凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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冬の牢獄(前編)

 

 

 ――て――だ――

 

 

 ――は――ない――――

 

 

 

 

「……っ」

 

 あまり聞きなれたものではない叫びが、断続的に聞こえていた。

 まだ、目を開くには尚早だと、体が訴えている。

 それでも、そのたった一人による騒がしさは、眠るのに適していなさすぎる。

 

 そんな、呑気な思考は、一度意識が飛ぶその直前までの危機的状況を思い出すことで切り替わる。

 眠っている場合ではない。目を開けて、立って、構えなければ。まだあのミツカイは倒れていないのだから。

 

「――――?」

 

 重い目蓋を開けば、そこにあったのは殺風景な岩肌が広がる山道ではなかった。

 ……どこだろう、ここは。

 記憶にはない景色だ。ムルゼ霊山のどこかという確証もない。

 

 ――氷の牢獄。

 

 高い高い天井から地面まで伸びる細い氷柱が連なって、僕を囲んでいる。

 そう認識したと同時にようやく自覚する、異様な寒さ。

 騒がしさを無視して眠り続けていればただでは済まなかっただろう、経験したことのない冷たさが体中に突き刺さる。

 横になっていたことで、地面からの冷たさが直に伝わってくる。このままではあっという間に体温を持っていかれてしまうと、慌てて起き上がろうとして――

 

「ッ!?」

 

 一瞬、冷たさと錯覚するような、沁みるような痛みが右腕に走った。

 そうだ――先程の戦闘で、少し負荷を掛け過ぎていたのだったか。

 あまり満足には使えないと判断し、庇いつつも立ち上がる。

 この横に長い氷の牢の中には、リッカはいない。というかそもそも、リッカも、クイールも、イリスティーラも、周囲から存在を感じ取ることが出来なかった。

 どういう訳か、僕一人だけここに囚われたのか。いや、違う。

 

『……起きたわね。腕は当然として、体に他の異常は?』

「ラフィーナ……」

 

 同じ牢の中に転がされた、ラフィーナが使用を補佐してくれている魔剣。

 ひとまず、たった一人でこの場にいる訳ではないと安堵する。

 

「とりあえず……寒い以外に、問題はないと思う。……ねえ、ここは? それに、リッカたちは……」

『私も状況を把握できてはいないわ。分かっていることは、まずリッカたちはここにはいない。憶測だけど、ここへの転移に、私たちは巻き込まれただけ。転移を実行したのは……ほら、向こうにいるわ』

 

 ラフィーナの案内に目を向ける。同じ牢の中、僕たちが転がされていたところから少し離れた場所。

 ガシャン、と氷を叩き、震える声で叫ぶ者がいた。

 

「早く――ここから出して! もう牢の中なんて嫌、私は――私はネリネの被験体(モルモット)じゃないっ!」

「……ジル?」

 

 その細い腕で氷柱を壊さんとするサキュバスは、それまでの無気力な印象とは正反対の必死さに満ちていた。

 冷静ではないことは一目で分かる。

 まるでトラウマを引っ張り出されたように狂乱している彼女は叫び、殴り、氷柱に噛みつき、どうにか脱出しようとしている。

 

『ネリネ様なんてここにはいないってのに……あの方がさっきの戦いの最中に、転移の魔道具を使用したのよ。逃げようとしたんでしょうね』

 

 ラフィーナの声には呆れと失望が含まれていた。

 任を放棄しようとしたというのが真実であれば、到底ラフィーナに容認できるものではなかったのだろう。

 

『それが発動する寸前、あんたが飛び込んできた。それで術式が壊れたのか、そもそもこの山で転移なんて出来ないのか……どっちにせよ、ジル様の想定していない場所に、私たちごと飛んだってことよ』

「……リッカは……皆は元の場所ってこと?」

『そうでしょうね。……リッカ(アイツ)との接続は切れているわ。今の私は、意識だけ魔剣(こっち)に閉じ込められている状態。魔力も供給されていないし、正直ほぼ役立たずよ』

 

 ――離れたとしても、見えない、細いつながりは存在する。

 誰一人、大事には至っていないという何よりの根拠だ。

 しかしそれは僅かに僕を安心させはしても、状況の好転には繋がらない。

 リッカと、二人で一人の勇者である僕は――この状態では、碌に戦うことができない。

 

「……」

 

 まるでこちらに気付いていない様子で叫ぶジルをひとまず放置して、懐を漁る。

 確か……ゼクセリオンはクイールが持っていたと思う。

 彼女たちが行動する上で、あれがあると無いとでは方針も大きく変わるだろう。ここがどこなのか分からず、出られる確証もない以上、移動手段は向こうにあった方が良い。

 僕の方に残っていたのは、二つの魔道具。

 即ち――アッシュとヨハンナ。

 手に取れば、アッシュは自律し、三つの首を曲げてこちらを見上げてくる。

 そしてヨハンナもまた翼を広げ、手のひらの上で浮遊を始めた。

 

『――滅ばぬ先の聖女。この事態を予期していた訳ではないが、当機は健在である』

『聞いたことないんだけど、その言葉』

『当機にあれこれと最新技術を組み込んだ同胞たちのスローガンにつき、残っていないのも無理はない』

 

 彼女特有の、緊張を感じさせない無機質な声色だった。

 どうでもいいネシュアの標語を知りながら、できることを考える。

 アッシュが残っていたのは幸運だ。灰の外装によって、最低限の戦闘――魔剣を振って抵抗することくらいは出来るということだから。

 アッシュの力を借りつつ、ここを脱出してリッカたちと合流する。そういう方針で状況を打開したい。

 

 ……そう動くとして、問題は多いが。

 リッカの補助がない状態で、僕はどれほど戦えるのか。

 そもそもここはどこなのか。どこへ行けば、リッカたちと合流できるのか。

 力の入らない利き腕と、この寒さという、未知の脅威。

 ジルをどうするべきかという課題。そして何より――リッカは大丈夫だろうかという不安と焦り。

 

「……」

 

 いや、それはリッカの方が、と押し付けているだけ。

 どこにいるかと分かるならば、すぐにでも飛び出したい。

 ――リッカが僕を拠り所にしてくれているように。

 僕が勇者たらんという動機はリッカにあって、当たり前のように僕はリッカに依存しているのだから。

 

「……ヨハンナ。キミにも、リッカたちの居場所は分からない?」

『肯定。だが、ここがどこなのかという位置情報があれば、元の場所への帰還は支援可能』

 

 やはり、真っ先に解決しなければならないのは、この場所に対する疑問。

 気を抜いていれば、体の末端から自分のものでなくなっていくかのような寒さの中で、あまり無為に使っていられる時間はない。

 

「くっ……ぅ……」

 

 地面に転がる魔剣を持ち上げようとして、厳しいと悟る。

 生身におけるこの剣の扱いは、初めて手に取った時からそう進歩していない。

 振るうなんて到底不可能。持ち上げて、構えてみるくらいが関の山。利き腕を痛めていれば、それさえ満足に出来ない始末。

 どうにか引き摺りながら、ジルに近付いていく。

 

「ネリネ、見ているんでしょう! ミツカイの被験体が欲しいなら、好きなだけ攫ってくればいい! 私はアリスアドラ様に尽くすと決めたっ、もうネリネに使い潰されるほど無価値じゃない――」

 

 ガリガリと、地面を削って魔剣を引っ張っていれば、どれだけ必死でもこちらに気付く。

 振り向いたジルの敵意の籠った視線が突き刺さる。

 

「勇者――」

「転移をしようとしたって聞いた。なんのため?」

 

 問いを投げれば、ジルは苛立ちを隠さず眉根を寄せた。

 協力を受けるべき案内者たる彼女との不和は避けたかった。

 だが、その転移を実行しようとした意図によっては、協力以前に彼女への信頼が揺らぐことになる。

 

「――――別に」

「理由を聞く権利が僕にはある。それに巻き込まれて、あそこから飛ばされたんだから」

「勝手に付いてきただけ。あなたが突っ込んでこなければ、こんなところに来なくて済んだっ」

「……っ」

 

 向けてきた視線を再度逸らし、忌々しいとばかりにジルは氷柱を殴る。

 ……取り付く島もない。明確に感じ取れるのは、こちらに対する嫌悪のみだった。

 そんな感情のみをぶつけられれば、僕自身も面白くは思えない。

 たとえ今の僕に戦う力が大してなかろうと――どう打開すべきかも分からない、リッカたちと逸れたという緊急の事態を引き起こした張本人に対して、下手には出られなかった。

 

『ユーリ、あんた……ジル様――今回の、勇者の案内者という任、アリスアドラ様から賜った命令ではないのですか?』

「――そんな訳がない。勇者の傀儡に成り下がったとはいえ、あなたもアリスアドラ様から命を受けたなら分かるでしょ。あの方は、相手が望んでいないことを望まない。これは単なるバラルバラーズ様の強要」

 

 魔剣を睨みつけつつも、ジルはラフィーナの問いに答える。

 この山に来ることを、心底から望んでいなかったのだとすれば、アリスアドラはジルにそれを命じない。

 にも関わらず、ジルは案内の任を背負った。側近という重役とはいえ、他の四天王とも関わらざるを得ないということだろう。

 

「バラルバラーズ様は山を出ないし、山の外に顔の通る側近も置いていない。“雷”と“日照り”が側近扱いなのも、形式上の話でしかない。雑事は他の四天王から配下を借りることを許されている。よりによって、なんでこんな山の案内なんて――」

 

 そもそも、日輪のミツカイ――彼はバラルバラーズと会ったことさえないと言っていた。

 同じ山に生きながら、ミツカイたちとドラゴンがさほど友好的な関係ではないことは、雷のミツカイの態度からして明らかだ。

 試練についてさえよく思っていなかった。かれらは真実、バラルバラーズに付き合わされているだけ。

 そして、このジルもまた、そうやって迷惑を被った一人ということ、なのだろうが――。

 

「――これも全部、勇者のせい。あなたがどこかで倒れてさえいれば、こうはならなかった」

 

 殺意さえ籠ったその視線を向けるサキュバスに、同情することは出来なかった。

 

『……ジル様。それは失言です』

「魔王軍の誰が聞いている訳でもない。そもそも、勇者の使命とか下らない。行き止まりを目指す旅の、何が面白いの」

 

 勇者の使命というものは、選ばれた哀れな人間の足掻きを楽しむ催しである。

 そう認識する魔族は多いという。魔王と出会い、それが本来の目的ではないことは分かったが、大半の魔族は同じように考えているだろう。

 最たる例が、試練を完全に娯楽として消費していたオドマオズマだ。

 しかし、ジルはそうではない。この試練という儀式に、理解さえ持っていない。

 

「ほんと、最悪。この山にさえ辿り着かなければ良かったのに。人間のクセに増長して、力を得た気になって、魔族に抗って――ッ」

『――ユーリ!』

 

 沸々と感情に熱が籠っていったのが、伝わってきていた。

 その感情に任せて振るわれた細い尾に対し、咄嗟に魔剣を持ち上げ受け止めようとして、今の状況でそれが出来るわけもなく吹き飛ばされる。

 

「っ、う……! ――、アッシュ……!」

 

 牢の反対側に背を打ち付けつつ、アッシュを呼び出す。

 

「意味の分からない魔法、意味の分からない魔道具、意味の分からない手管。全部気に入らない。その変な技術も、魔族を操ろうとする傲慢も、人間が持っていていいものじゃない」

「――それでも、僕たちには必要なんだ。この使命を終わらせて、ハッピーエンドに辿り着くために」

「下らない。まだそんな甘い理想を抱いていられるとか、反吐が出る」

 

 望ましい事態ではない。だが、こうして襲い掛かってくるならば、抵抗しない訳にもいかない。

 魔王に従う魔族であれば、どうあれ根本的に相容れない敵になる。

 勇者という存在にさえ否定的ならば、試練を突破し、魔王をも倒そうとする人間を疎ましく思って当然なのだ。

 それでも――今更、魔族の一人に否定されたからと、足を止めてはいられない……!

 

「――す、ストップ……そこまで……。喧嘩、するのは……駄目……だよ?」

「――――?」

「……?」

 

 戦闘態勢を整えようとしたその時、耳をかすかに震わせる程度の、小さな小さな声が聞こえた。

 ラフィーナではないし、当然ジルでもない。ヨハンナも沈黙を貫いている。

 この牢の外、これまで認識していなかった第三者だ。

 

 ジルを警戒しつつ、牢の外に目を向けて――当たり前のように視界は上がっていった。

 

「人間……そう、確か、外のヒト……と、魔族を宿した、ミツカイ……喧嘩したら、人間の方が、壊れちゃう、よね……?」

「――」

「……」

『……えぇ』

 

 僕の背丈の何倍あるかというほどの、人型としては異様な巨躯。

 しかしながら筋肉で覆われている訳でもない線の細い体は、人間をそのままのバランスで拡大したかのよう。

 そんな存在が近付いてきていたというのに、音も気配も感じられなかった。――現在進行形で、視界に入っているのに気配というものが読み取れない。

 もしかすると、彼女の周りに舞い散る無数の雪の粒が、何か作用しているのか。

 衣服としての機能を期待できるとは思えない、半透明な氷のドレスを纏った、魔族の女性であった。




【ユーリ】
転移に巻き込まれ、気付いたら氷の牢の中にいた。
ジルに対し、これまでどんな魔族にも抱かなかった類の悪感情を持ちつつある。

【ジル】
勇者の使命に否定的な魔族は少なくはない。
というか、人間を娯楽の対象と見ていない魔族の大半はそういう存在である。
勇者の相手とは、今や殆どの魔族にとって、一つの趣味でしかないのだ。

【ラフィーナ】
転移の際、魔剣の方に意識を持っていかれた。
苗床内の本体は今頃意識を失っているように見えていると思われる。
立場として上のため、ジルへの態度は正しつつも、その無責任さには呆れている。

【氷雪の魔族】
ユーリを手のひらに乗せられるほどの巨体に半透明な氷のドレスを纏う痴女魔族の女性。
背丈の割に声も小さければ気配も小さい。
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