凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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色彩の主、その名はバルハラ。

 

 

 体を超え、床にまで垂れる長い、長い髪は何らかの色で染まっているのではなく、代わりに煌びやかな七色の輝きを放つ。

 同じく床までの、長く巨大な黒の外套。それとくっ付いているかのような、細く黒い手甲。

 側頭部から生えた黄金の角は中ほどで捻じれ、天井に向かって伸びながら二又に割れている。

 唯一肌の見えている、貼り付いたような笑みを浮かべた顔は、アルフィルクと同じく幼さを残し、性別の判然としない端麗……というよりも、それを超えて不気味だとさえ感じる超然としたもの。

 

 ……人の形をしているように見えるが、本性は定かではない。

 何よりそう思わせるのは、外套の中から伸びて、玉座の周囲に広がり、傍の二人の足元を覆い、そして広い部屋の壁を埋め尽くさんほどに張り巡らされた、無数の赤黒い触手。

 一本一本に、感じ取れるほどの魔力が満ち、おぞましく脈動するそれらが放っているのだろう。

 部屋は奇妙に甘い香りで満たされている。

 油断すれば気を持っていかれそうな芳香に、思わず鼻と口を塞ぐ。

 それを見て、何がおかしいのか――目の前の何者かは、くすくすと笑う。

 

「クフ……ゴメンだねぇ。委ねてくれれば甘ぁい夢を約束するけど、それを求めてきたわけじゃあなさそうだし。頑張って耐えてよ、これでも、限界まで薄めているからねぇ」

「っ……これ、でも?」

「本来は薄める必要がない、夢に酔って堕落するための吐息だからねぇ。ああ……一つだけ、完全に気にならなくなるお得な契約があるんだけど。この刻印を下腹部に刻むだけで、その他のあらゆる外的要因による快楽が気にならなくな」

 

 その“生物”が手甲越しの手元に何か、ピンク色の術式を浮かべ、呪文のような意味不明の言葉を紡ぎ始めたかと思えば、横にいたベガが無言のままその頭を鷲掴みにする。

 そして、パチパチと頭から火花が飛んだかと思えば――妖しい笑みは一転する。

 

「イひぅ……っ、……巧くなったねぇ、ベガ」

愛液()の滲む努力の成果です、我が主」

 

 虹彩がいくつも重なる銀色の目が裏返り、一瞬だけ白目を剥いて、空間が軋むような高い声を上げた何者か。

 ……あまりそうだと認めたくはなかった。

 だが、ベガの言葉と、あの二人が側に仕えているという状況。

 それから何より、空間すべてを容易く支配しているような、混沌とした力の圧が、“アレこそがこの場所の主である”と証明している。

 

「その紋を刻むべき相手ではないでしょう。かれらはお客様です。この空間の主として、高貴で毅然とした態度を心掛けてください」

「手遅れだねぇ。まあ、ちょっとだけ真面目になろうか。待ちに待った客人がようやく辿り着いたようだし。それじゃあ、息を止めるからねぇ」

 

 ギシリ、と空間が揺れる。

 無数の触手の脈動が止まり、噎せ返るような芳香が嘘のように消え去った。

 

「さてと。まずはぼくが名乗らないと、いけないかな? ぼくはキミたちのことを少しだけ知っているけれど、キミたちはぼくが何なのかって、見当もつかないだろう?」

 

 それが文字通り、息を止めたことによる影響だと言うならば、異常なほどその存在は平然としている。

 ベガの手が離れていったことで捉え難い不思議な笑みを浮かべ直した、この空間の主。

 何者か、などそれ以上は分からない。

 リッカと目を合わせて、それから僕が曖昧に頷きを返せば、笑みは僅かに深まった。

 

「――バルハラ」

「……バル、ハラ?」

「うん、そうさ。ぼくは、バルハラ」

 

 その名前を、どこで聞いたのだったか。

 そう、確か――ベガが迷宮の道中、僕たちの依頼で傷を癒す時だ。

 確かその時読み上げていた文言に“バルハラ”という単語があった。であれば、やはり関係が――

 

「一応、正式名称(フルネーム)も名乗っておくと――バルハラ・ミク・マリカ・アトス・ヘルメス・バルハリオン・ホロビ・イヴカドモン・アズアバリオ・ピースバース・アズティ・フォン・アズワルド」

「えっ?」

「は……?」

「息止めた状態で二度言わせるのは鬼畜だねぇ。あくまで一応名乗っただけだから、バルハラだけ憶えてくれれば十分かな」

 

 リッカと二人、微妙にずれて聞き返した。

 その場で思い浮かんだ名詞を雑に並べたと答え合わせされても納得できるほどに統一性のない正式名称(フルネーム)

 しかし、ふざけているわけではないようで、ベガもアルフィルクも反応はなかった。

 

「キミたちも、名乗ってくれるかな。というか、もうこの際全員自己紹介と行こうじゃないか。色々な答え合わせの第一歩さ」

「私は既にお二人に名前を伝えておりますが」

「あ、僕はリッカさんにはまだ……あれ? 男の子の方の名前聞かされてたっけ……? リッカさんが呼んでた……?」

「どういう流れでここまで来たんだろうねぇ」

 

 ……ここまで、ベガをはじめとした三人から、一切の敵意や悪意は見られない。

 正確には、あの主とやら――バルハラからは感じ取れるものが殆どない。

 魔王のように、何も存在しないわけではない。

 感情の……“質”というのだろうか。それが他の生命とは根本から違う気がして、掴み取って理解できるものが少ないのだ。

 一応、その僅かな感情を読み取れば、彼……彼女……は、僕たちを歓迎しているように思えるが……。

 

「……主命ですので、改めて。我が名は“導く翼”ベガ。大図書館よりお客様をここまで導く役割を担っております」

「えっと、僕はアルフィルク。魔族じゃなくて、人間です。ここで主様の周りのお世話を務めています」

「……その、ベガの“導く翼”って……?」

「名前の一部だと思ってくれればいいねぇ。呼ぶときはそんな感じで、ベガって呼んでくれれば大丈夫だよ。さ、キミたちも、ほらほら」

「――ユーリ。百代目勇者だ。それから――」

「……リッカ」

 

 リッカが自分から名乗ったことに、少しだけ驚いた。

 目の前の面々に対して、信頼した様子はないし、きっかけだってなかった筈だ。

 警戒は健在だが、この状況に――解決の兆しを見たのかもしれない。

 

「うん、いい名前だ。ここに来てから新しい名前なんて、自分で空想するしかないからねぇ。新しい名前を知ることのなんと心地いいことか。脳髄が溢れ出しそうだ」

「お客様の前ですので、自重なされた方が良いかと」

「八割ほど冗談だねぇ。どこまで行ったんだっけ?」

「九十七冊目です」

「五十もあれば上々だと思っていたけど、大健闘だよ。……それじゃあ、どうする?」

「え……?」

 

 互いに名乗り合ってからの、突然の問いかけ。

 銀の目は愉快そうに細められ、娯楽を見るかのように真っ直ぐとこちらに向けられている。

 

「キミたちは上の迷宮を超えて、ここに来た。ここで何をする権利もあるわけだよ」

「……待って。僕たちは……あの迷宮の試練を乗り越えられなかった。迷宮の先にある場所がここなのだとしたら、おかしい」

 

 正直に言うべきかと迷ったが、ベガがここにいる以上知られて当然だろう。

 僕たちは迷宮を踏破していない。その道中で、乗り越えられない試練を前に終わった筈だ。

 今あるこの状況の違和感を告げれば、銀の目はさらに細められた。

 

「ここは間違いなく、迷宮の果て。キミたちは正しい順路でここにきた。つまりだね、“脱落する”ことが正規ルートなんだよ」

「……どういう、こと?」

「この迷宮は回顧を試練とする。現在は果たして過去を踏み越えた成果たり得るか。奇跡の援けもなく、独りの今をもって過去に打ち勝てるか。そんな内容なわけだけど……論外だよ。生命であるなら、二度は繰り返せない運命が、一つくらいないとねぇ」

 

 試練に敗北して、ここに辿り着く。

 それを正規ルートだと宣ったバルハラは、僕たちの動揺など気にせず続ける。

 

「どれだけ実力を付けようと、二度目のない勝利……それがない、平々凡々な道のりはぼくの好みじゃない。平然と全部乗り越えたら、迷宮の果ては外だよ。逆に、“負けるべき迷宮”だと分かっていれば、極論一冊目で適当に自害していればここに来ることだけは出来るわけだねぇ。いや、それもそれで効率的過ぎて気持ち悪いけど」

 

 ……リッカが苦しんだことも。

 それを守って、果てまで進もうとした僕の決意も。

 すべてが意味のない夢であるかのような、いたずらの答え合わせ。

 冗談だと思いたかった。バルハラの笑みには、冗談染みた雰囲気もあった。

 しかし、それが嘘ではない、バルハラなりの真摯な説明であることは、僕には伝わってきてしまった。

 

「キミたちの旅路には、確かに奇跡があった。或いは、ただその後に立ち上がれたというだけの絶望があった。苦しみのない生涯なんてつまらないだろう? “今度こそ”ですら乗り越えられない運命のある、激動の旅……そのふとした行き止まりがここに通じているのさ」

「……それじゃあ、なんのために――リッカがもう見なくて良いものを……っ」

「ああ、うん」

 

 悪意のない、しかし理解し難い悪辣な迷宮に対する憤り。

 それをさらりと受け止めて、バルハラの瞳はリッカの方に動く。

 

「魂、残りカスのレベルだねぇ」

「ッ――――」

「ユーリっ!?」

 

『■■■■■■■』

 

 きっと、何か思うところはあるのだろう。

 だが、どうでもいいものを見るような物言いが、ひどく癇に障った。

 衝動に応じるとばかりに、飛び出したアッシュが灰と散って纏わりついていく。

 

『ッは!? ユーリ、あんた生きて――』

 

 呼び出した魔剣を砲撃形態に移行して、躊躇なく引き金を引く。

 放たれた弾丸は、真っ直ぐにバルハラへと走り――道中に湧き出てきた肉塊の如き触手に阻まれ、爆発した。

 

「どっちにも動く意思がなくてびっくり。こういうのって、側に控える従者が庇う流れだと思うんだけどねぇ」

「主が知っての通り、私は戦うすべを与えられておりませんので」

「えっと……あ、すみません、主様。あまりに急すぎて、頭が追いついていなかったです」

 

 何事もなかったかのように、平然と雑談に興じるバルハラ。

 弾けた肉塊がぐずぐずと音を立てて再生していく。

 ……僅かなダメージになった気配さえない。ならば、と魔剣に魔力を込めようとして、その手がリッカに掴まれた。

 

「ゆ、ユーリ、待って……!」

「リッカ――だけど!」

「大丈夫だから! あれと、敵対しないで……まだ何も、こっちは分かってない」

 

 迷宮の道中に大した意味はなかったと知って、一番苦しいのはリッカの筈なのに。

 まだその時ではないと、リッカは僕を止めることを選択した。

 いつものように、魔族は信じるに値しないと、最初から敵意を向けてくれれば、僕も躊躇いを持たなかったというのに。

 それ以上、リッカを置いて独断で飛び出す気はなかった。歯を食いしばり、憤りを堪えながら、魔剣を下ろす。

 

「まあ、敵対はしたくないねぇ。落ち着こうか、ユーリ。思うに、冷静に手綱を握るのはキミの方だろう?」

「……出来るだけ、僕の名前を呼ばないで」

 

 僕たちのことを分かっているような口ぶりが不愉快だった。

 個人に対して、これだけの悪感情を持つことが、これまであっただろうか。

 もしかするとそれは魔王よりも性質の悪い存在かもしれないと思わせるほど――目の前の存在は、僕の天敵となり得る気がした。

 

「にしても……なるほど。懐かしい雰囲気だねぇ。その剣に宿る狂気。元気そうで何よりだよ」

 

 気分を害した様子はない。この程度では、敵対にすらならないということか。

 楽しげなバルハラが次に目を向けたのは魔剣だった。ラフィーナではない――魔剣そのものだ。

 

『誰……待って。狂気って……アリスアドラ様を知っているの!?』

 

 ラフィーナが心酔する、四天王の一角。

 魔王を目指す僕たちがいずれ戦わなければいけない、あの強大な魔族――。

 

「……ぼくの知らない間に名前持っていかれてるねぇ。アリス、昔はいい子だったんだけどな……ケーキ作りが趣味でねぇ。ピクニックに行った時はサンドイッチとか作ってくれたり。花畑に寄ってきた妖精と戯れるのが大好きな――」

『それ誰のこと言ってんの?』

 

 その名前に、僅かに表情を硬くしたバルハラ。

 ……いや、他人の空似……ならぬ名前のニアミスだろう。

 並べられた、アリスアドラと似ても似つかない何者かの特徴に、僕たちは曖昧な表情を浮かべるほかなかった。




【クイール】
九十九代目勇者はすごいので、挑む機会さえあれば過去のトラウマとかも何だかんだすべて突破する。
つまり、「攻略可能だからこの迷宮には向いていない」。
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