凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『しじま海域』/嵐の前のしじま

 

 

 ――海を渡るのは、かれこれ五度目。

 過去の四回を思い返せば、否応にも気持ちは滅入る。

 うち二回は何事もなかったのだ。聖都を目的地とした、“戻り”の海路は、穏やかな旅だった。

 問題は、“行き”の海路。

 

 初めて海を見た、ネシュア国跡を目指す道行きは、船を使った。

 人間に許される、最低限の安全がある海路だ。

 そこで遭遇したのが、僕が海そのものに苦手意識を持つきっかけになった魔族。

 一方的に愛を囁いて――もとい、愛を叫んでくるセイレーンである。

 ……あの時は、まだ僕の中の力を自覚していない頃だった。他者の感情に過敏になった今、あの魔族と出会ったらどうなっていたか。

 三回目の海路――ホロゥへ向かう飛行でセイレーンの群れに襲撃を受けた時は、あまりの事態に対する混乱で麻痺していたのが功を奏したのだと思う。

 

 総合して、“行き”の二回の海路は今のところ決まってなにか(セイレーン)に遭遇している。

 たった二回。されど二回中二回。であれば、海難(セイレーン)にやや過剰な警戒をしてしまうのは当然のこと。

 ムルゼ霊山を目指すにおいて、また海を渡る必要がある以上、当然のようにそのトラウマ(セイレーン)は想起される。

 また遭遇するかもしれないという警戒は手元の不注意を招き、ゼクセリオンの操縦を狂わせかねない。

 

 そんな怯えを見て取ったのだろう。クイールは率先して、海上の飛行を請け負ってくれた。

 

 ゼクセリオンを動かせるのは勇者のみ。同行するイリスティーラによって、改めてそれは証明された。

 彼女は「もしかするとホープならば――」と考察していたが、それはともかくとして。

 操縦は僕とクイールの交代で、という形に決まった。

 空を渡る魔族に遭遇した際などに備え、外装を起動しておく必要もあり、長時間の飛行は消耗も激しいためだ。

 それでも、海上では途中交代なども難しい。どうしても長丁場となるというのに、引き受けてくれたクイールには感謝しかない。

 もうこれ以上、目標が無暗に遠のくような災厄(セイレーン)との遭遇は避けたいのだ。

 

『――三人とも! 緊急事態です!』

 

 しかし、陸地が見えてくる前に、あまりにも無情なクイールの声が通信用の魔道具から響いた。

 焦りを含んだ声に、気持ちが引き締まると同時、嫌な予感も大きくなる。

 一体どこまで、不幸(セイレーン)と縁があるのだろう、と。

 

「何があったんだい、クイール」

 

 閉じこもっていた個室から出てきたイリスティーラが、魔道具越しにクイールに尋ねる。

 もう片方の手には、見慣れた小さな銃砲。それを必要とする事態だというのは、察しているようだ。

 

『前方にある船が魔族に襲われてます! えっと……クラーケン、でしたっけ?』

 

 リッカと視線を交わし合う。

 どうやら絶望(セイレーン)とは違えど、危険な状況であるらしい。

 クラーケン――元々は、海を渡るにおいて僕たちが最も警戒していた魔族だ。

 土の試練に赴く際、不運にも遭遇すれば、『リヴィアフューリー』を用いた水中戦闘で立ち向かう想定だった。

 ここは人間に許された海路ではあるが、クラーケンはそれを考慮する知能を持たず、気紛れに海域を荒らしてしまう。

 船乗りからは諦めの対象とさえ見なされているという話を聞いたが、まさにそんな事態が起きているようだ。

 

『とにかく助けるので、出来れば手を貸してほしいんですけど……下、海なんですよね!』

 

 環境はクラーケンの味方。海で戦うともなれば、当然ながら不利は避けられないが――

 

「――リッカ」

「……ん」

 

 それでも、人々が魔族に襲われている現場に遭遇したならば、助けるほかない。

 助けるための力が、僕たちにはある。

 

「……これで私だけ出なくて非難されるのもな。仕方ない――飛行中だが、外には出られるのかい?」

 

 参戦を決意したイリスティーラが、管理術式を見始める。

 扉からから飛び出すしかないと思うが、操縦するクイールに負担が掛かる。

 外装を纏い、クイールに警告した上で外に出るべきか。“相乗り”は考慮されていないだろうが、外装の力があれば、無理やり戦闘を維持することも可能な筈――

 

「……む? 緊急脱出? そうか、これなら――あっ」

「え?」

「バ――やめっ」

 

 ――そんな算段を決めて、クイールに連絡しようとした時。

 イリスティーラが何か、術式を操作する。動かした機能に察しが付いたのは、既に機能を把握しているだろうリッカだけ。

 止めようとするより前に、視界が揺れて突如体が不自然なまでの落下感に見舞われる。

 

「――――!?」

「ッ、あのエルフ……っ!」

 

 ――リッカ諸共、ゼクセリオンの外に投げ出されたのである。

 当たり前に下は海。海面に叩きつけられるまで十秒と掛からない。

 魔族の手に掛かるとか、そういう話ですらない馬鹿馬鹿しい結末――ある意味魔族(イリスティーラ)の仕業ではあるが――流石にそんな躓き、あの決意の直後で認められるわけがない。

 イリスティーラへの悪態は後回しだ。今はとにかく、共に落ちるリッカとのつながりを鮮明化する――!

 

「と、トランスコード!」

 

『トランスコード! アクセプション!』

 

 魔力となったリッカに手を伸ばす。リッカにも同様の焦りがあったからか、変質と形成は早かった。

 自由落下の中で構築されていく外装。

 全身に漲る力を意識し、胸の中で輝く勇気を燃え上がらせる。

 

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

「くっ……!」

 

 翼の形で放出した魔力で、落ちる体に急ブレーキを掛ける。

 停止したのは海面すれすれ。ほんの一瞬遅れれば、魔法の発動どころではなくなっていた。

 ――あまりにも無駄な危機一髪だったが、とにかく助かり、魔法は成立された。

 多分気付いていないのだろう――クラーケンに向かって真っ直ぐ飛ぶクイールを追い掛けるように、魔力を放出する。

 

 クラーケンは一般的に、視野が狭いとされている。

 何か別のもので興味をひくことさえ出来れば、襲われたとしても逃げることは不可能ではない。

 ゆえに、あの船を救うためにまず有効なのは、クラーケンの意識を僕たちに移動させること。

 あとどれだけ、船がもつかも分からない。一秒でも早く辿り着くべく、加速する。

 

 最初に届いたのは、片手に剣を構えるクイール。

 今にも船の甲板に叩きつけられようとしていた触手を切り裂き、目前の沈没を防ぐ。

 そして僕は、小島の如きクラーケンの胴体へ。

 加速の勢いそのままに突撃し、思い切り拳を叩き込む。

 

「 ――――!? 」

 

 巻き上がった波しぶきに紛れるような、風鳴りにも似た呻き声。

 巨大で不気味な目が右往左往の果てに僕たちを捉える。

 体に走った痛みと、突然意識外から現れた何者か。二つを結び付けて、僕たちを襲撃者だと判断するのに、そう時間は掛からなかった。

 

 しかし、怒りに震えるその瞳に、まったく見当違いの方向から閃光が突き刺さる。

 細く真っ直ぐなそれは確かな威力を持っており、照射された箇所を焼き焦がした。

 

「すまなかった。まさか何のセキュリティもないとは。本気で反省している」

 

 攻撃の主は片腕から生やした一対の翼を羽ばたかせ、神妙な表情を浮かべながら近付いてきた。

 管理術式を勝手に調べて勝手に誤動作させ、僕たちを室内から投げ出したイリスティーラである。

 

「うん――本当に、二度としないで。かなり焦った」

「肝に銘じよう。好奇心は勇者をも殺す……冗談だからその敵意は仕舞ってくれ。本当にすまなかったってば」

 

 流石に非難せずにはいられない。

 クイールを想っての協力関係を否定する気はないものの、こうなっては話が別になってきてしまう。

 リッカに危険が生じた――どころか、二人まとめて海の藻屑になるかどうかの瀬戸際だったのだから。

 自分の好奇心ではなく、協力者の好奇心で死にかけたのでは悔やむ悔やまない以前の問題である。

 

「ナイスです二人とも……どうしたんですか?」

 

 ゼクセリオンに乗って近付いてくるクイールは、こちらで起きていたことを知らないようだ。

 船はどうなったかと見てみれば、思惑通りクラーケンの意識から外れたようで、少しずつ離れている。

 

「あー……なんだ。ちょっとしたすれ違いというかね。うん」

「……? 喧嘩は駄目ですよ? っ、と!」

 

 言い争いも説明も後だ。

 イリスティーラの反省はどうやら本心であるようだし、ひとまずこの場でこれ以上考えることではない。

 空中で一ヶ所に集まったことで、クラーケンは僕たち全員を敵と認めた。

 

 伸びてくる触手を躱しつつ、散開する。

 全員を追うような視野は、クラーケンにはない。

 目で追いかけている唯一の標的、僕に触手を伸ばしてくる。

 数と力による、純粋な力押し。とはいえクラーケンほどの触手の数であれば、回避は困難になる。

 

「っ……!」

 

 全てがこちらに向くなら、避けるより受け止めた方が、他の二人にとっての隙となる。

 球状に放出した魔力で炎の防壁を形成し、衝撃を堪える。

 表面が焼けていくのをものともせず、炎に絡み付いてくる無数の触手が僕を海に引きずり込もうとするが、この形態ならばある程度の力比べが利く。

 そうしている間に、触手の束を始末する――クイールならば、それも容易い。

 

『マスター・エクストリームッ!』

 

「うわっ、ちょっ、わあああああああああっ!?」

 

 触手の群れから力が抜け、それらを吹き飛ばしつつ防壁を解除。

 悲鳴が聞こえた下方に目を向ければ、ゼクセリオンで器用にも錐揉み回転飛行を披露しているクイールがいた。

 ……触手の束を一振りで断ち切る、聖剣による必殺技。

 そんなものを操縦しながら発動すれば、当然バランスは崩れるだろう。

 

「あれ、大丈夫なのかい?」

「多分……」

 

 こちらに問いつつも、イリスティーラはもう片方の目に閃光を照射することを優先している。

 あのくらいで危機に陥ることはないという、彼女なりの信頼だろうか。

 

「 ――――!? 」

 

 苦痛とも怒りとも取れる叫びをあげるクラーケン。

 ――海を渡るにおいて、あの種族を相当の強敵だと考えていたリッカ。

 しかし、もうその不安は過去のもの。あの膂力になすすべもなかった“いつか”とは違う。

 協力できる仲間がいる。そして、“守れる力”が、僕にはある。

 

「――ユーリ、思いっきりやって」

「うん――いくよ、リッカ!」

 

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 勇気を限界まで滾らせる。熱い黄金を迸らせて、イリスティーラの真横を通り過ぎる。

 中ほどから断たれた触手の再生は到底間に合わない。

 クラーケンの残る武器はその巨体だが、空から落ちてくる相手にその真髄を発揮することは出来ない。

 最後の選択肢は、逃げること。それも手遅れだ。

 

『ユーリ・エクストライク!』

 

「 ――――――――! 」

 

 足の一点に込めた威力でその巨体を突き抜けて、海面を滑るように蹴って再度飛翔する。

 この形態ならば水中での戦闘も可能だが、あえて飛び込む理由もない。

 外装がリッカそのものである以上、その冷たさを僕よりもダイレクトに感じるのはリッカなのだ。

 

 飛び上がって穴の開いた巨体を見下ろす。

 直後、必殺技の影響はクラーケンの全体にまで及び、輝きを伴う爆発を引き起こす。

 ――それは死ではなく、クラーケンだったものの肉片が飛び散ることはない。

 海における絶対的な捕食者が、“貪られる”側へと転じた証明。

 

「……」

 

 どんな相手であれ、恐怖を感じ、リッカの求めに適した、抵抗出来ない無力な虜囚へと貶めるのが、僕たちのこの力の正体。

 僕たちが前に進む力にして、リッカによる復讐という名の過去の清算。

 既に今のクラーケンもリッカにとって望ましい形に堕ちているだろう。

 

 ――リッカの気は、晴れているだろうか。

 その復讐は、その凌辱は、リッカが前に進むことを諦めるものではない。

 或いは殺すよりも非道なリッカの原動力だが、リッカにとって魔族とは、そうするしかない相手なのだ。

 それを受け入れて共に進む。僕はそう誓った。

 

 その気持ちがより苛烈になったことは、自覚している。

 

 躊躇うことはない。リッカが“害したい”と求めるなら戦う。リッカが“助けてもいい”と思うなら見逃すことを考慮する。

 復讐はもうどうでもいいと思うようになったならば、僕もそれには執着しない。

 しかし、リッカがその憎悪を貫き通す限り、僕たちの障害はこの力で打ち砕く。

 屍ではなくて、もっと別の悍ましいものを積み上げて進む、ハッピーエンドへの道。

 輝かしい道ではないことは分かっている。僕はクイールのようにはなれない。誇らしく語れるものでは、決してない。

 

 ――それでいい。

 リッカのために――これが僕の、勇気の形なのだから。




『しじま海域』
【属性】水
【攻撃力】■■■■■■
【防御力】■■■■■■■
【素早さ】■■■
【魔 力】■■■■■
【精神力】■

【種族】クラーケン種
海を行く者たちに最も恐ろしい魔族を問えば、口を揃えてクラーケンと答えるだろう。
強靭な触手を持ち、船にも勝る巨体を誇るクラーケン種は非常に攻撃的である。
特定の縄張りを持たず、人間の船が多く通る場所を理解する知能もないため、遭遇する可能性こそ低い。
しかし一度見つかってしまえば逃れるのは困難であり、これまで数えきれないほどの船がクラーケンによって沈められてきた。
人々が共有しているクラーケン種の弱点として、ひどく視野が狭く、関心を逸らすことさえ出来れば逃げることも不可能ではない。
一振りで船を粉砕するような触手を受けないようにそれをするのは無理難題であることは言うまでもないが、逃亡に成功した事例も存在する。
代表的な海魔であるだけに、人間の可能性が試されるのである。

【『しじま海域』】
クラーケンは特定の縄張りを持たず、エサや興味をひくものを求めてあちこちを泳ぎ回る。
そのため、人間に許された海路で発見報告のあるクラーケンは“移動する船の墓場”と恐れられ、個体そのものが動く海域扱いされてきた。
凄まじい筋力を持ち、人をエサとすら認識せず、ただ脅かすためだけに襲う凶暴性。
いつ遭遇するかも分からないその存在は、出会ってしまったなら不幸だったと船乗りたちからも諦めの対象となっている。

【イリスティーラの評価】
「クラーケンの因子は持ってなかったな。……まあ、いいか。大して役にも立たなさそうだ」

【とある船乗りたちの評価】
「もう駄目かと思ったんだが、その時金色と赤色の光がやってきてな。あの『しじま海域』をあっさりと倒しちまったんだ!」
「船酔いで幻覚でも見たんじゃねえの? あんた、前にも変なこと言ってたろ。ほら、『怪奇! 蠢く蜂球勇者!』みたいなの」
「どっちも本当なんだってば!」
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