凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
背から伸ばした翼を震わせつつ、ミツカイは肩に走った傷口を手で抑えていた。
直撃ではない。しかし、あの僅かな傷から確かに“酔い”は回っただろう。
あの短い時間で調合できる、最も有効だろう魔法薬。
飛行するにも、雷を操るのにも利用している魔力の扱いを狂わせるそれは、“変質しやすい”ミツカイの体によく効く。
想定されている効果時間よりも、適応するまでの時間は短いだろうが、十分に戦況を変化せしめる薬だ。
「毒……姑息な手段だこと。敗者が至るべき糧という末路を否定するこれを、我らミツカイは好まないわ。だが……ただ排除すべき外敵に対する有効性、それを選ぶ冷酷さは、評価せざるを得ない」
先へ進むためだ。これほどの強者相手ならば、手段に躊躇している余裕はない。
どれほど否定されようとも、この試練を突破するべく、彼女を僕たちの位置にまで落とす必要がある。
そんな手段に対して、気に入らないながらも、彼女が理解を示したのは意外だった。
「これでムルゼに踏み込んだことにさしたる理由がなければ、恩赦に値したというのに。……勇者とはお前たちのうち、不自然を宿した二人のことね。その穢れは――この山で祓われなければならないのよ」
「ッ!」
――真後ろからの強烈な殺気に、咄嗟に振り返る。
それまで戦っていたミツカイは、周囲に対する注意を無意識に割いてでも全力を尽くさなければならない存在だった。
だとしても、これだけ遮蔽物の少ない岩場で、三メートルを超えるだろうドラゴンの接近に気付けないなど、本来ならばあり得ない。
困惑の間に牙の並ぶ大口は目の前に迫っていて、魔剣を持たない右腕の装備で受け止めるしかなかった。
「――――ッ」
「ぐっ、ぅ……!?」
「は……? 気配なんてなかったぞ……!」
薬液の射出装置に突き立てられた牙はいとも容易くその耐久性を貫通し、その内側に食い込みかける。
幸い、その大口が完全に閉じられ、腕が体から離れるような事態はなかった。
調合が不完全、だからこそ“限度”の考えられていない薬液の素が飛散し、ドラゴンの口内を焼いたのである。
「ユーリくん!」
思わず口を再度開いて金切声を上げるドラゴンを、迫ってきたクイールが力の限り蹴り飛ばす。
「つ、――、リッ、カ……!」
「大丈夫……っ、それより、ユーリが……!」
外装に変換されている内は、そのダメージがリッカの体に反映されることはない――そう聞いたが、相応の衝撃をリッカが受け止めている事実は変わらない。
リッカの意識は健在だった。まだリッカは戦闘続行可能であるらしい。
しかし、いくつもの刃を同時に突き刺さったような鮮烈な刺激は、被害が
痛い――いや、大丈夫。
そこまで傷は深くない。耐えられないほどの、痛みじゃない。
「っ……」
『よりによって利き腕――リッカ、あんたその状態でも魔法使えるの? それなら回復を急ぎなさい!』
形態を総合力に優れた『ユーリフューリー』へと切り替え、魔剣を両手で構え直す。
このくらいの傷、全然問題ない……そう強がりたいが、力を込めようとすれば何倍も強く痛んで、集中を散らす。
外装に備えられた治癒能力が働き始めた。リッカが外装を維持しつつも、追加で回復魔法をかけてくれる。
少なくとも血が足りなくなって倒れるとか、そういう結末は、これでなくなった。
だが――この状況は。
「いつの間に、こんな……」
今襲ってきた個体だけではない。
大小も、鱗の色も、翼の有無もさまざまなドラゴンたちが、僕たちやミツカイを囲むように、いつの間にか現れていた。
ミツカイかとも思ったが、違う。そこまではっきりとした意思は見られず、獣型の魔族に近いそれらは全て、純粋なドラゴンだ。
その確信を保障するかのように、ミツカイは不快げに舌打ちした。
「……ふざけたことを。あの老害は、知能の無い
「……どうやらかれら、キミの指揮下ではないようだね?」
「指揮? 理解する頭のない低級トカゲを? 時間と資源の無駄にも程があるわ」
ミツカイは手のひらに乗ったハオカーを握り潰し、そこから周囲のハオカーに炸裂を連鎖させていく。
それが彼女の“外付けの魔力”になることを理解していないのか、無防備に見えたのだろうドラゴンが背後から飛び掛かる。
どうなるかなど、見るまでもなく分かる。牙が、爪がその細い体に届く前に、ドラゴンは雷に包まれ、鱗の内部までを焼かれて再び地に落ちた。
「このトカゲたちはこの場の誰を特別に狙おうともしていない。悉くエサに映るらしいわね。本当……なんでこんな種族が」
調子を取り戻そうとするミツカイに集中する訳にもいかない。
ドラゴンという種は、どれだけ低級であっても侮れない。それが周囲を取り囲んで、こちらを獲物と見ているならば、対処の必要がある。
「クイールっ!」
「はい、一掃します!」
ミツカイが“低級トカゲ”と称する程度には、実力の低い個体たち。
それは、ミツカイの不意打ちがないことを前提とすれば、怖い存在ではなかった。
僕たちとて、この山まで辿り着けるほどには成長している。聖剣の輝きが一体を呑み込み、炎を伴った蹴りで一体を打ち砕く。
イリスティーラは吹き付けられた熱線に対し、それを上回る出力をぶつけ、一体の喉を焼き切った。
「っ、ちょっと」
そして――この場の誰もがエサに映るという、ミツカイの言葉は真実らしい。
たとえばこのドラゴンたちが、ミツカイとは関係なく、四天王バラルバラーズの差し金によって現れたのだとすれば、この場でただ一人、襲われる理由のない者がいる。
案内者であるジル――彼女にさえ襲い掛かる
「なんで私まで――っ」
大きな頭部を持ったその個体から吐き出された火球を、ジルは困惑しつつも口を開いて、“独自の手段”でやり過ごした。
やったことと言えば、開いた口で軽く息を吸っただけ。
それだけでたちまち火球は勢いを失ってただの“火の群れ”となり、その口へと吸い込まれていった。
初めて会った時に見せた大規模な魔力の吸収、あれと類似の手段だろう。
しかし、出来たのはそれだけ。一つ震えたジルは膝を突き、火球が効かないと見るやドラゴンは大口を開けて迫っていく。
「――――」
「ユーリ……っ!?」
――そのドラゴンをどうこうしようとした訳ではない。必要がないと思った。
今のジルに迫る危機と一見関係のない、ジルとミツカイの直線状。
そこに立ち、魔剣に込めた魔力で、駆け抜けてくる雷の砲撃を受け止める。
「っ、は?」
『ユーリ、あんた――!?』
「――――ッ!」
わざわざ、そうする義理はない。そもそもジルは魔族だし、協力的な訳でもないから。
――今はジルだけが手がかりなのだ。彼女がいなくては、残るミツカイの居場所も分からない。
そんな打算という名の言い訳で、咄嗟の行動の理由を繕った。
雷の威力を殺し切る前に弾き飛ばされそうになり、痺れたような感覚に陥る右腕に鞭を打って力いっぱいに振り抜く。
ギリギリ、その一撃を逸らすことには成功して、雷はジルに迫っていたドラゴンだけを呑み込んだ。
「……読心でも出来るのかしら。邪魔なんだけど」
「彼女の案内が必要なんだ。僕たちはまだ、こんなところで止まるつもりはないから」
「案内、ね……クギミゴが戻ってきて、何故この山は存在を許しているかと思えば。ちっぽけであっても、無意味に等しくとも、役割を負って踏み入ったならば、我らの主が慈悲を与えるのも一応の納得はできる」
ミツカイは自分の体の調子を確かめるように手を軽く振る。
背の翼は再度広げられ、走る雷は先程までと遜色ない。
既に魔法薬の効果に適応したらしい。魔力の操作に苦慮していることもなく、寧ろ好調だと言い張るかのように、体に更なる変化を発生させた。
両腕を、二対目の翼に。そして、背から更に二対の翼を。
――合計四対の翼を伸ばすその姿は、魔族に抱く印象とは真逆の、荘厳な輝きを放つ。
「だがクギミゴ。尊き肉体を穢し、我欲に溺れ、免責の儀さえ逃れた我らの恥。お前の生存を、この私は――主の秩序を預かる
雷が一つ、天から落ちた。
いつの間にか真上に広がっていた黒雲からの落雷は僕たちが何をする前にミツカイを捉え、それを天高く攫っていく。
「上か……!」
その黒雲を見上げて、自身の目を疑う。
まるで雪のように空気中に舞う、無数の発光体。
ミツカイが放つ雷が弾けることで現れるハオカー――それが僕たちと黒雲との間を埋め尽くさんばかりに集まっていた。
かれらはミツカイが雷を操るための、外付けの魔力として利用されていた。
それが、黒雲と僕たちの間にここまで集まっている意味を、向けられる殺意をもって理解する。
『まさか――』
「ッ、来る! みんな、迎撃を……!」
『ファイナライズ! アクセプション!』
――方針を統一させている暇も、指示を言い切る余裕もなかった。
誰を狙っているのか、強いていうならばジルなのだろうが……ここまで露骨に力を高めている以上、そもそも誰を狙う必要もないのだろう。
立ち向かうように跳び上がる。一際強く輝く黒雲の中心目掛けて、体を反転させ、僕に引き出せる最大の威力でもって迎撃する。
『ユーリ・エクストライクッ!』
「――――――――」
引き出せる限りの魔力の推進で黒雲に突っ込む前に、視界が白で染まった。
たちまち音も聞こえなくなって、ただ自分が、ハオカーたちを巻き込みながら落ちてきた
他のハオカーたちを連鎖して周囲へと放たれているだろう余波の影響は、はっきりと分からない。
ただ、クイールとイリスティーラならば、防いでくれるだろうと信頼するのみ。
あとは僕が、最大の被害を齎すだろう本体さえ押し切ってしまうだけ……!
「――外の民と蹴りを競うとはな……笑止」
「……!」
カギ爪を剥き出しにした大きな足が、雷の向こうに見えた。
ミツカイもまた、自身の切り札として定めた
ただ、妙な偶然に気を抜いている場合ではない。リッカが魔力を惜しんでいないために、どうにか拮抗は出来ている。
それでも、ほんの数秒で余力が尽きかけ、息が詰まるほどに、追い込まれていた。
「――、は――」
「限界か、外の民。お前の使命など、所詮はその程度。我らの秩序をこれ以上変えるほどの重みは、お前にはない――!」
靄の掛かりそうになった意識に喝を入れる。
気を失ってしまっては、それこそ終わりだ。立ち向かえているのであれば、こちらが勝るまでこの拮抗を保ち続けていればいい。
時折纏う炎を突き破り、外装を叩いていく雷が、一切の容赦なく意識を刈り取りに掛かる。
――僕以上に、その衝撃をダイレクトに感じているのはリッカだ。
リッカに守られて、今の状況を作っている僕が、リッカを守り切る前に音を上げてなるものか……!
「ユ――――」
「リッカ……!?」
――“二人で一人”を実現させていたリッカの意識が途切れたのは、その時だった。
あちこちに罅の入った外装は、リッカの限界の証明。
解れて、元の体を取り戻し、無防備に離れていこうとするリッカの腕を取れないと分かってしまってからの行動は、殆ど無意識だった。
『――トランスコード――アッシュリンク――』
四方八方から迫る雷が僕たちを呑み込む前に、黒灰が周囲へと撒き散らされる。
灰の外装が形成を完了するのを待たずに、狙いを定める。
“鍔迫り合い”に押し勝ったという確信を抱くミツカイ――油断から発生した雷の間隙へ向けて、足を振るう。
『――ファイナライズ――』
リッカには手が届かない。ならばこの状態からリッカを守るには、今すぐにこの雷を散らすほかない。
この決定的な不意を打って、眼前の危機を脱する。今取れる選択肢は、たった一つだけ。
「っぁあああ――ッ!」
『――アッシュ・エクストライク――』
「なっ……!?」
叩き込んだ蹴りが爆風を呼び、より多量の黒灰を撒き散らす。
それが僅かでも雷の進行を遅らせて、リッカを守ることに繋がっていく。
蹴りの直撃した、黒曜石のようにきらめく爪に罅が入り、操っていた雷の威力の向きがばらけたことを感じ取る。
バランスを崩し、最早必殺の一撃とは言えなくなった轟雷は放り出されるリッカから逸れた。
「外の民、お前……ッ!」
「く……――」
あわよくば更に一撃と、魔剣に魔力を込めようとして、覆いかぶさってきた雷の翼に遮られ、体が言うことを聞かなくなった。
姿勢を崩したことで勢いを制御しきれなくなったミツカイの失墜に巻き込まれたと悟り、抜け出そうとしている間に、地面はすぐそこにまで迫る。
『ユーリ! 着地!』
「わかっ……!?」
ひとまず着地を優先すべきだと、体勢を安定させようとして――落ちるその先に棒立ちになっていたジルと目があった。
――何故巻き込まれなければならないのか――何故こいつらは“まとも”に抗えているのか――早く終わると思ったのに――
そんな無気力な困惑と苛立ちが、不思議なほどはっきり伝わってきた。
「――――」
視線を交わし合ったのは、一秒にも満たない時間。
それでも、あらゆる対応を手遅れにさせるには十分な思考の停止だった。
「っ」
衝撃から一歩遅れて、全身に痛みが走る。
すぐ傍でラフィーナが何かを言っていて、纏っていた灰の外装に罅が入る音が聞こえて。
――意識を保っていられたのは、そこまでだった。
【アッシュフューリー】
ユーリが望めばユーリ単独の形態として利用可能。
リッカ気絶による変身解除→アッシュフューリーに切り替え→再反撃とちょっとおかしいムーブかましたユーリだったが、押し切ることができなかった。
【ジル】
風の試練の案内者たるサキュバス。アリスアドラに仕える四人の側近の一人。
戦闘能力は魔王軍上層部の中では下位で、人間に対する強い差別意識を持つ魔族らしい魔族。