凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
目を覚ましたら知らない魔族がいた、なんてことはこの空間では割とありふれたこと。
私を叩き起こすまでもない、名もなき魔族。
或いは、副作用で私の意識が飛んでいただけで、魔剣を使用して倒した魔族。
そうした面々が放り込まれ、新たな苗床になる。最早それは、慣れたとかそういう次元ではない日常である。
随分と鈍くなった。ここを知らない新参者たちの悲鳴や絶叫ですら起きない時があったりする。
……もしかすると、“被害者”という意識が私の中で薄れているのもあるのかもしれない。
いや、被害者だが。同時にあの二人の共犯者でもある私が、いつまでも完全な被害者面などしてはいられまい。本当に、本当に不本意だが。
ともかく、たった今目を覚ました私は最初に、“どうして意識を失っていたのか”を考えた。
ただ寝ていたわけではない。
魔剣には……なっていたな。しかしその副作用でぶっ飛んだのかと言えば、また違う。
魔剣の副作用の前に、今回の私はやられた。初めて見たやけに馴れ馴れしい魔族のいたずらによって。
「やあ、オハヨウ。こんな場所でぐっすり眠れる辺り、中々キミも奇矯だねぇ」
「……」
そうそう、こんな感じの見た目のヤツ。
見ていれば気が狂いそうな、一定ではない輝きを放つ髪と、そこらにいるヤツらに負けず劣らずの悍ましさを持った触手を伸ばす、男とも女とも知れない魔族。
そもそも何なのか、こいつは。こんな特徴を持った魔族、私は知らないぞ。
人型ローパー……? なんだそれ。ただの化け物じゃないか。そんな発想するな、私。
「さっきの剣の子だろう? 若いサキュバスだったか。なら、アリスを信奉するのも頷ける」
「……」
馴れ馴れしく話しかけてくるそいつの、アリスアドラ様を指す馴れ馴れしい呼称は私を絶妙に苛立たせる。
ただでさえ我が強い魔族は長生きするとより頑固になるもの。
とはいえ厄介で軽々しい輩はより軽薄になるものなのか。
……誰も周りにいないよな? セイレーンだのオークだのに見つかると厄介な密談現場だ。向こうから話しかけてくる分なら幾らでも喋ればいいが、こちらも口を開くならば注意しないとならない。
うん――四方八方、黒い触手に埋め尽くされている。ありがたいことだ。
あの女も私に任せる準備は万端ということらしい。新たに伸し掛かった厄介ごとに、胃がギリギリと痛むのを感じた。
「うん? どうしたんだい? そんな苦虫噛み潰したような顔をして。さっきまでその真逆、快楽の高みにある恍惚とした顔をしていたのに」
「……」
薄く笑う表情。向けられる銀の瞳。私より遥かに立派な角。それから、この空間にいながら“着用”を許されている特別感。
そいつは態度から待遇まで、すべてを懸けて私を煽っていた。
胃痛を我慢しながら、手元にいた触手を一匹引き抜き、無造作――しかし出来る限りスナップを利かせてその顔に叩きつける。
「痛っ……流行っているのかい? そういうの。ぼくの知る挨拶とは全然違うねげふっ」
「……」
大して効いていないようだったので引き戻しつつもう一発。
今日は随分大人しいな、この使い魔。普段は私の言うことなど聞きもしないのに。
こういうことに従ってくれるなら、セイレーンや妖精どもに絡まれた時も積極的に私を守ってほしい。
「あのっ、キミっ、ちょっ、落ち着っ、ぼくっ、止まっ」
「……」
……いや、別に楽しいなどとは思っていない。
これはあくまで、日頃のストレスの発散というもの。
こんな場所にいれば気も滅入るし、運動不足もいいところだ。剣は触れずとも、たまにはこうやって触手の一つや二つ振った方が良いのだ。
ユーリにやった方がもっと面白いリアクションしてくれるのだろうなとか、まったく考えていない。
「――満足したかい?」
「……」
多分、二、三分。
鈍っている体を考えればまだまだ物足りないが、とりあえずほんの少しだけ気は晴れたし、これ以上を発散できる気はしない。
そもそも、何発引っ叩こうがダメージになどなりはしない。粘液でお互いべたべたになっていくだけである。
付き合わせた使い魔を手放せば、やれやれとでも言うような仕草をしながら去っていった。なんだあいつ。
「今のユーリたちであなたを倒せたとは思えないわ。どういうつもり?」
「すごい唐突に話が始まるねぇ」
手頃な高さまで積み上がった使い魔たちの上に腰を下ろし、本題に入る。
こいつがここにいて、不満そうでもなくて、空間の具合からリッカが異常を来たしている様子はないということは、双方同意のもとここに招いたという可能性が一番高い。
現に目の前の魔族から感じられる力は、先程よりもずっと弱い。
――木っ端魔族の域である。軽くつま先で小突くだけでどうとでもなりそうなくらい。
こいつの言葉を信じるならば、かつて魔王様の手先の襲撃により、力の大半を失ったのだったか。
だとすれば、そもそも感じるべき力の方が今の状態に近いのか。
あの空間はあくまで、こいつがある程度自在に力を振るえるように作り上げた――それこそ、あの女次第で奪うも孕ますも思いのままなこの苗床のようなものなのだろう。
居城から出たこいつにはもう、この空間をどうにか出来るほどの力もない。
それを知らずに入ってきたわけではない筈だ。一体どういうつもりなのか。
「簡単に言えば、力を貸すことにしたわけさ。“魔王”を倒してくれるなら、ぼくもその方がありがたい」
「……あの二人が頷いたってこと?」
「清濁どころか、勇気も冥界も併せ呑む、そんな覚悟だろうねぇ。邪魔はしないと約束したよ。ハッピーエンドで終わりたいという気持ちには、ぼくも賛同できる」
胡散臭い――が、それがあの二人の選択か。
元より私は付き合うだけ。どこで間違いを犯そうが、それはあの二人の自己責任。
どうせ絶望的な使命だ。想定外の賭けに乗ってみるというのは、事態の打開において有効になり得る。
……とはいえ今の二人が正しい選択を出来るかは、怪しいところではある。
おかしいのはユーリの様子だ。
精神的にだいぶ参っているリッカを引っ張ろうとするのはいい。ただ、彼はあそこまで頑なだったか。
いつもの魔法は、まだ使えるようになっていないのだろうか。
ユーリ単独で戦えるあの外装はあくまで緊急用だというのは私にも分かる。
あの性能でいつまでも戦えるわけがないし、そもそもユーリ単独で戦うというのは、ユーリの性質からして向いていない。
そして、それを続ける間、リッカに付いて回るのは“足手まとい”だという自責。
……どうもよくない。この魔族が力を貸したというのが、百パーセントの善意だったとしても、これは決して良い状況ではない。
「キミはどうしてかれらに協力を? 洗脳されたわけでもないだろう?」
「洗脳されたのよ」
「自覚のある洗脳とは斬新だねぇ」
興味津々とばかりの問いに雑に返す。
自覚の有無など関係ない。存在しない記憶を一方的に押し付けて、他者の性格に付け込み情に訴え同調圧力を掛けるというのは立派な洗脳だ。
今更協力を撤回する気はないがあの一件を許す気はない。未来永劫あの女は私の天敵である。
「……あなた。この空間を見てなんとも思わないわけ?」
「ん?」
恐怖とか、嫌悪感とか、この生物がそんなありふれた感情を持っているとは思えないが、一応尋ねる。
自分が毒牙に掛かる前に、この空間の様相を見ただけで発狂する魔族だっているくらいだ。
正気……と言えるかは怪しいものの、ものを考えられて、喋れる状態でいられる者など本当に数えるほどしかいない。
少なくとも、一度ぶっ壊れる前の状態で平然としていられた例は……いるか。いるな。妖精どもと愉快なセイレーンの大半だ。
「ああ、なるほど……復讐装置としては上々じゃないかな? ぼくの嗜好ドンピシャってわけじゃないけど。だれかを壊すなら快楽の方がずっと楽しい」
「はぁ……」
アリスアドラ様のルーツに関わる魔族なのだし、もっと気高くカリスマに溢れた人格者だと、信じたかったのだが。
やはりリッカに賛同するだけある。頭のおかしいヤツの周囲には頭のおかしいヤツしか集まってこないのだ。
こいつはあれだ。どちらかというとぶっ壊すのを煽るタイプだ。
知り合いだろうとそうじゃなかろうと嬉々としてやらかすタイプだ。
なるほど。これは苗床にマンネリを感じたリッカ渾身のテコ入れだったのか。
妖精たちとは違う方向性で被害者を狂わせる、新たなるトリックスター。
もしかして、今後は“これ”の面倒まで見ろというのか、あの女は。そろそろ次に顔を出した時にでも一発殴っていいだろうか。
「クフ。ぼくもリッカの使い魔となったからには、この空間のみんなに手を出す権利があるわけだよねぇ。早速だがどうげふっ」
「それで頷くサキュバスがどこに……ああいや、たくさんいるか」
それでも私は変わり者ではみ出し者のサキュバスである。
とりあえずキメ顔が腹立ったので近場から引き抜いた触手をぶん投げておいた。
……使い魔という形での協力に応じたのか。とことんまで悪趣味な魔族だ。
いつかのスライムを思い出す。まだ私が染まり切っていなかった、もう遠い昔のことを。
リッカがこの空間で興じていた粘液細工。
現地では多少名の知れた存在だったらしいスライムは、今やリッカの自慢の使い魔の一系統である。
こういう関係になってから聞いた話によれば、
合意の上ならば、使い魔に変えることも容易いだろう。あの女らしい邪悪な発想だと感心したものだ。
まあ、あの使い魔にスライムの自我なんざこれっぽっちも残ってはいないだろうが。
「仕方ない、他を当たってみるとするかな。面白い子がたくさんいるだろう?」
「選択によってはあんた、後悔するわよ」
こいつの放埓が許されているなら、出来ればセイレーンどもを黙らせてほしいものである。
そして今の警告はそれなりに真面目なもの。
この空間には手を出してはいけない存在がいる。
私としては思い出したくもない、リッカに負けず劣らずトチ狂った女だが、あれに手を出せば如何に協力者だろうとリッカが黙ってはいまい。
それでまたリッカが荒れたら宥めないといけないのは私である。切実にやめてほしい。
「分かってる分かってる。この懐かしい香りだろう? 流石に手を出しちゃいけないものくらい判断が――」
ぶつぶつと呟きながら触手の壁を掻き分け獲物を探しに行こうとする魔族。
多分、気付いてはいないだろう。
どこからか出現し、後頭部に向かって伸びる数本のコードには。
『――
「んん゛ぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛――――ッ!?」
コードたちが躊躇なくぶっ刺さるや否や、喧しいほどの絶叫が響いた。
なんだ。しっかりと対暴走用のセキュリティは用意しておいたのか。リッカのくせに中々やるな。
「あひっ、イぅっ……! いつもより容赦ないチキチキ、んぁっ!」
「……」
頭に刺さったコードから何やら碌でもないものが発されているようで、そいつは崩れ落ちてびくびくと痙攣していた。
なんだろう。かつてのアリスアドラ様を知るような、恐らく元々凄まじい存在なのだろう魔族が目の前で快楽に浸っているの、普通にイヤだな。
このセキュリティが万全であるならば、私の余計な仕事が増えなくて良いのだが、代わりにこれと向き合わなければならないならば、それはそれで御免こうむる。
少なくとも現時点で、この魔族が私にほんのひとかけらの平穏すら寄越さない存在であることは十二分に理解した。
やっぱりこの際、私だけ別の空間に隔離とかしてくれないだろうか。
そのためならば多少なり、あの二人に優しくしてやってもいい。そうとさえ思えるほど、私の労働環境は最悪だった。