凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

156 / 373
灰まみれの足跡

 

 

 躊躇いのある、リッカの歩調。それは仕方ない。

 ここから先、幾つも過去の悪夢が襲ってくるのだから。

 僕に対する、小さくない困惑と恐怖。それもまた、仕方ない。

 この姿が例外だって分かっている。僕にとって異常な状態であると理解している。

 リッカが僕を怖がっているというのは、苦しいけれど……この一時、前に進むためならば、我慢しよう。

 

「五冊目」

 

 特別、感情も入れずに淡々と、ベガは通達してくる。

 彼女がこちらの事情に関わらないというのは、余計なことを考えずに済んで都合が良かった。

 あくまでも案内者に徹する彼女は敵ではない。少なくとも、今のところは。

 

 先と同じく、リッカとのつながりを強く意識して、“同じ場所”に着地する。

 ――現れた巨大な水塊は、今度こそ見覚えのあるものだった。

 ある程度、動き回れる戦闘が可能なほど広い幅の通路を塞ぐ水の壁。

 液体を取り込んで自己を拡大させていくスライムだが、そのたびに存在が薄まって消滅してしまう危険性があり、一定以上の成長は難しい。

 そんな中、遠目に池と見紛うほどの規模まで巨大化したのが、あの『迷い池』。

 あの個体が転用されたリッカの使い魔は、『ユーリフューリー』での戦いが主体となった現在でも頼りにする防御力を持つ。

 その防御力を突破するのは難しい。巨大になればなるほど、スライムは核を貫きにくくなる。

 

「お願い、ラフィーナ」

『ちょ、だから片手で――』

 

 スライムに捕えられないための最も簡単な対策は、離れること。

 自身が支配した液体を飛ばしてくる危険はあるものの、スライム自体の動きは鈍く、攻撃性の高い個体でなければ逃げ切れる可能性は高くなる。

 近付くことが最大の愚策であるスライムを“撃破する”ならば、遠距離からの攻撃手段を用意するのが適切だ。

 

 魔剣を銃砲の形態へと変化させ、一つ、二つと撃ち込んでいく。

 ――衝撃は大きい。この魔剣は、構えもせず、片手で扱えるような代物ではない。

 だが、まるで見えない手が受け流してくれているかのように、返ってくる反動は小さかった。

 

「っ……いける」

『……ユーリ、貴方……』

 

 リッカを連れて距離を置きつつ、弾丸を放つ。

 核はどこだと、闇雲に撃つ必要はない。目の前の巨体へとつながりの手を伸ばしてみれば、掴めるものがどこにあるかは、大体分かってくる。

 巨体すべてを消し飛ばせというならば相応の手間が掛かる。

 実際に挑んだ時は、広範囲を貫く『オズマフューリー』の必殺技で、とにかく“一撃”当たるまで攻撃し続けるしかなかった。

 しかし、核さえ見つければ、そこに向かって真っ直ぐ掘り進めて、十分な威力を叩き込むだけでいい。

 中心よりややずれた、床に近い箇所。そこに五発ほど撃ったところで、巨体は爆散し――液体がこちらに降り掛かる前に消えていく。

 

「お見事。こちらです」

「うん」

『……』

 

 短く、今の戦いが終わったことを宣言し、ベガはさっさと歩き始める。

 ……どこまで続いているかは分からない。

 そして、これがリッカの悪夢を回顧しているならば、一体どれだけの記録が待ち受けているかも分からない。

 だが――それがどうしたという話。

 

「六冊目」

「――――ッ!」

 

 通路の脇道から聞こえてきた咆哮にさえ聞こえる唸り声。

 それを認識した時には、その脇道から僕たちの二倍の背丈はある巨大な獣が飛び出してきた。

 焦りはしない……冷静に対処していく、それだけでいい。

 

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 対処方法としては、以前戦った時と同じ。

 力自慢と力勝負をする必要はない――イリスティーラから教わったことだ。

 『ユーリフューリー』ならばまだしも、この姿で発揮できる力はそう大きなものではない。

 ならばあの時と同じ、“容赦のない”搦め手でいい。

 

『リヴィア・エクスバスター!』

 

 放たれたのは、水の属性を付与した弾丸。

 球状の液体は迫る獣の顔面を覆い、その呼吸手段を断つ。

 

「――――!?」

「リッカ、ちょっとごめんっ」

「ぇ……あっ!?」

 

 それでも、獣の勢いは止まらない。

 真っ直ぐ突っ込んでくる巨体に身を竦ませていたリッカの手を離し、その体を抱き上げて壁際に飛び退く。

 駆け抜けていった獣はその先で転げて、呼吸を求めて悶える。

 追撃の必要はない。その動きを注視し、止まるまで待つだけだ。

 

 ……『巨岩獣』。聖都に向かうために通り抜けようとした、オレブ山道を縄張りとしていた巨大オーク。

 旅に出てから、初めての敗北の相手だ。

 完成した『リヴィアフューリー』の防御力が通用せず、僕たちは山道に開いた裂け目から遥か地下の魔窟に落とされた。

 そこで出会ったのがイリスティーラ。クイールの話を初めて聞いたのも、あそこだったか。

 魔窟は虫型魔族が無数に生息していた。あの魔窟の主からリッカを取り返し、イリスティーラの協力を得て撃破したこのオークは――アリスアドラが狂気を唆したというようなことを言っていた。

 

 ――そうでなければ、出会うことはなかったかもしれない。

 

 ――そうでなくとも、“いつか”でリッカを玩具にしたことは変わらない。

 

 苦しむオークを離れて見ている中で、そんなことを思って。

 動かなくなり、その姿が消えるまで、もう一度引き金を引きたいという小さな悪意と、戦った。

 

「……リッカ。このまま、目を瞑っててもいいよ。本当は歩くのもつらいって、分かってる」

「……ぅ……い、いい。下ろして、ユーリ。私、歩ける……歩けるから」

 

 リッカを抱いて、或いは背負って進むだけの力はある。それを無理なくできるかという、背丈の問題は……ともかくとして。

 暫く迷って、リッカは控えめに拒否した。

 ゆっくり下りて、自らの足で立つリッカの意地……それを支えたい自分。歩かなくていい、何もかも頼ってくれていいと欲張る自分。

 どちらも、僕の本心だった。

 

 

 

 

 ――どれだけ歩いただろうか。戦いは多いものの、距離としてはそこまで長くない気もする。

 

 

 

 

「十八冊目」

 

 それなりの数の試練を終えて、次に飛び出してきたものは、馬型の魔族だった。

 魔剣を初めて運用した相手、リヒトやトーカと出会い、アッシュを貰ったきっかけであるユニコーンかと思ったが……違う。

 根元から裂けたような二本角。

 それぞれに別系統の属性を持つ、筋張った巨馬。

 

『……バイコーンね。清いものを喰らう性質があるっていうけど』

 

 試練が進むにつれて、強力な魔族が現れるようになった。

 見たことのない魔族も多い。それは、リッカがどこかで足止めを受けて、その道を諦めざるを得なくなった要因でもある。

 それを繰り返させはしない。

 リッカの悪夢であるならば何であれ、倒すべき敵だ。

 

「ッ……」

 

 幸運だったのは、リッカではなく僕を執拗に攻撃してきたこと。

 リッカに暴力の矛先が向かないのであれば、攻撃を引き付けることもかなう。

 突進のすれ違いざまに、その首に魔剣を突き刺して仕留める。脇腹に掠った角が裂いた傷は深かったが――間に合った。

 

「……終わった。治してくれる?」

「『“導く翼”が冥きバルハラに願う。このまれびとに水と灯火を』――これでいいですか?」

「うん。ありがとう。……それは、魔法なの?」

 

 ベガに頼めば、試練で受けた傷は瞬時に治療される。

 この迅速に効果を発揮する治癒は、魔法であれば相当高度で複雑な術式を要するだろう。

 それを、本を開き短い文言を紡ぐだけで成立させる、彼女の技術はなんなのか。

 

「これは単なる願いです。あなたたちのそれが現代の魔法であるならば、完全に乖離した技術です」

 

 今でも、どこかに残っている技術なのだろうか。

 リッカが作り上げた魔法は普通のそれとはまったく違う。

 ベガがこの外装や魔剣といった魔法と比べたのであれば、本来の魔法と近いものであるという可能性もあるが……。

 

「ユーリ……今の、怪我……」

「大丈夫。もう治ったよ、リッカ。死なない――心配しないで」

 

 ともかく、傷は治癒した。今重要なのは、その結果だ。

 しかし……治ったとはいえ、その怪我はリッカに不安を抱かせてしまったらしい。

 ……僕が油断をして、魔族に隙を突かれて……その後にリッカが狙われたということも、数えきれないほどあるのだろう。

 僕が傷を受けるということもまた、リッカが“いつか”を想起することに繋がる。

 もっと、完璧な戦い方を心掛けないと。リッカが安心して、付いてきてくれるように。

 

「おや」

 

 先を行くベガが何かに気付く。

 次の試練か――と思い視線をやれば、十字路の前方、突き当たりに人が一人入れるような箱が置いてあった。

 蓋は開かれ、金の塊やら、強い魔力の感じられる剣やらが無差別に詰まっている。

 

「正しい通路はここを左です。回収するならば、お好きなように。途中で見つけたものは、あなたたちが手にする資格があります」

「……」

 

 本棚で出来た迷宮において、それは随分と浮いて見えた。

 しかし、見えている宝物は偽物ではない。ここを突破さえ出来れば、持ち帰ることも出来るだろう。

 

『ユーリ、あれは――』

「分かってる」

 

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 ラフィーナの警告を受けるまでもなく、伝わってくる。

 あれが……見せかけのための用意された宝がどんな価値を持つものであっても、ここから一歩も近付くことはない。

 あの箱の真下――地下の深くから感じられる、弱い人間を嘲笑う悪意。

 それの中核さえ分かっていれば、後は迷いなくそこを狙うだけ。

 

『オズマ・エクスバスター!』

 

 放たれた土の属性を込めた光弾は、箱の真上にまで走った後、軌道を変えて箱の中心を貫いた。

 

「 ―――――!? 」

 

 カモフラージュのための箱や宝を吹き飛ばしながら絶叫する、おどろおどろしい肉の塊。

 最奥にある脳を撃ち抜いたことで、それはたちまち脈動を停止させ、その場に崩れ落ちる。

 もしも、欲に駆られて近寄り、宝に手を伸ばしていれば、あの肉から逃れられずに捕食されていたのだろう。

 

「……あれ、なんなの?」

『――ミミック。宝物で擬装するのは昔の文化の名残って聞くわね。あんたみたく、核を簡単に見つけられなければ、かなり強力な魔族よ』

 

 こうした遠距離攻撃の手段がなければ、地下深くの核を攻撃するのは難しい。

 加えて、あの悪意。恐らくあれは、人間を甚振ることに特化した魔族なのだろう。

 ……付近に転がる宝は、拾う気にならなかった。

 

「冒険者ならぬ勇者であれば、こうした罠にも引っかからないと」

「……冒険者?」

「――なるほど。行きましょう。こちらです」

 

 未知を求めて、人間が気軽に旅に出られるような世界ではない。

 ……魔王がこの迷宮を作り上げたのは、いつのことなのだろうか。その時代は、今とは違ったのだろうか。

 なんにせよ、間違いではないのは、その時代からこのミミックのような悪辣な魔族はいるということ。

 これまでに選ばれた、九十人を超える勇者たち。

 その中には、リッカと同じような目に遭って――繰り返すことなく果てたものもいるのだろう。

 

「……」

 

 ――関係ない、と首を横に振る。

 僕は、リッカのための勇者。過去の誰かに思いを馳せるのは、身に余る感傷だ。




『U-リッカ アッシュフューリー』
【属性】火/勇気
【攻撃力】■■■■
【防御力】■■■
【素早さ】■■■■
【魔 力】■■■
【精神力】■■■■■■■■■

【U-リアルコーティングA´】
全身を包むスーツ。緊急再現のため、防御能力は本来のものより落ちている。
スーツの真紅は暗くなり、『グラッジアッシュレイヤー』により大半が生気のない黒灰に沈んでいる。

【グラッジアッシュレイヤー】
本来の力を発揮できない勇者を守る複層緊急保護機能。
膨大な妄念が灰の如く積み重なることで構成され、スーツの不備を補っている。
装着者の生存を第一とし、精神力を防御力に変えダメージを最小限に抑えると同時に灰が飛び散り、相手の妨害を行う。

【アッシュリンクサポート】
本来の力を発揮できない勇者を守る戦闘支援機能。
魔剣ラフィーナの運用に特化し、特殊な演算によって疑似的に練度を向上。
剣、砲、どちらの形態も十全以上の扱いを可能とする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。