凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
不気味に安らいだ意識の中で、ずっと何かに見つめられていた。
世界のすべてを捉えられるのではないかと思うほどの、宙に浮いた巨大な目玉。
その周囲に無数に浮いた、小さな目玉。
奇妙な暗闇で安らぎを強要されているようで、その目玉のせいで少しも落ち着くことが出来ない。
どちらかといえば、その異様な景色が齎すのは、早く目覚めるべきだという焦燥だった。
「……っ」
目を開けて、体を起こせば、そこにあるのは星空だった。
目玉が浮いていないだけマシではあるが、上を向いても横を向いても、そして下を向いてもあるのは星空。
寝かされていたベッドや調度品はただの宿ならばともかく、こんな空間にあるのはあまりに不相応。
そして……どうやら、ここは部屋であるらしい。
辺ごとに異なる色のクレヨンで描かれた大きな立方体の中に、僕はいた。
「……ここは」
当たり前だが、こんな景色の場所は知らない。
周囲のどこを見ても、手掛かりになるようなものはない。
そして――リッカもいない。その事実に辿り着いて、ベッドから跳び起きようとして。
瞬間、壁の一つにやはりクレヨンで描かれた扉が出現した。
「……ああ、起きました? 良かった……人の看病の仕方なんて知らなかったので」
扉を開けて入ってきたのは、十歳になるかならないかというほどの少女だった。
端正な顔立ちと線の細い体。ふわりとした白髪を肩まで伸ばし――つい先程まで見ていたような、極彩色に目玉をあしらった衣装に身を包んでいる。どうして。
どこまでも深い海のような青い瞳には安堵があった。彼女の言う看病という言葉が、彼女なりの真摯なものだったと、それだけで伝わってくるほどに。
「キミは……というか、ここって……じゃなくて、リッカは――」
まず初めに、何を聞くべきか。
変に落ち着いた頭を掻き回して問いを引き出そうとすれば、当然のように少女は苦笑を見せた。
「えっと……順に答えますね?」
「……う、うん、お願い」
「僕はアルフィルク。この北辰の間にて、
彼女の名前と、この場所。
二つについてそれぞれ、もっと聞きたいことが生まれたが、それは後。
“共に落ちてきた女の子”の特徴に頷けば、向こうも頷きを返してきた。
「ご安心ください。少し前に目覚めて、別の部屋で待機してもらっています。あなたが目覚めたら伝えてほしいとのことでしたが……一緒に行きますか?」
「っ、うん。連れてって」
「では、そのように。歩けますか? 床は分かりにくいですけど、ちゃんとあるので、勇気を出してベッドから降りてしまってください」
まずは、リッカが無事であるらしいことに安堵する。
とにかく、状況を理解するのはリッカと合流してからだ。
星空ばかりで見えない床――そこに恐る恐る足を下ろして、浮かんだ違和感は別のもの。
……僕、こんな服持っていたっけ、と。
「ああ、服はぼろぼろでしたので、勝手ながらお二人の荷物から引き出して、替えさせていただきました。……えっと、何か不味いことを? 顔が引き攣っていますが」
「…………これ、リッカの服」
「なるほど……着ている服を分けていたとは。背丈が同じくらいでしたので、てっきり一緒に使っているものかと」
「――そんなわけ!」
一体何を言い出しているのだろうと思いつつ、ベッドの傍に置かれていた鞄から自分の服を引っ張り出す。
……正直に言うべきだろうか。いや、流石にリッカに怒られそうだ。
それ以上を意識から頑なに外しつつ、着替えようとして――
「……どうしました? 着替えないんですか?」
「えっと……女の子に見ていられると気になるというか」
じっとこちらに目を向け続けるアルフィルクにそう指摘する。
暫しの沈黙……アルフィルクは首を傾げ、やがて合点がいったように笑みを浮かべた。
「そういうことなら、心配いりません。この場に女の子はいませんので」
「え?」
「男の子です。こう見えて」
――その時に受けた衝撃は、本当に不覚ながら、リッカへの心配を僅かに忘れるほどのものだった。
「さあ、こちらです。迷いやすいので、気を付けてくださいね」
「う、うん……」
クレヨンの扉から外に出る。その先の景色も、部屋とそう変化はない。
星空が広がる、クレヨンの通路にはいくつも扉があった。
僕たちが出てきたのはそのうちの一つ。たとえば、アルフィルクがどこかの扉に入るのを見逃していれば、あっという間に迷子になりそうだ。
そんな長い通路を、共に歩く。
……アルフィルクが“男の子”だというのは、冗談ではなく真実らしい。
カミングアウトの後、停止する僕に対して、彼はさも当然とばかりに“証拠”を提示してきたのである。
この場所がどういう場所なのかは分からないが、少なくとも倫理観という面で僕たちとは違う次元にある気がした。
「それにしても。この場所で同じ男の子の人間に会うのは初めてです。同性の相手、というのも……どう接していいか、なんだか分からなくなっちゃいますね」
「……ここには、他にも誰かがいるってこと?」
「はい。お二人を連れてきたベガさんも、たまーにこっちに来ますし……あとは、主様が。主様は、その……性別にとらわれぬ方ですので。ですので、そもそも人間と会うのが初めて、になるのかな」
ベガ――そうだ。迷宮に挑んでいたのだった。
いつの間にかこの場所にいたという状況から遡り、きっかけを洗い出していく。
意識がはっきりと残っている、最後の光景は……リッカと共に、やってきた過去に敗北したことだ。
撤退しようとした僕たちを追ってきた本から出てきたのは、僕たちでは決して戦うことのできない相手。
抗うという気も起きず、その蔦に覆われて、意識は薄れていった。
そして次に目を覚ました時にいたのが、この空間だ。
……つまり、僕たちは死んだのだろうか。
勇者として、リッカのためにという役割も、結局果たせないままに。
だが、リッカがいるということは、リッカに繰り返しも起きていないということになる。
「ここです」
アルフィルクは短く、一つの扉を示して、そこに手を掛ける。
扉が開かれたことでようやく、そのつながりに届いた。
リッカがいるという確信から、いてもたってもいられず中に駆け込む。
「リッ……カ……?」
「――ユーリっ」
向こうからも駆けてきた、その体を受け止めるのに苦労はしなかった。
疲労は抜けているが、リッカ特有の“軽さ”は変わらない。そしてこのあたたかさもまた、リッカとの繋がりでしか感じられないもの。
リッカからも、強い安堵が感じられる。ひとまず、互いに一番の懸念は解消されたらしい。
だが、それはそれとして。
「……リッカ? その恰好って……」
「っ……知らない。なんか、着せられてた」
「ああ、すみません。えっと、リッカさん? ……の服もぼろぼろだったのと、リッカさんについては、主様が“それを着せても良い”とおっしゃっていたので」
……これで三着目だ。目玉をあしらった謎の服である。
ベガやアルフィルク……僕たちにとって正体不明な面々が着ているならば、それが趣味かと思うことも出来たが、リッカの趣味と一切合致していないことなど言うまでもない。
指摘されて思い出したのか、離れたリッカはたちまちばつの悪そうな表情に変わる。
……あまりリッカを気落ちさせたくはないが、似合っていない。というかあの衣装の雰囲気が合う者などこの世にいるのかと思うほどだった。
リッカの白色を際立たせる意味合いも持たず、単にその衣装がただただ悪目立ちしているだけだ。
「……とりあえず、着替える?」
「……ん」
リッカに鞄を渡す。荷物を極力減らすため、共有していたこれが僕の方にあったことが災いしたか。
かといって、僕が起きたら
「着替える……ユーリ、ちょっとあっち向いてて。――――あなたは外にいて」
「……? ……ああ、僕ですか。僕は特に気にしないんですけど。程々にして出てきてくれると助かります」
物腰丁寧なように見えて、彼は明確に異なる価値観を持っている気がする。
リッカが強い視線を向けている意味を数秒経って理解したらしいアルフィルクは、よく分からない言葉を残して部屋を出た。
「……ここ……どこ、なのかな」
「『北辰の間』ってあの子は言ってたけど……多分まだ、迷宮の中なんだと思う」
壁の向こうの星空を眺めながら、リッカと共に状況を整理する。
「……迷宮……最後……」
「うん……カルラ、だった」
「……回想だって、分かってた。カルラは今も私の中にいる。けど……」
「……僕も同じ。手は、出せないよ」
もう一度同じことがあって、彼女に剣を向けられるかと問われれば、やはり否だ。
試練として反則だとさえ思うあれを前にして、僕たちは完敗した。
「この後……どうしようか」
「ひとまず、ここから出る。迷宮の外まで、出た方がいい」
撤退を決めた矢先に、この状況。
ここがどこなのか。ここに連れられた意図が何であれ、僕たちは迷宮を出るべきだ。
もう一度挑むにしても、しっかりと準備を整え直してから。今度は惑わされないように。
「……終わった。行こう、ユーリ」
「うん。……」
「――」
着替えを終え、杖を持ったリッカの空いた片手を取る。
またあの迷宮のように、そしてここに来た時のように、リッカと引き離されたら困る。
つながりを意識しながら部屋を出れば、アルフィルクは退屈そうに、壁に背を預けていた。
「ああ、終わりましたか? 早いですね。……えっと……こっちです」
曖昧に微笑みを向けてきた後、アルフィルクは先導するように歩き始める。
どこまで行っても変わらないような景色。
どうにも距離感が掴みがたいそこを五分ほど真っ直ぐ歩く。
やがて、一つの――他と変わらないように見える扉の前に立った彼は、おもむろにそれを開いた。
――その先にあったのは、同じような部屋ではなく、やはりクレヨンで描かれた、下へ下へと続く螺旋階段。
「踏み外さないように気を付けてください。手すりもないですし……変に落ちるとどこに繋がるか分からないので」
物騒で、不思議な警告の後、アルフィルクは先にそれを下りていく。
その歩みに迷いはない。おっかなびっくりと一段ずつ下りる僕たちを気にすることなく、どんどん距離は離される。
すぐに彼の姿は見えなくなった。
――案内の必要はなくなったということだろうか。
星空の中、ひたすらに続く階段。
まるでおとぎ話のような光景を、今確かに僕たちは歩いている。
……これが夢ではなく、確かなものであると、言い切ることは出来ないのだが。
他にあてもなく、唯一“先へ続く”と分かっている道をまっすぐ下り続け、どれほど経っただろう。
ようやく辿り着いたのは、雑な四角で囲まれた、光に満ちた空間。
「……ここ、かな」
「……ん。それ以外には、分かれ道もなかったし」
階段の終端であり、そのほかに何かの入り口らしい場所もなかった。
つまり、ここが辿り着くべきゴールということなのだろうが、その先に何があるかは見えない。
「――行こう、ユーリ」
「うん。リッカ、離れないで」
唯一の手掛かりに向けて、一歩踏み出す。
この、限りなくバッドエンドに近い、手探りしか出来ない状況を少しでも打開するために。
何かが待っていてほしい。まだ、ここで全てを諦めるなんてことは、嫌だから。
光の中に踏み込んで、さらにもう一歩。
嫌になるほどの星空とは、そこで別れを告げた。
「……!」
青い光が照らす、古めかしい石造りの広い部屋。
色彩はまるで違えど、そのつくりは聖都にある大聖堂によく似ていた。
そこにある命の一つ一つに色を与えた代わりに、部屋そのものは青以外を奪われた、そんな空間。
相変わらずの衣装に身を包んだ、アルフィルクと、そしてベガ。
二人の間――僕たちが向かい合った真正面の、巨大な玉座に腰掛ける一人の“生物”。
「――待ちに待ったねぇ。オハヨウ……それから、ヨウコソ。さらに、ハジメマシテ。えっと、ぼくからキミたちに送る挨拶は、そのくらいかな? ああ、あと一つ、それは片方に対してだけになってしまうが……オカエリ。これもあった」
僕たちが使うものと、同じ言語で話すことに、何故かひどい違和感を覚えてしまうようなヒトガタ。
そこに、この部屋にあるべき色彩は集中していた。