凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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404光年のコウカイズ

 

 

 ――なんでもできると、そう思っていたらしい。

 

 そいつの新しい体は、決して丈夫なものではなかった。

 生まれつき、体が弱い。体力はなく、本来ならば魔法もそこまで扱えないはず。

 場所が場所なら、落ちこぼれにもなり得る……そんな体。

 

 それでもそいつには、センスがあった。

 学んだことを記憶し、実践し、応用し、発展させる根性があった。

 何より、多くに触れる好奇心があった。

 失敗しても、次はどうにかなると、そんな呑気な心持ちで、そいつは魔法を学んだ。

 楽しいから――そして、その結果を二人の幼馴染と共有し一喜一憂するのが、幸せだから。

 

「……あんたがその、転生者、とかいうの?」

「ん……前世のことなんて、覚えてない。ただ、そうだったって、頭の隅にこびり付いているだけ、だけど」

 

 リッカに聞かされたのは、物語にしてもチープな話だった。

 自分には前世が……つまり、今の自分になる前の命があって、それが一度死んでこの世界に生まれ直した存在だと。

 誰がそんなカミングアウトを予想できたか。転生なんて話、聞いたこともない。

 いやまあ、霊体を通したり、アンデッドの応用なんかで近しいことは出来るだろうが……なんだ別の世界って。

 普通に怖かった。

 勿論、私に理解させる気があるのかどうかも分からないおとぎ話を大真面目に話すこいつが、である。

 

 ……だが。少しだけ、納得いく部分もなくはない。

 魔王様の言葉――あのお方が、この女を特別視して、繰り返しを強要していた理由。

 それが転生だとかいう、この世界のイレギュラーたる素養にあるのだとしたら……すべてのきっかけとなるのだろう。

 

「はぁ……殆ど意味が分からないけど、ここまでを一旦話の前提として、受け入れる。それで? あんたのお願いってのは? その転生とやらと関係があるんでしょ?」

 

 未だに迷いがありつつも、リッカは肯定した。

 これが万が一真実であっても、重度の思い込みであっても、一応聞いておかなければなるまい。

 別に心配なんざしたくないのに、こういうことを話されたら慮らないわけにもいかない。真剣に今後に差し支える。

 

「……魔王を倒したあと。……きっと、もっと強いのが来る。転生者……それも、すごく厄介なの」

「あまり聞きたくないけど言うわね。頭大丈夫?」

「……そんなに大丈夫じゃない」

 

 正しく自分を認識できているようで何よりだ。

 なんだ、魔王様より強い何かって。これ心で理解しないといけないやつか。

 

「あんたの言葉を信じるなら、転生者ってあんたみたいなのでしょ? ……正直、そんなに脅威には感じないわね」

 

 別の世界の誰かが生まれ直したってのが……こいつの言う転生者だとしよう。

 それが人間なのだとしたら、別に考慮すべき存在でもない。今のユーリならどうとでもなるだろう。殺せるかどうかは別として。

 

「……私とは比較にならない。一口に転生者って言っても……色々あるみたいだから」

「で? あんたはその中でも大したことない、落ちこぼれだってこと?」

「……“当たり”な方だったって……言ってた」

「喧嘩売ってんの?」

 

 それじゃああんたより厄介なヤツって何なんだと問いたい。

 いや、やっぱり問いたくない。なんかこいつでも全部分かっているわけじゃなさそうだし、そもそもこいつ自体確信を持っていない。

 “きっと”……というからには多少は根拠もあるのだろうが、それを理解するまでに一体いくつの“新設定”が飛び出すことやら。

 何かあるなら付き合ってやらないでもないが、やっぱりそれを理解するのは起きてからでいい。

 私は問題を先送りにしようと決めた。できればこの話が一から十までこいつの妄想で、先送りじゃなくて消滅してほしいと切に願う。

 

「……まあ、とりあえず。それが“もしも”来たら手伝えってことね。口約束でいいならこの場で応じてあげるわ。付き合いのいい私に精々感謝なさい」

「ん……ちょっと違う」

 

 違うのかよ。じゃあなんだと言うのだ。

 次に何を言い出す気だ? (ラフィーナ)も実は転生者だった、とかか?

 何を言うにしても話だけは聞いてやる。今の内に全部突っ込んでおきたい。

 

 そんな風に気軽に構えていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の中の空間……あなたに預ける。それを使って、ユーリを、助けてあげて」

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――空白に放り込まれたその“お願い”は、私にとって不意打ちでしかなかった。

 

 先の転生云々の話くらい、こいつは大真面目に話していて。

 先の転生云々の話よりも、ずっと私は現実味のあるものとして受け取ってしまった、その言葉。

 今いるこの、こいつが捕えた魔族を使って魔力を搾り、苦痛を与える苗床。

 要するにその管理権限を私に預けるということか?

 私が悪用する可能性とか、そもそも魔族を利用するこの機構を私が容認し続けるわけがあるかとか、そういうことはまず置いておくとして。

 

「……あんたの頭の中に残しておけばいいじゃないの。どうせ、この中にいる限り、苗床は死なないんでしょ?」

 

 まともな食糧などなくとも、ここで死は発生しない。

 永遠に続くとさえ錯覚する凌辱で心を壊したとて、死ぬことは許されない。

 多分ここは、放置しておいても動き続ける。役割が終わったら、増え続ける使い魔の機能さえ制御できれば、管理にも困らない。

 

「ん……どれも、死なない。――誰かの頭の中にあれば、いつまでも動かせる」

「……あんた、まさか」

 

 ……そのとき浮かんだ想定を、“最悪”と思ってしまうのは腹立たしかった。

 こいつが当たり前だと悟っているのが、死ぬほどムカついた。

 

「……多分……私は、()()()()から」

 

 まだ終わったわけでも、決まったわけでもないのに、未練まみれの言葉だった。

 頑なに“まだだ”を続けて、何度も折れかけて、それでも歩き続けた自分の限界。

 後悔に満ちている筈なのに、どこか清々しい、不気味な表情は――まるで初めて自分のゴールを意識したかのようだった。

 

「――根拠は?」

「ない。ない……けど、ずっと求めていた、魔王を倒したその先。ハッピーエンドに辿り着いたら、私はもう、満足しちゃうと思う。……それ以上は、歩けない」

 

 今も無理して立っているだけ。

 とっくに消え果てていてもおかしくない、ゴールに向かう気力。

 こいつは、諦めないと決めた時から、ハッピーエンドとやらを目標に歩いてきた。

 その先に……終わりの先にあるナニカを、いつから予感したのかは知らないが……ともかくこいつは、そこまでは“無理だ”と悟った。

 

「……それって、ハッピーエンドなわけ?」

 

 こいつが何をハッピーエンドと定義しているかは知らないが。

 ――敵を倒して、主人公が使命を終えて、その仲間は念願が叶ったことに満足して限界を迎える。

 それがハッピーエンドなのだとしたら、だいぶ点数が低いと思う。

 少なくとも、こいつはそんな妥協を求めない。

 手に入るものがあるとしたら、とことんまで欲張る。だから、粗末な逃避なんざせずにここにいると、そう思っていた。

 

「うん……そこに着いたら、ユーリと、カルラの、背中を押して……それでおしまい」

「断言してあげる。あの二人、納得しないわよ。どれだけ劇的に魔王様を倒しても、あの二人にしてみれば急転直下のバッドエンドね」

 

 そうなったら、それから先にあの二人は笑えまい。

 ……こんな因果を辿った連中が辿り着くハッピーエンドがあるとしたら、何もかもがうまく行った大団円くらい。

 それは、ユーリもこいつも生き延びて、その先への扉をこじ開けることが前提だろう。

 自覚していないのだとしたら、こいつが目指しているハッピーエンドはまやかしだ。

 

「あんたたち……小村の出身だっけ。おとぎ話とか読んだことある? 転生者とかいうのだったら、その前世ってやつでもいいわ」

「……ある、けど」

「なら、“いつまでも幸せに暮らしました”……なんて文句は定番だって知ってるわよね。あいつと、あのアルラウネがいる場所に、なんであんたがいないわけ?」

 

 ……くそ、なんて小恥ずかしい説教だ。

 後々に思い返して悶えるやつだな、これ。他のサキュバスに聞かれていたら笑い殺せる自信がある。

 生涯を悟り切った賢者が幼児に唱えてようやく納得できるレベルだろう。これから先、一生こんなこと誰にも言うまい。

 

「……想像、できない。というか……よく、わからない」

「はぁ……?」

「ユーリと、カルラと……私。明瞭な、三人での記憶は……“今回”の一年分くらい。旅に向けて、魔法の最後の調整をするために、遊んだりしなかった、一年間。それより前は、なんとなくしか覚えてない」

 

 死ぬたびに、旅に出る一年前に巻き戻る。

 しかし戻ってきたのは、新たなトラウマを刻んだこいつ。

 戻ってきた地点の一日前すら、恐怖と憎悪に覆われていき、見えなくなった――。

 

「……今が幸せなの。ユーリが支えてくれて、カルラが支えてくれる今が、苦しいくらい幸せなの」

「――――」

「それ以上が、あるのだとしたら……私はそこにいられない。旅が終わって、最初に感じた幸せが、多分最後の景色。眩しすぎて、今は見えないけど」

 

 ――幸せすぎて死ぬなんてあり得るか、と茶化せはしなかった。

 絶望に浸されすぎた。希望が眩しくなりすぎた。“今”に感じる幸せだって、魔王様を討つという使命が残っているからこそ――耐えられる。

 ……希望にしろ、絶望にしろ、楔があるからこそ受け止められる。

 そうでなければ何かを感じるだけで消えてしまうほどの、いつか輝いていた魂の残滓。

 

「……穏やかに暮らすことも、自分に許さないわけ? 全部終わって、あいつらと適当に、普通に暮らす。いや……アルラウネがいる時点で普通ではないけど。ともかく、そういう細やかなご褒美くらい、あっても良いと思うわよ」

 

 どれだけ“今回”の魔族に理不尽を突き付けていようと、それが旅の終わりでは、あまりにお粗末だ。

 ほんの少しくらい、ごく平凡な余生を過ごすくらい、こいつには報いがあってしかるべきだ。

 気を遣って、そんなことを言ってやっても、リッカはゴールより先に目を向けない。

 

「……ありがと。けど……無理、かな。そんな幸せ、耐えられないし……それに、もう私じゃ、ユーリやカルラが求めてきても、受け入れられない」

「今のあんたを知っててそんなこと求められるわけないでしょうが……」

 

 ……私に押し付けられた、いつかの思い出。

 その中にいた、目の前の女と似ても似つかない、男勝りで小生意気な白い少女は――転生者などという世迷言と合わせれば、少しだけ事情を察することができる。

 あまりに下世話だが、今のこいつは“いつか”とは違う。

 

 旅の中で、此度の自らの性を自覚させられた。

 きわめて強く依存するあの二人と愛し合うことだって、考えられる。求められれば頷きたいという気持ちがある。

 だが、体が――そして心が覚え込んだ恐怖はそれを許すまい。いくらこいつ自身が受け入れようとしても、死んだ方がマシだとばかりに拒絶するだろう。

 つまり、たとえ平穏な暮らしに辿り着こうとも、子を成すことも出来なければあの二人の欲を満たすことも出来ないと。

 それだけが幸福の形ではないのだろうが……この女の道程を考えれば、気にするのも当然か。

 

「……ユーリとカルラが幸せに暮らす世界。それが、私のハッピーエンドの、その先。そこまで辿り着いて、私は二人に、疲れた、お休みって言って……それでおしまい」

「……」

 

 二人に負担を掛けないように、気楽に逝こう。

 それが、こいつがハッピーエンドの先で出来る、せめてもの努力。

 自分の分まで幸せになれと押し付けて――ようやくそこに腰を下ろし、二人を見送る。

 やろうと思えば、いつだって限界を迎えられる。そんな女の、精一杯の欲張り。

 

「障害が立ちはだかったら、ラフィーナ……あなたに、二人を助けてほしい。それなら私も……安心できるから」

 

 ……そんな終わりに向けて手を引かれていることを、ユーリは一体、いつ知るのだろう。

 自分勝手な女の、自分勝手なハッピーエンド。そこにこの女自身がいないことを、今のユーリは知らない。

 それでもこの女は歩みを止めないし、この女が信じるハッピーエンドに向けて、ユーリは共に歩み続ける。それが、彼なりの勇者の証なのだから。

 

 ……口外しないと、約束した。あれは守るつもりではある。

 ユーリがこれを知れば……認められないと、こいつの足を止めようとするだろう。

 そんなすれ違い――下らない落とし穴に踏み込む可能性のある道と、こいつなりの“百点満点”のハッピーエンドに続く道。

 果たしてどちらがいいのかと……私には、答えは出せなかった。




【サキュバスネキ】
本人の言動とリッカの疑心暗鬼のせいで裏ボスだと確信されている問題児。
「ハッピーエンドの後の懸念」としてはリッカ的には大真面目。
しつこいようだが別にそんな展開にはならない。



【ユーリ】
これまでは、リッカの望むハッピーエンドに向けて共に歩むだけだった。
だから、リッカが迷って、自分も道が分からなくなっていた。
そんな自分はここでおしまい。これからは、迷うリッカの手を引ける自分に。
そして――必ず、三人一緒のハッピーエンドへ。

【リッカ】
魔王を倒して、ユーリとカルラをハッピーエンドに送り届ける。
魔王が何を言おうと関係ない。ゴールはあと少し先。その先で……笑う二人が見られれば、きっと満足。
その先にあるかもしれない不安さえなくなれば、迷いだってなくなった。
だから――もう、止まることはない。
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