物語を、目の前のだれかと共有して、世界を彩る。そこに妖精なりの“面白さ”を見出した。私も、ベルも、コッペも、少なからずそれに心を動かされて、腐れ縁になった。アッシュはちょっと違うけど。ベルなんてすごいよ。文句ばっかだけどずっとフレアに付いてってるもん。もうぞっこんって感じ」

「……」

 

 

「ただまあ……私の持論としては。……目標ってね、どんなに小さくても、具体的じゃないと駄目だと思うんだ。幸せを……ハッピーエンドを目指す――とっても素敵。けれど、そのハッピーエンドってなに? ハッピーエンドで、なにをしたいの?」

「……」

 

 

「暗い道の先の、鮮やかな光、眩しい輝き。そんな風に、ちゃんとした形のないものを目指しているだけじゃあ、前が見えなくなった時、手探りでも進めなくなっちゃう」

「……」

 

 

「ちょっとした旅なら、曖昧でもどうにかなる。険しい道のりだからこそ、確かなものを目指して歩くの。もやもやとした希望よりも、はっきりした希望の方が、ずっと強く“辿り着こう”って気にさせてくれるでしょ?」

「……」

 

 

「……魔王さまの支配がなかった頃を、私は知らない。というか、キミたちに付いていくまで考えたこともなかった。えっと……千年、だっけ。そこまで長生きできる種族って、多分そんなにいないでしょ。だから、その頃を知っている魔族は少ないと思う」

「……」

 

 

「そんな世界で、押し付けられた役割でも、キミたちは魔王さまの支配を終わらせることを目指してる。全部が終わったその景色をイメージがもやもやとしたものになるなんて当たり前。多分その景色は、どんな人間にだってうまく描けない」

「……」

 

 

「けど――ここまでの試練、これからの試練よりも難しいなんてことはないでしょ? 他の人間の、誰にもできないことを、今の時点でキミたちは何度も成し遂げてる。ネシュアのアンデッドを相手に大立ち回りできる、操られたお姫様を助け出せる、ベルの……ショー用とはいえちょっとあいつが張り切っちゃったゴーレムをぶっ壊せる、キミたちだから出来ることだよね」

「……」

 

 

「それに比べたら、自分たちの中だけで描けるイメージなんて、簡単だよ。非現実的でもいい、無理難題でもいい。魔王さまに押し付けられた使命を要望通りに果たしてやって、戦わなくてよくなった世界で、キミとあの子はどんな風に過ごしたいの?」

「……」

 

 

「言っとくけど、キミが“自分は死んでもあの子を送り届けたい”なんて抜かしたら、痛いじゃ済まない目に遭わせるからね。まさか言わないとは思うけど、そんなのハッピーエンドじゃないから。私が目を付けたんだから、ちゃんと二人で辿り着いてもらわないと困る」

「……」

 

 

「イメージできるはず。きっと、思い浮かべられるはず」

「……」

 

 

「――もう一回聞くよ」

「……」

 

 

「あの子にどうなっていてほしい? キミはあの子をどんな世界に連れていきたい?」

 

 

 

 

「……僕は」

「うん」

 

 

 

 

「リッカに――リッカに、笑っていてほしい」

「うん」

 

 旅に出る一年前。リッカが“また”戻ってきたあの日から、その笑顔を見ることは滅多になくなった。

 僕たちに見せるのは、申し訳程度の愛想笑い。

 それも、見抜こうとしなくても分かるほどの、下手糞で曖昧な作り物。

 だから、離れていこうとしたリッカを繋ぎ止めたときに久しぶりに見せてくれた本物の笑顔が嬉しかった。

 

「いつかの当たり前は取り戻せないけど、リッカの笑顔を、また自然な表情にしたい」

「うん」

 

 体の弱さ、見た目の儚さなんて、感じることさえ馬鹿らしい。

 いつかのリッカは、そんな女の子だった。

 新しいもの好きで、遠慮がなくて、やろうと思えば何もかも出来て当たり前だと思っていた、強気で身勝手な女の子だった。

 後悔するような出来事でも、まあいいかと笑って済ませて、何食わぬ顔で持ち直してみせた。

 あの頃の諦めの悪さというか、心の強さは……強がりでもなんでもない、リッカの才能だった。

 

 それはもう、二度と戻ってこない。今のリッカは、ああいう風には笑えない。

 けれど、今のリッカにできる精一杯の笑顔――“幸せ”の感情表現を、自然なものにすることならば。

 

「もう一人……幼馴染がいるんだ。旅に出る前は、三人で、いつも一緒だった。毎日が楽しくて、幸せだった」

「うん」

 

 今もカルラは一緒。僕とリッカを支えて、いつも背中を押してくれる。

 それでも、この旅は僕たちの当たり前じゃない。狙ってトラブルを起こすような、飽きるほどの平和じゃない。

 

 三人一緒の関係は、変わると思っていなかった。

 きっと……普通とはちょっと違う関係。

 それでも、三人とも、そうなって当たり前だと思っていたし、カルラを受け入れてからは村のみんなからの反対も聞いたことがなかったから。

 

 三人で大人になって。僕もリッカも、まるで想像できなかったけれど、カルラがいつも言っていたように、いつか子供が生まれて。

 そんな未来。ただ、“輝かしい未来”を曖昧にイメージするよりもずっと眩しい、賑やかな平穏。

 当たり前だったから、欲しいだなんて思ってなかった。

 手放すまで価値を知らなかった大切な時間。

 日常というものを、僕たちが再び手に入れるなら――やっぱり僕は、あんな日がまた来てほしい。

 

「三人の日常。笑い合って、誰かの思い付きを試して、ご飯を食べて、眠って……大人になって。魔王よりもずっと先で、そういう当たり前を、また始めたい」

「それが――キミの望むハッピーエンド?」

「うん。僕が、リッカと一緒に辿り着きたい、僕たちなりの幸せのかたち」

「……勇者が描くには、普通すぎる未来図だね。だけど、それが何よりの幸せ。キミたちの一番尊い姿だって、私にも分かる」

 

 もっと欲張るつもりはない。

 だけど、これさえ高望みだというのなら、どこまでだって欲張りになる。

 これは恋じゃない。シェリーの言うように、どうしようもない依存なんだと思う。

 

 それでいい。窮屈な依存でいい。

 僕の考えるハッピーエンドは、リッカの笑顔が最低条件なのだ。

 

「――できるじゃん。自分で選んで、足を進めること」

「え……?」

 

 そんな僕の答えを聞いて、シェリーが浮かべていた優しい笑みは、再度苦笑に変わる。

 

「あの子と一緒に歩いてこられた。倒れそうなあの子を支えて、あの子の見ている道に向かって先導できた。キミの迷いってつまり、いつも道を示していたあの子が迷ったから、一緒に迷子になっちゃっただけ」

 

 僕とリッカの関係性だけではない。

 小さな妖精は、僕の迷いの理由さえあっさり言葉にしてしまった。

 歩みが止まった理由として、それは異様なほど腑に落ちた。そして、もう今は、足が動かないなんてことはない。

 ――おかしな話だ。

 大きな壁だと思っていた迷いは、正体に気付いた時には解決してしまっていた。

 

「……ありがとう。キミがいなかったら、どうなってたか」

「お礼よりももっと、ずっと欲しいものがあるよ。――キミの描いた未来。そこにあの子を、連れてってあげて」

 

 その、ふとした瞬間のまばたきの後には、シェリーの姿は視界から消えていた。

 数秒、頭に小さな小さな手が置かれて、それから僅かな気配さえ、感じ取れなくなる。

 

「――頑張れ、男の子」

 

 その短い激励を最後に、部屋は恐ろしいほど静かになった。

 まるで、最初からそこには僕だけしかいなかったように、自然な静寂。

 ――まだこの部屋の、或いはゼクセリオンのどこかにいるのだろうか。だとしても、もう僕の前には現れない気がした。

 

 ……あのお節介な恋妖精が、お礼よりも欲しいもの、か。

 “道の歩き方”を教えてくれた彼女のためにも――という訳ではなくとも……うん。辿り着こう。

 

 リッカが指さす方向でなくとも、迷うリッカを連れて、僕が道を見つけて歩くことができる。

 ――簡単なことの筈なのに、気付かなかった。

 手を引いて、一緒に歩くことが出来ても、リッカが迷った時に同じように足を止めてしまう自分。これは、変えるべき当たり前だ。

 リッカが止まってしまったならば、背負ってリッカの分も歩こう。その分、ハッピーエンドは確実に近づく。

 

 一緒の未来。当たり前の日常。……シェリーの言う通りだ。

 目指す先にある景色を思えば、前に進む足はずっと軽い気がした。

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