凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「魔法の不発……ねぇ」
やってきた館の応接間で事情を話せば、その反応は様々だった。
首を傾げるホープ。驚愕するクイール。呆れたように頭を押さえるナディア。そして顎に手を当て考え込むイリスティーラといった具合に。
「……そんな状態で、よく戻ってこられましたわね」
「ユーリくん単独の外装はこの魔道具が“学習”した結果。不発そのものとの因果関係はない。……リッカくん相手に聞くまでもないと思うが、術式に不具合は?」
「ない」
一度この場で使って見せたものの、結果はやはり同様。
リッカに浮き上がった術式は効果を発動することなく、輝きを失った。
お互いに、やっていることは同じである筈だ。リッカに意思を投げて、受け入れてもらう。それだけなのに。
「流石に、この状態でムルゼ霊山に向かうって選択肢はないですね……。ネシュアとはまた別方向で、危険な場所みたいですし」
「その通りだが――私やナディアが貸せる知恵はあくまで、魔法の構成に関してだ。当人が不具合なしと断定するならば、キミ自身が明かしてくれなければそれ以上は私たちには分からないよ」
「……」
――それは、リッカには出来ない選択だった。
誰かに肌を晒すということが招く危険の可能性を、リッカは捨てきれない。
それに、この魔法自体、リッカの集大成であり、誰に構造を明かすつもりもないものだ。
こちらが歩み寄れなければ、イリスティーラたちにもどうにも手助けは出来ない、か。
「……ふたりの」
結局僕たちで原因を見つけ出すしかないのか、或いは、リッカの安全を保障して、診てもらうのか。
どちらにしても難しいと頭を悩ませていると、じっとリッカを見ていたホープが呟く。
「ん? ホープ、どうしました?」
「ふたりの、向いている方向……全然ちがう。喧嘩した?」
向いている方向……?
物理的な意味ではないだろう。多分、ホープが言っているのは、意思とか、心構えの問題。
しかし、僕たちが見ているものは同じ筈。バルハラにも、声を揃えて宣言した。
であれば後は……目指している、“ハッピーエンド”の方向性?
「……」
「――」
――いまいちはっきりとしなくて、リッカを見た。
――何かを理解した、心当たりがあるように、リッカは俯いた。
細い、細い糸で結ばれているだけの、罅だらけのリッカの器。
次はない。少しでも力を込めれば今度こそ割れてしまうほどのそれを、僕はもう知っている。
なんとなく、分かった。僕とリッカが見ている先のハッピーエンドの景色は違っていて、リッカはひどく都合の悪いものを、隠している。
隠したいというリッカの意思。手を伸ばせば、僕は無理やりにでも暴くことが出来る。
それをしたくはなかった。下手をすれば、僕がリッカを壊してしまいかねないから。
――この場で追及したい気持ちを、呑み込む。少なくともそれは、他のみんながいる場所で話すようなことではないから。
「……リッカ。あとで二人で話そう。きっと、みんなには聞かれたくないことだと思う」
「……」
きっと、リッカにはリッカなりの決意があるのだろう。
バルハラを受け入れたことも、その一端。
だが、支えはいらないと――無理して立つリッカを、僕は離れたところで見ていたくはない。
このすれ違いは、本当は今すぐにでも解消しないといけない。このままでいれば、いつか致命的な形になって、僕たちに襲い掛かるものだ。
「……なんとなく察しましたわ。この話はこれでお終いにしましょう。あとは二人で勝手に解決する筈です」
「そうなのかい? よく分からなかったが、まあ何か糸口を掴めたなら早めに力を取り戻してくれたまえ」
「えぇっと……ホープがお手柄ってことですかね?」
「ふふん」
僕の中にある、つながりの力。それですぐに見抜ける筈の、この“間違い”。
過信していたか、或いは僕が盲目になっていたのか。
もう一度、リッカと向き合おう。あの時と同じように、リッカの内面を知る時なのだ。
「話を変えていいかな? キミらが問題を解決して、その後についての話だ」
「うん――それでいいよ。クイールはもう、大丈夫なのかな?」
あとは当事者同士でと、イリスティーラは話を切り上げた。
色々と、変わった感覚を持つらしいホープの視点に助けられた。あとはもう、僕たちの事情だ。
今のリッカの緊張は、僕が齎したもの。少しでも和らぐように、手を重ねる。それが今のリッカにとって、気休めとなるかは、分からなかったが。
「はっきり言って私は安心していない。経過はすこぶる良いが、あくまでこうして療養している間のことだ。このまま聖都にいてくれるならば、それに越したことはないのだが……」
ならば、次はクイールの話。
再び旅に出られるのかという問題に、イリスティーラは簡単に頷きはしない。
また、長期間薬を欠く危険性……かつての二の舞を演じることは、考えられるのだ。
「甘い誘惑ですけど、やっぱり駄目です。僕は行きますよ、イリス。なんてったって、勇者ですから」
「……だそうだ。キミたちが不在の間に、私とナディアは何度も説得したんだがね。ホープを味方に付けられたら分が悪い」
しかしクイールは諦めない。なおも、勇者だからと立ち上がる。
そして、意外だったのが、ホープもクイールの心意気に賛同したこと。
「ママ、約束した。こんどは絶対にかえってくるって。だからわたし、お留守番してるの」
「ホープの信頼に応えなくちゃですからね。サクッと風の試練を終わらせて、魔王のもとに行く前に、また戻ってこられたらなと」
クイールは気楽に、それでいて確かな決意を口にした。
ホープに疑いの心はない。であれば裏切ることは出来ないと。
僕にリッカがいるように、クイールなりの戦う理由。このちょっとした日常で、彼女はそれを再認識したようだ。
「というわけで、私も譲歩することにした。――ナディアに屋敷の留守を任せて、私も試練に同行させてもらうよ」
「キミも――?」
そして、ホープの信頼とクイールの決意に対して出した、イリスティーラの答えがそれだった。
「ああ、足手まといにはならないさ。これはキミたちの在り方に着想を得たものだからね、キミたちの役に立つのは当然の義理だ。クイールを連れ戻してくれたこと、ホープの友人を“紹介”してくれたこと……そういった、返したい礼もある」
言いながら、イリスティーラはテーブルに自身の魔道具を置いた。
僕たちの魔剣の銃砲形態よりもずっと小型、片手で不自由なく使えるほどのその魔道具は、他の種族の力を扱うためのもの。
そして同時に、戦い方によってはクイールさえ圧倒する性能を発揮する外装を纏うためのもの。
つまり、イリスティーラは旅の中でクイールが想定外の行動に出ないための監視を自分で行おうというのだ。
そして同時に、場合によっては戦闘にさえ参加しようということらしい。
「ムルゼ独自の文化には多少、心得がある。私がいるだけで、木っ端との戦闘は避けられると思うよ」
「……どういうこと?」
その問いはリッカから。
当然、リッカには強い警戒がある。クイールの事情ではいそうですかと、魔族の同行を簡単に認められる筈もない。
現状イリスティーラに僕たちを害する感情は見られないが……。
「ナイトラクサを知っているのだったね。あそこの階級文化をより絶対的に、より排他的にしたのがムルゼだ。よそ者は連中にとっては穢れだし、自分たちを認識することさえ罪深い。まあ、考えなしに入山したら試練以前に余計な消耗は免れないだろうね」
ナイトラクサと聞いて、心臓が跳ねるように鳴ったのを自覚する。
もう二度と行くつもりのないあの場所と同じ、階級が全てを決める文化。
それでいて、あの場所のように他者を積極的に迎え入れることもしない、山の中だけで完結した箱庭。
山の全域がそのようになっているとは思えないが、なるほど――地理的な関係で、最後に回すことになるだろう試練に相応しい難所であるようだ。
「イリスティーラの、その心得っていうのは?」
「下層ではあるが、連中の階級が私の中にある。他の種族の因子を操れるのは知っているだろう? あれによって、ね」
どうやら、ムルゼ霊山の階級というのは、ナイトラクサのように所持品で証明できるものではないらしい。
……ヨハンナによれば、ムルゼ霊山は遥か昔、バルハラと同等の存在が領地と定めた山。根付く文化はその存在の眷属たちが築いたものだ。
もしかして、前提として種族が限定されているのだろうか。
階級とやらを手に入れられないとすれば、僕たちは今から、排他的な文化の中に自ら飛び込んでいくということになる。
そう考えると、最低限でも文化に通ずる者が同行してくれることは、危険を回避する上で有効だといえる。
「……リッカ」
「……、……ん」
これもまた、リッカにとっては、危険な賭けだ。
たとえイリスティーラにクイールを心配する目的しかないのだとしても、“知らない魔族”を受け入れたことで生まれたトラウマが無いわけではないのだから。
それでも、まだ分が良い方だと、リッカは苦渋の中で頷いた。
悪意がないことだけは分かっているクイールが抑止になる――そういう前提の上で。
「――分かった。力を貸して、イリスティーラ」
「望むところさ。よろしく、二人とも」
裏切ろうという気持ちがないこと、そしてクイールを案じての決断であることは分かる。ならば、少なくとも僕は信じられる。
イリスティーラが差し出してきた手を握る。
風の試練を前にした、クイール越しの共闘関係が成立した瞬間だった。
「……一応先立って了承した身とはいえ。まだ知り合って間もないわたくしに留守を任せるのは如何なものかと思いますが」
「留守を任せるから、隅から隅まで案内したのさ。もう触れてはいけないものも、ホープに触れさせてはいけないものも把握しているだろう? 数日の留守ならホープにも任せられるのだが、流石にムルゼとなるとね」
「まあ……元より居候の身。家主の頼みとあらば引き受けますわ。順調にこなして帰ってくるなら、ホープに魔法を教えていればあっという間でしょう」
「うん。こんど、ディアネシュアの証明術式おしえてくれるって」
「そうか……いやいや。亡国とはいえ家紋に等しいものだろう? そんな気軽に他者に伝承して良いのかい?」
「遺失するより良いでしょう。そのくらいには、ホープは教え甲斐があって、可愛がろうと思える弟子、ということです」
ナディアはホープに魔法を教えているらしい。
イリスティーラはさほど積極的に教える方針ではないようだし、クイールもあまり魔法には詳しくない様子だった。
そんな中で、リッカによって基礎を教わったホープにとって、その先に導いてくれるナディアは理想的な師なのだろう。
『――ディアネシュアの証明術式』
「え?」
今後の方針を示す、何気ない会話。
そこに反応したのは、僕の懐から発された魔法音声。
『であれば、姫御前。殿下こそ最も新しきディアネシュアの血統と』
「え、なんですのあなた……ユーリ、あなたまた妙な魔道具を……」
いてもたってもいられないと飛び出したヨハンナは、妙な敬称でナディアを呼んだ。
心なしか、ヨハンナは首を曲げ、頭を垂れているように見える。
『どうか無礼を容赦いただきたい。当機はこれ以上首を曲げられず、表せる敬意の限界につき』
「……色々と指摘したいことはありますが、ひとまず。あなたは何者ですか? 遠方からの通信と見受けましたが」
『否。当機は
「聖、女……ですって……? ――待ちなさい、あなたはまさか……」
『ネシュア国・決戦派・初代教皇、ヨハンナ・エックスデー。
――初めて出会った時以来に聞く気がする、ナディアの驚愕の悲鳴が館に響いた。
【クイール】
新たな力を手に入れて完全復帰。よくある二号ライダーの後期フォームである。
ホープとの日常により、精神的にも大幅に回復。
ユーリたちはまた不安定になったがこっちは絶好調である。
【イリスティーラ】
風の試練において同行が決定した三号ライダー新たなパーティメンバー。
「この馬鹿がまた旅に出るなら付いて回った方が良い」という判断。
留守を任せられる友人も出来たため、どっかのウサギ耳が寄越した薬の安全性が確認された時点でこの方針を決定していた。
【ホープ】
母から受け継いだ才能と母にも備わっていなかった才能を併せ持つ希望の新星。
魔法の修得に興味津々だが、最近は料理も楽しみであるらしい。
【ナディア】
多少、“生き方”を考えてもいいかと思い始め、ホープを弟子として自分の魔法技術を教え始めた。
予想以上に才能があったため、このまま失われる筈のネシュアの技術を伝えてもいいかという気持ち。
何かネシュアに不都合があったなら責任を取るのは愚兄である。
【ユーリ&リッカ】
このあと首脳会議。