凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
かつて、大いなるものがいた。
それは混沌と呼ぶべきもの。自然の最果てであり、何であれそのカオスとは比べられないもの。
世界と大いなるものは共に在った。
この存在の話は前提であり、これから先の未来において考慮すべきものではない。
ただ、はじまりの前にそういうものが在ったという、事前知識として頭の隅に入れておいてくれれば、それでいい。
はじまりとは、大いなるものが寿命を迎え、死した時である。
どれだけ昔の話かは、千年前ですらはっきりとしていなかった。そこから更に魔王の支配によって衰退した現代では、もう辿り着けない答えだろう。
ともかく、ずっと――ずっと昔。
大いなるものは死に、その亡骸は八つに分かたれ、“死を超えた”生命が誕生した。
八つの生命は己の異質を理解した。即ちこれこそ死者を管理すべき力であると。
ならば、と八つのうち一つは、終わりを迎えた生命が行き着くべき領域を創ろうと提案した。
死を超えたものとして。それが大いなるものから託された混沌の在り方、我々の使命であると。
その提案から、八つは世界という土台の上に小さな小さな、己の世界を創った。
死に安寧を与え、解れて消えるまで、正しき終わりの褒美とする楽園。
――即ち、冥界である。
時間を掛けて、楽園の創造と、終わった生命の収監が正常に成されることは証明された。
後は己の領域に訪れたものを領域ごとの形で管理することに、存在のすべてを捧げるのみ。
しかし、ここで異を唱えるものが現れた。
主張こそ違えど、楽園と生命の管理を存在意義とするつもりなどないという、八つのうちの五つ。
五つは残る三つに謝罪し、世界のどこかへと消えていった。
残る三つは使命を全うせんとした。
最後に八つの総意により残されたのが、ここまでの、世界の成り立ち。
道を違えたその後は、断片から僅かなことが読み取れるのみ。
八つの中で諍いがあったとも、魔族や人間の反乱があったとも、いずれもなく全ては成り行きであったともされているが――千年前の時代において、確実だとされていることは次の通り。
使命に生きた三つ――『使命派』のうち、一つが永遠に世界を去ったこと。
使命を拒んだ五つ――『自由派』のうち、三つが後に使命を受け入れ、一つが死を超えてなお滅び、最後の一つは変わらず使命を不要と捉えたこと。
中には異なる立場にいながら関わりを持ち続けるものもいた。ゆえに、後から使命を受け入れたものたちとは和解したのだろうと唱える学者もいた。
間違いなく『使命派』であったとされ、現代においても存在する『ハデス』と『ヨミ』は大変温厚な気性だという。
その真摯な姿勢が、『ネルガル』ら三つを説き伏せたのではないか、と。
使命を絶対とするものたちも、使命を拒むものたちを否定はしていなかったようだ。
『自由派』の最後の一つ、『バルハラ』がその自由さを健在としたまま、『使命派』との友好を保ち続けていたというのだから。
――わたくしの時代で、“魔王と勇者”といえば、バルハラと聖女ヨハンナのおとぎ話である。
ネシュアに最も近い絶対者。かつての民が全知にして全能を夢見た、はじまりの八つの中にありながら自由を求めた魔族・バルハラ。
世界のどこかにいるとは確信されていながら、誰もその場所を把握してはいなかった。
知っているのは、『決戦機関エックスデー』のみ。
かつて、ネシュアに多くの技術革新と過激な思想を齎し、バルハラに唯一匹敵したという聖女ヨハンナが、己の人格を焼き付けたネシュアの秘奥の一つ。
それは未来においてバルハラが世界を見限り、ネシュアにその手を伸ばした時のための、バルハラと聖女ヨハンナ合意のもと用意された“もしも”の備えである。
いずれその時が来ると、二名は共通の見解に至ったのだろう。
後の決戦派はそれを恐れ、さらなる万全を目指した。
魔族さえ打倒し得る多種多様の技術、エックスデーを含めたそれらを、来たるべき日の昨日から支援する追想機関。
つまるところ、ネシュアの発展と隆盛は、その大半が決戦派のバルハラに向けた猛りと畏れから来たものである。
「――というのが、バルハラとネシュアの関係です」
「……なるほどね。前提たる冥界たちの話も、現代ではまともに残っていない。感謝するよ、ナディア」
聖都にやってきてから、二十日。
その日の夕暮れ、わたくしはイリスティーラの求めにより、かつて学んだ冥界の成り立ち――そしてバルハラとネシュアの関わりについて話していた。
聖都での暮らしにも、随分と慣れた。
本来ならば、この祝福はアンデッドなど許容せず、わたくしも近付くだけで消滅しかねない。
それを、祝福に体を適応させるという荒業によってリッカが解決したことで、わたくしはもう一度この都市で生きることを許されたのだ。
魔族と人間が共存する都市。
魔族の大半はエルフだが、狼藉を働く意思がなく、手を取り合えるならばアンデッドさえこの都市は許容するらしい。
先立って、この都市を管理する四天王リーテリヴィアが触れを出していたというが、それにしたって死に還りにここまで良くするのは異常である。
今やわたくしは完全に聖都の一市民として認められていた。
イリスティーラの屋敷に居候していると言うと、眉を顰める者は多い。
どうやら、この都市……というか、エルフたちの中で彼女の存在は厄ネタであるらしい。
人間でも他のエルフから色々と聞いているようで、特に大人は良い反応を示すことはなかった。
逆に、子供からすればこの屋敷は幽霊屋敷扱いであり、庭先は肝試しの舞台として人気を博している。イリスティーラも面白がっているようで、“その類”の仕掛けが山ほどあるようだ。
――イリスティーラがエルフたちにはみ出し者扱いされている理由は、かれらの禁忌である存在の改変を行ったから。
わたくしのような別種はともかく――エルフにおいては、誇りある自己を歪め、混乱させることは種族の冒涜にも等しいという。
聖都から追放されないのは、かれらがエルフの中でも穏健派にあるため。
聖都を認めず森の奥に生きる本来のエルフたちの中にいれば、追放どころか即座に殺されてもおかしくないそうだ。
イリスティーラがどうして、そんなことをしたのか。問うつもりはない。
誰だって触れられたくないことはあるだろう。わたくしにだってある。まあ、所詮当事者などわたくし一人しか残っていない、千年前の“歴史”の話なのだが。
「しかし、どうしてそんなことを? いつものように、技術の話題かと思ったのですが」
「ああいや。休憩がてら、前にユーリくんたちが来た時にあったことを少し考察していてね。繋がるかもしれないと思ったのさ」
聖都の一市民、そしてイリスティーラの居候として、ひとまず今のわたくしに出来ることは技術提供だった。
ネシュアでは当たり前で、しかし現代には当たり前として残っていないもの。
イリスティーラは随分な技術屋らしい。たった数日で再現してしまった技術も存在する。
専門としてはもっと違うところにあって、魔法技術はその延長でしかないと言っていたが、それでこの成果であれば千年前のネシュアにいても大いに活躍できただろうと思う。いや、ネシュアに魔族を受け入れる文化などなかったのだが。
「冥界の属性、ようやく理屈が見えてきた。何人か保有者は知っていたが、質の違うものがいた理由……八つの冥界という知識を踏まえればより深い推論も立てられる」
「わたくしとしては、この世界にそこまで冥界の力を有する者がいることが驚きなのですが……」
――しかし、冥界か。
思い出されるのはリッカだ。
ネシュアだった場所にいたブラックドッグのように、喰らった何もかもを溜め込む墓荒らしなどではない。
正真正銘、今を生きる人間であるリッカがあの属性を有していたことは驚いた。そういうものがあると――かつて魔力を学んだことはあるものの、保有者を見るのは初めてだった。
物珍しさで言えば、ユーリとクイールの持つ勇気の魔力なるものの方が、一切の未知であった点で勝るのだが、あちらは勇者というシステムで付与されるものなのだろう。
……クイールがそれ以外に属性を持たなかったこともまた、触れてはならない部分なのだと思う。
ともかく、イリスティーラはリッカ以外にも、冥界の属性を持つ知り合いがいるらしい。
いずれも死に対する絶対的な優位を持つ……即ち、今のわたくしの天敵だ。
その中で質が違うということは、その存在が生まれる要因となった源流が異なると思われる。
どういう基準で冥界属性が発現するかはわたくしも知らないが、ハデスを源流とする存在、ヨミを源流とする存在……といったように、源流ごとの差異があるのだろう。
……これ、詳しく研究すればネシュアでさえ未知だった題材だろうな。
冥界属性発現の要因と源流ごとの性質の差異――流石に“これからの人生”で調べてみるには壮大すぎるか。
今の時代にどれだけの冥界が残っているのか、バルハラの現存さえ定かではないというのに。
まあ、わたくしとしては、リッカがいずれを源流にしたものだろうと関係はない。
傍若無人で何を考えているのか分からない変わり者だが――望む最善のために必死に頑張る女の子であるということは、共にいて伝わってきた。
……必死すぎる様子は見ていて痛ましく思ったが。
それを支えるのは、わたくしでは役者不足。ユーリの成長により、少しでも彼女が心を休められるようになれば良いのだが。
「ユーリくんたちが戻ってくる前に仮説は纏めておかないとね。……っと」
こうした、イリスティーラとの雑談混じりの“授業”は不定期だ。
ちょうどきりの良いタイミングで、この部屋に向かって歩いてくる足音が二つ。
どちらも溌剌とした意気の感じられる音。
イリスティーラと顔を見合わせ、微妙におかしくなってお互い笑う。
「二人とも! 晩ごはんが出来ましたっ!」
「今日は、わたしもてつだったっ」
――実のところ、エプロン姿のクイールというのはまだ見慣れたものではない。
聖都までの道中では、食事の用意は主にユーリが、そしてリッカがそれを補助する形で担当していた。
どうやら、わたくしが同行することになる少し前にユーリたちと出会ったクイールは、その僅かな期間でユーリの料理に魅了されてしまったらしい。
まあ……美味しかったのは否定しない。
簡単な食材と簡単な調理法、だからこそ田舎の村でも普及する簡素な料理とは、ほど遠い世界にいた。
対等に話せる者たちと囲む鍋も、面白いほどに湯気を立てる料理も、きわめて新鮮だった。
わたくしがそれを気に入るのは当然として、しかしクイールもよほど入れ込むのは不自然だなとは思っていたが。
この屋敷に住み始めてようやくその理由を知った。
幼少の頃からよくここでイリスティーラの厄介になっていたというクイールが食べ慣れているのは、つまりイリスティーラが用意する食事。
屋敷の中を案内してもらった時に絶句した回数など数えていないが、キッチンにおいても衝撃を受けた。
雑多に積み上げられた、レトルトの山。
熱湯にくぐらせるなり加熱術式を起動するなりで簡単に“それなり”の料理を用意できる保存食にして庶民の味方。
おまけにユーリたちに会う前の一人旅において、町から町への道中での食事の話を聞いた時は……人としてどうなのかと思うレベルであった。
ああ、こういう食生活であれば手料理の虜にもなろう。
「そうかい。じゃあ、ここまでにしようか」
「ええ。ホープが手伝ってくれたというなら、今夜は期待できそうですね」
「あれ? もしかして僕貶されてます?」
ホープについても、深く問うことはない。
クイールが使命のためにイリスティーラに預け、ようやく再会の叶った娘。三人の間にわだかまりがないならば、それでいい。
「ママ、お肉焦がしてた」
「ぬぁ……! ほ、ホープ、それは言わない約束で……」
「ふふ、黙っていても食べれば気付かれるでしょうに」
「まったく、
「イリスに言われたくないですー!」
これまでの旅で頼りにしていた、精神面での拠り所である妖精の粉。
それの中毒症状により、クイールは非常に不安定な状態にある。
どうやら、リッカの協力者なる人物が、有効な精神安定薬をイリスティーラに教えたようで、その経過観察も踏まえた一時的な療養期間。
それはクイールとホープに、ほんのちょっとした、当たり前の日常を与えていた。
なんでも、クイールはずっとホープに“母らしい”ことをしたかったらしい。
彼女を置いて使命を果たさんと再び旅立ったことの負い目か、或いは元よりそうした日常に憧れがあったか。
ようやくその機会がやってきて、手料理に挑戦し始めたのは間違いなく、ユーリたちの影響があるのだろう。
とはいえ待ちに待った初挑戦の結果は散々……惨憺たるものだった。ユーリが普段の料理を手伝わせなかった判断は、とても正しい直感によるものだったのだと感心した。
それからもクイールは何度も挑戦しては撃沈、細々とした学習を進めているようだったが、今日はホープも手伝ったという。
ホープの器用さは舌を巻くところがある。
細かいところにも目が行くし、クイールが何か仕出かさないよう見張ってもらうだけでも効果は絶大だろう。お肉は焦げたようだが。
【分かたれた八つ】
かつて、混沌の境地であった大いなるものが死した時にその亡骸が分かれて生まれた八つの生命。
この世界における絶対的な上位存在であり、死を超越する冥界属性のルーツ。
はじめ、死者の管理を己の使命と理解した時、かれらはその使命を肯定する『使命派』三つと否定する『自由派』五つに分かれた。
しかしやがて『自由派』が心を動かされる形で『使命派』に移っていった。
最終的に、『自由派』のうち三つが『使命派』に転向し、一つが滅んだとされ、残る一つがなおも使命を持たない『バルハラ』だという。
なお、派閥によらず、八つは互いの在り方を尊重していたため、仲は悪くなかったらしい。
+
冥界属性とは、この八つが有しているものが何らかの形で、この世界の生命に発現したもの。
どういう経緯で発現するかは、源流とする存在が持つ事情によってさまざま。
たとえば『バルハラ』を源流とする場合、約千年前の襲撃によって散逸した名前に宿った生命が先天的に有するものである。
――この上位存在たちについては回顧の迷宮で協力を約束した『バルハラ』を除き、本人たちが本編に関わってくるわけでもないため、さほど気にしなくてもいい。