凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「そ……それじゃあ……元々、魔王っていうのはキミの呼び名だったってこと?」
「そうだねぇ。まあ、悪い気はしなかったけど仰々しすぎたかなぁ」
――はっきり言えば、胡散臭いというのが本音。
しかし、それを嘘と断言できないほどに、バルハラの言葉には実感がこもっている。
少なくとも、かつて人間に対して好意的だったことや、勇者と呼ぶ存在に対する親愛なんかは真実らしい。
……どう判断すればいいのか。
リッカ共々、迷いがあった。間違いなく信頼してよい存在ではないが、かといって敵だとも捉えにくい。
魔王に出会ったのが、つい昨日のこと。
バルハラはその翌日に出会い、正体を知るべき存在ではなかった気がする。
「キミたち、その魔王……今の魔王っての、会ったことあるのかい?」
「……僕たちは昨日、魔王に会った。この迷宮に挑もうとして、その入り口に立っていた柱から出てきた。端末だって、言っていたけど」
「聞く限り雑でシュールな出会いだねぇ。どうなってんの今の時代って」
とはいえ、あの魔王の原点たる存在。
ならば一つの憶測が生まれる。“その先”の厄介となる可能性も考えれば、決して無視できない不安材料だ。
「魔王がキミの模倣なら、キミの方が――」
「ああ、それはないよ。言っただろう? 力は散逸したって。その魔王より弱いどころか、外じゃあ存在を保つので精一杯。キミに素手で押し倒されるレベルだねぇ」
「……」
当面の事態の解決と、新たな問題の発生に至りそうな懸念は一瞬で崩れ去った。
どうやら先の、沈みかけた圧倒的な力も条件付き。そうでなければ貧弱極まりない存在らしい。
自分のことだと思えばとても楽観視できる状況ではないが、きゃーと気の抜けた声を発しつつ顔に手を当て外套の内にあるらしい腰をくねらせている姿を見て、それを指摘するのも馬鹿らしいと思った。
「――ともかく、
「急に冷静に戻らないでくれないかな……」
「情緒不安定だって、昔よく言われたねぇ」
当然だろう。真面目に話せるなら常にそうしていてほしい。
「……今は魔王に及ばないっていうのは分かった。けど、それなら、何かあるの?」
再度切り出す。魔王と勇者のはじまり――それは知るべきことなのかもしれないが、それよりも前に結論を求めたい。
即ち――リッカが苦しんで、僕がリッカの求めない道を強行してやってきたこの場所に、知らなかった真実以外の“力”があるのかどうか。
「魔王が作った他の迷宮には、勇者のための聖剣や光翼があった。ここには? キミが幽閉されていたっていうだけ?」
「聖剣……? まあ、いいや。勇者の定義が、キミの内にある金色なんだとしたら、ぼくには用意できない……んだけど」
僅かばかりに残っていた期待は、気の抜けた声で裏切られる。
「――その子に力を与えることなら、できるかもねぇ」
「……私?」
そして、代わりに芽吹いたのは、まったく別の可能性。
困惑するリッカに、バルハラは妖しく微笑みかけた。
「リッカ……キミに両親はいるかい? 自分の生まれについて、何か一つでも覚えている?」
「……」
リッカはゆっくりと、首を横に振る。
……僕もリッカも、両親については知らない。昨日までは、気にすることもなかった。
僕のそれは、魔王が関与しているようだが――バルハラがリッカの生まれについて言及するということは、まさか。
「散らばったぼくの力、ぼくの名前……その一つが個を持ったのがキミみたいだ」
「――――」
「まあ、だからといって魂の器がそこまで大きくなることはないし、“別の生まれ”と半端に混じったみたいだけどねぇ」
さらりと述べられた言葉に、思考が止まる。
バルハラが幽閉された際の襲撃により、その力は散逸したと言っていた。
それが、リッカになった?
はじめから両親のいない、特殊な生命として……?
「本当ならそんな命、外れ者になる筈だけど……良き縁に恵まれたようだ。母親として嬉しいことこの上ないねぇ」
「……、……はは、おや……?」
「父親でもいいんだけど、冥界といえば母の色、だからねぇ」
……いや。だからといって、リッカを見る目が変わるわけではない。
もしもバルハラが、リッカの繰り返しに関与していたというならば話は別だが、あれは魔王が仕組んだもの。
――少しだけ、複雑だったのは、僕とリッカの生まれが、本来決して相容れないものだと感じたこと。
そんなこと、どうでもいい筈なのに、聞かされたことで今の僕とリッカの距離が、遠くなった気がした。
「というか、そこまでは自覚していると思っていたよ。それで、ここまで来てくれたのかと……そんな愚痴は、今のキミたちには興味ないか」
リッカのお母さん……無理だ。やはりバルハラをそういう目で見られない。
というかリッカ自身も明らかに腑に落ちていない。
その微妙な表情からして、あえて口にしない方針に定めたらしい。
「ぼくが与えられるのは、リッカ……キミに対しての力だ。それをキミが、キミらしく使う。そういう形で、キミの銀色を強くして、彩りに変化を加えることはできる」
「……それでいい。ここまで、そうしてきた」
だれかの力を、リッカらしい形で使う。
今まで僕たちが戦い、生き残ってこられた要因である、リッカの魔法。
もしかするとバルハラは、そんなリッカの在り方を既に読み取ったのかもしれない。
この場で手に入れられる単純な力ではない。どんな力になるかはリッカ次第で、そもそも――力とするまでにまた、リッカに負担を掛けることになる。
リッカにしかできないこと。リッカが踏み出すしかない、大きな一歩。
それがこの場で得られる最大の助力だとして。
果たして、それを許容すべきだろうかという決断を迫られる。
僕がどれだけリッカを守って、支えようとしても――踏み出せない一歩というものは、存在するのか。
……それでも。
「なるほどねぇ。……ところで、だ。そうまでして、キミたちが至りたいものは? 二人で旅しているのなら、一緒の場所を目指しているんだろう? 決して勇気と相容れない力をも求めて、何を目指すんだい?」
思いついたような、不意の問いには迷うことなく答えられる。
リッカとの相談は必要ない。
口にしようと思えば、二人揃って、自信を持って言うことが出来る。
――“ハッピーエンド”、と。
「……。二人に五十点ずつだねぇ。ただ、終わりのその先を夢見ていることは評価しよう。辿り着くのが
僕たちの答えは、バルハラが浮かべた苦笑からして、完全に納得できるものではなかった。
しかし、その答えに恥じるものはない。たとえ、ここで何も得られなくとも、目指す場所は変わらないのだ。
少なくとも、これが本気の答えであることだけは、バルハラも認めたらしい。
「ユーリ、先程のキミの鎧を成立させた魔道具、出してくれるかい?」
「アッシュを……?」
何をするのだろう、と怪訝に思って、手を動かす前に懐から飛び出してきたアッシュ。
今はラフィーナとは繋がっていないが、自身が呼ばれたことを理解したのだろうか。
外装の構築も含め、リッカも知らない方向へと進化しているアッシュは、そのままバルハラへと跳ねていく。
アッシュの魔道具としての異常さの答えも持っているかのように、バルハラは自身の手元にその小さな躯体を招いた。
「……灰の縁、だねぇ。オカエリ、よく頑張ったよ。……うん、やっぱりここから入れそうだ」
呟かれた一言に“慈愛”らしき感情を乗せてから、何かを確かめたバルハラ。
直後――
「っ!?」
「――――!?」
「なっ……」
「あ、主様――?」
部屋を埋め尽くさんほどの触手諸共、その姿が視界から消えた。
ベガとアルフィルクにとっても、まったくの不意打ち。
四方を見回しても薄暗く青い壁があるだけで、バルハラの姿はどこにもない。
であれば――この場の四人の視線が一斉に、床に降り立ったアッシュに向く。
四人が見下ろす中で、アッシュの三つ首はのんびりと動かされた。
『――やあ。中々狂った空間だねぇ、ここ。冥界迷子の吹き溜まりがかわいく見える』
「――!? ッ!?」
「リッ……カ?」
アッシュから発された、バルハラの声。
ラフィーナと同じということは、今バルハラがいる場所として考えられるのは――リッカの管理する空間。
『うーむ、我が娘の秘密を覗いている気分。これが魔王に挑む勇者の力の根本……面白いなそれ、新鮮だ』
「なっ、何してっ……今すぐ出てって!」
『というかこのローパーなんで……ああなるほど、写したのか。アリスはここまで知って……?』
「リッカ、大丈夫……!? 僕に何か……」
「っ――大丈夫。どうにかする……!」
具体的にどんな場所なのか、どこにあるのか、僕は知らない。
しかし、脅かされるべき場所ではないのは明らかだ。
カルラやラフィーナ。そして――僕たちが今まで打ち勝ってきて、背負って進むもののすべてがある。
動揺を隠さないまま、リッカが頭を押さえる。リッカに任せるしかないのだろうか。
何か出来ること――そうだ。
リッカに巣食ったアリスアドラの淫気を消し去った、ナディア直伝の治癒魔法。
「リッカ、ちょっとごめんっ」
「え……ぁ――」
リッカの手を取って、魔法を発動する。
此度の侵入者は、“浄化されるべき”毒の類ではないし、そもそもリッカの空間に作用するものですらないのかもしれない。
あの時とは状況が違うが、何か事態が好転すれば……。
『――――ディアネシュアの証明を感知――』
「ッ!」
その時、バルハラとは反対に、突然この部屋に現れた何者か。
――人形から始まって、人間に限りなく近いものを目指すとしたら、ゴールの一歩手前はこうなるのだろう。
そう思えるほどには、その姿は人間とほぼ遜色なく。
しかし、決して生命とは言えないほどに空虚で、現実感のない存在だった。
肌も、瞳も、短い髪も、いずれにも熱を感じない白い少女。
アルフィルクと変わらない――どころか、彼より幼いかもしれないその容姿。
“貼り付く様な黒いボディスーツ”と、“それを纏わない露出した肌”に差異がないかのように、魔力を伴う青いラインは体中を走っている。
両手の甲、首、耳元……一部を覆うように装着された魔道具は、その存在がギリギリ捨て去らなかった“人形らしさ”。
――おかしなものだと、感じた。
感情さえも備わっているのに、なおも“人形らしさ”を残そうとしている、などと。
「よ……ヨハンナ様……?」
「まさか、お目覚めに……? そんなこと、一度もなかったのに……」
目を瞬かせるベガとアルフィルク。
二人は彼女を知っているようだ。口ぶりからして、この空間の住民の一人なのだろうか。
『状況。バルハラの放埓により生じた混乱と認識』
静かで無機質な魔法音声だった。
あの口から発されたものではなく、感情も込められていない。
だが――現れて即座に状況を判断した彼女には、バルハラに向けた怒りの感情が確かに生まれていた。
『……え? ヨハンナがなんだって?』
『対象。転生結晶体の疑似記憶空間内部。迅速に鎮圧する』
“外”の状況をバルハラが把握する前に、ヨハンナと呼ばれた少女はアッシュに向けて片腕を伸ばす。
その肌に小さな波紋が幾つか浮かんだと思えば、一つ一つの内側から細いコードが顔を出した。
……果たして、どちらの判断か。
伸びたコードは危険を感じたように逃げ出そうとしたアッシュを無慈悲に捕え、僕たちが何を言う前に三つの口それぞれに突き刺さる。
『んん。見覚えあるねぇ、このコード。他者の記憶領域に無許可で侵入するのは良くないんじゃないかな――』
『――
『ンひィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――ッ!』
「……」
「……」
「……」
「……」
悲鳴は十秒弱で消えた。アッシュとの接続が強制的に切断されたらしい。
コードがアッシュから引き抜かれ、腕に戻っていく。
『
「……リッカ、大丈夫?」
「ん……一応」
何が起きたのか、リッカにはあえて問うまい。というか、リッカに被害が無いようなら、聞きたくなかった。