凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
――小さなスライムと、戦ったことはない。
あくまでも、この僕自身は。
ただ、それは“今回”の話であって、村の近辺でも目撃できるような種と、村からの旅を何千と繰り返したリッカが交戦していないわけもない。
粘つく液状の体で地面を這って移動するため、草原などでは見つけることが困難。
剣で断つには持ち前の柔軟性を無視できる威力か、独特の慣れが必要。
簡素な鎧は意味をなさず、組み付かれたら即座に適切な対処をしなければならない。
手を拘束されたうえで、鼻や口を塞がれるようなことがあれば、絶望しながら窒息することになる。
力尽くで追い払うことも不可能ではないゴブリンなどとは、また別の厄介さを持つ魔族。
どこにでも開いているような落とし穴に足を滑らせたような、リッカのありふれた不幸の一つ。
恐らくは、旅を始めて間もない頃。
警戒はしていたものの、村では碌に対策も整わず、無理やり突破するほどの力もなかった序盤も序盤。
今度こそと意気込んでいたリッカを、その小さな水たまりは、呆気なく次の絶望に引き込んだのだ。
「ぁ……ユー、リ――ユーリっ」
「リッカ! 大丈夫……! 僕、ここにいるよ!」
蹲るリッカの体を抱き込んで、ぐらついて崩れかけた心を支える。
その恐怖は、“知っている”ものでありながら、同時に新鮮なものでもあった。
つまり――たった今、僕の認識とは外れた、リッカへの試練として、スライムはリッカに襲い掛かっていたということ。
スライムだけではない。
先の二つ……フェアリーやゾンビも。
僕とリッカ、それぞれに課せられた試練として、別々の対処を迫られていたのだとしたら。
リッカが悪意ある魔族を前にして、独りで戦うことなんて出来ない。
ただ、魔族の恐ろしさに包まれ、何をされずとも震えていることしか出来ない。
そんなリッカを、過去をもとにした試練である魔族がどうするかなんて、明白で。
僕は――僕が傍にいるにも関わらず、三度もリッカが凌辱されていることを見逃していたのだ。
「ごめ――ごめん、リッカ! 気付けて、当たり前だったのに、僕……!」
「っ、ちが、う……黙ってたのは、私……知られたく、なかった、私が耐えれば、良いだけ、だったから」
フェアリーを終えた時点で気付くべきだった。それでさえ、手遅れだった。
もう、ただの一度も、耐えられるとは思えない……リッカの真実を知ったあの場で、聞かされた。
その確かな事実が、今回にすべてを懸けてほしいと懇願し、リッカが受け入れてくれた要因の一つでもあった。
最後まで失敗は許されない。魔王との遭遇によって、より広がった罅に、あと僅かにでも衝撃を与えてはいけない。そう決意した矢先だというのに。
「……」
三度、耐えられた。あくまで再現だったこと、終わりがあると分かっていたことによる、意地だったのかもしれない。
だからといって、それを知り、リッカを信じて先に進もうと――もう少し耐えてもらおうと、言える訳がなかった。
論外だ。たとえその先にどれだけの好条件が転がっていても。
「……引き返せるんだよね?」
「引き返すのですか?」
「ッ」
こちらがどんな判断をしようと構わない。そんな冷たい無関心。
手を出してくる様子もない、ただの案内者であるベガは僕たちの少し先で、選択を待っている。
「まって、ユーリ……少し休めば、大丈夫、だからっ」
「……駄目。そんなことして進む僕を、僕自身が許せない」
リッカにはまだ耐えられると、耐えてみせるという意気込みがあった。
しかし、前提として間違っている。あと何度ではなく、一度もあってはいけないのだ。
それを許容して進む自分がいたとしたら、それは断じて僕ではない。
僕が本当にリッカのための勇者であるならば――リッカにとっての試練を知ったこの場所で回れ右をするのが、正しい選択だ。
「――、戻っ、たら……今のが無駄になる。だから進もう……ユーリ。無駄に、したくないの」
……この先に何かがあると、そう信じて、進み続けようとするリッカの執念。
ここで引き返せば、三度の凌辱が無意味になる。ただ思い出し、再度体験しただけのものになる。
それは、僕を繋ぎ止めるための言葉だった。
――だが、その先にはいくつあるか分からない悪夢が続く。どちらが悪いかと考えれば、答えなんて決まったようなもの。
意地で道を間違えようとするリッカを引き戻せるのは、僕だけだ。
「お願いリッカ。自分を大切にして」
「そんなの、別に……!」
「――これ以上進んで、リッカが無事でいられる保証なんてどこにもないじゃないか!」
「ッ!」
抱いた体が、強く震えた。僕が怒鳴ったことへの怯えであることから、目を背けた。
一歩たりとも進みたくない道を、それでも進もうとするリッカから目を離したくなかった。
「もう、苦しまないでよ。お願いだから、守らせてよ。見えない道に向かって、歩いていこうとしないでよ!」
魔王への道とは関係ない横道で、苦しむ必要なんてない。
これは成し遂げるべき四つの試練ではないのだ。
無理だと思えるうちは、逃げられる。これが逃げても良い場所ならば、選択できる。
たとえば、クイールでも迷いなく引き返すだろう。思い出しても、苦しいだけのものならば、リッカにだって目を瞑る権利がある筈だ。
「……で、でも……」
聖剣などと同じように、旅の助けになるものの存在をリッカが確信していて、それが必要だと思っているならば。
僕一人で行こう――魔法がなくとも、戦う力がなくなっても、そちらの方がいい。
リッカのためならば、止まらず進める。リッカがまた魔族の手の中に飛び込むより、ずっとマシだ。
「相談は結構ですが」
そう、リッカに伝えようとして、冷たい言葉が差し込まれた。
奥の通路に目を向けるベガに、嫌な予感を覚える。嘘であってほしいと思いながらも――
「待ちくたびれたようです。四冊目が向こうから来ますよ」
「――――――――っ」
また、リッカと別々の試練に放り込まれてなるものかと、腕に力を込める。
リッカとのかけがえのないつながりを、強く想う。
近付き、開かれる本を睨みつけ、意識すればはっきりと感じ取れた、リッカが離れていく感覚に抵抗する。
リッカを、そっちにはやらない。来るのならば、そっちが来いと――!
――本が弾け、零れた影から湧き出てくる、五つの塊。
焦燥の中で、しかし一つの安心感があった。つながりは断たれていない、驚愕に揺れるリッカの瞳に、僕は確かに映っている。
「……ユーリ……? もし、かして」
「――うん、僕はここにいる!」
次の試練が飛び込んできたことは予想外だった。
だが、今回は離れることなく、リッカも同じ試練の場にいる。
「えぇ……何それ、あっさり迷宮バグらせてんじゃん……いいや、報告しないでおこう」
素で引く案内者の言葉も、この状況では気にならない。
これならば、僕がやることはいつも通り。
僕たちが信じた、僕たちなりのやり方で、あの障害を突破するだけ。
形を成したのは、細い手足を持った、小柄な人型魔族。
種族としての特徴は、鋭い爪。
襤褸や木々を合わせて作ったような頭飾りを被る一体を先頭にしたその集団は、『金爪の一味』。
ラフィーナとの初戦からさほど間もなく戦った、近辺の町村に恐れられていたゴブリンの群れだ。
魔族としては決して強い部類ではないものの、人間にとっては十分に脅威。特にこうした結束力の強い群れの標的に定められれば、安全圏へ逃げることも難しくなる。
かれらもまた、戦いになんて慣れていない頃、リッカの魔法の性能だけに頼って撃破した。
あの、背中を打てず逃がしてしまった一体はどうなったのだろう。そんなことを、一瞬だけ考えた。
「――いくよ、リッカ!」
「っ、うん……!」
少しでも、過去の悪夢を想起しないで済むように、リッカの前に立って視界を遮る。
あの未熟だった頃から、これだけは変わっていない。
リッカと共に、僕は戦う。僕たちが進む、一番の手立てとして。
「トランスコード――U-リッカ!」
リッカとつながった上で、その魔法を、リッカが実行したことを感じる。
そのシーケンスさえ開始してしまえば、僕たちの周囲は保護されて、ゴブリンたちが近付くことも出来なくなる。
――開始、されれば。
「――ぇ」
「がっ……!?」
リッカは確かに魔法を使用した。間違いなく、いつも通り。
それが動き出すよりも前にゴブリンたちが動き出し、間に合うという確信があって。
求められた結果を返す気配のない術式に、リッカが困惑を見せた直後、体が横に飛んで、それから痛みが追ってきた。
「ユーリッ――ひっ――」
衝撃にこゆるぎもしない、大きな本棚に叩きつけられ、横腹と頭が別々の痛みを訴える中で、いつの間にか閉じていた薄目を開ける。
醜悪な笑みと、刃物の如き爪が、目の前にあった。
最初の困惑が大きくて、理解はようやく、そこで追いついて。
それよりもほんの一歩だけ早く、細腕が視界の下方へと走っていった。
「あ、ぎ……ッ!」
「ギヒッ!」
「っぁ、ぁあああああああああ!」
――瞬間的に走った激痛に頭が揺れた。それが一度落ち着くまで、どこに突き刺さったかすら分からなかった。
僕の中からナニカが飛び散って、ゴブリンの緑の肌を赤く染める。不快に感じなければおかしい筈のその飛沫すら心地良いとばかりに、悪鬼が笑みを深める。
捕えさえすれば、柔肉を裂くなど容易い、ゴブリン最大の武器。
ああ――知っている。
見覚えがある。
ゴブリンの爪は、これほど鋭い。弱い相手であれば、首を裂いて早々に仕留めるも、腹を裂いて弱っていく様を見物するも思いのまま。
後者を適度に加減してやれば、その反応次第でさらに愉しめる。
そういう、“既に仕留めた相手”の恐怖こそが、かれらにとっての箔となる。
見せつけるように、真っ赤に染まったゴブリンが、横に退く。
――残る四体に集られている
「――――――――リッカ――!」
「ギッ!?」
手元に呼んだものは、不発することなく迅速に現れた。
満足に構えることも出来ない重量を、それでも無理やり振るう。その後を考えている暇などない。勢いに任せて、傍にいた一体を押し潰す。
『――なっ、ユーリあんた……!』
「いい、から゛……っ!」
立ち上がらず、本棚を蹴り飛ばす。魔剣の形態を切り替えての砲撃も合わせて、“残り”に向けて飛ぶ。
「やだ! いやっ! ユーリ! たす――」
「リッカァ!」
群がっていたゴブリンたちに頭から突っ込んで、弾き飛ばす。
殴られたような鈍痛、その衝撃で口の中が切れる。はっきり分かった痛みはそれだけ。
僅か、かれらに
無残に裂かれた衣類の下、不可抗力と一目で分かる新しい切り傷がまばらに走る白い肌を見た。
「――この……ッ」
『落ち着きなさいっ! ユーリ!』
構えもせず、ただ照準だけを粗く向けて、引き金を引く。
体がまたも振り回され、先程とは反対側の本棚に転がされながら、一体爆散したことを確認する。
「――このおっ!」
『ユーリッ! 落ち着け!』
次はまとまって動揺している二体。
今度は反動に遊ばれないように本棚を背にして一撃。
しかし、角度が悪かったのだろう。逃がし切れなかった衝撃により、魔剣が手元から投げ出された。
――怖くない、と判断したのか。
二体の爆散を見て、残る頭飾りの一頭が向かったのは、リッカだった。
リッカにこれ以上触れさせないならば、魔剣を取るのは間に合わない。
またも本棚を蹴り出して、接近の中で唯一思い至った、背中の“見せかけ”を手に取り、ゴブリンの脳天に叩きつける。
「ギィッ!?」
「リッカに触るな――近付くなっ!」
不意の一撃で怯んだ隙に、もう一度振り下ろす。
まだ声は上がった。もう一度。散々背中を打ったからか、やはり実戦には耐え得なかったのか、木剣は中ほどから折れて、先端がどこかに転がった。
関係ない。倒れ伏して、しかし苦悶の声がまだ上がる、油断できないソレの顔に、半端に砕けた木剣を突き刺す。
それだけやってようやく、思考に僅かな余裕ができた。
もう抵抗はしてこない。だが、リッカにとっては恐怖の対象。いつかリッカを犯して、今もそうしようとした、油断してはいけない相手。
死んだか分からないから、また刺す。確信できるまで、刺し続ける。いや、死んでもアンデッドか何かになってまた襲ってくるかもしれないから、動かなくなったら魔剣を持ってきて、魂ごと消えることを願いながら残ったものを吹き飛ばして、ようやく安堵できっ
『――死ぬわよ馬鹿勇者! 今すぐ手を止めろ!』
「っ!」
――その怒鳴り声と共に、腹に走った小さな衝撃。
何かに軽く押された程度のそれに、まだ余力があったのかと……もう一度木剣を突き立てようとした体が不思議なほどにぐらついた。
思わず尻餅をついて、そこに倒れていた筈のゴブリンがいなくなったことに気付く。
代わりに僕の膝に立っているのは、血塗れのアッシュ。
今の怒鳴り声は……これを通した、ラフィーナのもの……?
いや――それよりも、リッカは。
「リッカ――」
「っ……!」
もしかしたら、見間違いだったかもしれないと。
そんな現実逃避が、叶うわけもなかった。
裂かれた服も、晒された肌も、浮かんだ浅い切り傷も、先ほどと同じまま。
最悪の事態には、至っていない。けれど、それを想起させるには十分すぎるほどの、凄惨な姿。
震えるのも、顔を引きつらせるのも、失禁も、当たり前。
だけど――勘違いであると思いたい。
少しだけ、その恐怖が、こちらに向いているように思えた。
【金爪の一味】
ユーリの初めての(殺傷の)相手。
あくまで回想の再現体に過ぎないのでキルスコアになるかは微妙なところ。
【木の剣】
旅立ちの時からユーリが持っていて、ちょこちょこ言及だけされていた装備。
この迷宮を突破したら魔剣ちゃんにプロポーズするつもりだった。
【リッカ】
この先に必要な何かがある気がする――逃げてはいられない。
今までのような、失敗の果ての悪夢ではない。
進んでいるという確信を持っての回想ならば耐えられるという、精一杯の強がり。
逃げ出すよりも進むことを頑なに選ぼうとした結果、互いの意地の張り合いは、早くも軋轢を生んだ。
【ユーリ】
勝利BGMが一瞬だけ流れて止まった。
つながりの力を応用し、リッカと共に四冊目の試練に臨んだものの、魔法は不発。
重傷を負いつつもリッカを守るため、ゴブリンの群れを撃破した。
――ここまで当然のように外装での戦闘を行ってきたため、大きな傷を負うことは殆どなかったし、相手を殺害することもなかった。
【U-リッカ】
「ユーリは誰も殺してないし、ここから先も殺させない。そういう風に作った、優しいユーリのための戦い方だから」