凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
真円に欠片が填まった。それは、また一歩試練が進んだことを意味する。
本来ならば喜ばしいことだが、彼の行動の意味が分からない。
ミツカイの領域を必要以上に穢さない。その目的であれば、戦闘を介さないことにも納得がいくが、クーファは“戦う理由がある”と言っていた。
他のミツカイも同様だと思っていたが、彼は例外なのだろうか。
「……どういうこと?」
「俺は世間知らずだが、他者を見る目には自信がある。伊達に賢者を決め込んではいない。お前たちの旅に、“突破の方法がない障害”なんて、あるべきじゃないだろう」
未練も後悔もない。
せいせいしたとばかりに手をぶらつかせる男は、どうでもいいように言う。
意図は読めない。だが、彼の言葉には、僕たちの道程に対する本心からの敬意があった。
「突破の方法が、ない……?」
「他のミツカイどもはお前たちにとってさぞ大きな試練だろうが、突破できない訳じゃない。だが、俺を討つべき試練だと定めたならば、それは無理だ」
「……まるで自分は死なない、みたいな言い方だね?」
「虚勢だったら良かったんだけどな。まるで、じゃなくてまさに、なんだわ。アンデッドだから実質死なないとか、そういう言葉遊びでもねえぞ」
――死なない?
ミツカイがそのような性質を持っている、ということはない。
そうであればクーファとの決着は、また違う形になっていただろう。
この男独自の性質だとすれば、それは彼が宿した魔族に由来する可能性もある。
だが――いるのだろうか。死なない魔族……“死なない生命”など。
彼の言うように、元から死んでいるアンデッドであれば、死という概念が再び訪れることはない。
しかしそうでないならば、死の概念を持たない魔族を、僕は知らない。どのような生命であれ、必ず終焉は訪れる筈だ。
「何を馬鹿な……そういう祝福でも掛かっているのかい? それとも――」
「――フェニックス」
訝しむイリスティーラよりも先に、リッカが一つの名を口に出す。
男はその解答に、にやりと笑った。
「正解だ。どうやら外でも、あの生物は知られているらしい」
「……フェニックス? 私ですら文献でしか見たことがないぞ。今や実在すら疑われる種じゃないか」
「あー……なんか聞いたことが……そうだっ、昔絵本で読みました。
「えげつねえ寓話があるな、外って……」
フェニックス――そうだ。魔族についてリッカから教わっていた時、流し気味に紹介された種族だ。
どれだけ傷ついても死なず、変化もしない。生き物としての枠組みから外れた、ある種の自然現象。
戦うだけ馬鹿らしいと流していたが、少なからず、リッカが特別な意識をしていたことを覚えている。
「だがまあ、その通りだよ。俺は死なず、変われない。お前らの踏み台になってやることも、そっちの嬢ちゃんの
「っ」
後半の言葉を、男はリッカに向けて言った。
リッカの内にある魔族への憎悪を、見抜いているかのようだった。
「……つまり、他のミツカイがドラゴンやトロルを宿していたみたいに、キミはフェニックスを宿している、っていうこと?」
「――いいな、その馴れ馴れしさは久方ぶりだ。……昔から、不死の鳥が極めて珍しい種ってのは変わらない。今じゃあ“実在さえ疑われる”ってレベルなら、それと比べりゃまだ身近だったかもしれねえがな」
「よくそんなもの、宿そうなんて気になったね、キミ……」
「お前らにもないか? 若気の至り、度胸試し。軽い気持ちの選択が、一生抱える“やらかし”になるってこと」
――ミツカイは魔族を喰らうことで、その性質を己に宿すという。
宿す相手の決定、恐らくそれは、かれらにとっては一生を決めるほどの重大な選択。
……彼はその対象に、フェニックスを選んだ。
曰く、“若気の至り”によって、永遠に終わらない生に囚われたのだ。
「それで、僕たちでは勝てないから、首飾りをくれたってことですか」
「元から押し売りでしかないしな。あの女、よほどお前らにその試練を遂げられたくないらしい」
死なない――勝てない相手が、与えられた役割を放棄してくれたのは、幸運だと言って良い。
無論、打破の手段はあるかもしれない。リッカの管理する空間であれば、無力化できた可能性もある。
だがフェニックスの“変わらない性質”が、リッカが取り込むための変換にさえ作用するのであれば――或いは僕たちは詰んでいた。
こうして本人が首飾りを持つ役割を放棄すれば、倒す必要まではないようだが、恐らく彼が特別だというだけ。
初めから、突破させる気のない試練。ジルの言葉は真実らしい――――?
「……待って、さっきから“あの女”って……その首飾りをキミに渡したのは、バラルバラーズ――風の四天王じゃないの?」
「奴と俺は会ったことがない。互いに存在を知っているだけだ。あの風が山を変えてから、この場所に来るのは一人だけ。そいつが置いていった」
話から察するに、魔王の支配が始まるより前からこの山で生きるミツカイである男。
もしかすると彼は、他者と関わる自主性を捨て、ずっとこの洞穴の中にいたのだろうか。
その上で、自らこの洞穴にやってくる何者か――確かジルは、彼のもとで“雷”と会う可能性があると言っていた――のみと、関わっていたと。
「理由も用途も話さないってことは、俺が自由にしていいってことだ。そうだろう、クギミゴ」
「――勇者。終わったなら、ここに用はない。次に行くから」
「つれないものだ。しかしそちらの方が、今のミツカイが誇りを持ち続けるよりも幸福かもしれん」
無視して踵を返すジルに、男は年老いた存在感に不相応な、悪童染みた笑みを浮かべる。
そして続けた言葉は、僕たちに対しても向けられていた。
「――気を付けろよ。今の風は少し焦げ臭い」
「……?」
冗談なのか、警告なのか、言葉だけでは判然としない。
ただ、彼が“嘘”だと感じていないことは分かるが……。
「……どうする? 確かにここでの用は終わったと言えるが」
「ひとまず、洞穴の入り口まで戻りましょう。――それじゃあ、僕たちはこれで」
「――ああ。縁があれば、また。その縁は案外近い、と予想するが」
まだ試練は折り返しですらない。
この場に居続けるより、他の首飾りを集めに向かった方が良いだろう。
何となく、再会を確信している様子のある彼に背を向けて、来た道を戻っていく。
もちろん警戒はしたままで。結局、最後まで戦意も敵意も突きつけられることなく、彼の姿はすぐに見えなくなった。
「……ジルちゃん? 次はどこに?」
あと四つ――どこに誰がいるか分からない以上、ジルの案内を頼りにするしかない。
誰がどれだけの力を持っているのか、僕たちが聞かされているのは“雷”だけだ。
「馴れ馴れしく呼ばないで」
「さっきの彼と真反対ですね」
「私は魔族。元々、人間と親しくしたいとも思っていない。ミツカイやエルフの変わり者と一緒にしないで」
「おっと。思わぬ飛び火だ」
ジルは相変わらず、役割を渋々遂行するのみで、こちらに近付こうとはしない。
ここに来るまでの道中もそうだ。
夜はゼクセリオンにも寄り付かない。もちろん、中に入れることを許容は出来ないが――それ以前に彼女の拒絶は強いものだ。
「魔族のくせに、本当の意味で人間と対等でいるとか、私には理解できない」
「本当の意味で……か。聖都の実態をよく知っているみたいだ。まあ私が変わり者なことは否定しないがね。キミが今案内しているのは、変わり者集団だよ」
「まあ、自覚はしてますけど……変わり者集団って」
――僕たちも、否定は出来ないか。
数奇な運命に抗って、生にしがみ付いている人間なんて、実のところごく僅かなのだろうし。
こんな結末は認められないと、リッカが足掻き続けた果ての、ハッピーエンドに最も近付いている僕たちは、とびっきりの変わり者だ。
元々のリッカの方針とはまるで違う、他の勇者や、更に魔族とも共闘するという状況は、“今回”の旅が始まる時のリッカでは到底信じられないだろう。
……いや。正確には、“今も”か。
「……? ユーリ、なに?」
「――ううん、なんでもない」
リッカが信じているのは、“僕が信じる”クイールやイリスティーラだ。
ラフィーナやナディアのように、多少なり心を許せる者もいる。だが、それはリッカが経験していた過去に裏打ちされたもの。
そんな保障のないクイールたちは、こうして共に旅をしながらも、リッカが心から信じられる相手にはなっていない。
きっと、クイールはそれを知っている。知ったうえで、リッカと接している。
本来、それは“まとも”な関係とはいえない。それでも、こうして共にいることは、リッカの――そしてクイールの、僕に対する譲歩だろう。
出来ることならば、リッカにもクイールたちを、自分の意思で信じてもらいたいという気持ちはある。
少しでもリッカが安心できる要素が増えることは、リッカの負担を減らすことに繋がるだろうから。
そんなことを考えながら洞穴を歩き、入り口の明かりが見えてきた頃合い。
――――――――――――――――!
外から聞こえてきた轟音と共に、大地が揺れた。
「……今のは?」
「外から、ですね。周りのせいで、何が起きたかはよく分からないですけど」
岩肌にこびり付いた魔力は感覚を鈍らせ、外からの魔力をはっきりと伝えさせない。
しかし、轟音と振動は同時だった。その強さからして、相当に近い。
この洞穴が崩落する危険はないようだが――備えておいた方が良さそうだ。
「……慎重に行くよ。三人とも、戦闘に移る用意はしておきたまえ」
イリスティーラが言うまでもなく、リッカは魔法の準備を整える。
そうして、洞穴の外に出てみれば――
「――これって」
入った時と変わらない、殺風景な岩場。
しかし、少なくとも、焼け焦げた巨大な塊が傍に転がっているようなことはなかった筈だ。
全身を炎で焼かれたかのように不快な臭いを漂わせるその巨体が、先程の振動を伴った何かで出来上がったことは想像に難くない。
翼が小さく見える、丸々とした十メートルほどのドラゴン――その亡骸であった。
「何とまあ。ドラゴンの丸焼きとは、そうそう目に出来るものじゃないね」
耐久力に優れ、内部に衝撃を通すことすら難しいドラゴンの鱗は、特に火や高熱に対して高い効果を発揮する個体が多いという。
そんなドラゴンの全身を焼くなど、たとえ死んだ個体をそうすることさえ困難だろう。
周囲には、巨体を焼いた名残の火は存在しない。
草木の少ない岩場だ。そもそも、獣を焼けるほどの火さえ起きないだろう。
では、このドラゴンを、何が焼いたのか。そして、誰がその手段を行使したのか。
状況からして、考えられるのはただ一人。
――巨体を踏みしめて立つ、ミツカイだ。
「――かれらが同じ山の民であることを、否定はしない。受け入れるべき風であると、
色彩豊かな鱗を無数に縫い付けた上掛けを羽織った女性。
その首に掛かった円環は、僕たちが必要としているものだ。
――今度も穏便にと、そう上手くはいかないことなど一目で分かる。
鈴のような声には、怒りがあった。足下のドラゴンに対しても、僕たちに対しても。
「そして、それはお前たちも同じこと。誰の許しを得て岩室に踏み入ったの? 愚かしきクギミゴ、そして穢れに満ちた外の民――私はお前たちに、そこへと入る許しを与えたかしら」
「……いえ、僕らの独断ですけど。ミツカイの決まりには疎くて。やることを終えたらすぐに出ていくつもりですが」
この場にいる、僕たち一人残らず、彼女の敵意と殺意の対象だ。
やや声色を低くしたクイールには緊張がある。
ミツカイに共通するように、その姿から感じられる力は驚くほどのものではない。
だが、首飾りを持つことと――この場に現れたという状況からして、僕たちが最大級の警戒をすべき相手であることは明らかだった。
「聞くには及ばない。どうせコレでしょう。我らをも巻き込んだ、低俗な儀式。百を積み重ねて、外の民はようやくこの山へと至った」
摘まみ上げられた首飾りには、“日輪”の欠片を囲むようにまた別の欠片が填まっている。
試練については知っているようだ。だが――クーファのような理解は、彼女にはない。
「余程、外の民が軟弱なのか、それともお前たちが特別なのか……今となってはどうでもいい。お前たちの同族は失敗を重ね過ぎ、我らの山を変え過ぎた。……だが」
首飾りを離し、右腕を真横に伸ばすミツカイ。
何気ない動作ではあった。だが、言葉を紡ぐ間に膨れ上がっていった殺意は、その腕が伸びきった時、ピークに達した。
「此度、お前たちが辿り着いたことは僥倖だ――死ね」
「ッ!」
『ユニゾンリンク! U-リッカ!』
その殺意に合わせてリッカの魔法を起動し、外装を纏いつつ前に出た。
伸びた腕の先に一瞬、緑とも黄色ともつかない輝きが灯る。
何をしてくるか不明ながら、迎撃のために手に取った魔剣を突き出して――岩壁か何かを叩いたような衝撃が跳ね返ってくる。
受け止めた何かが、周囲へと散って好き放題に駆けていく。
生身で直撃を許していれば決して無事では済まなかっただろうその攻撃は、今までに相対したことのない性質のもの。
――