凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

162 / 373
冥き力、勇ましき力。

 

 

『バルハラの失礼、並びに状況への乱入を謝罪する』

 

 何やら“折檻”を済ませたらしい、少女は僕たちに近付くと、ぺこりと頭を下げてきた。

 謝意を出力。そう表現するのが正しいような、“感情の発生”としては不自然に思える所作だ。

 

「う、ううん……止めてくれてありがとう」

『不要。元来バルハラを鎮圧するのは当機の使命。寧ろ』

 

 顔を上げる少女。

 バルハラとは正反対に、彼女には色がない。

 真っ白な瞳が向けられる。比喩ではなく、それは精巧に加工した、宝石のようだった。

 

『感謝。おまえの発したディアネシュアの証明が、停止(スリープ)していた当機を起動させた』

「ディアネシュアの証明って……」

 

 ――その名を聞いたのは、確かナディアの自己紹介。かつてのネシュア王家を意味する名前だったか。

 もちろん、僕がこの場でそう名乗ったわけではない。

 証明として心当たりがあるとすれば、先の治癒魔法か。

 術式の細部まで把握することなく、ただ構造だけをナディアから教わり、使えるようになったものだ。

 ……もしかして、この術式に何か仕込まれていたのだろうか。普通に使用する分には効果に関わらないものが。

 

『しかし疑問。当機の予測に不備がなければ、現代においてネシュアは滅び、ディアネシュアの血統も絶えている筈。おまえはその術式を如何にして知ったのか』

 

 僕よりも低い背丈の少女から淡々と発される“音声”は、どうも違和感が大きい。

 外見不相応に長命なのは魔族ならば当たり前だが、彼女はそうした、人形型魔族とも違うような気がする。

 

「ぬぇ……っ」

 

 ともかく、少女の問いに答えようとした時に聞こえてきた間の抜けた声。そしてべしゃりと水気を含んだ音を立てて、バルハラがどこかから落ちてきた。

 リッカの方を見れば、複雑そうに、しかしどことなくすっきりした表情で頭を動かしている。

 どうやら追い出すことに成功したらしい。

 

「ん……ふぅ……扱いが雑だねぇ、ヨハンナ……ッ、これでも約千年ぶりの、んっ、再会だっていうのに」

『おまえに変化がない以上、当機に変化はない。変わりないようで何よりだ(ハロー・ワールド)、バルハラ』

 

 尾か何かと言い張れる程度まで触手を縮ませていたバルハラは頬を紅潮させ、時折体を痙攣させつつも少女に笑いかけ、手を伸ばす。

 少女の幼い外見も相まって、あまりに見ていられない光景だったが、特に動揺などを見せることもなく少女はバルハラの手を取って立たせた。

 当然に旧知の間柄ではあるようだが……これで“変化がない”とは。

 追求したかったが、その箱を開ける勇気はなかった。あくまで僕はリッカのための勇者である。

 

「――――ッ……よし、問題なし。うんうん、ヒサシブリ、だねぇヨハンナ。オハヨウ、も言っておこう。ちなみにネシュアならあの分だと滅んだと思うよ。キミ無しでアリスを止められる戦力はないと思うしねぇ」

『傲慢の報いとしては当然のこと。飼い犬に手を――否、飼い触手に犯されたか』

「やっぱキミ、バグってないかい?」

 

 ……まあ、この空間の住民たちの超常的な言動を探るだけ愚かなことなのかもしれない。

 純粋なもの……にしては些か巨大すぎる、少女からバルハラに対する親愛も、わざわざ指摘するほどのことではないだろう。

 

「……ヨハンナ様。主を連れ戻していただき、ありがとうございます。それと、おはようございます」

「お、おはようございます、ヨハンナ様っ。ぼ、僕は初対面ですが……」

おはよう、そして初めまして(ハロー・ワールド)、『導蝕教本』、当代のアルフィルク。それから、おまえたちにも』

 

 ところで結局誰なのかと、問う前に少女は再度こちらに向き直った。

 

『当機はヨハンナ・エックスデー。ネシュア国・決戦派・初代教皇。かつては聖女ヨハンナとも呼ばれていた』

「聖女……?」

「ほぼ伝わらないだろうねぇ」

 

 初めて聞く単語だらけだ。強いて分かるのは、彼女がネシュアの民であったことだけ。

 首を傾げていれば、苦笑したバルハラが補足してきた。

 

「決戦派っていうのはかつてのネシュアでも少数派な自称“愛すべき馬鹿”たちさ。キミの知り合いに発想が奇抜な物づくりはいるかい? そんな人間たちが特定の思想のもと技術を研鑽するために集まった組織で、この子はそのトップだったわけ」

 

 ……頭の中にリッカやイリスティーラ、それからウサギ耳を付けた魔法薬師が思い浮かんだ。

 全員方向性が違うが、もしも同じ目的を持ったとすれば……というか、リッカとウサギ耳の彼は既に何度か協力の経験があるのだったか。

 それが、一つの目的に向かって技術を高め合う。

 リッカはそれどころではないし、他の二人も興味のないことには動こうとしないだろうが、そんな“もしも”があれば碌なことになる気がしなかった。

 まさかそこまで突飛な組織ではないとは思うが――少女……ヨハンナが、その頂点にいたとなると怪しいところがある。

 

「えっと……失礼かもしれないけど、キミ――ヨハンナは、人間なの?」

『元・人間というのが正しい。当機はバルハラを鎮圧する使命を永劫担うため、人間としての魂と人格を決戦機関の制御装置(オペレーティングシステム)として焼き付けた聖女術式につき』

「……はぁ……?」

 

 今度の声はリッカのもの。

 僕にはほぼ、意味の分からない説明だったが、リッカにはある程度伝わったらしい。

 ともかく、ヨハンナは元々人間だったものの今は違う――あくまで、魂と人格が人間の、別な何かであると。

 

『理解せずとも良い。ネシュア亡き今、既に過去の思想でしかない』

「そ、そう……それで、どうしてこの場所に?」

 

 ネシュアの民……実際にあの国が滅亡する、ナディアの時代を生きた人間なのかは不明だが、そもそも彼女はどうしてここにいるのか。

 それを問うと、ヨハンナはその表情を変えないまま、“怒りを出力”した。

 

『不覚。当機はクラッキングを受け、バルハラの力を削ぐための兵器として利用された』

 

 ――先程バルハラ自身が話した、幽閉された時の話。

 バルハラを襲撃した刺客とは、ヨハンナのことだったようだ。

 確か……眠っているところを襲撃し、最大火力をぶっ放した……のだったか。

 それはヨハンナとしても想定外で、望むところではなかったが、抵抗できず操られるままにバルハラを襲ったという事らしい。

 

『バルハラが一定以上に消耗した時点で、当機諸共空間は隔離された。外に出る術のないバルハラは折が来るまで眠ることを決め、当機も停止(スリープ)していた』

「……二人とも、出る気はなかったの?」

「その内出られるなら、一日でも千年でもぼくには大して差がないからねぇ。それに、いつかこんな日が来ると期待はしていた。ぼくの断片がここに至り、今の世界を変えるかもしれない日を」

 

 ……気が長いというべきか、楽観的というべきか。

 僕とは時間の感覚が違い過ぎて、よく分からなかった。

 

「まあ、そういう訳だ。ベガ、アルフィルク。ぼくはちょっとだけ、ここを出るからねぇ。かわいい娘のアドバイザーがしたいんだ」

 

 やはり冗談ではなく、本気であるようだ。

 リッカは抵抗の意思を見せる。今度こそ、簡単に侵入などさせないと。

 僕も流石に二度目は許容できない。アッシュを回収して、バルハラから数歩離れる。

 

「何を……主、この二人に何かあれば主の身も危うくなります。どうか自重を」

「そ、そうですっ、今の主様は限りなく精神体に近い存在なんですよ!」

「心配性だねぇ……仕方ない。自分から手放したくはなかったんだけど……よっと」

「ッ!?」

 

 従者たちの諫言に肩を竦めたバルハラは、自身の両角を掴み、無造作に折った。

 それを床に放り投げれば、二本は融合し、より存在の薄れたバルハラの分身へと変貌する。

 透き通ったその姿。目は閉じられ、意識は感じられない。

 本体である、“力を発揮できない状態”のバルハラよりもさらに弱体化した存在を作り上げ、バルハラはそれを触手で差し出してきた。

 

「リッカ。それを使い魔にしたまえ。ぼくが与えようとしていた力がその中にある。本当は存在全部でお邪魔して、スリリングな旅を楽しみたかったんだけど……」

「……やっぱり、そんな理由でしたか……」

 

 先の侵入があったことから、リッカは警戒を抜かない。

 慎重に解析を始めるリッカに、バルハラは笑いかける。

 

「その限界を超えた体で、ハッピーエンドを目指すんだろう? 時を繰り返し、地水火風の断片を無意識に紡ぎ、毒を呑み、夢すら掴んだ。そして人智の勇気はキミの相棒に在る。キミは今、限りなく混沌の理想形に近い」

「……」

「危険な賭けでもベットすると決めたなら、これにも乗ってみたまえ。親心にして自己愛がある分だけ、価値も見出しやすいじゃないか」

 

 ――リッカは、“今回”にすべてを懸けると決めてくれた。

 だからこそ、取り込むべきもの、そうでないものは、より一層慎重に選び、そして賭けに勝ち続けなければならない。

 こことは違うどこかから力をくれた、あの二人のように、本当に好意的な存在であればまだしも……もしもこの判断に、間違いがあれば。

 

「っ……」

 

 リッカの空いた手を握る。こればかりは、リッカが選ぶべき判断。

 ならば少しでも、僕の勇気がその道標になるように。

 

「……バルハラ。僕たちのハッピーエンドの邪魔をしないって、約束して」

「するとも。というかぼく、もうそういうのは飽きたしねぇ。安心したまえ。ヨハンナがいる限り、ぼくの退屈は外には向かない。さっさと世界を変えて、平和を満喫できるようにするといい」

「……」

 

 バルハラの軽い言葉が、どこまで信用できたものか。

 そもそも、考えることすら愚かなのかもしれない。

 しかし、そこに嘘をついている様子はなくて、バルハラもまた魔王のいない世界の方が好ましく、手を貸すことに躊躇はないと言うのなら。

 そう判断したのだろう――リッカはカルラの杖を軽く振って、バルハラの分身を取り込んだ。

 

「――いい思い切りだねぇ。そうでなくちゃ」

「……絶対に、有効な力にはなってもらう」

「後悔は……まあ、させるかもしれないけど。最終的には“ありがたい”と思うんじゃないかなぁ――痛っ」

 

 決断の後に、不安を生むようなことをぽろりと零したバルハラを、ヨハンナが窘める。

 ……窘めたのだろうか。“痛っ”で済んだならば、大したことはないのだろうが。

 手のひらに浮かべた波紋から生えてきた、細い銃砲の引き金を容赦なく引き、バルハラの額を撃ち抜いたのだ。

 

『おまえは不器用だな、バルハラ』

「いきなり額ぶち抜いた直後の言葉じゃないねぇ。それはツッコミ用じゃなくて武器用(ぶきよう)の機能じゃないかな」

『まだ寝ぼけているな。ジョークのセンスが著しく落ちている』

 

 じゃれ合い……なのだろうか。

 いや、やめよう。理解しようとしては駄目だ。

 

『ともかく。我が使命の裔。これを持っていけ』

「え……?」

 

 思考を止めた僕に、再び武器を仕舞い込んだヨハンナが近付いてくる。

 奇妙な呼称について尋ねようとした口が止まった。

 差し出してきたのは一つの魔道具。その黄金の外見は、鳥の横顔を模していた。

 

「これって……」

『先の発明を解析し、模倣した。アランピアの技術であれば構造を理解している。万全に動く筈だ』

 

 外見こそ違うが、手のひらに収まるほどの大きさの、生物を模した魔道具はアッシュと類似したもの。

 その帰結が間違いないとでも言うように、魔道具は変形し、翼を広げた鳥を形成する。

 

「キミも他者のこと言えないじゃないか、ヨハンナ」

『当機は不器用ではなく過保護なのだ。我が使命の裔、その『ヨハンナ』には当機の人格を複写(コピー)している。バルハラの目付は請け負った。その他、構築した機能が役に立つ時が遠からず来るだろう』

 

 ヨハンナが自身と同じ名を与えた魔道具は、やはり自立して動く機能を有しているらしい。

 リヒトたちの技術を容易に模倣できる、かつてのネシュアの“聖女”。

 ……あの技術の大元は、彼女の組織にあったということだろうか。

 既に滅んだ国のこと。それに、リヒトたちはさほど興味も持っていなかったようだし、答え合わせは出来ないかもしれないが。

 

「さあ……出来るもてなしはこれくらいだ。この夢に溺れていたくなければ、帰った方がいい」

 

 やるべきことは全て済んだと、バルハラは玉座に戻る。

 見れば、折った筈の両角は既に修復されていた。

 

「目を閉じたまえ。そうすれば、五秒後には夢の外だ」

「ご武運を」

「あ、えっと……お元気で」

 

 バルハラは急かすように促してくる。

 これ以上、この場所にいても何も得られるものはない。

 寧ろ、悪いことしかないとでも言うように。

 

「……リッカ」

「……ん」

 

 礼を言うことはない。まだそれに足るかは分からないし、向こうもまた求めていない。

 最後にリッカと視線を交わし合って、目を閉じる。

 回顧の迷宮。或いは、遥か上位の存在のいたずら。

 それはひと時の微睡みのように、暗闇の中で消えていき――次に目を開けた時、視界には元の広大な砂原が広がっていた。




【バルハラ】
回顧の迷宮最奥部――『北辰の間』の主たる魔族。
かつて、現在の魔王が台頭する前の時代において、ほんの少数の人間にその存在は知られていた。
その人々や魔族からは、圧倒的な力から魔王と畏怖されていたという。
少数の人間の、更にごく一部のカルト団体からは辿り着くべき目標とされ、数百年に渡って研究がおこなわれてきた。
やがて団体が完成させた決戦機関はバルハラに比肩し得る存在となり、バルハラもその存在を認識して『勇者』と呼称。
互いを存在意義とするほどに執着するようになったという。
幽閉後の現在は名前の大半を失い、精神体に近くなっており、自身が力を振るえるように創造した『北辰の間』の外では大した力を振るえない。

【ヨハンナ】
回顧の迷宮最奥部にて、バルハラと共に眠っていた存在。
元・人間であり、技術国家ネシュアにおいて決戦派と呼ばれる派閥のトップを数百年務めていたとのこと。
バルハラに至ることを至上の命題と定めた彼女は、やがて考案した決戦機関の制御装置として自身の人格を焼き付け、人間の限界を突破。
長らくネシュアの技術の最先端を担い、限界のその先を追い求める狂人どもが巣食うカルト団体の主となった。
人智の果てを開拓する克己心と、年齢の変わらないマテリアルボディにより、自身の派閥からは聖女と畏敬されていたという。

魔王ゼットの支配下において誕生したありふれた勇者とは違い、無名から上り詰めた正真正銘の怪物。
しかしおよそ千年前に引き起こされた事件によりクラッキングを受け、バルハラを封印するための先兵として利用された。
彼女自身も封印に巻き込まれ、バルハラが再び外に出るその時まで自身も活動を停止することを決定。
その条件の外で唯一目覚め得るきっかけは、ネシュア王家による勅命のみであった。

――決戦機関に組み込まれた術式は全て記憶しており、バルハラとは違い戦闘能力は健在。
ただし、その性能は対バルハラ向けにチューニングされており、他の条件下においては規格外の域には達さない。
そもそもネシュアも滅亡した現代においては、自身を過去の遺物と定義しているため、バルハラ以外の物事に関わるつもりはさほどない。
現代を変えるのはあくまでも現代に生きる者たち――そんな判断により、直接の参戦はせず、自身の使命の裔たる勇者への過保護とバルハラの目付にとどめた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。