凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
次の朝。
自分の個室で眠っていたらしいリッカとの合流は、不思議なほど自然だった。
互いに昨日のことを謝って、それで終わり。
僕たちは魔王と相対して立ち止まった。しかし、また前に進むことが出来るようになった。
ラフィーナがリッカを励ましてくれたようで、いつも通りのリッカと、当たり前に朝食を済ませる。
その穏やかな時間は、僕の再出発としても、良い始まり方と言えた。
「――行こうか」
「ん……」
外の砂原は、相変わらず。
魔王はそこには既にいない。ただ、魔王を倒すため、壊さなければならないのだろう柱は健在だった。
……この場所で、昨日魔王と出会っていなければ、それを知ることは出来なかった。
僕たちに向けた挑戦と受け取ろう。新しい試練と受け取ろう。
何が待っていようと、最後のその先に向けてリッカと共に歩む決意は完了した。この柱も――そう絶望的には映らない。
ただし、これを今壊すかといえば、それも否だ。
そもそも僕たちがここに来た理由は、迷宮に挑むため。
ゼクセリオンを回収して、柱の周囲を調査してみれば、床の鍵穴はすぐに見つかった。
この砂原地帯に入るためだけではない。そこから、僕たちが挑むべき場所に侵入するためにも、やはりこの鍵は必要だったようだ。
「ッ!」
鍵を差しこんで、回す。そこから何を開けばいいのかと迷う前に、柱の突き刺さる床が浮き上がる。
姿を見せたのは、地下に続く階段――これ以上ないほどに、“ダンジョンの入り口”らしい様相だった。
「これが……」
階段の奥、暗闇に何があるのかまでは分からない。
だが、これがあの魔王が作り上げた迷宮ならば、どれだけ注意しても過剰にはなるまい。
リッカに視線を向ければ、彼女も頷きを返してくる。
『トランスコード! アクセプション!』
ハッピーエンドに向けた心意気を、炉にくべる。勇気を燃え上がらせる。
何が待ち受けているか不明な以上最初から戦闘準備は整えておくべきだろう。
『ユニゾンリンク! U-リッカ!』
「――?」
今まで以上に万全となった――筈の魔法の実行が完了して、少しだけその状態に違和感を覚えた。
問題なく、各能力は発揮できる。出力の上では支障はないだろうが……ほんの僅か、何かが引っかかる。
「……リッカ、大丈夫?」
「……? ん――いつも通り、だけど。どうかした……?」
どうやらその違和感は、僕だけのものらしい。
僕の言葉を受けて、各部の機能の確認を始めるリッカは何も感じていないようだった。
……気のせいだろうか。そう思えば、すぐに見失ってしまいそうな、些細な違和感。
一応、それが無意識なリッカの不調であった場合に備え、意識はしておくべきか。
「ううん、なんでもない。行こう、リッカ」
「ん。何が待ってるか分からない。気を付けて、ユーリ」
ともかく――再びリッカが持ち前の前向きさを取り戻してくれたならば、足取りも軽くなる。
それが油断に繋がることは避けなければならない。リッカの希望が、翳ってしまわないように。
階段を下りていき、暗闇に入り込む。
この姿の表面を通る、血管のような紋様には熱い魔力が巡っている。
それが暗闇を僅かに照らす。そうでなくとも、外装が補強した視界は暗闇だろうと問題ないほどにはっきりしている。
見たところ、階段の先――真っ直ぐ続く通路にも、灯りは殆どない。
ここを歩む者のことを殆ど想定していないのだろう。申し訳程度に壁に掛けられた魔道具が小さな光を放っているだけの、手段を用意しておかなければ足元さえおぼつかない空間。
階段を下り切って、通路を向こうまで見通せば、百メートルほど奥に扉が見えた。
分かれ道のようなものは見られない。……迷宮、なのだろうか。ただこうして見ているだけでは、入った者を迷わすような仕掛けがあるかも不明だ。
「リッカ。この場所、目印とか付けられるかな」
あの扉の向こうが複雑な迷宮になっていると仮定する。
この先に進むならば、この場所を忘れることは好ましくない。
遠くからも分かるような、魔法的な目印。或いは、すぐに戻ってこられるような手段があればいいのだが。
「……なら、使い魔を少し置いておく。それから、マッピングと、一応私自身も記憶する」
念には念をと、リッカは三つの手段を提示した。
その場に現れたのは、リッカの使い魔の触手。誰を襲うでもなく、床や壁に数体が出現し、張り付いた。
大まかにでも、使い魔の場所が分かれば、出口を絞り込める。
その上で、リッカ自身が“頭の中の空間を用いて”マッピングを行い、さらに歩いたルートを記憶する。
……僕に出来るのは最後のみだ。リッカの器用さに感嘆する。
「お願い。……無理はしないで。疲れたり、何かあったらすぐに言って」
「わかった。ユーリも」
短いやり取りを済ませて、暗い通路を歩き始める。
魔法的な解析も含め、この状態ではリッカの負担が強いし、僕はそれの一部も背負うことは出来ない。
だからその分、リッカが万全にこなせるように、危険を防ぐ。
僕にできる精一杯で、リッカを守るのだ。
何もないように見える一本道を、慎重に歩いていく。
壁も、床も、自然の洞窟と大差ないほどにがたがたで、つくりの上品さは見られない。
だからこそ、そこに真っ直ぐ取り付けられた扉が不自然だ。
「……」
難なく最奥まで辿り着けば、扉はひとりでに横に開いた。
四角く、何もない、小さな個室だ。
全体が銀色に鈍く光っているようで、そうでなくとも天井の照明がここまでの通路まで伸びるほどに明るい。
「行き止まり……?」
「……エレベーター、かな。自動的に動いて、入った人を別の階に運ぶ仕掛け」
どうやらその小部屋のつくりは、リッカの知識にあるもののようだ。
別の階に運ぶ……ということは、そこから先が“本番”ということなのだろうか。
戦闘態勢に移行する準備は万端のままに、小部屋に入り込めば、すぐに扉は閉じられた。
程なくして、部屋が僅かに揺れ、なんだかむず痒い落下を感じ始める。
……なんなのだろうか。この部屋の……異物感というか。
誰かが作ったという熱をどうにも感じられない、冷たい箱。
似て非なるものではあるが、どこか通ずる雰囲気に、覚えがあるような。
……ナイトラクサ――?
「っと……」
あまり思い出したくはない夜の街に思い至ったと同時、再び部屋が揺れた。
この部屋が運ぶべき、目的地の到着したらしい。
扉が開き、次の瞬間には魔族が飛び込んでくる可能性を想定して構え――
「……え?」
「え――?」
「は――?」
後者二つが、僕とリッカ。それよりも先に、完全に不意を突かれたような、気の抜けた声。
――あの粗いつくりの通路から繋がっているとは思えない、整備された広い部屋。
奥には先に続く通路。
そして、左右の壁に余すところなく収められた、本、本、本……。
これが奥まで続いているならば、聖都の大図書館すら及ばないだろう、規格外の蔵書。
そんな部屋のど真ん中で、柔らかそうなソファに寝そべって本を広げる、魔族の女性がこちらを見て目を瞬かせている。
あまりにもナチュラルにそこに居付いてくつろぐ女性との、十秒余りのにらめっこ。
流石に予想外で、リッカすらどんな反応をしていいやらという、奇妙な時間。
互いに謎の気まずさを感じる中、再びゆっくりと小部屋の扉が閉じられた。
「……なんだったの? 今の」
「……なにかの間違い……変なところに繋がったんだと思う。多分」
「そっか……」
繋ぐ場所を間違えることもあるらしい。“エレベーター”は安定するものでもないようだ。
僕たちが向かうべき、正しい場所はあそこではないと。それなら、少し安心である。
だったら今のはなんだったのかという疑問はあるが、もう一度動き出して、正しい場所に案内してもらえればいい。
そう思いつつ、部屋が動くのを待っていたが、すぐに扉はまた開いた。
「おめでとうございまーす!
「……」
「……」
本の並ぶ大部屋は、変わらないまま。
先の魔族の女性が目の前で大袈裟に腕を振り上げ、歓迎してきた。
下着も同然だった数十秒前とは違い、フリルだらけかつ色彩鮮やかであちこちに目玉の模様をあしらった、異常にこちらの目に悪い衣装。
背中からは、彼女の魔族としての本来の性質だろう、硝子のように透き通った翼が生えている。
そして、真っ黒な長髪とは正反対の、白い馬骨をデフォルメにしたような謎のお面で隠れる、顔の上半分。
……なんだろう、あのお面。どう足掻いてもかわいらしくならないだろうモチーフを、どうにかマスコットキャラクターに落とし込んだような、“惜しい”感じ。
衣装も相まって、彼女が本来持つだろう雰囲気とぶつかり合い、理解したくないほど混沌とした様相を醸し出している。
「お客様! 当館のご利用は初めてですかー?」
「……“開館して一組目”なら、そうなんじゃないかな」
裏返っているのではと心配になるほど高い、“作った”声。
それが先のだらけた風体の女性から出ているものだとは到底思えなくて、途轍もない寒気を感じた。
この魔族の戦法だったりするのだろうか。
……見ていられず、目をそらして――ソファと本が部屋の隅に転がされていることに気付いた。
「そうなんですねー! こんなところに来るなんてお客様も物好きですねー! ベガおねーさんもビックリ!」
「……痛々しい」
「んだとコラ」
きゃぴきゃぴと振る舞い、辺りに寒気をばら撒く魔族の悲惨な姿を見て、リッカがぽつりと零す。
瞬間、別の意味で底冷えするような声色へと変貌し、“ベガおねーさん”はこちらに殺気を向けてきた。ほんの一瞬だけ。
「おっと……危ない危ない、スマイル意識……! ――今日はどんな本をお探しで? 個人をぞわっと恐怖させる邪悪な本から国をどどどっと堕とす邪悪な本まで幅広く揃っていますよー!」
とりあえず邪悪で、凄まじく物騒な品揃えのようだ。
“ぞわっ”と“どどどっ”の部分はジェスチャー混じりの表現だったが、確かに怖さというか寒さは伝わってきた。
……とにかく、この意味不明な状況を少しでも前に進めよう。
気を張っていたというのに、これでは色々台無しである。
「……本を借りに来たんじゃなくて、迷宮に挑みに来たんだけど。この鍵を使って」
「――――」
銀色の鍵を取り出し、女性に見せる。
大袈裟な身振り手振りが停止した。先の遭遇を超えるほどの驚愕からして、この鍵はやはり、特別なものなのか。
「……幾つか確認しても?」
「うん、いいけど」
「あなたたちは、勇者ですか? いえ……えっと、男の子の方が?」
「――うん。そうだよ」
彼女は最初から僕たちを、“あなたたち”と呼んでいた。
どうやらこの姿であっても僕たちが二人であることは分かるらしい。
だが、不思議なのは、僕が勇者であると判断できていないこと。
力ある魔族であれば一目で分かるという、勇者の証。
確かに、彼女は大きな力を持っていないように感じるが……そこまで弱いとも思えなかった。
「その鍵を、どこで手に入れたのですか? 誰から譲られたのですか?」
「アリスアドラ……魔王の四天王から」
「――、その、“アリスアドラ”の意思で、手渡されたのですね?」
「うん……そうだと思う」
無駄に明るい雰囲気は、既になかった。
驚愕と困惑の中で……敵意や戦意は生まれていない。
やがて膨らんだのは、先程は微塵にも思っていなかった、歓迎の色だった。
「――ようこそ、回顧の迷宮へ。先程は失礼いたしました。どうか一連の流れは一から十まで忘却してくれるとありがたく思います」
「……」
なかったことにしたいらしい。
この……落ち着いた雰囲気が本性なのだろうか。リッカに向けた、ドスの利いた声の方も怪しいが……。
「私はベガ。司書の役割を刻まれた“導く翼”。当館……いえ、当迷宮の案内を務めております」
ぺこり、と静かに頭を下げる、司書たる魔族。
その言葉でようやく、この奇妙な空間こそが挑むべき迷宮であると知った。
【ベガおねーさん】
砂漠地帯ホロゥの地下に位置する夢の大図書館『北辰廊』の司書兼回顧の迷宮の案内者。
黒髪長髪長身クール系秘書の称号をほしいままにする■■■■■種の魔族。
公私ははっきり分けるタイプ。というか誰も来なさすぎて「公」の方をすっかり忘れていたらしい。