凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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灰かぶりの勇者

 

 

 震えるリッカに近付こうとして、足が思うように動かなかった。

 異様な寒気に見舞われる体が重い。

 そういえば……けがをした。ゴブリンの攻撃を受けたのだ。それに、魔剣を満足に扱うことも出来なかった。

 僕がここまで、戦って、生き残ってこられたのはリッカの魔法があったから。

 あの強力な外装がなければ、やはり魔族相手にまともに戦えるものではないのか。

 ……魔法が発動しなかったのは、それほど――リッカの恐怖が大きかったからだろうか。

 

「ユーリ――ユーリ! しっかり!」

「……ぇ」

 

 気付けば目の前にリッカがいた。

 もう、その瞳に絶望など宿させてはいけないというのに、今までに見たリッカのどんな表情よりも強く、はっきりとした絶望がそこにあった。

 

「……リッカ……ごめん。リッカのこと、守らなきゃ、なのに」

「ち、ちが……違う、ユーリの、ユーリの傷っ! このままじゃ、ユーリが!」

 

 傷……そうか。こっちが理由だったのか。

 そう考えて、意識すれば、痛みはずっと強くなった。放っておいたら危険だと、体中が警告していた。

 自分の体を客観視して、ようやくリッカが治癒魔法をかけていることに気付く。

 とはいえ――治りは遅い。塞がるよりも出ていく方が、ずっと速かった。

 

 ――危なかった。これほどの重傷だなんて、自覚していなければ本当に死んでいたかもしれない。

 死ぬわけにはいかない。だって、決意したじゃないか。

 リッカと一緒に辿り着く。絶対に、三人一緒のハッピーエンドまで走り抜けるって。

 

 不思議なほど冷静に、視線は事態を静観している案内者に向いた。

 仮面でその目は見えない。だが、大して強い感情を持つことなくこちらを見下ろしているのが分かる。

 

「……治せる、んだよね?」

「はい。治しますか?」

「おね、がい。いま、すぐに……っ、リッカも――」

 

 この――理解できない仕組みのもとに成り立っている迷宮の案内者。

 それを務める彼女は、僕の問いに事も無げに答えた。

 ベガは頷いて、目に悪い混沌の衣装の“内側”から一冊の本を取り出す。

 不格好な装丁の、古ぼけた本。その中ほどのページを、彼女は手慣れた手つきで開いた。

 

「『“導く翼”が冥きバルハラに願う。このまれびとに水と灯火を』」

 

 書かれていたものを諳んじた……のだろうか。気持ちもなく発された、抑揚のない声だった。

 瞬間、出ていったものが再び入り込んでくるような、気力が満ち満ちていく感覚に見舞われる。

 “万全”という地点にたちまち戻ってきて、痛みはまるでまぼろしだったみたいに、今は曖昧なものになっている。

 裂かれた腹に手を当てる。そこにある筈の傷が、ない。

 反射的に、リッカの体に目を向けた。衣服としての役目を果たせなくなりつつある布きれの下、肌には爪の痕は残っていない。

 

「――――良かった」

『なにも良くないわよ馬鹿勇者!』

 

 今リッカが受けた“傷”のほんの僅かではあるが、なくなったことへの安堵。

 息をつくや否や、膝に乗っていたアッシュから怒鳴り声が飛んできた。

 

『ああもう、昨日の今日で何やってんのよあんたら! いつもの魔法は!? ここはどこで何でこんなことになってんのよ!』

 

 まったく状況が理解できないと、苛立ちをぶつけてくるラフィーナ。

 ……魔剣は既に実体化を解いている。そうでなければ、アッシュを通じてこちらに声を届けることも出来ないか。

 ラフィーナには、状況を説明しないといけない。

 しかし、その前に。

 

「リッカ」

「……」

 

 立ち上がって、取り出した防寒用の外套をリッカに被せる。

 肌を晒していることは、ただそれだけでリッカにとって避けたい事態だ。

 弱々しく外套に手を掛け、ゆっくりとリッカはそれに包まり体を隠す。そうしている間にも、リッカの恐怖は決して小さくならなかった。

 

「……ごめん」

「……ううん、僕も」

 

 最悪の一歩手前で止めただけ。リッカに“その時”を思い出させるには十分な惨事。

 魔法が発動しなかったことの理由は分からない。だが、その追求なんてできない。

 ここにあるのは、守るべき時にリッカを守れなかったという、僕の未熟が招いた結果だけだった。

 

 心持ちだけではない。戦いさえ、完全にリッカに依存する僕という存在。

 ……恥とは思わなかった。これが僕――僕たちなのだという、誇らしささえあった。

 そんな思い込みだけでは不足だと、そういうことなのだろうか。

 誰かとつながって、初めて何かを成せる僕は――リッカが動けなくなった時、そのリッカ一人さえ守れないと。

 

『……はぁ。リッカ、あんた、いつものは? 使えないってこと?』

「……使った……つか、った、けど……」

 

 僕だけではない。いつものことが出来なくなった理由が分からないのは、リッカも同じ。

 再度魔法を起動し、リッカがその肌に緻密な術式を浮き上がらせる。

 そしてそれはかすかな、淡い輝きから強くなることもなく、リッカの体を魔力へと変えることもなく、ゆっくりと消えていった。

 

「なんで……? いつも通り……なのに。ここの、制限……?」

「先の戦装束を魔法と宣うのであれば、制限などない筈ですが。単にあなたたちが、それを扱う大前提を喪失しているだけでしょう」

 

 ……僕がリッカを見失ったということはない。

 そのつながりは、確かにここにある。この、何より大切な絆を見失う筈がない。

 目の前にいるのは間違いなくリッカだ。そして、リッカもまた、魔法の実行手順を損なったということはない。

 大前提を喪失した――ほんの少し前の時間から、ここまでに……?

 

「……リッカ、やっぱり戻ろう。これじゃあ、先に進めない」

「っ……」

 

 何か、明確な原因があるというならば、頭の中を整理する時間が必要だ。

 今の僕では、リッカとはぐれないことが限界。悔しい……心底悔しいが――リッカを守れない。

 今度はリッカも、否とは言わない。ただ俯くだけだった。

 

「……」

「……ごめん、リッカ」

 

 未練と後悔を口に出せないリッカに付け込むようで、胸がギリギリと痛んだ。

 傷は治った筈なのに、もっと深いものを負ってしまったようだった。

 

 リッカと共に奥に進む手立ては整った。

 この先の試練で、リッカを離さないでいられる。リッカのために――進む選択が出来ると思ったのに。

 ――いつか、何度も抱いた、強くなりたいという想い。

 今この瞬間のそれは、より明確な形をしていた。

 

 どう強くなりたいのか。

 リッカを守れるほどに――それは、いつもと変わらない。

 

 では、どういった強さが欲しいのか。

 ――歩けなくなったリッカを背負って進む力。

 リッカを守るために、という前提はそのままに……クイールのように独りで障害を切り拓ける、()()()()()強さ。

 僕らしくない欲求だとは分かっている。そもそも、勇者らしさとは僕からクイールに預けた在り方だ。

 しかしそれでも、手に入れたい。リッカのために、リッカと歩む手段の一つとして。

 

『ったく……埒が――ひゃあ!?』

「え?」

 

 突然ラフィーナが上げた悲鳴で、視線がアッシュに集まる。

 小型の魔道具でも、しっかりと形作られた三つの頭は、全てがじっとこちらを見ていた。

 

「――――?」

 

 その向こうにいるラフィーナではなく、“アッシュ自身”が何かを求めている。

 学習能力を持ち、状況に合わせて機能を拡張する、リヒトとトーカの家に伝わるという技術は、魔剣を使わないラフィーナとの会話さえ可能とした。

 加えて、自立するというだけでも驚きなのに――アッシュは新たな見様見真似を実行している。

 それはまるで、先程のリッカを離すまいと繋ぎ止めた、僕の中だけのイメージを再現したかのよう。

 確かに今、アッシュは僕に向けて、手を伸ばしている。

 

 ――間違いではないと。

 進み続けるならば、置いていくことをよしとしないならば、誰かとつながってなお己の信念を貫くならば。

 零れて落ちた()が、その道のりの正しさを証明すると。

 

『■■■■■■■』

 

 アッシュが繋いでいた、ラフィーナとの接続が切断された。

 そして、雑音の向こうから発されたような、聞き取れない声の後――アッシュは僕の胸の高さまで飛び跳ね、魔力となって爆ぜた。

 

「うわっ!?」

「ユーリ……っ!?」

 

 何を模倣しようとしたのか、確信が持てた。これの“モデル”は、リッカの魔法だ。

 しかし、撒き散らされて、僕を中心に集っていくそれに、リッカのような信頼はない。

 熱い――炎の底にいるかのような熱さが、体を包む。

 貼り付いてくる感情は向きがばらばら。負の感情であっても、リッカが持つ復讐心とはまるで違う。

 

 唯一の共通点は、仄暗い妄執の念。

 

 これは――僕に集まっているのは、灰だ。

 ネシュアで出会った、ブラックドッグ。倒すその時まで、僕に何かを訴えてきた、黒い獣。

 一つの体に集まった無数の執念はあの時、僕に沈んでいって、残り続けていた。

 魔道具(アッシュ)がどうして、それに気付いたのか。どうして、それを使おうと思ったのか。或いは――灰の方が、魔道具(アッシュ)を使えると判断したのか。

 

「――ユーリ……? なに、その姿……」

「……分からない、けど……」

 

 ……いや。どちらでもよかった。

 そこに、僕やリッカを害そうという意思はない。

 リッカやカルラとはまったく違うが――“かれら”は澱んだ妄念でもって僕の背中を押したのだ。

 

 恐らく、『ユーリフューリー』を模そうとしたのだろう。

 体にこびり付いた灰の鎧はあの赤い外装と近しい形を持ちながらも、薄く、ところどころが欠けてさえいる。

 頭を覆う仮面も、また然り。

 全体が覆われているわけではない。口元が露出していることや、視界の勝手も異なることから、感覚の強化が行われていなさそうだ。

 これが限界――誰かとつながるべき勇者のための、緊急の単独戦闘形態。

 結局、あの魔族が何者だったのか、知る由もないが……こういう形となることを、望んだのか。

 

「これならリッカを離さず、進める。うん――逃げずに進める」

「え……?」

 

 灰被りの外装の性能は、『ユーリフューリー』に遠く及んでいない。

 ……緊張を齎す現実ではあるが、どこか、嬉しく感じた。

 やはりリッカと一つになってこそ、僕らしい勇者の姿なのだと。

 それを取り戻すまでの、一時的な“勇者の力”。魔族と戦う力が――この姿にはある。

 

『――だから狂ってないっての! なんかこう……そう、外を幻視しただけで! ……ってまた!?』

 

 魔剣をもう一度呼び出して、持ち上げる。

 ――その異様な軽さに驚いた。魔法を使わない素の状態はおろか、普段の戦闘よりも、手に馴染む。

 

『……ユーリ? あんた、何その姿……ちょっと、大丈夫なの!?』

「うん、僕はなんともない」

 

 これならば、いつも以上に“巧く”振るうことが出来そうだ。

 リッカを守るための大きな一助となるだろう。

 

「――行こう、リッカ。もう、さっきみたいなことはない。今度こそ、リッカを守って――うん、僕も生き残ってみせる」

「――――ユー、リ」

 

 魔剣を片手に、そしてもう一方の手でリッカの手を握る。決して迷子にさせないという、意思表示。

 びくりとその手が強く震えた。大丈夫、心配いらないと、固く握り込む。

 これなら、はぐれることなく、二人で前に進める。この先に何が待っていようと、離れたりはしない。

 

「……進みますか?」

「うん」

『ああもう! ああもうっ! この二人はっ!』

 

 リッカの歩調に合わせて、ゆっくりと進む。

 悪夢の回想など必要ない。

 再びリッカの前に立ちはだかるというのなら、その悪夢すべてを、壊して進もう。




【ユーリ】
誰かの存在がなければ、前に進むこともままならない。
――誰かに背中を押されれば、どんな存在よりも勢いよく走ることができる。

【リッカ】
ユーリが変な方向に進んでいく。自分を連れて。

【ラフィーナ】
魔剣の代償でブッ飛びかけたところを一世一代の気合で堪え、アッシュ越しの叱責に切り替える胆力を見せた。
アッシュとの接続が切れた後、あまりに情緒不安定に見える一連の行為を皆に釈明していたらまた魔剣と繋がった。

【U-リッカ アッシュフューリー】
U-リッカが使用不可能な状態で、リッカを守って進むための力を求めたユーリにアッシュが応じて成立させた緊急フォーム。
リッカの術式を通して発動しているものではないため、厳密には『U-リッカ』ではない。
その姿は『ユーリフューリー』を半端に模した不格好なもので、黒灰の外装はあちこちが欠けている。
性能自体は『ユーリフューリー』に遠く及ばないが、その分魔剣の運用を援ける機能が付加されている。
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