凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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はじまりに、おとぎ話あり。

 

 

『……そもそも、あなたは誰?』

 

 アリスとやらを懐かしむバルハラに、ラフィーナが問う。

 僕たちからも説明しようのない存在だと悟ったのだろう。

 過去に浸る様子に呆れを見せつつも、その声色には強い警戒が含まれている。

 

「バルハラ。二人には名乗ったけど、正式名称(フルネーム)は――」

『それだけでいいわ。“フルネーム”とか今時古臭い。そのバルハラは何者なの? ここが魔王様の迷宮の先だっていうのなら、何故そんなところにいるわけ?』

「――古臭い」

 

 ……遠慮のないラフィーナの物言いに、バルハラは笑みを浮かべたまま若干傷ついた様子を見せた。

 ここまで、大した情報共有もないなか、僕たちに付き合わされて鬱憤が溜まっていたのだろうか。

 そう思うと、今更ながらラフィーナに申し訳なく思った。

 

「……あぁ、うん。ここにいる理由なら単純明快。幽閉されたから、だねぇ」

『……魔王様に?』

「魔王……クフフ。“魔王”かぁ」

 

 幽閉というには、孤独も苦痛も感じているようには見えない。

 しかし同時に――そうでもなければ、“この存在”がこんな場所で過ごしていないという確信も、どこかにある。

 単純な強さとは違うが、バルハラから感じられるのは、勝ち負けとは異なる場所に戦いを落ち着けてしまうような、底知れない力だ。

 先の軽率な攻撃に、バルハラが気分を害していたら。

 リッカとラフィーナによって少しだけ冷えた頭に、そんなもしもが過ぎった。

 

「ぼくは当時、名の知れた魔族だったんだ。それを“魔王”は邪魔に思っていたんだろうねぇ。ある日、ぼくが微睡んでいるところに刺客がカチコミ掛けてきてね。本格的に目を覚ます前に最大火力をぶっ放されて力は散逸。眷属もまとめてパクられた上で叩き込まれたのがここってわけ」

 

 ……その妙に気軽な言葉と、本人の認識がすべて正しければ、バルハラがこの場所に閉じ込められたのは、突然のことだったようだ。

 魔王の支配が始まって間もない頃、或いはそれよりも前か。

 

『……そんな話、聞いたことないわ』

「知っているのは当事者だけだろうねぇ。“魔王”に聞けないなら、キミの心酔するアリスか、或いはリトラかバラルに聞いてみたらいいんじゃないかな」

『ッ……!?』

 

 提示された名前に、ラフィーナは息を呑んだ。

 バルハラの言うアリスは、僕たちの知るアリスアドラとは違うと、そう思っていた。

 しかし、続いた名前は、ラフィーナにとって無視できるものではなかったらしい。

 

『……風の四天王、バラルバラーズ様……それに、先代水の四天王、リトラリヴィア様……』

「名前持ってったの、アリスだけじゃなかったねぇ。……え、もしかしてリトラ死んだの?」

 

 ――ムルゼ霊山にて僕たちが挑むことになる、最後の四天王。

 そして、リーテリヴィアの前任に当たる、先代水の四天王。

 “アリス”に加えて、二つも四天王を思わせる名前が出てくれば、とてもではないが偶然とは言えなくなる。

 ……もしかして本当に、この魔族の知己たる存在なのだろうか。そうだとしても“アリス”とアリスアドラは繋がらないが。

 

『……待って。その、三つの名前の魔族は……あなたにとって、何なの?』

 

 流石に動揺を隠せず、ラフィーナの声が僅かに揺れる。

 

「さっきの昔話で出てきた“眷属”だねぇ。……元・眷属かな。今は“魔王”に従ってしまっているんだろう?」

 

 この場に、証明できる者はいない。

 だが、一つ引っかかるのは、迷宮を訪れた経緯。

 迷宮の鍵を渡してきたのはアリスアドラだ。今の話が本当であれば――ここに通ずる鍵を持っていることも考えられる程度に、繋がりが存在する。

 

「……」

 

 ……認めなければ――バルハラは、単純に敵対すべき相手ではない。

 先の迷宮の試練について、許せる気はしないけれど、それを呑み込むことで、“それ以上”を得られる相手だ。

 

『ッ!?』

 

 魔剣を床に突き立てて、アッシュによって纏った灰の鎧を解除。そして懐から錆びた銀色の鍵を取り出し、バルハラに見せる。

 

「……僕たちは、アリスアドラからこの迷宮の鍵を渡された。それが何を意図したものか、キミには分かる?」

「……アリスはなんて?」

「“出会い”さえすれば、僕たちに力を貸してくれる――そう言われた」

「……なるほどねぇ。狂ったアリス、あの子はもしかして……」

 

 可能性は高くなる一方とはいえ、“アリス”とアリスアドラが同一の存在だとは限らない。

 そして、アリスアドラが想定した、僕たちが出会うべき存在が、バルハラだと決まったわけでもない。

 しかし、バルハラには確かに響くものがあったようだ。

 

「まったく――あの子は本当に、“眠れるバルハラ”ではいさせてくれないねぇ。自分自身は眠たがりのクセに」

 

 苦笑して、一呼吸。

 

『なっ』

「ッ!? ――ぁ」

「ユーリッ!」

 

 そよ風のように、緩やかに染み込んできた甘い香りに、意識が飛ばされかけた。

 僕自身が凌いだのではない。リッカが僕とのつながりを手繰って、咄嗟に引っ張り上げたのだ。

 そうでなければ、今頃僕は僕でなくなっていたと断言できる。

 頭の中で鐘が鳴り響くような感覚。

 突如として目に疲れが発生したような強烈な眠気を堪えつつも、立っていられなくなり膝をつく。

 ……リッカは、立っている。僕の名前を呼びながら、体を揺さぶっている。良かった――彼女はなんともないらしい。

 

 ――どうしてだろう?

 

「よく耐えた。それでキミがその子を襲うだけの物言わぬ人形になっていたら、一時の夢だったと終わりにしていたところだ。その荒波に沈まず、キミは正気を保っている。どうあれ、キミたちは知らなくて良かったことを知る権利を得たわけだ」

 

 ぐわんぐわんと掻き回される頭を押さえつつ、必死でバルハラの言葉を受け止める。

 もう、その風が過ぎ去ったことは分かる。今この頭に残っているのは余波のようなものだ。

 それでさえ、リッカに支えられていなければ危うい。

 しかし、バルハラの言葉を聞いて、耐えないわけにはいかなくなった。

 この感覚に身を委ねれば、戻ってこられない。そして、今は無事であるリッカに被害が及ぶ。

 それは――それだけは認められない。僕は、リッカの希望でなければならないのだから。

 

『い……っ、まの、感覚……アリスアドラ様の……』

「同じ狂気だからねぇ。キミも耐えられるのは驚きだよ。よほどアリスの狂気に慣れているらしい」

『……この程度。アリスアドラ様に比べれば……っ、ゴミみたいなもんよ! アリスアドラ様なら、この十倍は強いわね!』

 

 ラフィーナもまた、リッカほど平然としているわけではないが、今の感覚に耐えたようだ。

 ……魔剣の代償として、あの状態から解除された時、『アドラフューリー』の狂気はラフィーナに流れ込むようになっている。

 それによって耐性が出来たのだろうか。

 毅然と言い切るラフィーナに、バルハラは笑みを深めた。

 

「なるほど。このくらいかな」

『え――――イッ!?』

 

 一瞬、魔剣の周囲をピンク色の瘴気が包んだと思えば、ラフィーナらしからぬ理性のない悲鳴が上がる。

 聞こえていたのはほんの数秒だけ。頭痛と眠気に耐えながら、リッカと共に唖然と見ている内に、魔剣の実体化は解けた。

 

「面白い子だ」

「あ、主様……客人にみだりに力を行使されるのは、控えた方が……」

「つい興が乗ってねぇ。なに、この子たちはただの客人じゃない。このくらい笑って許してくれる筈さ」

 

 窘めるアルフィルクの言葉を受け流し、こちらに謎の期待を向けてくるバルハラ。

 当然ながら、笑うことはしないし、ラフィーナに妙なことをするなと抗議の視線を返すだけである。

 暫く視線を交わし、やがて期待通りのリアクションがないことにバルハラは肩を竦めた。

 

「強すぎる力というのは良くない。いつだってコミュニケーションに窮するんだ」

「……今のは、コミュニケーションでも何でもないような」

「言葉が通じず、文明が違えども、あらゆる生物が分かり合える手段なんだけどねぇ。挨拶も争いも快楽で片を付ける。世界が一番平和になる方法じゃないか」

 

 ……何を言っているのだろう、この魔族は。

 本心からそう思っているらしいからなお性質が悪い。

 リッカに被害が及ばないように一歩下がらせる。

 苦笑したバルハラは、初めて首を横に振った。

 

「その子にはしないよ。堕ちる前に壊れるだろうし。どちらかと言うとキミの方が見込みがあるねぇ」

「は?」

 

 ――そして、気付けばその身を乗り出し……どころか、触手を蠢かせてにじり寄ってきた。

 

「どう? 使命を忘れて夢心地に溺れてみないかい? 男と女、ぼくはどっちの体にもなれるが、どっちが好み? 希望のシチュエーションは? 催眠の加減、媚薬と淫紋の有無、何であろうと思うがまま――」

「……いや。そういうの、いいから」

 

 本当に“思うがまま”なのは伝わってくるが、この状況で頷く者がいるのだろうか。

 程度は違えど、セイレーンたちと同じである。

 ……選択肢がこちらにあるらしい点で、バルハラの方が僅かにマシだろうかと錯乱しかけた思考を振り払う。

 きっかけも感じられずに迫られても、生まれるのは拒否感のみだ。誘惑は“リッカを守る気持ち”には勝らない。

 

「……不能かい?」

「本題に入ってくれないかな」

 

 一体いつまで付き合わなければならないのか。

 先を促す。あまり話していたい存在ではない。何か力を貸してくれるならば、早くそれを提示してほしい。

 

「焦るねぇ。そんなにぼくの力が欲しいの?」

「……魔王を倒して、使命を果たす。そのための力なら」

「ふーん……使命――百代目勇者、だったっけ。まぁったく、よくもまあ、娯楽の一つ覚えで時間を浪費出来るものだねぇ、“魔王”のやつも」

「娯楽……?」

 

 魔王の行いに対して見せた呆れの理由を、悟れなかった。

 それは、そもそも魔王が何を目的としているのか、知らなかったこともあるのだろう。

 僕たちの知らないこと――考える必要もない、当たり前だと思い込んでいたことの真実を、バルハラは知っている。

 ――その真実が、先程言っていた“知らなくても良かったこと”に当たるのかと。

 

「そうそう、だってさぁ。『魔王の横行と勇者の使命』なぁんて、ぼくが大昔やってた遊びの丸パクリじゃんかよ」

「え――?」

「は……っ?」

 

 ――そう思ったそばから、バルハラは僕たちの使命の“はじまり”を口にした。

 

「ぼくVS(バーサス)人智の限界(ヨハンナ)、あんな戯れにどんだけ夢持ったんだろうねぇ。ぼく、かれらのことは心から尊敬してたし、そんなに愚かだとも思ってなかったんだけど」

「……待って。その口ぶりだと……あの魔王と、勇者の使命の始まりに……キミが関わっているように聞こえる」

「関わっているというか、ねぇ」

 

 千年前に、魔王が世界を支配して。

 その魔王自らが“配置”した、その支配を打ち砕く使命を持った人間が勇者で。

 誰一人使命を成し遂げることが出来ず、支配が千年間続いた。

 ――――では、その歴史が始まった“きっかけ”は。

 

「――大昔、ぼくの微睡みに全知を、ぼくの玉座に全能を空想した人間が、ぼくを魔王と呼んで」

 

 それより前は。僕が知るところだと……ナディアが生きた時代。

 そこには、魔王や勇者が存在する兆しさえなかったのか。

 

「――人間の空想した全知を超え、人間の空想した全能を揺らがせ、ぼくに初めて未知なる快楽を与えた限界を、ぼくは勇者と呼んで」

 

 否、今の意味合い、形は異なれども。

 確かにそこに、魔王は存在し、魔王に挑む勇者もまた生きていた。

 

「――そんなぼくたちの戯れ、()()()が信仰したおとぎ話の模倣だろう? あれ。言うなれば、ジェネリック・ぼく」

 

 いま目の前にいて、自慢げに胸に手を当てたふざけた魔族こそが、かつて“魔王”と呼ばれた者。

 僕たちのはじまりの、さらにそのはじまりとも言うべき存在――とのことだった。

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