凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
リッカと改めて志を同じくした翌朝。
朝食を済ませたのを見計らったように、テーブルの上にアッシュが飛び乗ってきた。
『おはよ。――顔色、すっきりしたじゃないの、ユーリ』
「おはようラフィーナ。うん――また少しだけ、前に進めたからかな」
昨夜から姿を見せていなかったアッシュから聞こえるラフィーナの声には、僅かな安堵が見えた。
きっと、リッカは隠していた悩みを、ラフィーナには打ち明けていたのだと思う。
僕やカルラには話せない秘密を託すのに――彼女は数少ない、リッカの信頼の拠り所なのだ。
『そこの女に聞いたわ。随分情熱的な告白だったらしいわね』
「――ラフィーナ」
『なによ。私は聞かされたそのままを言っているだけじゃない。そのくらいの自由はあってしかるべきだと主張するわ』
……それでもいいとは言ったものの、何もラフィーナにまで言わなくても。
“冗談”の方を主体で吹聴されるとどうも、気恥ずかしさの方が勝ってしまう。
ラフィーナもその辺りは分かっているだろうが……。
『まあ……ここ最近、頭痛と胃痛の種ばかりだったけど、一番重いのが解決したわ』
「心配、掛けたみたいだね。ごめん、ラフィーナ。それと、ありがとう」
『……心配ってわけじゃないから。それはそれとして、リッカ。あんたがまた妙に浮かれているせいで使い魔たちの動きも鬱陶しいわ。さっさとどうにかしなさいよ。頭お花畑もたいがいに――』
「……」
『――ちょっ、やっ、虫はやめろってのっ! リッカあんた恩人に対してっ、笑ってんじゃないわよバルハ――』
……通信は切れたらしい。
ただ繋げているだけのアッシュ自身は我関せずと僕の手に乗ってくる。
「……えっと。リッカ、程々にね?」
「……ん」
他の魔族に対してはともかく、ラフィーナとのそれは一種のコミュニケーションになっている節がある。
そうでもなければ、とっくに協力関係など瓦解しているだろうし。
事実、ラフィーナはリッカを嫌ってはいるものの、ある程度の同情もまた向けている。
二人の間にあるつながりは不安定ではあるが、どちらも断とうとしていないものだった。
「それじゃあ、片付けてから行こうか」
「……」
魔法が使えない――勇者としての、僕たちの真価を発揮できないという大きな問題は解消された。
これで今度こそ、最後の試練に向かうことができる。
ヨハンナやイリスティーラから聞く限りの、僕たちの常識とはまったく異なる文化の広がる地で行われる試練は、これまで突破した三つの試練のどれとも違うものだろう。
だとしても、今の僕たちなら。そして今のクイールならば突破できない筈がない。
「やあ、来たね。魔法は取り戻せたかい?」
「……うん。もう大丈夫、だけど――」
再びイリスティーラの館に訪れた時、既に四人は庭に出ていた。
同行する二人は支度万端のようだ。
聖剣を背負ったクイールと――人が三人並んだほどの幅を持つ巨大なバッグを背負ったイリスティーラ。
中に相当の荷物が入っていることは想像に難くない。
そして、それを易々と背負うイリスティーラは、やはり体のつくりが違う魔族であることを思い出させるものだ。
……いや。本当にあんなバッグ、必要なのだろうか。
小さな空間を拡張して、入る荷物を増やす魔法。それから、その空間の重さを一定に保ち、持ち運びやすくする魔法。
どちらも複雑なものらしいが、魔法に長けた様子のあるイリスティーラに使えないものではないだろう。
「……それ、拡張してないの?」
「拡張しているよ。入れる手段さえあればこの屋敷すら入る。もちろん、有事の備えという意味合いが大きいが、出先で色々、珍しいものが手に入るかもだからね。遠出の時はこれを持っていくようにしているのさ」
「久しぶりに見ました、それ。イリス、まだ使ってたんですね」
「ああ。キミの薬と、その材料もたんまりある。ポーチに入れた分ははぐれた時しか使うんじゃないぞ」
どうやらイリスティーラ的には必要な荷物らしい。
何が入っているかなどまるで分からないが、あまり考えない方が良さそうだ。
少なくとも、それを用いて僕たちをどうこうしようという気はないようだし。
どちらかというと心配なのは、ゼクセリオンに積めるかという点。入り口の扉は明らかにあれよりも幅が狭い。
……大丈夫か。イリスティーラのことだ、狭い道を行く際の対策くらい立てているだろう。そもそも、館の外に出せているわけだし。
「さて。それでは互いに準備は万全ということで、出発できるわけだが……先にキミらにこれを渡しておこうか。ユーリくん、そしてリッカくんにも」
巨大な荷物が近付いてくることに、妙な威圧感のようなものを錯覚する。
そんなことをまるで気にも留めていないイリスティーラは、バッグではなく白衣のポケットから二つの、小さな板状の魔道具を取り出し、僕たち二人にそれぞれ渡してきた。
警戒してすぐさま解析を試みるリッカに苦笑しつつ、イリスティーラは説明を始める。
「通信用だよ。有事の備えの一つ、さ。私とクイールも一つずつ持っているし、ナディアにも預けた。正直ムルゼと
なるほど――万が一誰かが離れるようなことがあった場合、状況を報告できる環境は整っていた方が良い。
それに、イリスティーラとクイール、二人が館を出る以上、当然ホープも不安に思うだろう。
二つの解決手段としてはスマートなものだ。
これがあれば、離れた場所で互いの無事の確認や、方針の決定も出来るということだ。
「あとは、怪我や毒に効く薬なんかも後でそれぞれに渡そう。危なっかしい副作用のない、安全なものをね。怪しいと思うなら、好きなだけ解析してくれたまえ」
「一パーティに一人、イリスですね。一人でなんでもありですもん。勇者じゃないのに」
「魔族が勇者に付き従うパーティ? 冗談にもならないよ。……とまあ、何十日か前の私なら言っていたんだろうがね」
よほどの備えをするのは、どうやらイリスティーラの性格であるらしい。
リッカの“いつかの知識”で補えなくなってきた旅路では、どうしても行き当たりばったりの対応が増えてきた。
そんな中で、冷静に物事を見られる協力者というのは大きい存在なのかもしれない。
「――まあいい、出発しよう。……ナディア、ホープを頼むよ。キミのことだから、そう心配はしていないが」
「ええ。頼まれました。あの即席料理の山が無くなるまでに帰ってきてください」
即席……? あまり調理などはしないのだろうか。
複雑な表情のナディアは、こちらに目を向け――ラフィーナと同じく、安堵を見せた。
「今のあなたたちなら、心配いりませんね。“土の試練”同様、劇的に終えて戻ってくるでしょう」
「うん……そのつもりだよ」
僕たちのすれ違いを察し、心配してくれていたらしいナディア。
ならば、彼女の期待にも応えなければなるまい。
劇的に――というのが、具体的にどういう形かは分からないが、必ず試練を突破し、四人で戻ってこよう。
と、その時懐からヨハンナが飛び出してくる。首を傾げる様子を見るに、何か想定外があったらしい。
『む――姫御……ナディアは同行しないと』
「ホープを一人には出来ません。それに、わたくしが行っても単なる足手まといでしょうに」
『――理解』
……なんだったのだろう。ナディアが館の留守を任される旨は、昨日聞いていた筈だが。
再び懐へと戻っていったヨハンナの心中は、どうにも伝わってこなかった。
「それじゃあ――行ってきます、ホープ。あっという間に試練を終えて、戻ってきますよ」
「うん……ママ、やくそく」
クイールとホープは、離れたくないという気持ちが大きい。
それでも、クイールは歩みを止めず、そしてホープもそんな母の姿を誇らしく思っている。
ゆえに、抱擁で一時の別れを済ませる。今度は、何事もなく帰還すると、約束を結んで。
ナディアとホープを残し、四人で館を出ていく。
家主が一緒だからか――本来、魔法の仕掛けで通れなくなっている筈の、正門から。
それなりにイリスティーラと関わってはいるものの、聖都においてはあの館の敷地内でしか接触していない。
こうして、共に外に出るのも、初めてだ。
「イリス、そっち裏通りですけど。大通り行かないんですか?」
「好き好んで行くわけないだろう。潔癖なエルフどもの視線が普通に鬱陶しいんだよ、あそこ。こっちならあの手の連中の目もあまり無――」
「――イリス。それに、キミたちは……」
「あまり無い、と思ったんだがね。別の裏道を今度探す必要がありそうだ」
可能な限り
鎧姿ではなく、濃紺を主とした私服姿。
そして何より――どうもイリスティーラの協力により、変化した性質を自在に操るすべを得た、四天王リーテリヴィアである。
「来ていたのか、勇者ユーリ。それに、クイール――旅を再開するようだな」
「はい。リーテさんは、どうしてこんなところに? 今日は
どうやら、事情は既にクイールも知っているらしい。
はっきり言って僕はまだ理解できていないが、“僕たちの成果”をあるべきものだと受け入れたリーテリヴィア。
そんな彼は当たり前のように、女性の姿で裏通りを歩いていた。
「
「メチャクチャ目立ちそうですけど……」
「普段よりは控えめになる。それで十分だ。好みの店を訪れる苦労も、幾分薄れる」
……当然ながら、リーテリヴィアは聖都において誰もが知る存在だ。
彼が動こうとすれば、誰もが注目する。そんな人気もあるのだろう。
今の状態は顔立ちこそそっくりだが、性別さえ違えば別人と判断できる。
リーテリヴィアにも、気を抜くときはある。そんな時に、都合がいいのかもしれない。理解はし難いが。
「それで、イリス。キミはどうした。随分と大きな荷物だが」
「……クイールたちの試練に同行する。まったく――よりにもよってキミに会うとは」
「風の試練に……? ――そうか。危険だが、言って聞くキミでもあるまい」
「その通りだよ。別にキミは気にする必要はない。普段通り、聖都の長らしくしていたまえ」
苦虫を噛んだような表情で言い捨てて、イリスティーラは早足でリーテリヴィアを通り過ぎる。
それを僅かに目で追っていたリーテリヴィアは、すぐにこちらに向き直った。
「――この姿で見送るのも格好がつかないが。気を付けて行くといい。キミたちにとって、『世界門』を開く最後の試練。既にキミたちは勇者として前代未聞の領域にあるが、決して油断しないことだ。恐らくは、これまでで最大の戦いとなることだろう」
言われるまでもない忠告を残して、リーテリヴィアは去っていく。
彼からしても、僕たちの成果は初めてのものだろう。
それでいて、これが最後だ。もうこれ以上の勇者は生まれない。そうでなければ、僕たちがハッピーエンドを迎えられないから。
「お休みなのはいいとして、リーテさんどこに行くつもりだったんでしょうね? この辺お店なんてないですよ」
「さぁ……?」
クイールが知らないならば僕たちが知る筈もない。
リーテリヴィアの目的は不明なままに彼と別れ、僕たちはイリスティーラを追う。
土の試練、火の試練から、随分と回り道をしたが、ようやく最後の試練だ。
順風満帆にことが進むということはないのだろう。しかし、もうリッカとのすれ違いは、きっとない。
そう信じれば、足取りは随分と軽くなった。
【イリスティーラ】
このあと話には聞いていたゼクセリオンに大興奮する。
食事は栄養があって腹が満たされればそれでいい。例外的に甘いものが嫌い。
【リーテリヴィア】
聖都裏路地には幾つか、行きつけの隠れすぎた喫茶店がある。
どんな味であっても不満を言わず平らげるが味音痴ではない。昔から甘いものが好き。