凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『震槌』/嚇怒の覇者

 

 

 ミツカイに共通するという、肌、髪、瞳。

 そして二メートル近い長身によって一際細長く見える四肢を持つ男性だった。

 “ナニカ”の鱗を編んだと思しき濃緑色の装束に身を包む彼から感じられる力は、やはり人間とそう変わらない。

 しかし、その内側にある、滲むような警戒心を隠した一見穏やかな瞳は、先のミツカイとは違う存在感を生んでいた。

 

「外の民。おまえたちが、運命の囚われ……勇者と呼ばれる者たちか」

「……そうだ。勇者として、この山の試練に挑みにきた」

 

 感じられる力以外の側面で、ただ者ではないと思わせる男性。

 彼が、僕たちにとって決して無視できない相手であることは明らかだった。

 その首から下げられているのは、僕たちが教会で得たものと同じ、真円の首飾り。ただし、その内側には下半分の縁に沿うように、一つの欠片が埋まっている。

 

「憐れであるとは、思っている。逃れられぬ運命に従い、確かな歩みを進めてきたのだろう。おまえと……それから、おまえ」

 

 言葉を紡ぎながら、僅かに瞳を揺らすような視線の動きで、男性は僕とクイールを交互に見た。

 

「ただならない決意、誇りある強さを、おまえたちは持っている。他の二人は事情が違うようだが」

「えっと……この二人は、僕たちの協力者です」

「些か読み取れぬほどに混沌としているが、それもまた真っ直ぐな強さ。おれは戦士であるゆえに、おまえたちの道程を心底より称えよう」

 

 鉄面皮といってもいい無表情だったが、その感心は本物だった。

 しかし、だからこそ引けない――ここより先には行かせないという、僕たちと真っ向から相対する決意がある。

 ごく僅かに友好的な彼に警戒を解けないままいれば、次に彼の瞳はイリスティーラに向いた。

 

「……魔族。おれはおまえを知らない。『アル』を喰ったのか、『アル』が喰らったのか、どちらだ」

「……残念ながら、前者だね。文句は言わせないよ。弱肉強食、だろう?」

「野に垂れた者を顧みないのは我らの教え。なるべくしてなった、ということだろう」

「話が早いね。――ああ、言っておくが、私はキミの敵だよ。何を命じようと、従う気はない」

 

 イリスティーラが持つ『アル』よりも、彼の位は上なのだろう。

 命令権はあれど、従うことはないと告げれば、彼は心外とばかりに首を振る。

 

「どうあれ、己の意思は尊重されるべしと考え、強く命じることを嫌うミツカイは多い。おまえも、我らを宿すならば覚えておくがいい」

「あぁ……それでさっきの彼は。単なる階級制度じゃないってわけだ。ならば、心置きなく敵同士、というわけかな? どうもお互いに戦う理由があるようだけど」

「然り。ゆえにおれは集落を飛び出してきた。此度の儀式に関わるのはおれの事情だ。愛すべき隣人を巻き込むことはできない」

「ッ」

 

 その警戒に、やはりじわりと、ゆったりした変化が起きた。

 静かな戦意。穏やかな闘志。

 この場で僕たちを叩き伏せるという決意の、何よりの証明――。

 

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

 一瞬、リッカと視線を交わして、その闘志に立ち向かう決意を統一させた。

 魔力となってこちらに向かってきたリッカを掴み取るように、真紅の外装を身に纏う。

 湧き上がる勇気は、炎と変わる。

 僕が何より信頼する戦装束でもって、立ち塞がるミツカイを見上げれば、彼もまた僅かに目を細め、濁った金の瞳を鈍く輝かせる。

 

「――なるほど。本性で力を隠すのは、人間もミツカイも変わらないということか」

「こっちはこっちでだいぶ特殊な例だと思うよ。……このままだと、キミは数で不利だが?」

「承知の上でここに来た。おれは個の力を誇りとし、おまえたちは手を結ぶことをよしとしただけの話。大きな違いがあるわけではない」

 

 ()対一だろうと、何もおかしいことはない。男性はそれを肯定する。

 彼が一体、何故戦うことを強いられているのかは不明だが、お互いに譲れない信念を懸けていることは同じ。

 彼を倒して先に進む。

 僕たちに出来るのはそれだけだ。

 

「それなら、遠慮なく――クイール」

「は、はいっ! ――よしっ、やれます!」

 

 魔道具を操作する。聖剣を引き抜き、柄に手を掛ける。

 僕たちに続いてイリスティーラとクイールもまた、己の戦装束を展開する。

 

『シークレットコード、レディ』

『ブレイブコード、スタンバイ!』

 

 体内に撃ち込んだ術式による、黒衣への変転。

 勇気の魔力によって組み上げた、金鎧の武装。

 

『キメラスタイル、インストール――I-スティーラー、ショー・タイム』

『マスターアップ! Q-クエスター!』

 

 それぞれの外装を纏い、三人で並び立つ。

 今の僕たちが、胸を張って試練に立ち向かうための最高戦力。

 対する男性は、今度は僅かな驚愕も表に出さない。そうなるだろうと、予期していたようだ。

 彼の体の表層を、ざわりと大きな力が波打って流れていく。それは彼が超越し、手に入れた力の発露。

 

「力ある戦士――否、おまえたちの教えに沿い、勇者と呼ぼう。おれはおまえたちの進む道の先を砕き、歩みを止める。そうしなければならない、理由がある」

 

 これまでの鉄面皮が嘘のように、大きく目が開かれ、その細い長身に変化が起きる。

 枯れたような灰色の肌はより水気を失い、硬く、固く、堅く――鉱石の如く確かで強靭なものへと組み変わっていく。

 

「おれの名はおまえたちが最後に知る名となるだろう。おまえたちに、過ぎ去った名を刻む教えがあれば、だが」

 

 鱗などの分かりやすい鎧を纏っているわけではない。

 巌の肉体そのものがあれば、安易な鎧など不要。生半な刃などものともしない鉄壁の肌。

 そして、それは内側から盛り上がるように肥大化していく。

 ただでさえ、人型を取るにしては長身だった彼の体躯が、より巨大なものへと変わっていく。

 

「おれはクーファ。山を崩さんとした嚇怒の化身と魂を結び、『ドム』の名を得た戦士」

 

 体に対してより長くなった腕。

 分厚い手が叩きつけられるように地面に落ちて、周囲を不自然なまでに大きく揺らした。

 周囲の木々に埋もれず、頭一つ飛び出すほどの巨体は、小山の如し。肥大化したその体に巻き込まれ、幾つかの木はあっさりとへし折れる。

 岩を荒々しく削ったような厳めしい顔は、この近さだと首を痛いほどに曲げなければ捉えることが出来ない。

 以前戦った、山道のオークでさえ、今の彼と比べれば小柄に見えてしまう。

 

「……トロル……?」

「にしてもデカすぎるね。こんなんに単身で勝ったって? どうなってるんだ、ミツカイってのは」

 

 その種族の正体に行き着いたリッカとイリスティーラ、どちらも目の前の光景を疑っていた。

 宿したものを表出させたことで、彼――クーファに感じられる力は、直感が警告を出すほどに強大なものになっていた。

 トロルといえば、ある程度は人間にも知られた種の巨人である。

 見た目通りの力自慢、しかし同種で生息地を同じくしてコミュニティを築く知能も持ち、自然の奥深くに住むため人間との関わりが薄い種族とされている。

 当然、人間では及びもつかない危険な魔族だが、高名な種族に名を連ねるような力を持っているわけでもない。

 ドラゴンと比べればまだ対処しやすい、二、三メートルほどの、でっぷりと太った呑気な巨人……そんな知識は今すぐ捨て去らないといけないようだ。

 目の前のトロルは七メートルを優に超え、肉体は引き締まり、魔力を滲ませた闘志を滾らせている。

 

「ドラゴンだけじゃなくて、超巨大トロルも、ですか……なんでもありですね、この山」

「だからこそ多くの種が力を競い合い、我らも死力を尽くして生き残る。――いくぞ、勇者」

 

 低く、短く、クーファが開戦を宣言する。

 そして、その彼が何をする前に、直前まで苦笑を零していたクイールが飛び出し、その腹に聖剣を突き立てていた。

 

「硬――っ!?」

「おれの初撃を恐れず飛び込んでくる者は珍しい。ならば、共に跳ぶか」

「へ?」

 

 聖剣は決して深く刺さらず、その不意打ちに巨人はたじろぐこともない。

 どころか、一見戦いに関係ないような言葉を零したと思えば、めりめりという音を立ててその膝が曲がった。

 

「ふん――っ」

「いッ……!?」

 

 クーファは力を溜めた足を使い、こちらに突っ込んでくるでもなく。

 構える僕たちを他所に、真上に向かって跳躍した。

 その巨体からは想像もできない跳躍力に呆気に取られ――ほんの数秒後の事態が脳裏に過ぎって本能が体を動かす。

 

「――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!?」

 

 想定外が過ぎるとばかりのクイールを助けに向かう余裕はなかった。

 イリスティーラと示し合わせたように跳び、炎の翼を広げて地面から離れる。

 

 ――すれ違った巨体がその直後、大地を強く震わせた。

 

「ッ――ラフィーナッ!」

 

 それで終わりではない。大地に落ちた彼は同時に魔力を放ち、周辺の破壊をより甚大なものに変えていく。

 捲り上がり、砕けた地面や木々は上空に向けて放出された魔力に乗って浮き上がる。

 砲弾の如き威力はとてもではないが、真っ向から受け止めていられない。

 かといって避けることもまた難しい。真下に向けて迎撃を試みて防ぐのが唯一の道だった。

 

『んなっ……!?』

 

『――アドラ・エクスバスター!』

 

「ぐ、ぅっ……!」

 

 伸し掛かる反動など気にしている場合ではなかった。

 魔剣を手に取り、火の魔力を込めた砲撃により真下から巻き上がってくる破壊の奔流に立ち向かい、吹き飛ばしていく。

 周囲を駆け上っていくもの、すべてを消し飛ばせるわけではない。

 それでもぶつかってくる破片を砂粒程度のものに抑え、極力、最小限の消耗で済ませるように。

 

 ――やがて衝撃が収まり、濛々と巻き上がる土煙以外に飛んでくるものはなくなる。

 防ぎ切った……のだろうか。

 周囲にはイリスティーラの姿はない。しかし彼女も、クイールも生きていて、かつ戦闘の続行も可能であることは、つながりを通して伝わってくる。

 たった一度の、真上への跳躍。それだけでここまでの破壊を齎し、僕たちが一歩間違えれば全滅していたほどの攻撃とした。

 あまりにも単純だが、だからこそ分かりやすい規格外の力。

 これがあくまでも初撃の選択肢というだけであるならば、たった一度凌いだ程度で決して気は抜け――

 

「っあぶな!?」

 

 一瞬、僕に目掛けて鋭くなった戦意を受けて、咄嗟にその場を離れた直後、土煙を切り裂いて岩塊が飛んでくる。

 投げた……のだろうか。

 すぐに勢いを無くし、再び土煙の中に落ちていく岩は、やはり無防備に受ければ致命傷となりかねないものだった。

 

『ゆ、ユーリ……? 風の試練について、リッカを通して聞いてたから準備し(スタンバっ)てたけど……一体何と戦ってるのよ……?』

「……多分……トロル」

『はあ? トロルぅ……? 油断して魔力地雷をしこたま起爆して、かつ投石機構のスイッチまでうっかり入れたとかじゃなくて……?』

 

 ラフィーナの言葉通りのことが起きれば、死んでも死にきれない失態だろう。

 彼女も半ば現実逃避しているらしい。ある意味、仕方のない惨状だ。

 まるで激戦の跡かのようなこの破壊を、開戦から一、二分後の光景だとは到底信じられない。

 

「流石だ、勇者たち。ただの一人も欠けず、生還するとは」

 

 再度魔力を放って目障りな土煙を吹き飛ばしたのは、巻き上げた張本人であるクーファ自身。

 鮮明になった破壊の跡は彼を中心に、まるで調整されていたかのように円状に広がっている。

 それより先には、被害は及んでいない。

 彼の一撃は、森の真ん中にぽっかりと開く、罅割れの戦場を形成していた。

 

「し――」

 

 次の動きにいつでも対処できるよう、巨体から距離を置いて砕けた大地に降りる。

 その時、ずっと腹部に刺さった剣を掴んだままでいたらしいクイールが、腹を蹴って勢いよく跳び、転がってきた。

 

「――死ぬかと思いましたっ……!」

『よく生きてたわね、あんた……』

「こ、この鎧、頑丈さは折り紙付きなので……、気を引き締めまくらないといけませんね。イリスは――」

「生きてるよ。いや、仮死して避けたんだが」

 

 黄金の鎧の表面、あちこちに目立った傷を作りつつも、クイールは勢いよく立ち上がる。

 そして、その傍に浮き上がるように姿を現したイリスティーラは無傷に見える。

 どうやら、ゴーストかレイスか……そういった精神体を利用して逃げ延びたようだ。

 

「あー……ここはキミたちの山の一部な筈だが。私たちが言うのもなんだが、ここまで大規模に破壊して良いのかい?」

「“生きるため”、“曲げぬため”であるならば。戦火の痕はいずれ山の息吹があるべき姿へと還す。それに甘んじることは、ミツカイに赦された正しき罪なのだ」

「……妙な文化だね、どうも」

 

 魔剣を構え直し、この山最初の強敵に、改めて向き合う。

 戦場造りの初撃は凌いだ――本当の戦いはこれからだ。

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