凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「来て」
名乗って早々、そのサキュバス――ジルは翼を広げ、体を浮かせた。
そのまま背を向けて飛び去らんばかりの動きに、思わず制止を投げる。
「っと、待って! どこに向かうの?」
「説明した。残る“欠片”を持つ者の場所に行く」
問いに答えながらも、ジルの金の瞳は億劫そうに細められた。
「風の試練は首飾りの円環を埋めること。今戦いを終えたのは地鳴りの化身。残る、勇者が倒すべき“欠片”が誰で、何処にいるのか。私はそれを知らされている――これで満足?」
「……随分と“嫌々”じゃないか。四天王から命令を受けているんじゃないのかい?」
友好的な様子ではない彼女の態度は、魔族としては当たり前のもの。
寧ろ、イリスティーラや、その他の聖都のエルフたちのように、友好的な方が異質ではある。
とはいえ、案内人としては不適当だとイリスティーラが指摘すれば、ジルは僅かに眉間に皺を寄せ、より嫌悪感を露わにする。
「少なくともエルフを支援しろって命令は受けていない。しかも、聖都のエルフとか」
「なら、勇者の二人からなら、問われれば答えると?」
「仕方なく。ほんと、最悪」
そう言うとジルはまだ木々が無事である戦場の外に向けて飛んでいく。
足場の悪さから、魔法は解かずにそれに付いていく中、小さく溜息をついてイリスティーラは説明してきた。
「クイールは知っているかもしれないが。聖都のエルフとサキュバスは反りが合わなくてね。どちらかと言うと、エルフ側が一方的に警戒している風潮が強いんだが、サキュバスにもああいう手合いがいるとは」
『規律を守るお堅い性格がサキュバスに好まれる訳ないでしょ。そういう尊厳をぐずぐずに溶かしてやりたいってのは多いけど』
「だったら私は対象外である筈なんだけどね。……キミ、元はサキュバスだったのかい?」
『今もサキュバスよ。成り行きと腐れ縁で勇者の魔剣に身をやつしているだけの』
「
――ラフィーナが元々、僕たちと敵対する筈だった魔族であるということは、既にクイールやイリスティーラにも知られている。
イリスティーラは以前から僕たちの外装についてある程度の考察を立てていたらしく、答え合わせとして共闘の方針を固める際に共有した情報だ。
“勇者ユーリは、魔族の力を利用して戦う勇者である”……彼女が先だって立てていた結論は正しく的を射たものだった。
……もっとも、“それ以上”のことについては、リッカも話そうとしなかったし、イリスティーラも何か感付いている様子がありつつも追及することはなかったが。
「それで? あの案内する気があるんだかないんだか微妙なサキュバスはなんだい? あのアリスアドラの側近だとか言ってたが」
さっさと戦場を出て、無事な木の上に立ってこちらを待っているジルに目を向けつつイリスティーラはラフィーナに問う。
『……『狂虚』のジル。私たちサキュバスの中でも、指折りの“過食家”にして“雑食家”よ。私はイルミナ様……アリスアドラ様の別の側近の方としか深く関わっていなかったから、あまり詳しく知らないけど』
「そもそも……その側近って?」
『四天王にはそれに次ぐ実力を持った側近が二人ずつ付いてるわ。例外としてアリスアドラ様には四人。その内二人がジル様と、エヴァネス様――あんたたち、あの時会ったでしょ』
エヴァネス……あの過剰に煌びやかな装束に身を包み、傍にアリスアドラという主がいながら自己主張の限りを尽くさんとしていた、奇妙なサキュバスか。
風体や振る舞いは異様だったし、サキュバスであるにも関わらず虹色の彼女の催眠に引っかかったり、なんというか……愉快な存在だったが、感じる力だけは確かに脅威に思えるものだった。愉快な存在だったが。
「イルミナってのは聞いたことがあるよ。リーテ……リーテリヴィアのヤツがたまに話していた。サキュバスの中ではまともな手合いだって」
『偉大なお方よ。私がこうしてあるのもあのお方のおかげ……あのお方の、おかげ……?』
「ラフィーナちゃんがユーリくんたちに捕まった元凶ってことですか?」
『い、イルミナ様は何も悪くないわよ! とにかく! あのジル様はアリスアドラ様に選ばれた強大なサキュバスってこと!』
程度は違えど、そうした側近の面々に対し、ラフィーナは頭が上がらないらしい。
彼女はエヴァネスと比較すると、さほど強い力は感じないが、大規模になりかねなかった魔力の爆発を一息に飲み干すという、やはり特異な能力を持っていた。
そして、それ以上に――このムルゼ霊山において疑問に思わずにはいられない姿を持っている。
「彼女は、ミツカイと関わりがあるのかな」
「さて。本人から聞けばいいさ。……ずいぶん焦れているな。急ごうか」
話しながら歩いている間、木の上で待っていたジルは露骨に苛立っている。
足を速めて戦場を出れば、木から降りてきた彼女に予想通り、悪態で迎えられる。
「遅い。飛べるなら飛んで。徒歩だと今日中に終わらない」
「今日中に終わらせるつもりなんてなかったんだけど……余計な戦闘とか、消耗は避けたいんだ。歩いて移動したいんだけど、駄目かな」
「――最悪」
そう吐き捨てつつも、ジルは拒否しない。
方針自体は、僕たちの決めたものに応じてくれるらしい。
「仕方ない。なら、歩く。だけど、夜も歩きたくないとか言うなら、今から目指す場所にも今日は辿り着けないから」
言って、今度は飛ぶことなく歩いて先導を始めるジル。
彼女からも、そして周囲からもこちらを襲ってこようという意思は感じない。
そう判断してから、クイールたちと共に魔法を解き、魔剣を手放す。
「ッ……!」
「おっと――」
外装が解かれたと同時、息を詰まらせて倒れかけたクイールを、素早くイリスティーラが支えた。
「……この反動はどうにかならないものかな。全力以上を容易に出せる魔法とか、常識で考えて狂ってる」
「はは……確かに。でも、最初より慣れてますから。ちょっと休めば、また歩けます」
「慣れて良いものじゃないよ、間違いなく。まったく……」
文句を言いつつも、イリスティーラは脱力したクイールを背負う。
クイールの“全力以上”――あの姿は、当然ノーリスクで扱えるようなものではない。
自身の限界を超える力を、外装を維持している間は殆ど際限なく行使できるが、溜め込まれた反動は魔法を解除した時に襲い掛かる。
長期戦において、百パーセント以上の出力を続ける離れ業さえ可能だというものの、今のような短時間の行使でさえ、クイールは満足に歩けなくなる始末だ。
ある意味では、『マックスブレイブリー』以上に短期決戦が求められる形態。
この反動を見極める必要性にしても、他者との連携強化という能力にしても、クイールが“単独の強大な勇者”ではない在り方を求めていることの証左。
僕たちに信頼を置いてくれていること、それ自体は嬉しく思うのだが……。
「あなたたちの護衛をする気はない。そのまま何かに襲われても助けない。そのつもりでいて」
「分かってますよ。イリス、咄嗟の時はお願いします」
「まあ、何かあればね。ひとまず、深い森を行くなら警戒としてはこれで十分だろうが」
生身に戻ったイリスティーラは、クイールを背負いつつ再びミツカイのものに変化させた手首から先をぶらつかせる。
その様子を見たジルは呆れたように肩を竦めた。
「エルフのクセに存在の改変?」
「どんな種族にだって変わり者はいるのさ。キミだって、サキュバスの割には随分、“この山らしい”姿をしているようだけど?」
「――生まれだけは否定できない。それだけ」
あまり聞かれたくないことのようだ。話を打ち切り、ジルは再度歩き出す。
詮索は避けるべきか。彼女は数少ない、この試練の手掛かりだ。
余計なことを口走って無用な衝突を生んでもよくない。
「……今は、どこに向かっているの? 洪水、吹雪、日照りに……雷と、嵐。この広い山で、同じ場所にいるとは思えないけど」
問いかけてみれば、ジルは歩いたまま答えた。
「日照り。ずっと同じ場所にいるからすぐに会える。運が良ければ、雷もいる」
「運が良ければ、ですか。試練を早くこなせるチャンスではあっても、複数同時ってのは避けたいんですけどね」
クーファの強さを顧みれば、同等、ないしそれ以上の強さを持つミツカイ複数と同時に戦うというのは厳しい。
もし、そのような事態があればよほどの悪運だと考えたが、ジルは見当違いだとばかりに首を横に振った。
「そうじゃない。多少は勇者に“箔”が付くって話」
「え……?」
「どうせこの試練は突破できない。地鳴りに勝てたのは驚いたけど、後は精々洪水と吹雪まで。残りはバラルバラーズ様も、そもそも成せると思ってない」
さらりと言った彼女が、この試練を誇張している様子はなかった。
ジルは確信している。
今自分が連れて行っている、日照りのミツカイの待つ場所――ここにいる勇者たちは、行けてそこまでだと。
「日照りと雷は、バラルバラーズ様の形式上の側近。どこまであの二人に追い縋れるか――バラルバラーズ様が期待しているのは、そこだけ」
「……その勝てない相手のもとに真っ先に向かうのはどうしてだい?」
「早く終わらせたいから。あと、吹雪は行くのが面倒くさいし、洪水はどうせ指示された場所にいない」
「――なるほど。その人の場所に連れてって、あなたはお役御免と」
「そういうこと。別に、ゆっくり行きたいならそれでもいい。あなたたちの最後の旅になるんだし」
――彼女から見て、僕たちでは勝てない相手、か。
試練である以上、そうした規格外の相手と戦う覚悟はある。そもそも四天王さえ、この先で遠からず戦い、倒さなければならない相手だ。
僕たちは強くなっている。クイールも、勇気の更なる力を手に入れた。イリスティーラという強力な味方もいる。
当たり前の予想くらい、覆してみせる――そんな決意は、ジルには虚勢としか映らないか。
どんな相手が待っているかは分からないが、結果を示すだけだ。ここで旅を終えるつもりなんて毛頭ない。
「……日照りとか雷とか、僕たちが戦うのってみんなミツカイなんですよね? どんな魔族を宿しているかって、教えてもらえないですか?」
「言いたくない。ただでさえ勇者に手を貸している状況なのに」
「んー……イリスはどうです? この山来た事あるんですよね。なにか思い当たることとか」
「私は一人とどうにか親しくなっただけだからな……ただ、突破させる気が最初からないってのは、バラルバラーズなら考えられる。そういうのを好む人格だって、リーテから聞いた」
「……そもそも、種族としてはなんなんですか? 四天王バラルバラーズって」
そういえば、ここに至るまで、彼の姿を見たことはない。
ただ風の四天王という、漠然とした、それでいて確固たる地位が代名詞となっていただけだ。
エルフのリーテリヴィア。サキュバスのアリスアドラ。そして、リッチであるオドマオズマ。
残るバラルバラーズは、この山に座す最後の四天王は、一体何者なのか。
「ああ、言ってなかったか。ただ性悪な老爺だって伝えただけだったね。ドラゴンだよ、ドラゴン」
「ドラゴン……ですか」
「実際見たことはないから、あの種族が持ちがちな特異性は不明。少なくとも言葉を話す知能はあり、魔王の支配が始まるよりも二千年は昔に生まれた、ドラゴンに限らずあらゆる魔族の中でも最高齢クラスの“よぼよぼドラゴン”という噂で、それから――」
――イリスティーラの言葉を遮るように、さほど遠くない位置で甲高い咆哮が上がった。
僕たちに気付いたわけではない。咆哮に重い羽音が続き、やがて遠くなっていく。
どんなタイミングだ、とイリスティーラが苦笑した。
「――千年間でムルゼの生態系を変えた、この山すべてのドラゴンの祖、らしいよ」