凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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ミツカイ

 

 

「今のは、ミツカイ。この山の一帯に住まう種族だ」

 

 青年が去った後、指さした方向に向けて木々の間を歩きながら、イリスティーラは説明を始めた。

 

「魔族、なんですか?」

「難しいところだね。外で深く知られていたならさぞ議論の対象になっていただろうが……私はどちらかといえば、連中は人間に近いと思っている。住む場所も、信じるものも大昔から違ったから、違う在り方に落ち着いたキミらの隣人さ」

 

 そもそも、魔族という括りがだいぶ曖昧なものだと、いつかリッカから聞いたことがある。

 人間と違う、魔力を持った存在がそうだというならば、牛や豚なんかも魔力がない訳ではない。

 人間以外の何を魔族と見るか、というのも個々人によって違うらしい。

 リッカは「人間でなくて、安全に食べられなければ全部魔族」という考えだった――それほど、リッカが他者に警戒心を持っているということなのだが。

 

 そうした中で、かれらは人間ではなくとも魔族とも言い難い、僕たちの価値観では括りの難しい相手のようだ。

 ミツカイ――共通して肉の付きにくい細い体、灰色の肌や濁った金色の瞳、水気のない白い髪を持った、この山の民。

 曰く、魔王の支配の前から山の外に出ることはほぼなく、独自の文化をこの山で築いてきた種族だという。

 

「去っていく時の姿、あれはワイバーンだよね?」

「そう。それが人間とミツカイの最大の違いだ。かれらの肉体はきわめて適応力が高い。劣悪な環境でさえ生きることを苦としないし、一種くらいであれば、ああして他種の“在り方”を覚えて変質させることも出来る」

 

 ……あの姿に変わった時、感じられる魔力さえ高まっていた。

 前に出されて、本物のワイバーンだと告げられれば、疑う余地もなく信じられるだろう。

 僕たちからすれば規格外の、異常ともいえる適応力。それは、自分の形さえ飛び越えて大きな力を宿せるほどらしい。

 

「確か、他種を喰らって自分の体を適応させる、だったかな。ミツカイにとってはそれが一人前の証。当然限界があるから、二種は宿せないが、なにか一つであれば先のワイバーンをはじめとしたドラゴンなんかにもなれる。……というか、ドラゴンがベターだ。この山にはそもそもドラゴンが多いからね」

「……ドラゴンを食べてるってこと?」

「まともな個体ならあれで味は意外と悪くないぞ。血液が猛毒だったりするから勧めはしないが」

「僕たちが食べられるかを気にしたわけじゃないよ」

 

 だってドラゴンだ。たとえ絶品だと言われても手を付けようとは思えない。

 まともなドラゴンというが、性質に独自性が出やすいという種の中でイリスティーラの言う“まともなドラゴン”が一体どれだけいるというのか。

 そもそも僕が疑問視したのはそういうことではない。

 

「ミツカイがドラゴンを食糧にしているか、ということかい? 食事情は知らないが、狙い狙われの関係ではあるんじゃないかな。じゃなきゃミツカイがこんな過酷な土地で繁栄できない筈だし。まあ、そうだとしても幼体含めて全員がドラゴン化して襲ってくることはないからそこは安心したまえ。言っただろう。あれは一人前の証だ」

「――つまり」

「たった一人で格上の魔族に立ち向かい、打ち勝って、それを誇りとして身に宿す。変われるのはそんな儀式を成し遂げた者だ」

 

 ――先程の青年は、ワイバーンの姿に変わるまで、取り立てて大きな力を感じたわけではなかった。

 少なくとも、エルフであるイリスティーラとは比べるべくもない。

 そんな青年がワイバーンに変わったということは、単身でワイバーンを打倒したということ。

 リッカは疑念十割、クイールもぽかんと口を小さく開けていた。

 当たり前だが、信じがたい。“凄まじい適応力”以外にかれらに特性があれば別だが、身体能力そのものは人間とそう大差ないのだとすれば。

 

「山のあちこちにミツカイの集落は点在しているが、ドラゴンが無暗に襲撃したりはしない。何故って、“自分の何倍もの数のドラゴン”と敵対するほど知恵のないドラゴンなんて存在しないからね」

「……あー……襲い掛かる以前に、近付いた瞬間、集落のミツカイたちがドラゴンに変わって追い払おうとしてくるってことですよね」

「そういうことだ。当然、ドラゴン以外の強力な魔族を宿している可能性もある。対面しても何を宿しているかは、私にも分からない。実際に変わってもらうか、尋ねて答えてもらうかってことだね」

 

 同じ山に生きる、自分たちにとっての脅威。

 それに打ち勝ち自らの力に変えることで、他種に並び、繁栄する。

 ――もしそうなら、支配されて、儀式として抗う“真似事”を千年間続けてきた人間とは違う、強い種族だ。

 同種以外のすべてが敵も同然であり、外から来る人間を差別し自らに誇りを持つ。そんな在り方にも、納得できる。

 

「協力とかは――あまり積極的にしてもらえそうにないね」

「出来るだけ早く試練を終わらせて、早く山を出る。それが礼儀というか……誠意になるでしょうか」

「だろうね。まあ、未だにこの山で何をすべきか分からないわけだが。――距離的にはまだ先だな。もう一つ、ミツカイについて知っていることを話しておこう。先ほど私と彼の会話で、『アル』『エル』という単語が出てきたのを覚えているかい?」

「ああ……うん。あのミツカイが『エル』で、イリスティーラが『アル』、だったっけ」

 

 あの単語の意味は不明だが、立場を明確にするものではあった。

 相互の理解が成立したことで青年は途端に情報を提供してくれるようになったのだ。敵意は健在……というか、より大きくなったが。

 

「ミツカイには祝福という、その存在に根付いた概念がある。聖都や教会の祝福とは同じ単語なだけで違うものだ。私も口では説明できないが、こうしてミツカイの因子を活性化すれば、感じられるものがある」

「……ん? そもそも僕たちの言う祝福ってなんなんですか?」

「キミ、聖都で十七年生きていてそれは……まったく。大昔の魔法……に似た技術に使われた特別な魔力、という認識でいい。既に技術は失われているし、今残っているものは使い回しているだけだからね」

 

 ――そうだったのか。そういえば、よく考えたことはなかった。

 アンデッドを寄せ付けない、聖都や教会に満ちている祝福。それが、僕たちにとって無害なものだというのは分かる。

 魔王の配下が勇者に道を指し示す場所である教会だが、それ以前には当然別の用途があったのだろう。

 今あるものはその名残――それさえ、アンデッドには有害なものなのだ。

 

 感心する僕たちに、イリスティーラは呆れた視線を向ける。

 今理解すべきはそれではない、と言いたげだった。

 

「話を戻すよ。その、かれらの言う祝福。ミツカイなら誰でも持つそれの濃度や量、性質なんかで、連中の階級は九つに分かれる。殆ど暮らしに差別はなく、上位の者は当然に下位の者を守る責務があるようだし、先の彼のように、態度を正す必要もないが――上位者が上位者として出した命は絶対。ミツカイには、逆らう文化がない」

「……態度によらず、従ってしまうってこと?」

「そう――階級は下から順に、『エル』、『アル』、『パラ』、『シア』、『ヴァ』、『ドム』、『ソロ』、『ケル』、『セラ』。それぞれ名前の先頭に付ける文化がある。私の場合は『アル・イリスティーラ』って具合にね。やたら多いが、とりあえず、『アル』を持つ私は『エル』……大半のミツカイが持つ第九階級よりは上にある、と覚えてくれればいい」

「は、はぁ……ちょっと待ってください。ってことは、イリスより上の階級のミツカイが“勇者と戦え”とか命じたら……」

「安心したまえ。強制的に体が動く魔法契約ってわけでもないからね。“逆らえる”と分かっていて、“逆らう”意思があればどうとでもなるのさ。連中にはそれがないだけで」

 

 イリスティーラの内にあるミツカイの因子は、八番目の階級を持つらしい。

 階級をただ並べただけであれば、下位の存在。とはいえ、全ての階級に同じ人数がいるわけでもないようだ。

 そして、彼女の場合は上の階級の命令に従う道理はない――とりあえず、それを聞けただけでも安心だった。

 

「イリスの階級より上のミツカイは、少ないんですか?」

「ほんの一握りだとは思うよ。その分、強大ではあるだろうが。私もよく知らないが、第一階級『セラ』に至っては、ただ一人しかいない、そう聞いたね」

「……誰に?」

()()の持ち主――元・持ち主に」

 

 手をひらひらと揺らし、イリスティーラは冗談のように言った。

 彼女が繰り返す存在の改変。他種の因子を取り込んでいるということは、当然採取した対象がいるということ。

 ……クイールは、イリスティーラがそこまでして己を変える理由を、知っているのだろうか。

 

「――それから、クギミゴは……まあ、これは深く知るようなことでもないか。かれらの内での差別用語だと思えばいい。教えられることはこんなところだ。見たまえ、森を抜ける」

 

 話を打ち切り、イリスティーラは前方を指さした。

 だんだんと少なくなっていた木々の向こうに、開けた場所が見える。

 少し足を速めて森を抜ければ、突如現れるには不自然な広さの平原に辿り着いた。

 青年が言っていた場所はここだろう。目を凝らすまでもなく、真ん中にぽつんと異物が存在している。

 

「さて……一体何が出てくるやら」

「イリス、ワクワクしてません?」

「前人未踏の風の試練に興味が無いと言えば嘘になるね」

 

 怖気づく様子もなく、イリスティーラはずんずんと進んでいく。

 ……なんだろう。僕たちより遥かにやる気があるように見える。

 

「――行こう、リッカ」

「ん……気を付けて、ユーリ」

 

 いつでも魔法を発動できる態勢を整える。

 辺りにはミツカイも、ドラゴンも、その他の魔族の姿もない。静かで、安全に見える場所だ。

 まるで、ぽつんと立つ教会という異物に近付きたくない――そんな風に山の生物全体が思っているのかなどと邪推してしまう。

 

 クイールが開こうとした扉を、イリスティーラが押し退けて開く。

 もしも、開いて早々に内部の何者かが襲撃してきたら、という警戒からだろうか。

 しかし数秒待っても、攻撃どころか敵意の発露すらない。

 イリスティーラを先頭に教会に入っていけば、小さな町にあるものとそう変わりない内装が僕たちを出迎える。

 

「人形は……一体だけ?」

 

 これまでの教会と少し違うのは、内部には多数の人形が配置されているわけでも、他の魔族がいるわけでもない。

 正面に置かれた椅子に不気味に座る、古ぼけた一体だけが、この教会の担当であるらしい。

 

 ……あの人形は、ハローネの町で出会ったポルターガイストが用意しているのだったか。

 この山の、魔王の支配さえ容認しない姿勢からすれば、こうして手入れのされていない一体が置かれていることさえ、驚くべきことなのかもしれない。

 置かれて以来、整備も許されていないのだろう。

 

「……これ、勇者(ぼくたち)用の資金ですかね?」

「教会に置いてあるってことはそうなんだろう。持っていきたまえ」

 

 椅子の横に転がる袋からは、幾らかの銀貨が飛び出している。

 イリスティーラが遠慮なく袋を持ち上げると、それをトリガーにしたように人形の目が光った。

 

『――ようこそ、勇者。ムルゼ霊山の教会へ。これより、記録された音声の再生をっ』

 

 その人形は意思を持って言葉を口にすることはない。

 ただ組み込まれた術式に沿って、魔法音声を発するだけ。

 しかし音声は早々に途切れた。それほど摩耗していたのかと思ったが、そうではない。

 

「っ……ハッキング……?」

「みたいだね。どこからか無理やり人形(コイツ)に接続したようだ」

 

 魔法音声による案内など不要だと、何者かがそれを打ち切った。

 過剰な魔力を注がれたように、大きく震えた人形は、ガタガタと奇怪に揺れながら喋り始める。

 

『ム、ン……くぁぁぁ――……よもや本当に来るとはのう』

 

 ノイズが混じった、しわがれて、低く重厚な、それでいて呑気な声。

 

「……あくび?」

『不意に起こされりゃあ誰だってあくびくらいするわい。まあ許せ。なにせ千年暇しておった。どうせ此度も出番なしだと不貞寝かましてもしゃあないじゃろうが』

 

 気の抜けきった声は、これまでの“三人”とはまるで違う。ほんの少しも、圧を感じなかった。

 人形を介しているから当然なのだろうが……それでも他の三人ならば、こちらも緊張のようなものを抱くだろう。

 それさえうまく出来ないほどにリラックスした、寝起きであることを隠さない最後の一人――

 

「……えっと。あなたが、風の四天王ですか?」

 

『然り――よくぞ来たのう、二代の勇者。わしはバラルバラーズ。風の座を守る四天王じゃ』

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