凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『迷い池』/道具と道具

 

 

 スライム相手に物理攻撃は分が悪い。それはすぐに実感することができた。

 接近するのが悪手であることは分かっているので、こちらの攻撃手段は伸ばした触手による遠距離攻撃に限られる。

 だが、まるで水を殴っているかのようだ。

 手応えらしい手応えは感じられない。触手を思い切り叩きつけても、液体が辺りに飛び散るだけで『迷い池』がダメージを受けている様子はない。

 

 僕たちと向こうの戦法は似ている。

 塊の一部を伸ばし、こちらの拘束を目論む。

 ただし、一度でも受けた場合の影響は段違いだ。

 

 引き剥がしにくい向こうの粘液は動きを阻害するだけではない。

 スライム自身が付与させた特殊な性質は、獲物に有効な毒として作用するという。

 基本的にスライムは毒を自在に操れるほど頭が良くない。だが、相手はあれほどの巨体に至るまで自我を保つ強大なスライムだ。

 自身が獲物に齎すことが出来る性質を熟知していても、決しておかしくはない。

 

「……躱せる、けど……」

 

 相手の単純な攻撃を回避するのは難しくはない。

 身体能力が僕の限界すら簡単に超えたこの状態であれば、集中すれば何時間と避け続けることだって不可能ではないだろう。

 だが、躱し続けていれば勝てるわけでもない。攻撃しなければ状況は好転しないのだ。

 

「ッ!」

 

 伸びてきた水の鞭を切り落とす。

 しかし本体から断たれた液体はただの水に戻るでもなく特有の弾力を持ったまま地面に落ち、続けざまに迫ってきた本体に呑み込まれて再び一体化する。

 切り離して暫く経てば、スライムが浸透させた性質も抜けてただの水に戻るだろう。

 それは恐らく、『迷い池』自身も理解している。

 僕たちに有効打がないことを理解したかのように、積極的に接近しては離れた液体を取り戻してくる。

 

 ……二つ名で呼ばれ、イネアの町の人々から恐れられるに相応しい。

 自身の能力を熟知し獲物の力量を見定める賢さは、まさにスライムが持ってはいけない武器だ。

 スライムを倒すのに最も有効な手立ては、塊のどこかに“いる”本体を討つこと。

 

 巨体の大半――恐らく九割以上は使役されているだけのただの水だ。

 スライムが危険である所以の一つは本体の位置が分からないこと。

 そのものの耐久性はさほどではないことから、一度剣を振って偶然本体を捉えれば、それだけで倒せてしまうことも稀にあるという。

 倒すべき本体がこの巨体の一体どこにあるか。

 今こうしている間も内部で移動している可能性はある。

 気配を捉えることの出来ない僕が取れる手段は……その“偶然”を引き当てるまで攻撃を続けることのみ。

 

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 この魔法に搭載された、リッカ曰く『必殺技』。

 強力な攻撃を実現させるが、消費する魔力も相応に大きいため、無暗には使えない特殊コード。

 しかしこれについては少しずつ余裕が出来ている、とリッカの弁。

 その消費を心配しつつも、強敵と戦う時、必要であれば状況を打開する手段としても利用すると決めた。

 

『オズマ・エクスタシーッ!』

 

 発動される攻撃は、こちらから巨大スライムに対しての、数少ない有効な手段となる。

 スーツ全体から伸びる触手の群れ。このコードを実行しない限り制御できない量が一気呵成に敵に襲い掛かる。

 巨体を次々に貫き、蹂躙していく奔流は、少なくともこれまで発動した限りでは文字通りの『必殺』であった。

 だがやはり――その巨体を刈り切るには足りない。

 

 精々、三割か四割を巻き込んだに過ぎない触手の群れをばらけさせる。

 辺りに散らばる液体、しかし本体はまだ巨体の中にいるらしく、脅威と見たのか此方の攻撃の隙を突くように迫ってくる。

 ――まだだ。

 

「ごめん、リッカ!」

「――うん。気にせず行って」

 

 僕の言葉の意味を即座に汲み取ったリッカは、すぐに言葉を返してきた。

 魔力の更なる消費は免れないが、スライムが元通りになる前に一気に決める。

 

『ファイナライズ! アクセプション! オズマ・エクスタシーッ!』

 

 接近してくる巨体の中心目掛けて、再度触手の奔流を叩き付ける。

 先程よりも、重い手応え。核に響いたという感覚があった。

 決まった――訳ではない。死に物狂いは、向こうも同じ。勢いの止まらない液体の一部が飛び掛かってきた。

 躱せない。しかし、ぶつかってくる重みは耐えられないものではない。

 纏わりつき、口元や首を覆って仕留めようとしてくるそれを、引き剥がすことはしない。

 リッカ側のダメージを案じつつも、この液体が更なる影響を与える前に戦いを終わらせることを優先する。

 ――三連続。特殊コードの再実行。

 

『――オズマ・エクスタシーッ!』

 

 削れに削れた“屹立する池”はようやく、あと一撃で全てを呑み込めるほどになっていた。

 三度目の必殺技でようやく本体を完全に捉え、倒したという確信の直後、辺りに飛び散った液体全てが統制を失ったように爆ぜた。

 

「うわっ――!」

 

 急速にただの水へと戻っていくそれをもろに叩きつけられ、気温が一気に下がったような冷たさを感じる。

 辺りの地面は既にびたびただ。『迷い池』がこの場にいたという事実はたちまち痕跡だけになっていく。

 ……殺してはいない、とリッカは言うが。

 本当にそうなのかどうか、僕には判断が付かなかった。リッカがそんな魔法を作っていないとは言い切れないが、僕を安心させるための嘘という可能性だって否定は出来ない。

 それを、追及しようとは思わなかった。

 今の段階で、この曖昧さを確かにして、僕がすぐに受け入れられる自信がなかったのだ。

 

「っ……、勝った、よね」

「……ん。倒した。ユーリ、お疲れ様」

 

 確信にリッカのお墨付きを得たことで、ようやく力が抜ける。

 水の及んでいない戦場の外までふらふらと歩き、乾いた場所で魔法を解く。

 その場に座り込んで、大きく息を吐けば、リッカも長い杖に体を預け脱力する。

 ――まるで池の水を引っ繰り返して思う存分浴びに浴びたような、びしょ濡れの状態だった。

 

「――――リッカ!?」

「大丈夫、すぐに乾く」

 

 どうしてそうなったのかは、振り返ってみれば明白で。

 無表情で冷たさに耐えているリッカの様子は、やはり“受け止められるものでも極力、避けた方が良い”と改めて思わせるものだった。

 

 


 

 

 人間の形容する地獄など本物に比べれば生温い。

 その日、『迷い池』はそんな事実を知った。

 

「……? ……?」

 

 己の体に起きた変化を受け入れるより前に、視界に飛び込んできたものは、悍ましき魔窟。

 人の形をした魔族が己の存在理由を否定され、ただひたすらに“道具”として利用されている現場であった。

 それが一定の種族が持ち得る繁殖手段であるということは、この巨大スライム――であったものも理解している。

 彼、或いは彼女自身もまた、経験が無いでもない。スライムという種族が個体数を増やすための、いわゆる増殖において、恒温動物の体内とは幼体の成長にたいへん適しているのだ。

 

 そのために捕えた獲物に対し、いちいち何かしらの感情を持ったりはしない。

 生物としての本懐のために人間や弱い魔族を利用するのは当然の理である。

 『迷い池』は目の前で行われていることが、それに通ずるものであることを悟った。

 

「……!」

 

 客観的に物事を見て冷静になる――とは、また違うが。

 その惨状を目にして『迷い池』はぞくりとその身を震わせる。

 

 スライムとして知能を付ければ付けるほど勝てない存在となるサキュバスでさえ、うわ言を零しながらなされるままになっている。

 見覚えのない緑色の肌を持つ魔族たち。

 何の根拠もないが、縄張りを同じくしながら自分に狙われない、絶妙な距離感を保っていた狡猾なゴブリン共だろうか。

 それだけではない。

 この薄暗い部屋の主であるらしい触手の群れの陰から見える緑の髪。

 ここに見えない苗床もまた存在する、徹底的にあの触手のみが上位者である空間であるらしい。

 

 経緯は不明だが、自身もそこに放り込まれた。

 あのわけの分からない人間共の仕業かと考えるも、怒りは困惑や恐怖には敵わない。

 

 自身の体が彼らの最後の攻撃によって決定的に作り替えられた。

 その事実が、自分を目の前の惨状に仲間入りさせるための事前準備であると思い至れば、そこに恐怖を感じない筈がない。

 純粋なスライムであった頃より、どこかはっきりとした体で、『迷い池』は後退する。

 捨てるものなど何もないが、何を捨て置いてでも逃げ出さないといけない状況。

 

 ――そこに差し伸べられた手は、人間のような“何か”のものだった。

 

「――怖い? ああなりたくない?」

「……!?」

 

 いつの間にか傍に立っていた白い女。

 飛び上がらんばかりに驚き、混乱の極みにある『迷い池』は、それがわけの分からない人間の片割れだと気付かない。

 ――もしも気付いていたとしても、何ら変わることはなかっただろうが。

 

「あなたには二つ、選択肢をあげる」

「……!? ……!?」

 

 逃げようとして、自身を囲むように伸びてきた黒い触手に身動きが取れなくなる。

 本来のスライムの体であれば、それに巻き付かれてもさほど苦労せず逃れることが出来るだろう。

 だが、今はそれも叶わない。作り替えられたことで随分と“はっきり”した『迷い池』の体はゼリーに近く、今ならば触手でも容易く捕えられる。

 力の付け方を学んだ代わりに忘れてしまった、狙われる側の立場。

 それを否応にも思い出させる状況で、女は言葉を続ける。

 

「あれをする側か、される側か。どっちに使われたい?」

 

 捕食者と被食者にして、道具と道具。

 それは『迷い池』を生きてここから出すという意思のない、どちらの“パーツ”として使い潰されるかの問いだった。

 生物として扱われることは二度とない。

 事実上の死の前に突き付けられた、最後の選択肢。

 

「……!」

 

 答えずに逃げるという抜け道はなかった。

 たった一人の例外を除き、この部屋には二種類の道具しか存在を許容されない。

 恐慌の中で――不意に道具(サキュバス)と目が合った。何かを映しているとは思えない虚無的な瞳が、『迷い池』の心を完全に砕き切った。

 

「……! ……!」

 

 全力で“あれ”になりたくないという意思を表しながら、黒い触手を指す。

 自身の使い道を選べというならば、最初から選択肢は一つだった。

 被食者であるよりは、捕食者でありたい。生物としての当然の本能からの回答に、女は笑って返す。

 

「――わかった。いい子だね、あなたは」

 

 表情の意味なんて知らなかった『迷い池』でもはっきりと作り物だと分かるほど、不格好な笑みだった。




『迷い池』
【属性】水
【攻撃力】■■
【防御力】■■■■■■■
【素早さ】■■
【魔 力】■■■
【精神力】■

【種族】スライム種
スライムは決まった形を持たない、粘液状の魔族である。
より正確に言うと、粘液の塊の中でスライムの本体は一部であり、それ以外の部分はその個体の性質が浸透した水などを纏っているだけに過ぎない。
スライムが浸透した液体はその個体に近しい粘液状になり、スライム自身が自在に操れるようになる。
つまり他の液体を纏えば纏うほど強力で倒しにくい個体になるのだが、巨大化を図るあまり自己が薄くなりすぎると死に直結する。
強力な個体にまで成長できるのは、スライムの中でも己が取り込める領分を弁えた利口なスライムだけである。
繁殖に際しては分裂に近い方法を取り、切り離した断片が適した場所で再生を果たすことで新たな個体となる。

【『迷い池』】
イネアの町周辺には場所を転々とする水場があるという。
それを見つけた場合は、即座に離れなければならない。ただの池ではなく、規格外の域にまで成長した巨大スライムだからである。
巨大スライムはその質量のみならず、弱点となる本体を捕捉しにくい点で通常の個体と比べ遥かに危険度が増す。
成長を果たすだけの知能もあり、通常のスライムの延長として対処しようとすると痛い目を見るだけでは済まない。
『迷い池』はイネアの町周辺における最強生物であり、他の魔族にも恐れられていた。
『金爪の一味』は範囲の被る縄張りの中で適度な距離感を心がけていたという。
なお、夜には行動しないことから『残響』と争うことはなかったようだ。

【リッカの評価】
「……それでも。ユーリに少しでも、無理させないように……」

【ユーリの評価】
「大丈夫かな、リッカ……風邪引かないといいけど」
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