凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
『カカ……いやあ、めでたい。初の客じゃ。これまでの勇者はなんとも腑抜けでのう。そんな麓の教会に辿り着ける者もおらなんだ』
随分と嬉しそうに、風の四天王――バラルバラーズは笑う。
これから試練を始めるとは思えない空気に、思わずリッカたちと顔を見合わせた。
『他の三人ばかり楽しんでおったもんだから、ここ最近は毎度文句を言っとったんじゃ。“もう三天王でいいじゃん”って』
「……まあ、こんな場所の試練、最後に回さない奇特な奴もそうそういないだろうね」
『そうなんじゃよ、分かってくれるかエルフよ。思ったんじゃが、わしなんでこんな僻地を試練の地に選んだんじゃろうな? リトラの小僧みたく、どこぞの都を選んでおくべきじゃった』
「……」
この千年間、ムルゼ霊山の風の試練に挑戦する勇者は皆無だった。
それが彼は大層不満だったらしい。
空を飛べたからそう日数もかけずに辿り着けたものの、はっきり言ってこの場所は徒歩で向かうような場所ではない。
もちろん、イリスティーラのような魔族なら話は別だが……人間である以上、その道は何倍にも険しくなるのだ。
『さて……そんな愚痴は求めておらぬのは分かっとる。用件を申せ、勇者』
「うん――試練に挑戦したい。何をすればいいのか教えて」
『うむ、うむ。その意気や良し。きっと見応えのある試練となるじゃろうて』
これが僕たちの挑む最後の試練。
どんなものが来ても突破してみせるという気概で人形に向けて宣言すれば、傍観者気取りの声が発されて、人形はまたも震えた。
『そこに勇者用の支給金を入れた袋があろう。中を漁れ。試練に使う首飾りが入っとる――つまらぬ警戒などするな。これからの試練が見ものだというのに、こんなところに罠など仕込まぬわ』
「……」
人形越しではあっても、バラルバラーズの言葉に嘘がないことは伝わってくる。
不安げなリッカに頷きを返して、イリスティーラから受け取った袋の中を覗く。
旅を万全に進めるための、ある程度の資金。それに混じって、確かに一つ、首飾りが入っていた。
金色の首飾りの先端には真円に縁取られた装飾。
円の中には何も填まっておらず、不完全な状態であることが窺えた。
「……これは?」
『この試練のために作らせた魔道具じゃ。ぬしらが力を示したならば、真円の内が満たされるようになっとる。――二人の勇者が同時に挑みに来るとは思わなんだが、まあ良い。エルフと、もう一人の女も協力者じゃな。元より人間には困難な試練、力を合わせよ。それで認めてやる』
「随分寛容じゃないか。私は一応魔族だが?」
『わしからしたら人間もエルフも変わらんわ。さて、試練の内容じゃが、ぬしらはこれより、この山を巡ることになる。ミツカイは知っておるな?』
「はい――さっき一人、会いましたけど」
『あの者たちの中には“自然”を宿した者がおる。それと同じ首飾りを持った連中じゃ』
ミツカイ――かれらもどうやら、試練に関わってくるらしい。
あまり干渉するつもりもなかったのだが、この山で試練を行う以上、そういうわけにもいかないということか。
『連中にはぬしらを討たねばならん理由があり、ぬしらを襲うじゃろう。ゆえに、迎え撃て。仕留めるなり、
「――――」
やはり、この円の中には填まるべき欠片があるらしい。
それを埋めるのに戦う必要があるのが、かれらの中でも、僕たちと戦う理由がある者たち。
どういう事情かは分からないが、それらを倒せ――少なくとも、気持ちの良いものとは感じられない。
……いや。敵意の無い者ではないだけ、“マシ”と言えるか。こちらが害される理由があるならば、僕たちも“当たり前”に戦える。
襲い掛かってくる者は即ち、ハッピーエンドを目指すうえでの邪魔者だということだから。
「……その“自然”っていうのは?」
『――地鳴り、洪水、吹雪、日照り、雷、嵐。すべてを征し、証明せよ。この山の覇者足らんと』
「つまり……最低六人のミツカイと戦えってわけだね」
ただ人型であるだけではない。
“自然”を宿すというからには、ミツカイの特性をもって――それほどの能力を持った魔族に打ち勝ち、喰らったということだろう。
いずれも、人間では立ち向かいようのない、人知を超えた自然災害。それらを宿したミツカイたちが立ちはだかる。
――オドマオズマが言っていた。風の試練では、自然もまた驚異となると。
これがその一端なのだろう。
「かれらと積極的に戦うつもりはなかったんですけどね……」
『甘いわ。この山にいる以上、どうあれあの者たちとは殺し合うことになる。その中でも選りすぐりの、ぬしらに殺意を持つ者どもじゃ。ぬしらが如何な力を持つかは知らん。じゃが、三つの試練を超えたとて侮るな。さもなくば、ぬしらはこの山で骸となり、これまでの九十八人と同じ、運命の生贄となるだろうよ。そうなりたいのか?』
「……ならないよ。襲ってくるなら、僕は戦う」
『それで良い。まずはそこから真っ直ぐ東に迎え。ぬしらが戦うべきミツカイが一人住む集落がある。そこからは――そうさな。案内を送ろう。そやつの力を借り、山を回るが良い――』
そこで、音声は途絶えた。
許容出来る魔力の限界を超えたのだろう。人形は破裂して、部品を辺りに散乱させた。
とはいえ、聞くべきことは聞けた、だろうか。
バラルバラーズの挙げた“自然”、すべてを相手取らなければならないとして、恐らく順序は決まっていない。
それでも最初だけは、手掛かりとして東にあるという集落を目指すしかないようだ。
「……そんなに気が乗りませんが。ひとまず、行ってみましょうか。その集落」
「そうだね――どのくらい進めばいいんだろう」
「距離を伝えてこないのがいやらしいな。下手すると何十キロと歩かされかねないぞ」
もうこの場所に居続けても仕方ない。
外に出て、教会以外の何もない平原を東に向けて歩き始める。
「森の中、ゼクセリオンで抜けられませんかね?」
「木々をなぎ倒して進むことでミツカイもその他の温厚な魔族もまとめて怒らせたいなら止めはしないよ」
それならばまだ、高空を飛んでそれに気付いたドラゴンやらだけを相手にした方が良い。
しかし――大抵何メートルという巨体を持つだろうドラゴンならば、近くにいれば気配も分かりそうなものだが。
平原を抜けて再び森に入っても、そうした強い気配は感じない。
もっと気になるのは、四方八方……あちこちからこちらに向けられる拒絶。
数はよく分からない。だが、全てが相容れないものだと一瞬で分かるような、濁った感情だった。
「っ」
「ユーリ……!?」
自然とそれを――周囲の一つ一つを深く理解しようとしてしまい、吐き気のような気持ちの悪さが襲い掛かる。
一つであれば、受け止められる。だが、数も判然とせず、方向もまちまちだと、どう構えればいいのか分からない。
結果としてダイレクトにぶつかってきた嫌悪感が、寒気となって体の表面を駆け巡る。
「ユーリくん!? どうしたんですかっ!?」
「……随分、敵意の感じ方が下手だね、ユーリくん。無視したまえ。理解する必要などないと、自分の中に壁を作るんだ」
「――ッ!」
その寒気から逃れるのは、思いのほか簡単だった。
わざわざ受け止めずともいい。向けられる感情の捉え方など、もっと曖昧でいい。
名前も知らない相手からの敵意を意識から外す。もっと良いものだけを受け止めたいと、強く想う。
それだけで嫌な気分は消えていった。
「……、もう、大丈夫。助かったよ、イリスティーラ」
「感受性の強さはキミの武器だろうが、相手を理解しようと思えば思うほど無防備になる。そういう時、敵意の群れってのは中々キツイ攻撃になるからね」
――多分それは、僕の勇者としての性質。
相手から一方的に向けられるものでさえ、つながりとして感じ、それが敵意であれば強く突き刺さる。
なんでもかんでも、感じていれば良いのではない。時にはこうして、あえて目を瞑り、受け流すことも必要なのか。
……もっと早くこれを出来るようになっていれば、あの
「うーん、僕はなんともないですね。辺りから幾つか、気配は感じますけど」
「本来、人間はそこまで感情に敏感じゃない。ユーリくんの才能だろうさ。キミが自己中心的な分、鈍感なのかもしれないが」
「今、ユーリくんを上げるだけで良かったですよね。僕下げる必要なかったですよね?」
なにも、そこまで多くを感じようとは思わない。
この力で受け止めるのは、それこそ――リッカと共に歩むために必要なものだけでいい。
「辺りのこの気配って……」
「ミツカイだろうね。もしかしたらもう侵入者のことが広まっているのかもしれない――私は『アル』だ! まさか『エル』が覗き見しているんじゃないだろうね!」
いつの間にかイリスティーラはミツカイの因子を元に戻していたらしい。
再度魔道具を自身に撃ち込み、手先を変質させてから大声を上げれば、たちまち周囲の気配は遠くなっていく。
変質の瞬間を見ていなかったわけでもあるまい。
それでも関係がなく、従う事しか出来ないのか。或いは、面倒ごとだと目を逸らすことを決めたのか。
「まったく……これを長く維持するのも避けたいんだが。『ケル』辺りの協力者が出てきてくれないものかな」
「望み薄じゃないかな……」
イリスティーラの言葉で気配が消えたということは、周囲にいた者たちは『エル』の位を持つミツカイだったのだろう。
より上の位を持ったミツカイが協力をしてくれれば確かに、戦意のない相手をより迅速に追い払えるかもしれない。
しかし、そうした者たちが協力してくれるかといえば、あまり想像は出来なかった。
そもそも、僕たちは試練として、ミツカイと戦わなければならないのだ。
同胞と戦うのに、手を貸してくれる者がいるとは思えない。
「イリスだけだと、こうして去ってくれるミツカイも『エル』だけですもんね」
「そして、上のミツカイが来たら戦闘のリスクが上がるという欠点もある――さて。噂をすれば、か」
一歩早く、イリスティーラは立ち止まる。
そしてその直後に、正面から何かが近付いてくるのを感じた。
大きな力ではない。だが――それは、ミツカイという種族の力を測るにおいて、一切の考察材料にはならない。
一体どんな力を持っているのかは不明。しかし、その個体が一人前である以上は、何かしらの魔族に打ち勝った存在であることは間違いない。
寧ろ、イリスティーラがいてなお、積極的に向かってくる者がいるならば、より警戒が必要になる。
上の位を持つということは、より強大な力を内に宿している可能性も高いだろうから。
四人全員、立ち止まって相手を待ち構える。
木々に囲まれた森の中だ。周囲に被害を齎さない戦い方というのは難しい。
致し方ないかと決心を固め、イリスティーラの言葉を受けても引かないそのミツカイがやってくるまでに、リッカも魔法の準備を整えた。