凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
結局のところ、それはまだ、独り善がりの理想。
リッカの目指すものとは違うハッピーエンド。
ここまで押し通したリッカの意思は頑なだ。そして自分の現状を誰より知っているからこそ、そう簡単に僕の理想を認められない。
「……ユーリ、私がどんな状態か、知ってるでしょ……?」
「うん――もう、僕がリッカを知るずっと前から、限界なのは、分かってる」
「なら……それ、なら……、私を、休ませてよ」
――出来ることならば、もう足を止めたい。
リッカが絞り出したのは、“次”に託して一度行き止まりを作るのとは違う、終わりたいという弱音だった。
「二人を、送り出せれば、私はもういいの。その先には行けないから、それだけを目指すって決めた……今更、ゴールを、変えたくなんかない……っ」
「……それを目指そうとすれば、もっと難しい道になるから?」
「っ」
もうリッカの理想に、最上という選択肢はない。
魔王はリッカに、ハッピーエンドの才能がないと言った。消極的なハッピーエンドすら目指さなかったと言った。
しかし、今のリッカが目指す道さえ、最上を捨てた消極的な選択肢だ。
三人一緒のハッピーエンドは、もうリッカからしてみれば、どう足掻いても見えない道のりの果て。
それを目指そうとすれば、前提条件に困難があり過ぎて、挫折の方が近付いてしまう。
だから、今の自分に見える限りのハッピーエンドが、そこだった。
それ以上は望まない――それ以上を目指したいと、
「――覚悟の上だよ、リッカ」
「駄目っ……魔王を倒して、それで終わりでいいの。これ以上、前に立ちはだかるものなんて、増えなくていい。じゃないと――もう、私には……それに耐えられるほど、“私”が残ってないから……っ」
魔王を倒して、使命を果たす。“それだけ”で辿り着けるハッピーエンド。
ずっと昔の“いつか”ならばともかく、今のリッカではそれを目指すことしかできない。
理想を低く、低く保っていなければ、ふとした拍子に折れてしまいかねない。少し理想を引き上げる。それだけで、見えていた光は彼方に遠ざかってしまうから。
「……お願い、ユーリ。納得して……」
ならば、僕はなおさら、認められない。
そんな“諦め”を、今更リッカに選ばせては駄目だ。
「――僕は、嫌だ」
「ッ……分からず屋……っ、私を、支えてくれるんじゃないの……?」
「支える。支えて、ゴールのその先も、一緒に歩いていく。……リッカがいない未来なんて、僕にとってハッピーエンドなんかじゃない」
僕は認めない。そして、カルラだって認めない。
ここまでの道のりを戦ってこられたのは、リッカのためだ。
なのに、辿り着いたその場所にリッカがいないなんてあり得ない。そんな未来のために、僕は使命を果たそうとしているんじゃない。
「で……も……、駄目……駄目なんだってば……そんな幸せ、耐えられない、から……」
罅だらけのリッカの器は、もう満たされない。
いや……ほんの少しの安心だけで、満たされたと錯覚してしまう。
遥か過去の日常が戻ってくれば、心が安らいでしまえば――脆くなった器は耐えられず、溢れてしまう。
最後にほんの一瞬だけ感じるそれを、リッカは自分自身への報酬にしようとしている。後は僕とカルラを送り出して、すべて終わり。
リッカが望める精一杯。だから、それを承知で支えていくことが、僕の最善なのだろう。
だが、最善を選んでは、最上は手に入らない。
リッカを想って、僕にとってのゼロ点に辿り着くか。
ゴールの先でさえリッカに無理をさせる、百点満点に辿り着くか。
僕はリッカのための勇者だ。選ぶべき答えなんて、決まっている。
けれど――勇者でなくなったその先の未来に至るまで、“リッカのため”という在り方を貫くならば。
「……満足させない」
「え……?」
「終わりの先で、“満ち足りた”なんて、思わせてあげない。僕は魔王を倒したその先でも、リッカの無理を支え続ける。リッカが弱音を吐こうとしても、僕が引っ張ってその先に連れていく」
今のリッカが望める最上。その先まででも、僕が道を指さして、歩いていく。
リッカが思ってもみないハッピーエンドだってあるということを、僕が証明する。
僕の中にある勇者の証はそのための力。“リッカのため”に、どこまでも道を切り開く力だ。
もう、壊れてしまってもいい――そんなこと、二度と考えさせない。そんな、リッカらしくない自暴自棄、僕は絶対に許さない。
「約束するよ――僕は、リッカを幸せにする。今日だけで終わるのは嫌だって――明日も、明後日も、何年だって続いてほしいって思えるほど、リッカを幸せにして見せる」
「――――な――は……? ――なに、言ってるの……?」
うん――何を言っているのか、やはりよく分からない。
それでも想いのままを言葉にし続ける。何より確かな、決意を伝える方法だ。
「これまで、ずっとリッカは苦しんだ。苦しくても、今にも壊れそうでも、我慢して、ここまで歩いてきた。それなら最後に――これ以上ないくらいの、幸せな我慢をさせる。そして、僕が一生それを支える」
「――――」
いくつもの苦しみ、いくつもの痛みを、リッカは我慢してきた。
埒外の忍耐と執念は、復讐とハッピーエンドを遂げれば用済みとするべきなのか。
……否。最後は幸せであるべきだ。幸せの中で、心の限界なんて、感じさせない。
五千を超える繰り返しの先で、手に入れられるものとしては、どこまでも細やかなものかもしれないけれど、僕はそれをリッカにとって最高の幸せにしてみせる。
「――む、無茶苦茶、だよ。それに……か、解決法にも、なってない」
「うん。だけど、成し遂げることはできる」
最高のハッピーエンドに辿り着く条件は、“簡単”だ。
魔王を倒して、その時に僕とリッカとカルラ――三人が健在であること。
その時、ほんの少しでもリッカに気力が残っていればいい。
「僕が引っ張る。どこまでも手を引いて、支えて、歩いていく。だから、僕を信じて付いてきて。絶対――絶対、リッカに後悔なんてさせないから」
これから先も無理をし続けてほしいという、残酷なまでの強要。
だが、そこを遠慮しては、僕の望む“三人の未来”には辿り着けない。
リッカとカルラにとっても一番の幸せだと、そう確信できるからこそ僕はこの場で、僕を押し通す。
「――……ひどいね、ユーリ。私が、ずっと目指してきたものを、簡単に否定する」
「いくらでも、否定するよ。リッカが、これまでの我慢に相応しいハッピーエンドを認めるまで。リッカはもっと――もっともっと、欲張りになっていい」
これまでの苦痛を返す復讐を、僕は否定しない。
さらにハッピーエンドまで求めても、自分だけ消えてしまおうというのなら、まだ欲が足りない。
混沌とした暗い道のりなんて、なんでもなくなってしまうほどの、いつまでも続く幸福の絶頂くらい、リッカは求めてもいい。
無理だとリッカが思うならば、僕はリッカを勇気付け続ける。
果ての果てまで、体が動かなくなるまで、“明日が惜しい”と思わせてみせる。
「リッカが“もっと上”を望むなら、目標に上乗せしたっていい。一緒に描いたハッピーエンドなら、もっと、ずっと大きな力になる」
「……無理したくないから、少しだけ、妥協するっていうのは?」
「絶対に嫌だ、が返事になるかな」
「――我儘すぎ、ユーリのくせに」
ほんの少しだけおどけた答えに、リッカが軽口を返してくる。
意図的に隠した本音を、指摘する気は起きなかった。その時のリッカが、困惑しつつも、楽しげに笑っていたから。
弱々しくて、風で飛んでしまいそうなほどに儚くて、しかし、消えてなるものかという強さを根底に秘めた、リッカらしい微笑み。
それを引き出せたことで――僕はこの“痴話喧嘩”に勝ったことを確信する。
いつか、三人の間のどこかしらで、毎日のように繰り広げられてきた他愛もない争い。
大抵はなあなあになってお終いだったから、誰かが負けを認めることでの決着というのは極めて珍しかった。
……今回ばかりは、そうでなければならなかった。進む道をリッカに指さしてもらうことを、今日でおしまいにしなければならなかったのだから。
「一緒に行こう、リッカ」
「――しょうがないから……付いていって、あげる」
根負けしたことが恥ずかしくて誤魔化すように、リッカが魔法を起動した。
リッカの肌に術式が輝いて、魔力となって散っていき、すぐに僕に集まってくる。
同じ方向を見て、今度はお互いに迷うことなく、歩いていける。統一された意思を覆うように、当たり前に外装は具現化した。
「――――」
「――――」
立って、構えるような事態ではない。元通り、或いはそれよりも先に進んだことを、お互いに確かめただけ。
問題はない。それどころか、見るべきものがより明確になった証明であるように、力が湧いてくる。
生憎、その力をぶつける相手は、この場にいない。
二人の力を取り戻した。その喜びに数秒の間、浸ってから、どちらからともなく魔法を解く。
「……やっぱり、こっちの方が安心できる」
「……
「ううん――けど、ユーリと離れているのは、やだ」
ひどく安心したように、リッカが体を預けてくる。
その軽さは、ただ寄り掛かられているだけではあまりにも心許なくて、より強く意識したいという気持ちが、僕の腕を動かした。
リッカに本音を話した、その直後だからか。僕自身も少しだけ、欲張りになってしまっているのかもしれない。
これだけ触れ合わないと、リッカがそこにいるという
「……前の時より、告白みたいだった」
「――そうじゃないけど。それでも、いいかな」
「っ……ユーリ、今ドキッとした」
「……リッカだって、照れてる」
「……」
いつかのことを掘り返され、なんだか妙に恥ずかしくなった。
とはいえ――よく考えれば意味合いなんて大して変わらないか。
正しい“そういう感情”ではないと思うけれど、使命を果たしたその先で、リッカに一生を尽くしてもいいという決意だ。
心変わりが起きて、その宣言を違えるような……僕が僕でなくなる出来事がなければ、これとは別の“本当の告白”なんてすることはないだろうし。
「不安、なくなった?」
「……むしろ、増えた。だって、これからは――ずっと目指していた
「――そっか」
「撤回、する……?」
「しない」
「……」
なおも続く、意地の張り合い。
リッカにもこれまで貫いてきたプライドがあるから、そう易々と素直になりたくはない。
そんな風な強がりは、つながりを通してあっさりと伝わってくる。
しかし、これから先は、僕が手を引いて歩く限り――その先を見据えて、リッカも共に歩いてくれるだろう。
道行きの中で、目指す先の輝きを、リッカが認めてくれればいい。
その時こそ、辿り着こうとするハッピーエンドは、真の意味で僕たち共通の希望となるのだから。
【ユーリ】
見ている方向が違うと分かった以上、どちらかが合わせるしかない。
ならば、“この場で優先されるべき”は、自分自身が描くハッピーエンドだ。
ここに二人の最上は統一され、その絆はより確たるものになった。
【リッカ】
――全部が終わった後にまだ我慢するなんて、まるで考えていなかった。
ユーリの信念は、枯れ果てた自分には眩し過ぎて、目指す場所なんて見えないけれど。
そこまで手を引いてくれるならば、なんとなく辿り着ける気がする。
もしそうなったら、もう少しだけ――満たされるのを、我慢してあげてもいい。