凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
冷たい夜風が肌を刺す。
昼と夜でまったく違う顔を見せるこの砂原は、今は寒さが牙を剥く時間帯だ。
真夜中ではあるようだが、先程までの出来事により、眠ろうという気にはさせなかった。
「……リッカ。なんともない?」
「ん……ちょっと、疲れた」
その殺風景な砂原を暫く眺めて、奇妙な手持無沙汰を感じた。
いつも通りの会話で夢を覚まして、現実に戻る。
リッカの気疲れは当然だ。僕が不要な負担を掛けて、その上バルハラとも一戦交えたようなものなのだから。
「休もうか。……お腹は?」
「大丈夫。今は少し、寝たい……」
ゼクセリオンを取り出して、拡大させる。
ややふらつくリッカを連れて内部に入る直前――振り返って、迷宮の入り口にある柱を見た。
あれを破壊することは、僕たちの使命を終わらせる大きな一歩。
僕たちはまだ、それに挑戦さえしていない。……出来る段階ではない。
リッカの魔法が使えないこと、それを解決してからだ。
今の僕たちには、何か自分では気づいていない問題がある。
当たり前の僕たちの力を取り戻して、またここに戻ってこよう。
シャワーを浴びたいと自分の個室に戻っていったリッカを見送り、僕も荷物を置いて一休みする。
この後リッカは眠るのだろうが、僕はどうしようか。
まだ夜明けには時間がある。……リッカを寝かせたまま、移動するという手もあるか。
どの道、今の状態ではゼクセリオンの操縦は僕単独で行うことになる。リッカは中で待っていてもらうしかない。
……ここに来たときのように、想定外の襲撃を受けなければ良いのだが。
『――危機。現代のアランピア・ツール、何をする』
「……」
僕以外、誰の声もする筈のない部屋。
声の方向を見てみれば、アッシュの持つ三つの口が新たに手に入れた魔道具の翼に噛みついていた。
『当機はおまえと模擬戦闘をする機能を有しているわけではない。早急に離――をををを』
翼を咥えたまま、魔道具を振り回すアッシュ。
本当に獣みたいだ。実際のケルベロスがあのような仕草をするのかは知らないが。
『緊急。我が使命の裔、当機の救出を依頼する。理解不能。どうして攻撃対象と定められているのかかかかか』
「……えっと……アッシュ、悪いものじゃないから、離してあげて」
『解放ぅげっ』
このまま放っておけば“喧嘩”の域を超える気がした。
どうするべきか、とやや悩み、アッシュにとりあえず言葉で伝えてみれば、アッシュはあっさりと翼を離した。
振り回していた勢いはそのままに口を開いたため、当然のように金色の鳥は飛んでいき、壁に激突する。
……一応、解決したのだろうか。
床に落ちた鳥型魔道具は翼を広げて浮遊すると、テーブルの上、アッシュの隣にまで戻ってきた。
『感謝。我が使命の裔。生まれて間もなく新型機のおやつになるところだった』
「食べはしないと思うけど……」
『自己学習には制限を付けるべき。AIの逆襲は当時からアランピアが危惧していたというのに』
三つの首でじっと見つめられていることに気付き、距離を取る黄金の鳥。
当たり前のように喋っているが……これはやはり。
「……キミは、ヨハンナ?」
『肯定する。本体に組み込んだ術式の
人格をコピーするという行動も、コピーしたそれらを同じと見る価値観も、よく理解できない。
本人が違和感を持っていない以上、それを気にするのは野暮なのだろうか。
『当機の人格についての価値観は、理解されるものとは人間である時から思っていなかった。考えるな、我が使命の裔。これは当機の矜持にも繋がる事項につき』
詮索も、感傷も不要だと、ヨハンナは断じた。
恐らく自身をそうした時にも、彼女は周囲から散々同じことを言われていたのだろう。
既に聞き飽きたと、平坦な感情で告げてくるヨハンナに、頷きを返す。
僕はあまり彼女を知る身ではないし、魔法に関する知識も乏しい。何かを指摘する権利もあるまい。
「分かった。……ところで、さっきから気になっていたんだけど、“我が使命の裔”っていうのは……?」
状況からして僕を指した言葉というのは分かる。
だが、当然のようにヨハンナがその言葉を利用している理由が僕には分からない。
『当機はかつてバルハラに勇者と呼ばれ、我らの関係を模倣した現代の儀式における勇者に当てはめられた存在がおまえだろう。ゆえに当機はおまえを我が使命の裔と定義した。違いがあれば指摘してほしい』
千年続く、勇者の使命――その大元になった存在が、バルハラとヨハンナだという。
先程聞かされた、僕たちのルーツが真実ならば、ヨハンナが無機質に僕を“使命の裔”と定義するのは間違っていない。
少なくとも彼女自身は、自身が大元であると信じているのだろう。その言葉には、出力された確信があった。
「間違ってはいない、と思うけど……長いし、慣れる気がしないよ。出来ればユーリって呼んでほしい。僕の名前だ」
とはいえ、それで呼ばれ続けるというのも違和感が強い。
同行するというならば、名前で呼んでくれた方がありがたかった。
『了承、我が使命の裔。これよりおまえを個体・ユーリと認識する。
「う、うん――それも、何なの?」
『なに、口癖のようなもの。込めた意味は伝わっているだろう』
一体それが口癖となるのに、どういう経緯があったのだろう。
不思議なことに、発している言葉の意味は明確に伝わってくる。
これも一種の魔法なのだろうか。発現は確認できなかったが……。
『しかし意外。これは光翼か』
ヨハンナは浮遊する躯体を回転させ、周囲を見渡しながら言う。
内部の見た目を知っていたか、この構造を読み取ったのか。どうあれ、ゼクセリオンに覚えがあるらしい。
「知ってるの?」
『冒険者たちの旅の効率化を図り開発された、内部空間包含飛行バイク。その完成形を当機に提供する計画が過去に提案されたと記憶している。当機に遠征の意思は存在しなかったため拒否したが』
飛行バイク……この“空を飛ぶ乗り物”という技術自体は、ネシュアに存在していたようだ。
ナディアは知っている様子がなかったが、これもまた、ヨハンナの組織内で発展した技術なのだろうか。
であれば、少数派ではあったようだし、細部をナディアが知らなかったことも頷けるが。
「昔は……こういう乗り物で外に出られるような世界だったんだね」
『危険ではある。だが、未踏の地に乗り出し開拓する享楽は禁忌ではなく、命を賭す者は一定数存在していた。我ら決戦派と主張は違えど、未知を追い求める覚悟と気概には敬意を表していたものだ』
冒険者と呼べるような者は、現代においては恐らく存在しない。
定められた生存圏の外に出た人間が“どうなっても良い”ということは、これまでの旅で痛感した。
そんな中でもリヒトとトーカをはじめとした行商人のように、命を懸けて町々を渡り歩く者もいるが、かれらも未踏の地を開拓する者たちではない。
たとえば、危険な魔族が世界にだれ一人いなくなったとしても、今の人々が開拓に乗り出すことはないと思う。
なんというか、まるで昔の人間とは、種族そのものが違うみたいだ。
『勇者が光翼を使い旅をする。やはり我らの時代とは異なる。――質問。ユーリ、おまえに――勇者に与えられた魔王の討伐たる使命。その前提条件、或いは求められる試練はどういったものか。概要と、おまえの現状を聞かせてほしい』
「え? ……確か」
ヨハンナの問いで、旅に出て間もない頃を思い返す。
最初に訪れた教会で聞かされた、僕たちの目標。
四つの試練と、開くべき門。その先に、魔王――“端末”とやらではなく、本体のことだろう――が存在すること。
魔王のいる地へと至るための門は三つあって、そのうち僕たちが開くべきは『世界門』と呼ばれるもの。
聖都イグディラの水の四天王リーテリヴィア、ネシュア跡地の土の四天王オドマオズマ、ムルゼ霊山の風の四天王バラルバラーズ。そして、場所を定めず気ままに勇者を試す火の四天王アリスアドラ。
四人の四天王に認められることで、『世界門』はようやく開く。
僕と、そして同じく勇者であるクイールがこれまで突破したのは水、土、火の三つ。
風の試練のため、ムルゼ霊山を目指すところだったが、クイールに起きていた問題の解消を待つ間に僕たちは、アリスアドラによって存在を知らされたこの地の迷宮を訪れた。
「――こんなところかな。それで迷宮に入って、キミたちに出会った」
『把握。感謝する。先代勇者に当たる人間が生存しているのは意外だった。後は風の試練とやらだけか』
「うん。……どんな場所なの? ムルゼ霊山って」
ふと、気になったことを尋ねる。
これから挑むべき場所だ。知識ある者から詳しいことは聞いておいた方が良い。
『我らの時代においてはムルゼシン山と呼ばれていた。当機も深くは知らないが、バルハラが言うには、かつてバルハラと同等であった上位存在が自らの領地と定めた山だという。我らの時代には、既にその上位存在はいなかったようだが』
「いなかった……? 別の場所に移ったってこと? それとも――」
『既にこの世界からは消失した。残るのはその眷属のみ。かの山は眷属たちにより独自の生態系と文化を築き上げ、下々の生命をひどく穢れた存在と認識しているとのこと』
……何故そんな場所に、最後の四天王はいるのだろう。
聞く限りでは、人間だろうが魔族だろうが、山の外の存在を見下している存在のいる場所を、試練の地に選んだ理由とは。
オドマオズマの言葉から、僕たちとは相容れない性質を持っていることくらいは分かる。
だが、その眷属たちにとっては四天王さえ、蔑視の対象ではないか。
「……僕たちが挑む四天王は元々バルハラの眷属だったって聞いた。どんな性質を持っているか、分かる?」
『バルハラから知識の共有を受けたが、おまえたちの知る“アリスアドラ”と、当機の認識する“アリス”は別人の如く乖離している。当機がバラルの印象を語ったところでおまえたちの益に繋がるとは思えない』
――それもそうか。
これでまた“博愛主義で心優しい人格者”だとか言われて、出会った時のギャップで混乱しても困る。
問いを撤回して仕舞い込む。
その時、個室の扉が開き、リッカが入ってくる。
多少なりリフレッシュできたようで、顔色にも落ち着きが見られた。
「それ……」
部屋に入ってきたリッカの視線は、当然ヨハンナに向けられる。
『失われしバルハラの断片か。精神の消耗が異常値を示しているが』
「……放っておいて。それより、その呼び方はやめて」
隣に座ったリッカはヨハンナに解析の手を伸ばしつつも、苦言を零す。
出来れば、すぐに休んでほしかったが、やはり正体不明の魔道具のままではリッカの心も休まらないだろうか。
「話しかけてくるなら、あれの一部と見られるのは不快だから」
『――把握。呼称の形態をユーリと統一させよう。おまえはリッカ、だったな。だがそれでいいのか。バルハラ自身も散逸した名は忘却しているが、当機は一節残さず覚えている。おまえが真に名乗るべき名は別に――』
「どうでもいい。私はリッカ。ただのリッカ。あなたやあれが何であろうと、私が求めるのは、私たちの助けになって役立つことだけ」
相変わらず遠慮のない、リッカの要求。
僕にはそれが嬉しかった。リッカが、リッカであることを大事に思っているようだったから。
確かに――生まれがどんなに異質でも関係ない。リッカはリッカで、僕は僕だ。
魔王の存在が、僕が生まれたきっかけであっても、バルハラの存在が、リッカが生まれたきっかけであっても、リッカのための勇者という僕の在り方は変わらない。
このホロゥという地で知った真実は、僕たちにとってあまりに大きいものだった。
だがそれを経て、僕はより明確な意思を持てた。
だからこれから先も――三人でのハッピーエンドに向けて、歩いていける。
『――なるほど。ならば敢えて言うまい。無論、バルハラの目付をはじめに諸々、助力をする所存。だがその前に依頼したい。そこの狂犬に共食い回避の機能ををををを』
「……」
リッカの意思を、ヨハンナは認めた。
余計な依頼をして再びアッシュに噛みつかれたヨハンナに冷たい目を向けるリッカだが、助力を拒絶する意思はない。
バルハラとヨハンナという、完全に信用できるかは怪しい協力者。
もしかするとリッカには、既にその力を使う算段が付いているのかもしれない。