凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『震槌』/史上最強(Xtreme)のブレイブ

 

 

 催眠――即ち、相手の思考に働きかけ、意のままに操る能力。

 一部の魔族が持つこの力を、虹色の彼女は大変に得意としていた。

 その能力が備わったのがこの姿。思考操作の方向性をあらかじめ設定した催眠パターンを構築し、左腕の盾から出力することで簡易的に使用できる。

 それは“本職”が実行するものほど強力な暗示ではない。対象の精神力によっては、抵抗が可能なものだ。

 しかし、不完全なものでも構わない。特に、力を尽くすことで追い縋れる相手ならば。

 

「む――ッ?」

 

 元より、相手を操るつもりなどない。

 今出力したのは、彼の思考に、僅かなノイズを走らせるだけのもの。

 そういうものだと理解すれば無視できる。しかし、不意に感付いてしまえば、どんな実力者であっても補えない空白を生む。

 

「たあっ!」

「くっ……!」

 

 動きの鈍った巨体の懐に踏み込んだクイールの一閃。

 先程までよりも深く入ったその傷に飛び込んで魔剣を突き立てる。

 肉ではなく、岩に剣を刺したような強い反動、その直後、彼の傷跡に魔力が駆け巡り――周囲の肉を吹き飛ばすほどの勢いで放出した。

 

「危ない危ない……何でもありか、あの体」

 

 クーファの取り込んだトロルが特殊だったのか、そもそもクーファが魔力の扱いに長けていたのか。

 下手すれば自爆に等しい反撃だが、その技術は高度なものだ。

 それに巻き込まれなかったのは、予め離脱のためにイリスティーラが変質させた腕を伸ばしていたから。

 クイール共々細長く真っ黒な腕に引き戻され、難を逃れる。そして、再度攻撃に移る前に、更なる催眠パターンを出力する。

 

「躱したか……! ならば!」

 

 距離を置けば置いたで、クーファには攻撃手段が存在する。

 拳を地面に叩きつけるだけで巻き起こす大振動。そして、走った罅に魔力を通すことで引き起こされる大規模な爆発。

 

「よし――これなら!」

 

 立っていることもままならないほどの衝撃の中、イリスティーラは僕たちを掴んだままに、背から黒翼を伸ばして地面を蹴る。

 地面に程近い低空飛行。場所を誤れば爆発に巻き込まれ、無事では済まないだろう。

 しかしイリスティーラは外装のモノクルを模した解析装置によって、素早く安全な飛行ルートを算出して、クーファへと近付いていく。

 

 彼が把握していた、元の僕たちの速度よりも速く、速く。

 

 僕がこの形態の“正しい”使い方を躊躇するのは、リッカも分かっていたことだった。

 ゆえにリッカが導き出した、変則的な戦い方。

 何も相手の思考を操ることだけが、この形態の力ではない。

 対象を自己や味方に設定することによる、強化を目的とした催眠パターンの使用。

 外付け・使い捨ての強化魔法としてならば、僕にも扱うことができる。

 

「今です! イリス!」

「ああ、思いっきりやれ、二人ともっ」

「何ッ!?」

 

 滑るようにクーファの攻撃を掻い潜ったイリスティーラに投げられ、クイールと揃って飛び出す。

 『攻撃力強化』『攻撃力強化』『攻撃力強化』――盾を通して実行される強化は全て単発。

 構築速度を優先したリッカが素早く量産を続ける、たった一撃限りの“強くなったという錯覚”。

 その思い込みが、己の限界を騙す。今は出来ないことさえも、実現させる。

 

「ッ――――!」

「たあああああああっ!」

「う、ぉ……!」

 

 大地に押し付けられた腕を切り裂く、二本の剣。

 魔剣の初撃、聖剣の追撃により、遂にそれを根元から断つ。

 片方だけであっても、それは決定的な成果。そしてその成果を見越したイリスティーラは、既に腕の切断面に向けて魔道具を構えている。

 

『ヒュドラコード・レディ』

「――覚悟したまえ。これは効くぞ?」

 

 その因子を持つのはきわめて危険な種族。一時的に因子を引き出すことさえ、誤動作を警戒してよく調整した上で行わなければならないという。

 このカードを切ったのは、僕たち全員がこの結果を成し得ると確信できたから。

 成功報酬とばかりに放たれた小さな弾丸は巨人の傷口に吸い込まれる。

 

「――ぐぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ――――――――!」

 

 つい先程知り合ったばかりの僕たちであっても、彼がこれほど絶叫することなどなかっただろうと確信できた。

 そうせざるを得ない激痛を齎したのは、弾丸に埋め込まれた一滴。

 本来ならば、ドラゴンのような強力な種でさえ瞬く間に全身を侵し昏倒してしまうという、イリスティーラの知る限り最強の猛毒。

 彼女が言うには、ドラゴンの変異体と思しきもの“だった”らしい。あまりにも危険なため、既に討伐されたというその魔族の毒を、どうして彼女が持っているかは聞くことができなかった。

 間違いないのは、イリスティーラが用意できる手段の中でも、特に有効な切り札の一つであること。

 

「ぁ、ぐ、ぬぅぅ……ッ、なん、だ、この痛みは……!」

「死ぬ方が易い一滴、らしいよ」

 

 それでも蹲り苦しむだけで、息絶えないのは彼の底力ゆえか。

 下手すればまだ、戦うことさえ可能なほどの気力。それどころか残った片腕を杖にして、立ち上がってさえ見せた。

 

「――まだ抗うぞ、おれ、は」

「凄まじい往生際の悪さだなキミ……悪いが詰みだ。終わらせたまえ、クイール」

「はい――!」

 

 しかし、逆に言えばそうしていなければ、立つことすらままならない。

 両腕があれば、その執念でもって反撃が出来ただろうが、今の彼ではこちらの攻撃に耐えることが精一杯。

 

「これで決めますよ、聖剣ブレダリオン! 限界の向こう、究極全力で、勝利を掴みますっ!」

 

『ファイナライズ! スタンバイ!』

 

 その、彼が動けない状況で手を抜く余裕は僕たちにはない。

 彼を倒さなければ進めない。彼の信念を超えて進む。なればこそ、この場で出すべき全力で、彼を打ち倒す。

 残った強化の催眠パターンを使い切り、クイールに注ぎ込む。最後の一撃を、確実な勝利に繋げるために。

 

「いっけえええええええええ――――ッ!」

 

 聖剣が決着の命令を受けて解放した力は、クイールへと集まった。

 そしてその力の限りを込めて、クイールは聖剣をクーファに向けて投擲する。

 

「なんだと……ッ!?」

 

 これまで通りの斬撃を想定していたのだろう。

 クーファの不意を打った聖剣は彼の胸の真ん中へと突き刺さり、同時に聖剣から放たれた勇気の魔力が巨体を包み込んで拘束する。

 抵抗を封じる強力な結界。

 聖剣さえも本命に繋げる一手として、最強の一撃を叩き込むためにクイールは跳躍する。

 眩いまでに輝く黄金を纏って右足を突き出したクイール。彼女という第二の矢を、突き刺さった聖剣は強く引き寄せる。

 

 

「ひっ――――さぁつ!」

 

 

『――究極(Xtreme)・エクストリームッ――!』

 

 

 

「ぬぅぅぅぅううううああああああああああああ――――――――ッ!」

 

 聖剣を蹴り込むことでその威力を内部に集約させる、最初に説明された時には正気を疑った荒業。

 しかし確かに、その剣光を薙ぎ払うよりも、単一の相手を攻撃するのであれば効率的で、理に適っている。

 クイール曰く、新しい力を手に入れた時、聖剣の出力が増したことを感じたのと――土の試練の僕を見て、思いついたのだという彼女の新しい必殺技。

 

 視界が保護されていなければ目も開けていられないだろう、強い閃光に巨体が包まれる。

 クイールが飛び込むことで成立した威力が巻き起こした爆発で――向き合っていた敵意が消失したことを悟る。

 つまりそれは、敵意を放つ対象が消えたということで。

 その輝きの向こうへと蹴り抜けたクイールが、風の試練の最初の障害を粉砕したことの証左だった。

 

『……なに今の、馬鹿じゃないの……? 剣……? 剣の使い方って……? ――ユーリ、あんたはあんなん禁止だからね。冗談でも私を蹴り込むなんてことしたら、二度と力貸さないわよ』

「き、肝に銘じておくよ……」

 

 思わず声を出したといった様子のラフィーナの警告は本気だった。

 あんな使い方をするつもりはない。そもそもあれは、クイールの外装そのものが聖剣を主体とした魔法であるからこその運用法だ。

 僕が魔剣を使って同じことをしても、普通に振るうより高い威力は望めないだろう。

 

『まったく……勇者ってのは、どうしてこうも足癖悪いのかしら。キックを決め技に持っていないといけないルールでもあるの……?』

「そんなルール聞いたこともないけどね……キミ、ユーリくんの装備の割には随分常識的だね」

『エルフの癖によく分かってるじゃない。私がいないとこの二人はどこまでも暴走するわよ。感謝なさい』

 

 爆発を挟んで反対側にいるクイールが、再度聖剣を持って振り向いた時には、クーファの巨体は残っていなかった。

 決着を確信して、近付いてくるクイールと共に、バラルバラーズから受け取った首飾りを見れば、クーファの有していたものと同じ形の欠片が填まっている。

 これを繰り返して、真円の内側を満たすのが風の試練。

 ――僕が倒し切ることで、リッカが捕えたわけではない。間違いなく、僕たちはここで彼の命を奪ったのだろう。

 ……いや。後悔はしない。罪悪感も持たない。僕がすべきは、彼を倒した分だけ、確実に前に進むことだ。

 

「これで一人、ですか。えっと……彼は“地鳴り”ですよね?」

「多分。あとは……洪水、吹雪、日照り、雷、嵐だね」

「六分の一。残りが全て、彼より弱い魔族であることを祈ろうか。……望み薄だがね」

 

 気が重そうに溜息を吐くイリスティーラ。

 周囲を見れば、まるで爆心地の如きぐしゃぐしゃの大地の真ん中に僕たちはいた。

 残る五つも、これほどの破壊を巻き起こせる強敵なのだろうか。

 

「……ともかく、彼は教会で聞いた集落にいるというミツカイだろう。であれば、次の目的地を目指すべきだが……」

「誰か、案内を付けてくれるんですよね? その集落ってところにいるんでしょうか?」

『どうかしらね。私がその案内だったら、こんな惨状気付かないわけがないし、自分から様子を見に来るでしょうけど』

 

 どこへ向かおうにも、地図もなければ情報もない。

 手掛かりである案内人が、試練のことを通達された者であるならば、クーファが戦いに出向いたことを悟ってこちらの様子を窺っている可能性もあるが。

 

「……ん?」

 

 周囲の森のどこかから見ているのであれば、距離は離れているがどうにか意識を手繰れないかと思った矢先、木々の背丈よりも上空に何かが飛んでいるのを見つける。

 僕たちが高く飛ぶことを避けたのは、主にドラゴンとの不要な戦闘を避けるため。

 この激戦に近付いてくるようなドラゴンは稀だろうが――戦闘が終わったと判断すれば、消耗した生存者を獲物と見る個体がいてもおかしくない。

 

「どうしましたユーリく……っと、“お代わり”ですか……!」

「いや、待ってクイール。……多分、敵じゃない」

 

 近付いてくるその大きな姿は紛れもなくドラゴンだった。

 だが、こちらに対しての敵意はない。寧ろ、すぐにでも離れていきたいという怯えが見られる。

 ……ミツカイじゃない? ただ、ここに近付くことを強いられた、普通のドラゴン……?

 

「――誰か、背中にいるね」

 

 イリスティーラの言葉通り、その背には別の誰かが乗っている。

 それを運んできたのだろう。ドラゴンは僕たちの上空に辿り着くよりも前に、体を一回転させて背中の誰かを落下させると、方向を転換して飛び去っていく。

 落とされた者を受け止めに向かう必要はなかった。

 ――彼女は真っ黒な翼を広げて、落下の速度を下げつつ滑空し、僕たちの前に降りる。

 

『え、な……』

「――今の声、聞いたことある。確か、イルミナの訓練を覗きに行った時」

 

 その姿には、見覚えがあった。

 ああ――そうだ。この山に住む、ミツカイという種族。それに程近い姿を彼女は持っていた。

 

「そういえばイルミナが、“可愛い教え子がアリスアドラ様に認められた”って自慢してた。今回の『初戦試験官』、名前は――ら、ら――」

『……ラフィーナ、です』

「そう、ラフィーナ。まさか、意外。捕虜になっているなんて」

 

 出会ったのは、聖都。

 暴走したクイールを止めに入ったとき、アリスアドラが連れていた二人のサキュバスの片方だ。

 黒い翼と、細く、先が口のように開いた尾。そして上向きの短い角。

 そんな、サキュバスらしい特徴を持ちつつも、痩せこけたその体の色は、ミツカイのものだった。

 

「助けた方がイルミナは喜ぶと思うけど、今は無理。私は別の役割でここに来た。もう暫く我慢するべし」

『は、はぁ……』

「……キミが、バラルバラーズが言っていた案内人、ってヤツかい?」

「不承不承。勇者の手助けとか意味が分かんない。というか、そもそもなんでエルフが同行してるの」

「色々、やむにやまれぬ事情があってね。今はかれらのサポーターさ」

 

 僕たちに対しても、イリスティーラに対しても、露骨に嫌悪を向けるそのサキュバス。

 どうやら彼女が案内を命じられたようだが――大丈夫だろうか。

 深く観察せずとも分かるほどに、やる気が感じられない。

 

「――そのエルフと、そっちの勇者にくっついてる、勇者じゃない女は知らない。けど、勇者の二人については試練を滞りなく進められるように、“欠片”の場所まで案内しろって言われてる」

「えっと……聖都で会いましたよね? 僕が、その……」

同族(インキュバス)の醜態で掛けた迷惑の責任は取る。不要だっていうなら、帰るけど」

「それは困りますけど……サキュバス、ですよね?」

「そう。アリスアドラ様の側近、ジル。呼ぶ必要があれば、そう呼べばいい」

 

 サキュバス――ジルはそう名乗り、きわめて消極的に、協力の姿勢を見せた。




『ドム・クーファ』
【属性】土
【攻撃力】■■■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■
【素早さ】■■
【魔 力】■■■■■
【精神力】■■■■■■■

【種族】トロル種
巨人と呼ばれる種の中では、トロルは最も一般的な知名度が高い。
とはいえ、普通の人間がその姿を目にすることはほぼ無い。かれらは人里離れた山奥を棲み処とするからだ。
二、三メートルほどのでっぷりと太った体躯を持ち、十前後の群れで小規模の集落をつくって生活することが多い。
性格は比較的温厚で知能もその見た目に反して高く、たとえ人間と遭遇しても必ずしも襲い掛かってくるとは限らない。
むしろ、それ以上に縄張りに近付こうとしなければ、背中を見せて逃げても追ってこない非好戦的な種族である。
ただし敵と見なされるということは、周囲のトロルすべてと敵対するにも等しい。
小さな財産であっても、仲間内で共有し合う、社交的な種族なのだ。

【『震槌』ドム・クーファ】
ムルゼ霊山にはさまざまな魔族が生息しており、トロルもその中の一種である。
ただし、図体が大きく目立つのにも関わらずそれほど強力な種でないことから、ドラゴンなどの外敵を警戒し規模の大きい群れを成し、好戦的になっている個体が多い。
その見た目からか、ミツカイが宿す種としての人気も低いものの、かつてとある特殊個体によって一帯の生態系が揃って危機に陥ったことがあった。
力強い歩みだけで地響きを起こし、大地を殴るだけで容易く雪崩を呼び起こす、七メートル余りの巨大トロルである。
本来ならば、成人のミツカイたちが力を合わせて討つべきこの個体と、あろうことか成人の儀として戦うことを選んだ若きミツカイがクーファであった。
彼は百の槍を持って戦場に赴き、多くの偶然に助けられつつもトロルを討伐。
三日三晩かけてその心臓を抉り出し、喰らうことで大地の嚇怒を宿す戦士となったという。

【ラフィーナの評価】
「あんなのがトロルなわけないでしょ……絶対おとぎ話にあった『霜の巨人』とかの間違いだってば」

【バルハラの評価】
「あれが楽園の置き土産、ミツカイかぁ。ひどいことをするねぇ、あの子も」
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